バルの実家(支店)
協会の中にどよめきが広がった。
俺達が持ち込んだ十三体分のトカゲの素材を見てだ。
世話係と言い張って付いて来たディディと、登録はしていると言う爺様。
俺とアーネス、バル。
荷馬車の護衛をしていた五人と、御者をしていた三人の商人さんで協会に訪れた。
俺達の荷馬車は馬を失った護衛の人が御者をしてくれ、ドルドーニュさん達は、疲れた顔をしていたマローダさんと一緒に宿に向かった。
爺様は登録こそしていたけど、まったく更新しておらず、五十年以上が過ぎているとの事だった。
「そんな訳があるまい、儂、十六じゃもん。」
いや、その話はもういいよ。
てか、もんて。
職員の男の人も苦笑いだ。
色が消えていた爺様の会員証を魔道具に嵌めると、薄い桃色になった。
「爺様、意外だな。
全く活動せずに色無しだと思っていたぜ。」
「まだ小僧の頃に小遣い稼ぎはしておったんじゃ。
コイツがあれば街にも安く入れるしのう。」
そういえば、元々は姓が無かったんだったな。
一体どんな暮らしをしていたのだろう。
今の爺様からは想像も出来ない。
「えっ、ジード・グルード様ですか!?
あの高名な拳王の!?」
魔道具から紙に写し取られた内容を見て、職員さんが混乱している。
「済まん、ちょっと急ぎでな、宿に仲間を先に行かせてるんだ。
精算を急いでくれ。」
バルが苦笑いで先を急がせる。
「失礼。
割合は九体と四体で宜しいのですね?
素材は全てこちらで買い取りと。
傷が無い革もこちらで買い取って宜しいのですか。
他所に持ち込めば三倍近い値になりますよ?」
「あ~、それだけはこっちで何とかするかな。」
「承知しました。
肉の重さを出したりその他の素材の査定もありますので、明日の朝受け取りに来て下さい。
お急ぎとの事ですので、夜明けにはお渡し出来るようにします。」
それは助かる。
「悪いな。
迷惑ついでに俺達が受け取る方は、二八に分けておいてくれ。
それとは別に八の方を四等分に。」
「ダメだよ、バル。
俺達が受け取る分は、九等分。」
「何言ってんだ。
受け取らないぜ、ドルドーニュのヤツ。」
「ダメ、ヤダ。」
「いやお前、ヤダって。
ジェスからも言ってやってくれ。
取り決めだって。」
俺は静かに首を振った。
アーネスの目は真剣そのもの。
口にする単語が少くなっているし、納得する物を示さない限りこうなったアーネスは絶対に譲らない。
「わかった、わかったよ。
じゃあ、俺が折れる代わりにお前らで説得しろよ、ドルドーニュを。
あ〜、悪いが魔石一個分だけ別にして、残りを八等分にしてくれ。
完品の皮は俺がもらう。
それで釣り合い取れるだろ。」
「妥当だと思います、金額的には。」
職員さんが頷いた事でアーネスも認めた。
素材の事は任せてくれと言う護衛の人に任せて、俺達は宿に向かう為に協会を出た。
素材を積んである荷馬車の周りには、人集りが出来ていた。
その中に溶け込むように、ターナーさんの姿が見えた。
俺達の馬車も荷馬車も、荷降ろしは終わっていた。
協会の職員さん達と、中まで一緒に来た人以外の四人でやってくれたようだ。
有り難い。
荷降ろしをしてくれていた人が、一緒に来た人に何やら目配せをした。
「ありがとう、本当に助かった。
訳ありのようなので、名乗らないでおく。
もし、またこの村に来ることがあれば、その時は名乗り合おう。
俺達はここが拠点なんでな。」
積荷を見て、特に魔禽の空の籠を見て、何か察したのかもしれない。
俺達は一人一人、握手を求められ、順番に握手をしてその場を後にした。
村の中は、バルが言っていた通り、泉を中心に広がっていた。
それほど広くない村だけど、建物の高さがある。
そして僅かな隙間でびっしりと建っていた。
木造の家でこれだけ密集して建てられていると、火事にでもなったら、大惨事になりそうだ。
闇夜の牙の襲撃がここだったらと思うとゾッとした。
中心にある泉は、不思議な事にほんのりと青白い光を放っていた。
