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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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有りか、無しか

「おっ、見えてきた」


アーネスの声に目線を上げると、まだ大分先に櫓のような物が見えた。

村の鐘楼だ。


すでに日は中天に差し掛かっている。

帰り道を考えると気持ち遅れ気味だが、予定の範疇だ。

ニ百サナ位を五時間ちょっとで来られた。

道中、荷車を押して引いてなら悪くない。

疲れは、ほぼ無い。


道中、ある程度警戒しながらも色々話した。

警戒が「ある程度」なのは魔物が出るなら草むらからで、音がしてわかり易いからだ。

蛇系は音も無く、ニュルっと出てくるが。


ちなみに、それなりに魔物が出るのと、隠れ家になるような場所が無いので、野盗の類はほぼ出ない。

山間部につながる他領への街道では、商隊を装った盗賊団の話を聞いた事はあるが、少なくともこの街道では出た事がないらしい。


話したのは、院での思い出話。

これからの事。

加護の事。


「加護って、何なんだろうな。」

俺の言葉に、アーネスが首を傾げる。

「神様の贈り物だろ。」

ちょっと投げやりな感じで答えたアーネスだが、自分の答えにも納得してなさそうだ。

「イヤイヤ、「健脚」とか「頑健」とかはまだわかるよ。

でもあの娘の「異性に幸運を運ぶ者」ってなんだよ。」

「あぁ、アレなあ、フハッ、笑いそうになって苦しかったわ。

でもさ、あの娘喜んでたろ。」

「ん?ああ、確かに。」


俺は普通にダメな想像をしたが、女の子には嬉しいモノなのか?


「家を継げない商家とか、下級貴族とか、自分の家で田畑を持ってる農家の次男三男とかから、めっちゃモテるらしいぞ。」

「へえ。」

「しかも聞いた限りじゃ、家事全般、計算、自分の家と相手の家の健康とかにも効果があるとか、なんとか。」


何それ、俺達のとは違う方向だけど、思いの外めちゃめちゃ効果高くない、その加護。


「ちょっと詳しいな、どこで聞いた?」

「この依頼の手続きの時、協会にミリア姐さん居たろ?

あの時だよ。」

ちょっと、よくわからない。

「ミリア姐さんが、教えてくれたって事か?」

「そうだよ。」

「口より手が出るのが早くて、パワフルで、声がデカくて、『付いて来な、野郎ども』と『しょうもねえ野郎どもだ』が決め台詞の、あの、あのミリア姐さんが知ってたのかよ。」


俺は荷車の後ろから押していたので顔までは見えなかったが、どうやら苦笑いしている様子だ。

「それとほぼ同じ事を本人に言っちゃって、槍の石突で殴られたよ。」

うへぇ、としか思えない。

姐さん、美人だとは思うけど男勝り過ぎるんだよ。

可愛いや綺麗より、かっけぇとか、スゴっとか、ヤバっとかが、圧倒的に前出てくる。


「でもイイもの見れたわ。」

「何?」

「姐さんの照れ顔、厳つ可愛かったわ。」

うん、厳ついと可愛いは、並べちゃダメなヤツだと思う。


「てか、その時の視線の先がさ。

ずっと協会の向かいのフェン坊だったんだけど、アレなんだったのかな。」

うん、アーネス。

お前はそのままでいてくれ。

てか姐さん、マジでか。


フェン坊とは。

冒険者協会の向かい。

大店フェルマー商会の若旦那の息子で、齢十歳のフェンダースン坊やの事だ。


「子供好きなのは知ってるけどさ。」

「えっ。」

「いつだったか、壁際の子達と笑いながら遊んでるのを見た事あるよ。」

うん、俺が心根が腐ってるだけだったわ。


壁際っていうのは、所謂低所得者が住む一画。

街をグルリと囲む防壁の、西門と南門の中間付近。

スラムという程、荒んではいない。

だけどスリや置き引きは割と起きるし、何を扱っているのかよくわからない怪しげな店があったりする。

他にも路上生活者がたむろしてたりして、用がない限りあまり近づかない場所だ。


もっとも俺もアーネスも、何度も足を運んだ事がある。

お使いの依頼でだ。


バルダ、アルダ、ラルダ。

三人の婆様が一緒に住んでいて、月に数回買い出しとか何かの配達の依頼を出していた。

特に雨季の時は多かったし、小遣い稼ぎにはちょうど良かった。

最初は躊躇もしたけど、慣れれば怖さや緊張も薄れた。


「ジェス、アレ。」

緊張を含んだアーネスの声に視線を上げる。

戦っている?

いや、襲われているのか?

アーネスが持ち手を離し、駆け出した。

俺も後を追い、走る。

時間にして数分。


「ムカデだ、デカい。

しかも見た事ないヤツだ。

村に戻る途中の牛車が襲われてる。」

アーネスが声に出す。

状況次第だが大体の場合において、認識を声に出すのは有効だ。

目に見えてわかっている事を喋るなと言う人もいるが、冷静さを保ったり認識を共有する等、悪い事ばかりではない。


あのムカデ。

アーネスの言う通り、デカい。

起こしている部分だけで、俺達の首くらいの高さがある。

全長で三サラくらいか。

横幅も俺達よりある。


襲われている農夫であろうおっちゃんが、大振りのブッシュナイフを振り回し、追い払おうとしている。

ムカデの狙いは、どうやら牛のようだ。


あと数歩、目前まで迫った時。

おっちゃんの手から得物が弾き飛ばされ、草むらの中に消えた。

咄嗟に腰からナイフを抜き投げる。

アーネスも、ほぼ同時に投げ放っていた。

どちらも頭の下、腹側に刺さりはしたが、激しく暴れ始めた。


剣を抜き、おっちゃんの前に出る。

「下がってください。

僕達が引き付けます。

その隙を突いて村へ!

守護騎士か、警備隊を寄越して下さい!」

出来るだけの声を張る。

「合図したら、走って!」

アーネスの声に、おっちゃんは無言で頷くと、牛を引いて下がってくれた。


「ちょっと、ちょっとでいい。

待ってろ!

持ちこたえくれよ。」

おっちゃんはそう言うと村とは反対に走って離れていった。

何か思い付いたようだ。


このバカデカいムカデと向きあってみると、流石にビビる。

やれるのか、俺達だけで。

時間稼ぎ。

それすら厳しいように感じてしまう。

それでも諦める事はなかった。

有りか、無しか。

なんとか有りにしないとな。

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