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出発を前に

「おはよう〜。」

部屋で身支度をしていたら、寝ぼけた感じでアーネスがノックも無しに入って来た。

「おはよう。てかお前、ノック位しろよ。」

驚きはしたが、ドアノブを捻る音で人が来た事はわかっていた。

外はまだ暗い。


夕べ。

ディディが部屋を後にして、体を拭きながら自分がしたことに悶絶して、うずくまってしまった。

嬉しさと恥ずかしさ、不安、興奮、喜び。

色々な感情が混ざって、思わず叫びそうになったけど、何故かその後はぐっすりと眠る事が出来た。

寝起きがいいはずのアーネスはぼんやりしながら、俺を見ていた。

「なんだよ。朝にボゥッとしてるなんて珍しいな。」

「アレ?ジェスだ。なんで俺の部屋にいんの?」

どうやら本当に寝ぼけている様だ。

「何言ってんだよ、ここは俺の部屋だって。

お前、まだ服も替えてないじゃんよ。」

フラフラしながら、俺がさっきまで寝ていたベッドに腰掛けると盛大にあくびをした。

本当に珍しいな。

「なんかさ、同じ夢を何度も見てその度に飛び起きちゃってさ。

でも毎回、殆ど覚えてないんだよね。」

何、言ってんだ、マジで。

「大っきな街が燃えてんの。

それしか覚えてない、ファア〜。」

五日後には王都だってのに、不安になるような事を言うなよ。

話しながらも俺は服を替え、ベッドに座ったまま舟を漕ぎ始めたアーネスを立たせ、部屋に連れて行くのに背中を押した。

「今日はさ、馬車の中で寝てけよ。

取り敢えず、お前の部屋に行くぞ。」

ドアを開けると、丁度ノックをしようとしていた、昨日、余計な事を言ってくれた使用人さんと鉢合わせになった。

「おはようございます。

起こしに来ましたが随分と早起きで。

あらあら、お連れ様はまだまだ眠そうね。」

そう言って、ペコリとお辞儀をすると、ウフフフと笑いながら立ち去った。

隣に割振られたアーネスの部屋に、背中を押したまま連れて行くと、中まで入って取り敢えず座らせた。

ベッドだとそのまま、寝てしまいそうな雰囲気だ。

窓際の文机まで押し込むと椅子に座らせた。

「おい、シャンとしろ。

とにかく着替えてくれよ、ほら。」

文机の上には夕べ使っただろう桶に冷めてしまった湯の残りがあったので、浄化と加熱の魔法を使って使えるようにしてやった。

少くなってはいるけど、顔を洗う事ぐらいは出来そうだ。

シャツを替える前に顔を洗わせると少しはマシになった。

「ふぅ~、イヤァ、なんかゴメン。」

照れと困りが混ざったような顔をして頭を掻くアーネス。

それを見て溜息を吐くと続きを急かす。

「俺、兄弟とかわかんないけどさ、兄貴がいたらこんな感じなのかな?

ね、お兄ちゃん。」

「誰がお兄ちゃんだ。

ふざけてないで急げよ。

てかこんなに手が掛かる弟いたらヤダよ。

俺も兄弟とかわからんけど。」

急に訳のわからない事を言われ、また溜息を吐いてからそう返した。

何故か鼻歌を歌い出したアーネスを見て、また溜息が洩れた。

丁度溜息と重なるようにノックが鳴り、廊下からディディの声がした。

「失礼します。お呼びに参りました。」

「入って。」

アーネスが短く返すと、入って来たディディと目があった。

「おはようございます、アーネス様。

ジェス様、こちらにいらしたのですね。

お呼びに伺ったら居られなかったので、戸惑いました。」

「おはようディディ。」

「おはよう、呼びに来てくれたんだ。」

「はい。」

ちょっと赤くなって俯くディディに近付くと、何となく頭を撫でた。

更に赤くなってしまったので、慌てて手を引っ込めると、俺もちょっと恥ずかしくなってしまった。

「ああ、てことはディディはお姉ちゃんだね。」

「おい。」

剣帯を着けながら、まだ話を引っ張るアーネスに思わず声が出た。

「何の話ですか?」

「ジェスがお兄ちゃんぽいって話してて、だったらディディがお姉ちゃんだなって。」

「アーネス様!朝から何を!」

「へ?」

アワアワしだしたディディにマヌケな感じで返したアーネスは、手を止めてキョトンとした。

「何を慌てて、って、ああ!

ゴメンゴメン、そういう意味じゃないよ。」

一緒になってアワアワし始めたアーネスに、またも溜息を吐かされる。

「荷物って持って行った方がいいの?」

真っ赤になったディディに、取り敢えず聞いてみた。

「いえ、あの、食事中に馬車まで運んで下さるそうなので、置いておいて大丈夫です、はい。」

「だったら俺も剣だけ取ってくる。もういいだろ?」

アーネスにも声を掛けるとコクコクと頷いた。

部屋に戻るとディディも付いて来た。

「改めて、おはよう、ジェス。」

まだ赤くなったままのディディを引き寄せて、そっと抱き締めた。

「うん、おはよう。

ディディ、疲れてない?

