アーネスと二度目
食事は大体、和やかな雰囲気だった。
大体なのは、この先の話をした時に少しピリ付いたからだ。
天候やさらなる襲撃があれば、予定は変わる可能性がある。
襲撃というその言葉がバルの口から出た時に、自分の顔がこわばった気がした。
少なくともアーネスやカレンさん、トゥーレの姉妹はそうだった。
きっちり決めて上手くいかない時の精神的な負荷よりも、ちょっとだけ先を考えて都度決めた方がイイとバルが言い、ジード爺様が肯定した事で方向が定まった。
とはいえ、人の命を安く見てるヤツは、正直虫唾が走ると同時に、酷く恐ろしい。
ましてや、それが自分や親しい人に向けられているとなると、不安の種でしかない。
いつの間にか僅かに震えていた手に、隣に座るディディがこちらを見ずにテーブルの下でそっと手を重ねてくれた。
それだけで気持ちが落ち着く。
俺もアーネスに劣らず単純だな。
多分人と殺り合えば、戦いの後でまた泣くだろう。
俺もアーネスも。
でも。
それでも悪意を持って武器を向けられたなら、俺とアーネスは戦う事を選ぶだろう。
少なくとも俺は、今目の前にいる人達は守りたい。
アーネスは多分、その時目の前にいる人を守りたいだろう。
違いはあっても、戦う事を選ぶのは一緒だ。
それに気付いて、おかしな話だけど、色々と気持ちの辻褄が合ってないけれど、少しだけ安心した。
「有るか無いかわからんものに気を張っても、仕方あるまい。
それより今は飯じゃな。
冷めてしまっては料理が可哀想じゃわい。」
少しおどけた風に、ジード爺様が言った事で、少し張り詰めた場の雰囲気が和んだ。
俺が言ったところでこうはならないだろう。
アーネスならもしかするけど、こういうのは素直に凄いと思う。
手が止まっていた食事が動き出した。
全員でデカいテーブルを囲み、食べる食事はちょっとだけ院での光景を思いだす。
面子は濃ゆい人が多くて、全然違う雰囲気だけど。
そうだな。
帰ったらみんなに、何かお土産を持って行こう。
ジード爺様の両脇に当然のように座るカレンさんとトゥーレ。
ディディは何かジットリとした目付きで二人を見てた。
勝ち誇った顔をする姉妹には複雑な物を感じたけど。
それでも食後のお茶を俺から淹れてくれるのは、素直に嬉しい。
それを見て姉妹がニヤリとしたのは、俺の気の所為という事にしておいた。
イヤ、女の人、怖いって。
そんな事を思っていたら、
「ジェス、寝る前に一本だけ付き合ってよ。」
と、アーネスが言って来た。
一瞬、酒かと思ったけど、直ぐに剣術の事だと気付いて、
「いいぜ。
こないだみたいにまた俺が一本取るから。」
と返した。
「ヘヘ、楽しみだ。」
そう言って嬉しそうな顔をするアーネスは、才能が開花の兆しをみせていても、変わらないなと感じた。
あの時の、「こんなだったか」は杞憂で終わってくれそうだ。
俺達のやり取りを聞いていたトゥーレが見学を申し出た。
「全然いいけど、何で?」
「バルガス様に鍛えられているお二人の打合い稽古を見て、勉強させて欲しいんです。」
「わかった。
だけど俺達も剣術は始めたばかりだから、参考にならないかもよ?」
「そんな事ないです。
それに私、強くなるんです、絶対。」
「なりたい」ではなく、「なる」と断言した彼女はやっぱり強い。
甲板で見た様子に少し心配していたけど、彼女は加護とかそういうのを抜きにしたら、心の強さなら俺よりもずっと、ずっと強いのかもしれない。
食後、バル、アーネス、俺とディディ、カレンさんとトゥーレの姉妹、それにジード爺様の七人が甲板に上がった。
帆柱に下がったランプで、ほんのりと明るかった。
木剣を手に向かい合った俺達は、バルがパンッと手を打つと、同時に構えを取った。
「なるほどね。」
アーネスはこの前の意趣返しなのか、霞の構えを取ってきた。
俺はそれに対して半身引いて八相に構える。
アーネスの狙いは。
「ッ!」
