拳王
三人の遺骨は、ディディが土魔法で創り出した飾りも何も無い小箱に、それぞれ遺髪と共に納められた。
俺達の世界では、遺髪は頭皮ごと削り取る。
皮の部分を炙って乾燥させ、腐ったりしないように、バラけてしまわないようにする。
汚れてしまわぬよう皮の袋に二重に入れられ、小箱に納められた後、虫が湧いたりしないよう、小箱の上から更に土魔法でしっかりと密封された。
俺達がそうするかはわからない。
けれどちゃんと故郷に送り届けてあげたい。
辺りに残る肉や髪が焼けた匂いを感じながら、そう強く思った。
「挨拶がまだじゃったな。
儂の名はジード・グルード、呼び名は好きにしてええ。」
二人の遺骨を小箱に納めた後で、ジードさんが柔らかな笑顔を浮かべ名乗ってくれた。
バルは鼻を鳴らしただけだったけど、それぞれに名乗った。
騎士さん達は、恐縮しきりな感じだったのが流石だなと思った。
ディディはなんだか、もじもじしながらの挨拶だった。
あれ、マジでやられちゃったのか?
年の差、酷くない?
ジードさんが一瞬ニヤリとしたのを見逃さなかった。
これ、もう獲物認定されてない?
今のこの状況で?
カレンさんも挨拶の後、ずっと目で追っている。
マジでモテるんだな。
なんだろう、この無駄な敗北感。
アーネスはアーネスでちょっとキラキラし始めた。
立ち直りが早くて羨ましい。
ただ単純に忘れたいだけなのかもしれないけれど。
こんな時は、この忘れられない質が恨めしい。
なんだかんだで日が傾き掛けた頃、駆け付けた騎士さん達も村の確認を終えたようだ。
その頃には俺達も今後の事で頭を悩ませていた。
荷馬車が使えないのが大きな問題だった。
それに馬に荷物を括り付けたり、馬車の屋根に荷物を載せたとしても、今度は馬が一頭余る。
トゥーレの状態次第では二頭。
マローダさんも馬には乗れるらしいけど、万が一また何か起きた時に外に居ては、事故になり兼ねない。
「爺さんが来てくれれば、馬は空かないけど、最悪、馬車に繋いで引いて行くしかないかもな。その馬に荷物を多く積む感じで。」
結局、バルの提案に全員が賛同した。
目覚めたトゥーレも含めて。
トゥーレは目覚めてから、自分を除け者にして三人を火葬にしたと、皆を激しく責めた。
カレンさんには特に強く当たったが、カレンさんが暴れようとする彼女を抱きしめ、何かを耳元で囁いた後で静かに涙を流しながら何度も頷いていた。
しばらくして、彼女は自分の涙を拭って全員に謝罪した。
「行き過ぎた言葉を吐いてすみませんでした。」
と言い、頭を下げた。
当然、誰も咎める事はなかった。
三人の遺髪と骨が納められた小箱を見せられても、そっと一撫でして、
「帰ろうね。」
と言葉を掛けただけで、その後はもう普通に振る舞っていた。
強い、そう思った。
結局、馬車の中に俺とアーネス、マローダさんの三人が乗る事になった。
結構空きスペースが出るから、中にも荷物を積むことにした。
それでも八人分の荷物を積むには難がある。
鞍を付けただけの馬にバルが乗り、トゥーレが御者を務める事にもなった。
それはトゥーレの提案だった。
予備の水や薪等はとりあえず、諦める事にした。
壊れた馬車は後方の車輪一つが、駄目になっていたがバルとアーネスと俺の三人が後ろを持ち上げて、馬に引かせて門まで運んだ。
この日はこちらの詰め所脇に置かせてもらい、翌日取りに戻る事に決めた。
モレッド侯領の領都まで行き、車輪だけを購入してまた戻る。
もし、予算が取れるなら荷馬車も買う事にしようとしたが、それにはバルから意見が出た。
「なあ、その辺は心配しなくていいんじゃねえか。」
「どういう事だ。」
バルの言葉にドルドーニュさんが質問を返した。
「俺達も派手に殺して回ったから、頭数に応じて報酬出るだろ?
普通。」
「いや、お前達はそれでいいかもしれんが、我々が受け取る訳にはいかん。」
「お前ら騎士の分はバーゼル伯を通じて受け取るように話を持って行けよ。
俺だって他所の貴族から直接貰えないって事位は分かるさ。
魔物の討伐とかもそうしてるんだろ?」
それにはドルドーニュさんも頷いた。
「それはそうだ。
だが心配無いとはどういう事だ?」
「だから。
俺等が貰う報酬もそれなりだろうよ。
そこで荷馬車をくれって言えばくれるだろう?