俺達は馬車だけど、ディディはずっと馬だから。」

「うん、大丈夫。ありがとう。」

手を離すとディディがちょっと残念そうな顔をしたので、また頭を撫でた。

俺はどうやら、頭を撫でるのが好きなようだ。

ディディに手伝ってもらい、鎧を着けて剣を佩くと廊下に出た。

バルとアーネスもほぼ同時に部屋から出て来た。

バルの後ろにはさっきの使用人さんがいる。

お互いに朝の挨拶を交わして、食堂へと歩き出した。


案内されたのは昨日とは違う広間のような部屋で、街の食堂か酒場のようにテーブルが並べられ、ドルドーニュさん達だけでなく、お揃いの鎧姿姿の人達も集まっていた。

ドルドーニュさん達も今日はそれと同じ鎧を着けている。

「持たせたか?」

バルが声を掛けると、ドルドーニュさんは笑顔で首を振った。

「いや、俺達もまだだ。ジード老はどうした。」

言われて、室内を見渡すと確かに居ない。

てかカレンさんとトゥーレもだ。

「儂らが最後かのう。

済まない、遅れて。

二人が離してくれんくてのう。」

おおう。

今日も三人で腕を組んで入って来たよ。

「あちらが。」

「ああ、あれが噂の。」

「流石。」

ドナート卿から送られた、騎士の皆さんの間に小さくないどよめきが走る。

てか、何が流石なのよ。

「ジードちゃん、座りましょう?」

トゥーレが組んでいた腕を離し、爺様の手を引いて空いている席に向かった。

その後ろ姿だけを見れば、孫達とおじいちゃんなんだけどな。

反対の手をカレンさんが引いてるし。

てか船でも思ったけど、なんで誰もちゃん付けに触れないの?

敢えてのスルーなのか。

「おい、死んだ魚の目になってんぞ。ありゃ、触ったこっちが怪我をするヤツだからほっとけよ。」

バルに言われ、我に返る。

やっぱりそっちか。


食後。

外に出てから、送られて来た騎士さん達の班長さん二人に挨拶された。

アイツの言葉を使えば、ガリマッチョのイケメンがドワルドさん。

黒茶の髪を短くまとめ、同じ色の瞳をした目元が涼しげで、浅黒い肌も相まって、黒騎士ってイメージだ、鎧は普通に鉄色だけど。

もう一人はスラリと背が高く、明るい金髪を背中の中頃まで伸びる三つ編みにした、青い瞳とそばかすが印象的なヴィクトリアさん。

バルよりは頭一つ低いけど、俺とアーネスより高身長で、覗いてる腕なんかも俺達よりはずっと太い。

二人が代表して挨拶をしてくれた後、既に荷物が積み込まれた馬車に向かった。

「クラウディア、貴女どっちが狙い?」

その声に振り向くと、ディディの耳元に顔を寄せ、小さくはない小声でそう言ったヴィクトリアさんは澄まし顔をしていた。

「あの、ヴィクトリアさん。私、ジェス様とその。」

彼女はしどろもどろになっているディディを見てちょっと驚いた顔になった。

「へぇ、クラウディアがねぇ。

ところでご両親は元気?」

「はい、それはもう。」

話を聞く限り、元々知り合いなんだろう。


視線を戻し馬車に乗ろうとタラップに足を掛けた時に、ヴィクトリアさんの声でまた動きが止まった。

「ねえところでクラウディア、あの二人の為に過剰戦力じゃない?

バルガス、ジード様、貴女。

三人でちょっとした町位なら落とせるでしょ?

バーゼル伯だってそう思ったから一班に満たない中途半端な護衛を出したのでしょう?」

カチンと来て一言言おうと振り向いた瞬間、パァーンと乾いた音が響いた。

ヴィクトリアさんの前に立ち、平手を振り抜いた格好で立つのは、トゥーレだった。

「何故そんな事、言えるんですか。

中途半端な人員なのは戦死者が出たからです。

オルトスさん、リック、コーツ。

三人共、戦って死んだんです。

何でそんな事が言えるんですか!」

トゥーレの叫びを聞いてドルドーニュさんが駆け寄り間に入った。

言い終える前にトゥーレは涙を流していた。

そのトゥーレをディディが背後から抱き締めた。

「戦死?なんでそんな事になってるのよ。」

「ヴィクトリア、そちらから出る前に、説明はなかったのか?」

割って入ったドルドーニュさんが、険しい顔で質問した。

「何を?

伯爵様の客人の迎えにここに行け、としか聞かされてないわ?」

「ドナート卿も人が悪い。

ヴィクトリア、俺達がこの街道を使っている事に疑問を持たなかったのか?」

「それはトーラス卿の所に盗賊団の噂があるからでしよ?