予想通り、捻り込むような付きを放ってきた。
剣の腹を合わせ、出来る限り小さな動きで流す。
木剣が擦れ合って、焦げたような匂いが鼻を刺した。
一撃で決まらないと見るや、引手と同時に正眼の構えに変えて来た。
俺は背中側に少しづつ、少しづつ円を描くように摺り足で移動する。
半瞬置いて、突上げ気味の突きが飛んで来た。
後ろめに立てて構えた木剣はそのままに、更に体を前に傾けると同時に、立てたままの剣を半歩踏み込む事で、体のやや前に移動して、跳ね上げ気味にいなす。
そのまま更に半歩踏み込み、通り抜けるように移動。
交差する瞬間を狙って手首を回し、バットスイングのように胴を薙いだ。
当たる瞬間に木剣を手放し、防具を着けていないアーネスにダメージが入らないようにした。
「そこまで!」
バルの静止と同時に、アーネスが肩を落とす。
「まただよ!クッソ〜!」
悔しがっているけど、俺もギリギリだった。
二度目の突きの速さは、周りの薄暗さもあってブレて見えたほどだ。
「あの〜。」
ゆっくりとトゥーレが手を上げる。
「なんだよ、トゥーレ。」
バルが聞くと、
「ジェスさんの動きがわかりませんでした。
こちらからは背中側だったのもあって。」
「あっ。」
「しょうがねえ、それ、寄越せ。」
そう言ってアーネスに手を伸ばす。
まだ悔しそうなアーネスは渋々木剣を手渡した。
「ゆっくりやってやるから、見てろよ。
ジェス、もうちょっと大げさな感じで動け。」
バルが立ち位置を入れ替えて、解説しながらスローモーションのように突いてくる。
「こうやって、ジェスの喉を狙ってアーネスが突くだろ、それを、ホレ。」
俺もゆっくりと再現してみせる。
「ジェスが体重移動させながら前傾して、立てた剣を前に持って来ていなす。
で、半歩踏み込んで、手首を返しながら胴を薙いで終わりだ。」
「はぁ~。」
「最小で動こうとするのは良かったのう。
足捌きもなかなかじゃ。」
「アーネスの突きはいいが、攻撃が真っ直ぐ過ぎる。
相手が受けに回っている時は崩す事から考えないとな。
いかに鋭く突いても当てられないぞ。
まあ二撃目は並のヤツには、いなせないと思うがな。
そっちが本命の攻撃だったんだろ?」
てか流石にバルもジード爺様も完全に見えてたんだな。
「ジェス、もう一回だ。
例えばこうやって喉元を突きながら、相手が待ちなのはわかってんだから、向こうがいなそうとするのを、こう。」
その瞬間、ゆっくりなのに巻き上げられて、俺の手にした木剣がドアまで飛んで行った。
「スゲェ、何〜!?今の、えぇ~!何〜!?」
アーネス。
わかってるけど、本当に切り替え早いよな、お前。
「どれ、儂もちょっと見せてみるかのう。
ジェス、アーネスの真似をしてみい。」
そう言ってバルと変わった爺様は、俺にバルから受け取った木剣を投げて来た。
手招きのように合図して来たので、アーネスの動きをゆっくりで再現してみた。
「突いて来たところに、ジェスのように踏み込んで、こう。」
突きを放つ手首を、俺がやった感じでいなすように払われ、逆の手がスルリと伸びて俺の顎先寸前で掌底の形で止まっていた。
ゆっくりなのに、躱そうとする事さえ出来なかった。
何、なんなのよ。
この先、二人に勝てる気がしない。
「わあ~!ジード様………。」
うわあ、カレンさんとトゥーレが引く程、うっとりしてる。
まさか二人のこれが見たかっただけとか言わないよな、爺様。
俺、ただの引き立て役じゃないのよ。
「アーネス、さっきはああ言ったけど、次はあれこれ考えないで、ここだと思うタイミングで仕掛けてみろ、いいな。」
「ハイ!」
「ホッ、ホッ、良い返事じゃ。」
アドバイスをもらって笑顔のアーネスには、もう暗さが無い。
俺ならもっと落ち込むと思う。
うん、負けてられないな。
帰り際、飛ばされた木剣を手渡してくれたディディが、
「真剣な顔、カッコ良かったわよ。」