それが辺りの建物に映り、壁を青白く見えさせていた。
「綺麗ですね。」
ポツリと呟くディディの顔も青白い光を浴びて、辺りと同じ色になっている。
隣に並ぶとそっと手を握った。
ディディも握り返してくれる。
戦闘の後、まだ少しだけ自分の中に澱の様に残っていた暗い何かが、スゥと消えて行った。
宿は泉から少し離れた所にあった。
人の輪の中にいたターナーさんは、日が暮れてなお多い人通りで接触を避ける為に、馬を引いた俺達の前を距離を置いて歩いていた。
直視はしないように、戦闘や警戒の時のように集中して付いて行った。
泉からずっと体を寄せるようにして手を離さないディディと二人、列の最前を歩いている。
集中しているから他の人とぶつからないのはいいんだけど、後の三人がニヤついているのも、何となくわかる。
まあ、集中してなくてもわかっただろうけど。
ターナーさんが立ち止まり、三人組の騎士の略装をした人達に声を掛けて、直ぐ右手の建物の中へと入って行った。
その建物は他のと比べ、造りが豪華だった。
周りはそのほとんどが木造なのに、石と煉瓦で建てられている。
高さは同じ位だったけど、横は倍以上の広さだ。
敷地は更に広く、厩も併設されていた。
厩の脇に停められた馬車は一台を除くと、どれも荷馬車だったけど、幌が付いた立派な物ばかりだ。
除いた一台も俺達が乗って来たものと比べても、遜色のない立派な造りをしていた。
ただ、恐らく今夜泊まる宿だろうけど、何か建物が宿っぽくない。
大店の商会って感じが一番近い表現かもしれない。
「ここかよ。」
その声に振り向くと、バルが額に手をやり渋面を作っていた。
なんだよ、一体。
「バルガスぼっちゃま、お久しぶりでございます。」
建物から出て来たのは、両側が長く胸元まで垂れた口髭が印象的な、いかにも執事然とした老紳士。
まるでガスリーさんを彷彿とさせる丁寧なお辞儀をバルに向けてした。
「オーランド、俺も良い歳なんだからぼっちゃまは止めてくれって何度も言ってるよな。」
渋面を崩さずそう言ったバルは、恐らく待っていただろう三人の騎士を無視する様に、敷地に足を踏み入れた。
「てかマジでここかよ、今晩泊まるトコ。
あ〜、悪い。
ここ、俺の実家の支店なんだわ。」
「えっ!」
「えっ!」
俺とアーネスの驚いた声が被る。
「こちらがお連れ様ですか。
お疲れ様でした。
私、バルドール家の家令を努めさせていただいております、オーランドと申します。
会頭ヤンガス・バルドールの命に従い、皆様方のお世話をさせていただきます。
ささ、中へどうぞ。」
「待て、オーランド。
コイツらは固っ苦しいのは苦手だから。」
「さようで。
ともかくお入り下さい。
食事の用意が出来てますので。」
オーランドさんはそう言うとパンパンと二度手を打った。
中から数人の使用人らしい人が出て来て、馬車を引き取ったり、馬を外して世話をしたりと、分身してるのかって勢いで動き出した。
呆気に取られていた俺達の前に、その中の一人、やや年配の女性の使用人さんが、ささっとやって来た。
「さあさあ、こちらへどうぞ。
あら、あら、弟さんと仲が宜しいのですね、手を繋がれて。」
「ブッ!」
「ブッ!」
バルとアーネスが同時に吹いた。
俺達の事情を聞かされてないのかもしれないけど、せめてフォローして。
固まる俺達をアーネスが肩を震わせながら追い越して行った。
何となく、ソっと手を離した俺達は、互いに俯き後ろを付いて行く。
立ち止まって俺の方を見ていたバルは、ニヤニヤしながら肩を叩いた。
「お姉さんだってよ。プッ!」
「バル、危ないよ。」
「あん?おわっ!」
咄嗟に飛び退いたバルの真横に氷の柱が立つ。
鋭く舌打ちをしたディディは俺達を置いて、スタスタと先に行った。
「お前、本当、よくあんなのと付き合う気になったな。
ありゃ怖えぞ、絶対そのうち氷漬けか消し炭だわ。」
ヤメて、ヤメて!
