向けられたモノ、向けたモノ
−注意−
引き続き流血シーンが続きます
「おい、楽しそうだな!俺も混ぜろや!」
前を走っていたバルが、デカい声で言ってから速度を落とした。
少しして追い付いた俺達が目にした光景。
額からダラダラと血を滴らせ、片膝を付いたターナーさん。
ターナーさんを取り囲み嬲っている五人の男。
背後から喉元にダガーを突き付けられ、それでもなお叫ぶトゥーレ。
その横に立つ、血がこびり付いた巨大な斧を持つ男。
その前で肩を斬り裂かれ、蹲るコーツ。
壊れた屋台の壁に背を預け、ニヤニヤと笑う痩せぎすの男。
「リック!イヤ、イヤァァァ!リック、起きて、リック!」
彼女の視線の先には、リックだった「物」が転がっていた。
瞳はそれぞれ明後日を向き、泥と血で汚れた表情は、状況がわからないのか、キョトンとしているように見えた。
死んでいるのは一目瞭然だ。
その頭は体から少し離れた所に、転がっているのだから。
意味を成さない叫びに変わったトゥーレの足元で、コーツが四つん這いになり、起き上がろうと腕に力を込める。
その頭に男の巨大な斧が振り下ろされた。
咄嗟に礫弾を放ち、その男の頭部を四散させる。
飛び散る血と脳漿がトゥーレの顔を汚す。
「ヒィッ!」
と短い悲鳴を上げたトゥーレだったが、足元のコーツを見て比にならない叫びを上げた。
「イヤァァァ!コーツ、コーツゥゥゥ!イヤァ、イヤァァァ!」
男の手を離れた斧は、地面に斜めに突き立っていた。
コーツの頭を、耳から上で切り離して。
叫び続ける彼女の股間に滲みが拡がり、足元を濡らした。
ニヤけた顔のまま、壁に背中を預けた男が言う。
「あぁ?なかなかやるな、ガキ。
おう、そこのデカいの。
後ろの二人を殺してこっちに付けよ。
恩寵持ちのバルガスさんよ。
そしたら、この二人は生かしてやってもイイぜ。」
「寝言は寝て言え、カスが!
さっきも広場で言って来たけどよ、テメェ等がソイツ等を殺せば、俺達も雑魚共を心置きなくぶっ殺せるだろうが!
勘違いしてんじゃねえよ、阿呆!
人質取って悦に入ってる所悪いんだけどよ、追い詰められてるのは、テメェ等なんだよ、馬鹿が!」
バルが言い終える前に、アーネスが動いた。
「ウォォォォア!」
叫びながら一瞬にして距離を詰め、ターナーさんを囲む輪の中に飛び込む。
一振りで正面の男の首を斬り裂き、返しで隣の男の武器を持った右手を、手首から斬り落とした。
アーネスが動くのとほぼ同時。
呆気にとられた顔でトゥーレにダガーを突き付けているヤツの眉間を、俺は正確に礫弾で射抜いた。
飛び散るものがトゥーレの顔をまた少し汚し、男が手にしていたダガーが彼女の頬に小さな傷を作った。
俺は魔術を放つと同時にアーネスの隣へと飛び込む。
アーネスの背中に剣を振り下ろそうとしていたヤツの両腕を、まとめて薙ぎ払い、加減無く蹴り飛ばした。
俺の意識の端で、解放されたトゥーレはズルズルと這うように切断されたコーツの頭に近付き、胸元に抱きかかえた。
そのまま、ぎこちない動きで今度はリックの首に四つん這いで向かう。
間を置かずバルも敵の中に飛び込み、槍を振るう。
アーネスに手首を落とされたヤツの喉を一突きで貫き、返す手で別のヤツの頭を飛ばした。
「派手に殺すじゃねえか。
お前らもまとめて死ねよ。」
ニヤけたままの男が言いながら、特大の火球を放った。
アーネスは見もせずに倍のサイズの水球を放つ。
「何人殺した?何人殺せば気が済む?」
底冷えする様な、絞り出したその声は怒りで震えながら、冷たく、重く、暗い。
俺はアーネスのそんな声は聞いた事が無い。
男が放った火球を相殺してもなお衰えない水球は、屋台に男をめり込ませる。
元々壊れ掛けの屋台は、バラバラに砕け崩れ落ちた。
俺はその男の息がある事にただ驚いた。
そいつは崩れた屋台の破片の中から体を起こし、立とうともがいている。
剣に付いた血を一振りして払い、ダラリと下げたまま、アーネスは男に足を向けた。
苦痛と恐怖に顔を歪め、尻を付いたまま後退る男は、瓦礫の上でアーネスに向け次々に火球を放つ。
アーネスは避ける素振りすら見せなかった。
もろに直撃を受け、全身が炎に包まれる。
思わずギョッとしたが、アーネスの足は止まらない。
「これがどうした。
リックの痛みはこんなもんじゃない。
コーツの痛みはこんなもんじゃない。
殺された村の人達の痛みだって、こんなもんじゃない!」
アーネスの叫びにも似た怒号と同時に、その身を包んでいた炎が霧散した。
「化け物か!来るな、来るな!クガァ?!」
アーネスが剣を振り上げ、駆け出そうと足に力を込めた瞬間。
恐怖から叫びを上げた男の体を槍が貫き、地面に縫い付けた。
アーネスの肩越しから、バルが無造作に投げた槍だった。
「そんなカス、お前が止めを刺す価値も無い。」
バルが肩を掴み後ろに引くと、アーネスはヨロヨロと尻餅をつき、そのままガックリと首を垂れた。