それくらいは私だってわかるわ。」

ドルドーニュさんが盛大に溜息を吐く。

説明が無ければそう認識されていても、おかしくはない。

「モレッド侯領の村で襲撃があったんです。

襲撃はおよそ五十人の盗賊団。

闇夜の牙とトーラス卿の所に出没していた盗賊団の混成。

村が襲撃されていて、素通りも出来ない状況で助けに入り、結果としてオルトスさん、見習いのリックとコーツが命を落としました。

見習いのコーツは俺の目の前で、頭を輪切りにされて死にました。」

いつの間にか俺の横に来ていた、アーネスが淡々と説明した。

「オルトスは俺とカレンの前で死んだ。

矢で目を射抜かれて、戦いの後で倒れた。

毒にやられてな。」

「ちょっと、なんでそんな事になるのよ。」

「敵は戦場の眼を使っていました。何処かの貴族が手を貸していたものと思われます。」

ディディも悲しげな表情で告げる。

「敵は俺達、勇者と七大神の祝福の加護持ちが、バーゼル伯領から出たのを嫌って事に及んだ物と考えています。」

俺の言葉にヴィクトリアさんの目が険しくなる。

まるで俺達を睨み付けるように。

「ちょっと待って。

貴族間の抗争に貴方達が巻き込まれて、その巻き添えを喰って犠牲が出たって事?」

「ヴィクトリア、いい加減にしろ!

そんな言い方あるか!」

ドルドーニュさんが怒鳴ったが、一方でそれは間違いじゃない。

俺達さえいなければ、リックもコーツもオルトスさんも、死ななかったんだから。

「帰れ。」

アーネスがポツリと言った。

「俺達がいなければ、誰も死ななかった。

村の人達も、オルトスさんやリックやコーツも。

だけど俺達が死ねばよかったとでも言うのか?

ふざけるな。

事情を聞かされてないのはわかった。

だが、それで俺達に死ねと言うのなら、もういい。

帰って、ドナート卿を守っていればいい。

それでも俺とジェスは王都に行く。

今更引き返せないし、なにより死んだ三人の為にも絶対に王都に行って、黒幕を引き摺り出してぶちのめす。

その間にドナート卿も巻き込まれるだろうが、それは貴女が守ればいい。

ヴィクトリアさんだっけ?

生きる事まで否定される人に守られたくないんだよ、さっさと帰れ!」

アーネスがここまで強く拒絶するのは初めて見た。

俯いたまま、一気にまくし立て最後は叫ぶように怒鳴る。

その瞬間、顔を上げたがその目を見て、背筋に冷たい物が走った。

殺気が溢れ、妖しげに揺らめいて見えた。

ヴィクトリアさんが青褪めながら、腰の剣に手を伸ばした。

チンと音を立て剣を抜いたアーネスが、ヴィクトリアさんの喉元に切っ先を突き付けた。

その動きを俺は、目で捉える事が出来なかった。

「俺を殺す?やってみろよ。」

ペタリと尻餅を付いたヴィクトリアさんは震えていた。

「アーネス、やり過ぎだ。」

俺は剣を握る手に触れて、首を振った。

「ジェス!お前、なんで!」

「この人を殺してなんになる。

敵を増やすだけだ。

それにな、俺はバーゼル伯はともかく、これが終わったら帰りたいよ。

少くとも、昨日までの皆と。」

もう箱の中にいる三人も含めて。

剣を納めたアーネスは俺にしがみ付いて、

「ごめん、ジェス。

そうだよな。

帰りたいよ、みんなで。」

そう言うと、バッと振り返って馬車の中に入って行った。

「ヴィクトリアさん、なんで腰の物に手を伸ばしたんですかね。」

俺を見て、尻を付いたままヴィクトリアさんが後退る。

「あんた、俺達の敵か?」

一歩前に踏み出し、しゃがみ込む。

「どっちでもいいけど、次は止めない。

てかアイツにやらせないで、俺がやるし。」

キスでもするかって位の距離まで顔を近付け、目を見てゆっくりと抑揚を抑えて言った。

ちょっとの間そうしてから、立ち上がると俺も馬車に向かった。

「なんて顔してんだよ。」

そう言ってバルは俺の肩をポンと叩いた。

「バル、後は任せていい?」

「ああ、俺達に任せておけ。」

そう言ってバルはポンポンとまた肩を叩いた。

馬車に乗り込みアーネスの隣に座る。

既に乗り込んでいたマローダさんは、青褪めた顔でこちらを見ようとしない。

馬車のドアをディディが閉めた。

一瞬だけ目が合う。

ちょっとだけ微笑んでくれた。

笑い返せない自分が情けない。

出発までにしばらく時間が掛かった。

アーネスとジェス、ブチ切れました

その所為で伸びる伸びる(^_^;)


さて次回こそは王都に入って欲しいですが、どうなる事やら(冷汗)



最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます

モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネで表して頂けたら幸いです


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………


次回 王都目前

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