とこっそり言ってくれた。
その後に見せてくれた笑顔で、一本取ったのにちょっと下がり掛けた気持ちが、急浮上した。
うん、やっぱり俺も単純だ。
部屋に戻るとタオルを持ってトイレに行き、魔法で出したぬるま湯で絞って体を拭いた。
僅かな時間の打合いだったのに、汗でびっしょりになっていた。
入れ違いでアーネスも、同じようにトイレにタオルを持って来た。
「ジェスさ。」
「ん、何だよ。」
「ジェスの構えって、俺達の剣だと柄が短いよね。」
どうやら気付かれた。
何度か練習をしていて気付いたのだろう。
ショートソードを無理矢理両手で扱うことになるんだから、違和感があったのだろう。
握りが近くなるから。
「バレたか。
そうだよ、本来は片手半剣とか、長めのサーベルとかでやる構えだからな。
盾を持ってやるには、一工夫しないとダメなんだ。」
ニヤリとしたアーネスは、
「次は一本取るからね。」
と言って、入って行った。
うん、悔しくない訳ないよな。
その夜は珍しくイビキをかいたバルのそれがうるさかったけど、気付いた時には寝入っていた。
起きた時はまだ暗く、一瞬何処にいるかわからなくなった。
多分見ていた夢の所為だ。
その夢もまた、思い出せなかった。
だけどその印象だけは覚えている。
楽しいけど悲しくなる夢。
夢だけは覚えていない事があるけど、それに引っ張られて自分の居場所がわからなくなるのは、初めての事だった。
不思議と不安にならないのが良くわからないけど、取り敢えず一旦考えないようにした。
そういう事もあるだろう、そう思う事にしてもう一度、ベッドに潜り込んだ。
イビキがうるさかったバルも今は静かだ。
二度目の眠りも直ぐに訪れた。
次の目覚めは珍しくアーネスに起こされた。
二度寝したからだろうか。
「珍しいね。
ジェスが俺に起こされるなんて。」
「ああ、何か明け方位に一回起きたんだ。
多分その所為。」
「へぇ。それより朝食の用意、出来たってさ。」
「わかった、直ぐ服着るわ。」
「先に行ってるね。
昨日の部屋だって。」
他の皆は先に行ったのか、アーネスが出て行くと一人になった。
ズボンを履いて、出ようとしたらノックが鳴った。
声を掛けるとディディが入って来た。
「おはよう、ジェス。
食事の前に下の厩に来て。」
「どうしたの、誰かに何かあったの!?」
「違うわ、ジェス。
王都のバルドール商会から魔禽が戻ったの。
先に皆で確認するってバルガス様が。」
俺が持っていた珠に魔禽が帰ったのか。
「ねぇ、ジェス。今朝もダメ?」
体を寄せて来て、上目遣いになるディディにドキリとしたけど、そういや顔どころか歯も磨いてない。
「ゴメン、寝坊してまだ歯も磨いてないんだ。」
素直に答えたら、ディディがちょっと頬を膨らませだ。
「ゴメンて、ね?」
少し体を屈めて謝ると、素早く動いたディディに顔を両手で鷲掴みにされた。
ヤバい、燃やされる!
イヤ、氷漬けか!?
どっちもヤダけど!
誰か、助けて!
なんて思ってパニックになりかけていたら、ディディが俺の頬にキスをした。
「早く来てね、皆、待ってるから。」
そう言って出て行くディディの耳は、真っ赤になっていた。
なんだよ、不意打ちが過ぎるよ。
クソ。
ベッドに座り込みそうになったけど、待たせているのに気付いて慌ててシャツを掴み、顔を洗うのにトイレに駆け込んだ。
うん、予想外
ディディ、グイグイ行きますね
(^_^;)
個人的には嫌いじゃないけど、ジェスが幼ジードの二の舞いにならないか、ちょっと心配です(汗)
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします
感想を、こうポチッと評価やイイネで表して頂けたら幸いです
「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………
次回 商会からの報せ




