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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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アーネスと二度目

食事は大体、和やかな雰囲気だった。


大体なのは、この先の話をした時に少しピリ付いたからだ。

天候やさらなる襲撃があれば、予定は変わる可能性がある。

襲撃というその言葉がバルの口から出た時に、自分の顔がこわばった気がした。

少なくともアーネスやカレンさん、トゥーレの姉妹はそうだった。

きっちり決めて上手くいかない時の精神的な負荷よりも、ちょっとだけ先を考えて都度決めた方がイイとバルが言い、ジード爺様が肯定した事で方向が定まった。


とはいえ、人の命を安く見てるヤツは、正直虫唾が走ると同時に、酷く恐ろしい。

ましてや、それが自分や親しい人に向けられているとなると、不安の種でしかない。

いつの間にか僅かに震えていた手に、隣に座るディディがこちらを見ずにテーブルの下でそっと手を重ねてくれた。

それだけで気持ちが落ち着く。

俺もアーネスに劣らず単純だな。

多分人と殺り合えば、戦いの後でまた泣くだろう。

俺もアーネスも。

でも。

それでも悪意を持って武器を向けられたなら、俺とアーネスは戦う事を選ぶだろう。

少なくとも俺は、今目の前にいる人達は守りたい。

アーネスは多分、その時目の前にいる人を守りたいだろう。

違いはあっても、戦う事を選ぶのは一緒だ。

それに気付いて、おかしな話だけど、色々と気持ちの辻褄が合ってないけれど、少しだけ安心した。


「有るか無いかわからんものに気を張っても、仕方あるまい。

それより今は飯じゃな。

冷めてしまっては料理が可哀想じゃわい。」

少しおどけた風に、ジード爺様が言った事で、少し張り詰めた場の雰囲気が和んだ。

俺が言ったところでこうはならないだろう。

アーネスならもしかするけど、こういうのは素直に凄いと思う。


手が止まっていた食事が動き出した。

全員でデカいテーブルを囲み、食べる食事はちょっとだけ院での光景を思いだす。

面子は濃ゆい人が多くて、全然違う雰囲気だけど。

そうだな。

帰ったらみんなに、何かお土産を持って行こう。


ジード爺様の両脇に当然のように座るカレンさんとトゥーレ。

ディディは何かジットリとした目付きで二人を見てた。

勝ち誇った顔をする姉妹には複雑な物を感じたけど。

それでも食後のお茶を俺から淹れてくれるのは、素直に嬉しい。

それを見て姉妹がニヤリとしたのは、俺の気の所為という事にしておいた。

イヤ、女の人、怖いって。


そんな事を思っていたら、

「ジェス、寝る前に一本だけ付き合ってよ。」

と、アーネスが言って来た。

一瞬、酒かと思ったけど、直ぐに剣術の事だと気付いて、

「いいぜ。

こないだみたいにまた俺が一本取るから。」

と返した。

「ヘヘ、楽しみだ。」

そう言って嬉しそうな顔をするアーネスは、才能が開花の兆しをみせていても、変わらないなと感じた。

あの時の、「こんなだったか」は杞憂で終わってくれそうだ。


俺達のやり取りを聞いていたトゥーレが見学を申し出た。

「全然いいけど、何で?」

「バルガス様に鍛えられているお二人の打合い稽古を見て、勉強させて欲しいんです。」

「わかった。

だけど俺達も剣術は始めたばかりだから、参考にならないかもよ?」

「そんな事ないです。

それに私、強くなるんです、絶対。」

「なりたい」ではなく、「なる」と断言した彼女はやっぱり強い。

甲板で見た様子に少し心配していたけど、彼女は加護とかそういうのを抜きにしたら、心の強さなら俺よりもずっと、ずっと強いのかもしれない。


食後、バル、アーネス、俺とディディ、カレンさんとトゥーレの姉妹、それにジード爺様の七人が甲板に上がった。

帆柱に下がったランプで、ほんのりと明るかった。

木剣を手に向かい合った俺達は、バルがパンッと手を打つと、同時に構えを取った。

「なるほどね。」