ディディが立ち止ったから!
「ジェス様、後で少し宜しいですか?
宜しいですね?」
「はい。」
どうしてくれるんだよ、コレ!
イヤ、無言でヤレヤレじゃないから!
そんなこんなで、俺は何もしてないのに肩を落とす羽目になり、トボトボと後ろを歩いて食事の場へと向かった。
用意されていた食事は、バーゼル伯の蒼槍城で食べた食事と引けを取らない程豪華で、見た目からもう美味しそうだった。
アーネスの顔は見るなりキラキラになっていた。
美味そうなんだけど、壁際に控えたディディの視線が痛い。
折角のご馳走が楽しめなかった。
美味かったけど。
特に鹿肉を焼いて中心だけ取り出したって言うのが、見た目生なのに温かくて、口に入れるととんでもなく肉汁が溢れた。
なんだコレ、ウマッ。
ディディの視線が怖いけど。
食事の後で俺達は、迎えの騎士とは会う事も無しに個室に通された。
案内してくれた、さっき要らん事を言った使用人さんが、
「今日はゆっくりお休み下さい。
直ぐにお湯をお持ちしますので体を拭いたら、楽になさって。
明日は早朝に発たれると伺ってますので、ちゃんと起こしますからね。」
と笑顔で言った。
室内は広くはなく質素だけど粗末ではなくて、置かれた家具はどれも落ち着いた雰囲気で、こういうのを品があるって言うんだろう。
外観は石造りだったのに、さっきの食堂もそうだけど、室内には木材がふんだんに使われ温かみがある。
木目も明るい色合いで、それも含めて貴族のお城とは違って落ち着けた。
廊下から小さく話し声が聞こえたと思ったら、控えめなノックが鳴り、返事をするとディディがお湯を持って入って来た。
窓際置かれた文机にお湯が張られた桶を置くと、背中を向けたままじっとしていた。
「どうしたのディディ。
さっきのまだ気にしてる?
ディディが大人っぽくて、俺がガキ臭いだけだよ、機嫌直して、ねっ?」
バッと振り向いたディディはちょっと涙目になっている。
「そんな事ない!
ただ、二人の雰囲気が恋人同士に見てもらえなかったのが、ちょっと悔しくて。」
尻すぼみに小さくなるディディの声がなんだか可笑しくて、声は出さなかったけど、笑ってしまった。
ちょっと恨めしそうに睨むディディの目に怖さはなかった。
ゆっくり近付くと腰の辺りに手を回し、緩く抱き締めた。
「ディディ。
俺はもう、ディディが居ないのはイヤになってるよ?」
耳元でそう言うと、ディディも背中に手を回してくれた。
恥ずかしかったし、バクバクするけど、なんだか安心する。
「ディディ。
俺、実は人前でベタ付くのあんまり好きじゃないみたい。
特に知り合いの前。」
「うん、実は私も。
この何日か恋人とやってみたかった事をしたけど、何か違うなって思ってたわ。」
それを聞いて、ちょっと吹いた。
ディディも釣られて吹き出した。
手は回したまま、少し離れて顔を見合わせて少し笑った。
笑いが途切れて、不意に、でも自然にディディの頬に右手が伸びた。
ソっと撫でる様に触れて、そのままゆっくり顔を近付けた。
ちょっと微笑んだディディが目を閉じる。
ランプの灯りで出来た二人の影は、ちょっとの間だけ繋がっている部分が増えた。
初々しいですね~
青くて、甘酸っぱくて口から砂糖が、マーライオンになりそうでした、書いていて
(^_^;)
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
m(_ _)m
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