普通は。」
「それでいいのか?」
「よくねえよ。
だから旅の終わりでバーゼル伯かウォルコット卿に買い取ってもらって、精算すんだよ。
こないだの宿で払った金の事もあるしな。」
「なるほど、それは確かに良い考えだと思う。
ここでは確約出来んがな。」
「んなこたあ、わかってるよ。
こいつ等の報酬も含めて荷馬車の補填をすんだから、嫌とは流石に言わないだろう?」
「確かに。」
なるほどね。
俺達の機嫌を損ねてバーゼル伯の敵対陣営に付かれても困るという事か。
まあ、その程度の事で故郷に反旗を翻すほど短気でも、短慮でもないけどな、俺達。
「それに、闇夜の牙ともなればそれなりの金になりそうだからな。」
「それもわからん。
討伐依頼が何処かから出ているなら、協会が払うだろうが、下手したら出ていない可能性もあるぞ。
対象を絞れてなかったからな。」
ああ、「闇夜の牙を討て」という依頼自体が無い可能性もあるのか。
所在や被害がはっきりしてなくて、一部でそう呼ばれているだけって事もあるのかもしれない。
「下手をすれば、モレッド侯から幾ばくかの金子が出て、後は名誉のみって事もあるかもしれんぞ。」
ドルドーニュさんの話にバルが顔を顰める。
「モレッド侯の領都にも協会はあるでしょ?
着いたら確認してみれば?」
アーネスが当たり前の提案をする。
ただ俺もそこを考えてなかった。
言われてみれば、確かにそうだよな。
「確認作業とかで時間が取られるぞ。
そんなに悠長には出来ないぜ。」
「いや、依頼の有無だけは確認しようよ。
報酬の受け取りは王都でも出来るでしょ?
ならそれだけしておいて、モレッド侯の方から報告を入れる形にしてもらえばいいじゃない。」
なるほどね。
それならこっちで時間を取られる事もない。
ただ。
「あんまり貴族の手を煩わせると、お前らの縛りがますますキツくなるけどいいのかよ。」
それなんだよな。
アーネスは理解してないのかキョトンとしている。
「なんだよ、わかってなかったのかよ。」
「いや、今回は五分以上でこっちが恩を売れるんじゃないの?」
「はぁっ?」
「はっ?」
俺とバルが今度は驚く番だった。
「こっちは犠牲を出してまで、盗賊の襲撃から村を守ったんだから、向こうは頭を下げる側でしょ。
それに金とかじゃなくて手持ちの中から荷馬車を貰うんだから、それほど向こうも痛手じゃないし、何なら古いヤツでいいって言えば済むでしょ?
村の被害が大きいからってこっちが遠慮した形にしたら、ますます恩を売れるしさ?
その代わり協会の手続きをやって貰う事にすれば、別にこっちは何も痛まないでしょ?」
アーネス、マジか。
悪どいとまでは言わないけど、なかなか上手い手だ。
「アーネストリーの言う通りだな。
それなら特に問題無く話が済みそうだ。」
「貴族は面子を重く見るから、それで済むとは思えないけどな。」
「向こうが勝手に積荷まで用意してくれる分には、もらっておこうよ。
それをこっちが恩と感じるかどうかは別の話じゃない。」
それはちょっと辛辣だな。
でもまあ、それもそうなんだよな。
「なかなか利発そうな若者じゃな。
話は終わったのかのう?」
いつの間にかバルの後にジードさんがいて、こちらに声を掛けて来た。
全く、それこそ声を掛けられるまで、そこにいる事に気付かなかった。
「驚かすなよ、爺さん。」
「なんの事やら。
それよりそろそろ出んと日が暮れてしまうぞい。
モレッド侯と会うんじゃろう?」
「ああ、もう準備は出来てる。爺さんは残るのか?」
「いや、儂もそろそろ領都に戻るぞ。
出発の前に声を掛けておこうとしただけじゃ。」
「ジードさん、王都まで一緒に来てもらえませんか?」
アーネスが突然、頭を下げてそう言った。
「そうさのう、取り敢えずお主達が出立するまで考えさせておくれ。
断る口実じゃないぞ?
儂にも色々あるんじゃよ、色々とな。」
「どうせ女の事だろ。」
「無粋な事を言うでないわ。
そんなんじゃから兄貴に惚れた女を持って行かれるんじゃ。」
「ちょ、何でそんな事知ってんだよ。」
「ハッハッハッ。
そっちに関して儂は鼻が効くからのう。
何、冗談じゃよ。
ちょっとお主の親父殿と酒を飲む機会があっただけじゃ。」
「クソ親父、余計な事を言いやがって。」
バルが頭をワシワシと掻き、それを笑いながらジードさんは見ていた。
ふうん、そんな事あったんだ、バルにも。
そんなやり取りを、ていうかジードさんを見て、女性陣はうっとりしている。
うっとりする要素、今の会話にあったか?
なんだ、コレ。
俺達の馬の練習なんてこの状況で言ってられる訳もない。
モレッド侯領都に向かうため、俺はカレンさんの後ろ、アーネスがディディの後ろに乗り、出発した。
後ろから抱き付くようにして乗っているので、アーネスは顔真っ赤。
俺もちょっとドキドキした。
「汗臭いと思うけどごめんね。」
そう言って苦笑いを浮かべるカレンさんだったけど、そんな事は気にならないほどに緊張した。
バルとドルドーニュさんの後ろには、別の馬が繋いである。
常歩で、カポカポと蹄の音を立てて街道を進む。
バルと馬首を並べるジードさんは時折、馬上で会話をしていたが、何を話しているかは聞こえなかった。
どちらも真剣な表情なので真面目な話だと思う。
日も落ちて暗くなった頃、ようやくモレッド侯領都の門に辿り着いた。
酷く長い一日だった。
でもまだモレッド侯の城に入ってからも何かあったりしそうで、ちょっとだけ憂鬱になった。
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
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次回 モレッド侯