アーネスはこの前の意趣返しなのか、霞の構えを取ってきた。

俺はそれに対して半身引いて八相に構える。

アーネスの狙いは。


「ッ!」

予想通り、捻り込むような付きを放ってきた。

剣の腹を合わせ、出来る限り小さな動きで流す。

木剣が擦れ合って、焦げたような匂いが鼻を刺した。

一撃で決まらないと見るや、引手と同時に正眼の構えに変えて来た。

俺は背中側に少しづつ、少しづつ円を描くように摺り足で移動する。

半瞬置いて、突上げ気味の突きが飛んで来た。

後ろめに立てて構えた木剣はそのままに、更に体を前に傾けると同時に、立てたままの剣を半歩踏み込む事で、体のやや前に移動して、跳ね上げ気味にいなす。

そのまま更に半歩踏み込み、通り抜けるように移動。

交差する瞬間を狙って手首を回し、バットスイングのように胴を薙いだ。

当たる瞬間に木剣を手放し、防具を着けていないアーネスにダメージが入らないようにした。


「そこまで!」

バルの静止と同時に、アーネスが肩を落とす。

「まただよ!クッソ〜!」

悔しがっているけど、俺もギリギリだった。

二度目の突きの速さは、周りの薄暗さもあってブレて見えたほどだ。


「あの〜。」

ゆっくりとトゥーレが手を上げる。

「なんだよ、トゥーレ。」

バルが聞くと、

「ジェスさんの動きがわかりませんでした。

こちらからは背中側だったのもあって。」

「あっ。」

「しょうがねえ、それ、寄越せ。」

そう言ってアーネスに手を伸ばす。

まだ悔しそうなアーネスは渋々木剣を手渡した。

「ゆっくりやってやるから、見てろよ。

ジェス、もうちょっと大げさな感じで動け。」

バルが立ち位置を入れ替えて、解説しながらスローモーションのように突いてくる。

「こうやって、ジェスの喉を狙ってアーネスが突くだろ、それを、ホレ。」

俺もゆっくりと再現してみせる。

「ジェスが体重移動させながら前傾して、立てた剣を前に持って来ていなす。

で、半歩踏み込んで、手首を返しながら胴を薙いで終わりだ。」

「はぁ~。」

「最小で動こうとするのは良かったのう。

足捌きもなかなかじゃ。」

「アーネスの突きはいいが、攻撃が真っ直ぐ過ぎる。

相手が受けに回っている時は崩す事から考えないとな。

いかに鋭く突いても当てられないぞ。

まあ二撃目は並のヤツには、いなせないと思うがな。

そっちが本命の攻撃だったんだろ?」

てか流石にバルもジード爺様も完全に見えてたんだな。


「ジェス、もう一回だ。

例えばこうやって喉元を突きながら、相手が待ちなのはわかってんだから、向こうがいなそうとするのを、こう。」

その瞬間、ゆっくりなのに巻き上げられて、俺の手にした木剣がドアまで飛んで行った。

「スゲェ、何〜!?今の、えぇ~!何〜!?」

アーネス。

わかってるけど、本当に切り替え早いよな、お前。


「どれ、儂もちょっと見せてみるかのう。

ジェス、アーネスの真似をしてみい。」

そう言ってバルと変わった爺様は、俺にバルから受け取った木剣を投げて来た。

手招きのように合図して来たので、アーネスの動きをゆっくりで再現してみた。

「突いて来たところに、ジェスのように踏み込んで、こう。」

突きを放つ手首を、俺がやった感じでいなすように払われ、逆の手がスルリと伸びて俺の顎先寸前で掌底の形で止まっていた。

ゆっくりなのに、躱そうとする事さえ出来なかった。

何、なんなのよ。

この先、二人に勝てる気がしない。


「わあ~!ジード様………。」

うわあ、カレンさんとトゥーレが引く程、うっとりしてる。

まさか二人のこれが見たかっただけとか言わないよな、爺様。

俺、ただの引き立て役じゃないのよ。


「アーネス、さっきはああ言ったけど、次はあれこれ考えないで、ここだと思うタイミングで仕掛けてみろ、いいな。」

「ハイ!」

「ホッ、ホッ、良い返事じゃ。」

アドバイスをもらって笑顔のアーネスには、もう暗さが無い。

俺ならもっと落ち込むと思う。

うん、負けてられないな。


帰り際、飛ばされた木剣を手渡してくれたディディが、

「真剣な顔、カッコ良かったわよ。」

とこっそり言ってくれた。

その後に見せてくれた笑顔で、一本取ったのにちょっと下がり掛けた気持ちが、急浮上した。

うん、やっぱり俺も単純だ。


部屋に戻るとタオルを持ってトイレに行き、魔法で出したぬるま湯で絞って体を拭いた。

僅かな時間の打合いだったのに、汗でびっしょりになっていた。

入れ違いでアーネスも、同じようにトイレにタオルを持って来た。

「ジェスさ。」

「ん、何だよ。」

「ジェスの構えって、俺達の剣だと柄が短いよね。」

どうやら気付かれた。

何度か練習をしていて気付いたのだろう。

ショートソードを無理矢理両手で扱うことになるんだから、違和感があったのだろう。

握りが近くなるから。


「バレたか。

そうだよ、本来は片手半剣とか、長めのサーベルとかでやる構えだからな。

盾を持ってやるには、一工夫しないとダメなんだ。」

ニヤリとしたアーネスは、

「次は一本取るからね。」

と言って、入って行った。

うん、悔しくない訳ないよな。


その夜は珍しくイビキをかいたバルのそれがうるさかったけど、気付いた時には寝入っていた。

起きた時はまだ暗く、一瞬何処にいるかわからなくなった。

多分見ていた夢の所為だ。

その夢もまた、思い出せなかった。

だけどその印象だけは覚えている。


楽しいけど悲しくなる夢。


夢だけは覚えていない事があるけど、それに引っ張られて自分の居場所がわからなくなるのは、初めての事だった。

不思議と不安にならないのが良くわからないけど、取り敢えず一旦考えないようにした。

そういう事もあるだろう、そう思う事にしてもう一度、ベッドに潜り込んだ。

イビキがうるさかったバルも今は静かだ。

二度目の眠りも直ぐに訪れた。


次の目覚めは珍しくアーネスに起こされた。

二度寝したからだろうか。

「珍しいね。

ジェスが俺に起こされるなんて。」

「ああ、何か明け方位に一回起きたんだ。

多分その所為。」

「へぇ。それより朝食の用意、出来たってさ。」

「わかった、直ぐ服着るわ。」

「先に行ってるね。

昨日の部屋だって。」


他の皆は先に行ったのか、アーネスが出て行くと一人になった。

ズボンを履いて、出ようとしたらノックが鳴った。

声を掛けるとディディが入って来た。

「おはよう、ジェス。

食事の前に下の厩に来て。」

「どうしたの、誰かに何かあったの!?」

「違うわ、ジェス。

王都のバルドール商会から魔禽が戻ったの。

先に皆で確認するってバルガス様が。」

俺が持っていた珠に魔禽が帰ったのか。


「ねぇ、ジェス。今朝もダメ?」

体を寄せて来て、上目遣いになるディディにドキリとしたけど、そういや顔どころか歯も磨いてない。

「ゴメン、寝坊してまだ歯も磨いてないんだ。」

素直に答えたら、ディディがちょっと頬を膨らませだ。

「ゴメンて、ね?」

少し体を屈めて謝ると、素早く動いたディディに顔を両手で鷲掴みにされた。

ヤバい、燃やされる!

イヤ、氷漬けか!?

どっちもヤダけど!

誰か、助けて!

なんて思ってパニックになりかけていたら、ディディが俺の頬にキスをした。

「早く来てね、皆、待ってるから。」

そう言って出て行くディディの耳は、真っ赤になっていた。

なんだよ、不意打ちが過ぎるよ。

クソ。


ベッドに座り込みそうになったけど、待たせているのに気付いて慌ててシャツを掴み、顔を洗うのにトイレに駆け込んだ。

うん、予想外

ディディ、グイグイ行きますね

(^_^;)


個人的には嫌いじゃないけど、ジェスが幼ジードの二の舞いにならないか、ちょっと心配です(汗)


最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます

モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします

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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………


次回 商会からの報せ

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