バルは、口から血の泡を吹き、力無く槍を抜こうとする男に足を掛けると、おもむろに引き抜いた。
直後にゴボリと血を吐いた男は、もう動く事は無かった。
俺に両腕を落とされ、足元で呻きながらグネグネとしていたヤツの喉を、戻ったバルが見もせずに踏み付け、ゴキリと音を響かせ砕いた。
直後。
門を塞いでいた、俺達の荷馬車が吹き飛び、粉々に砕けた。
俺は咄嗟に二人の欠片を抱いて蹲るトゥーレに駆け寄った。
飛び散る破片から、背中と盾で彼女を守る。
バネ仕掛けのようにアーネスが立ち上がり、剣を構える。
その表情は無だった。
「そこのヤツら、武器を捨てろ!これはいったい何事か!」
そう怒鳴ったのは先頭の大男だ。
騎乗したまま駆け込んで来た鎧姿の男達。
その手には、抜き身の剣がある。
俺達を見るなり、切っ先を向けてきた。
複数の蹄の音が広場の方からも響いて来る。
すぐにそちらからも同じ鎧の男達が現れ、馬上から睨み付けてきた。
恐らくモレッド侯麾下の騎士。
合わせて十五騎。
ジリジリとした睨み合い。
そこに門から徒歩で、やけにダンディと言うか、イケオジと言うか、イケジジと言うか。
とにかくやたらとカッコイイ顔の老人が現れた。
「久しいの、バル。
何やっておるんじゃ、こんなとこで?」
身構えていたバルがおもむろに槍を捨てた。
「遅えよ、爺さん。」
「馬を潰す勢いで来たんじゃよ、これでも。」
両手を上げて言葉を返したバルの顔はうんざりしている。
それに応じた老人の顔も同じようなうんざり顔だ。
その二人を、大男が忙しなく交互に見る。
「ジード殿、知り合いか?」
「ヤレヤレ、お主も一度は仕合ったじゃろうが。
ボロカスにされとったがのう。
バルガスじゃよ。」
「何?バルガス殿だと!?」
慌てたようにバルを見たその人は、驚いた表情になるとすぐに今度は怒りを露にして、再び切っ先をバルに向けた。
「バルガス殿、これはどういう事か!
何故、貴殿が我等の領でこのような無法を働くか!」
呆れた顔のバルは上げた手をヒラヒラさせると、
「変わんねえな、ポールよ。
周りをよく見ろよ。
俺達はここが襲われてるのに気付いて、助けに入ったんだっつうの。
返り血でわかれ。」
と溜息を吐きながらいった。
「むっ。
そうだったのか、これは失礼した。」
「ポール殿、ここは儂に任せて、村の中に残った賊を始末なされ。
一班だけ残してくれればそれでええ。」
「了解した。
一班、ここに残りジード殿を手伝って怪我人の手当と周囲の警戒を。
二班は村長の家の方から広場へ、理解したら行け!
三班は私と共に逆から回るぞ、続け!」
「その一班じゃないわい。
まあええ。
どれお嬢さん、その子達を離しておやり。
あんまりきつく抱きしめると、その子達も苦しいじゃろうて。」
俺のすぐ横に来て、トゥーレの肩に手を置いたジードさんは声も表情も優しげに、そう声を掛けた。
まるでイヤイヤをする幼い子供のように首を振ったトゥーレを、血で汚れるのも構わずにジードさんはそっと抱きしめた。
抱きしめられた彼女から淡く光が放たれると、クタリと力が抜けてジードさんの胸に、体を預けるようにして意識を失った。
「彼女に何をしたんです?」
アーネスが静かにも聞こえる声音で問い掛け、剣を向けた。
「安心せい、眠らせただけじゃ。
このままにしておけんじゃろう?
彼女も、この子らも。」
そう言ってから近くの騎士に目配せすると、そっと彼女を渡す。
意識を失ってなお離さないトゥーレから、ジードさんはコーツとリックの一部を引き取った。
彼女を抱いた騎士は半ば崩れ掛けた詰め所に向かい、中へと消えていった。
「どうするかね?ここに埋葬するか?
それとも荼毘に付して遺骨を連れ帰るか。」
「爺さん、それはコイツ等の護衛のヤツに聞いてくれ。
俺達が決めていい事じゃねえ。」
無表情のまま、バルはぶっきらぼうに答えた。
「そうじゃな、そうするとしよう。」
そう言うとジードさんは、転がされたままの二人の遺体に近寄って傷口を合わせ、こちらには聞こえないほど小声で何かの詠唱をした。
少し期待してしまったが、息を吹き返す事は無く、切り離された体が元に戻っただけだった。
アーネスが膝から崩れる。
同時に声を上げて泣き始めた。
馬鹿野郎。
俺だって泣きたい。
リックとは短い間だったけど、魔法を教えてもらったり、一緒にテントを張ったり、料理をしたり………。
コーツの声は最後まで聞けなかった。
でも、呼び捨てにしていいと、頷いてくれた時の事は覚えてるんだ。
覚えて………。
クソが。
先に泣かれたら、泣けねえじゃないか。
おもむろに袖を引き千切り、剣に付いた血を拭い取る。
剣を鞘に納めると、泣き続けるアーネスの頭を後ろから抱えた。
「ジェスっ。
俺、強くなるよ。
もう誰も死なせない位、強くなる。
強く、ウゥ、ウワァァァァァ!ウワァァァァァ!」
アーネスは俺にしがみつき、声の限りに泣いた。
余りにも、聞いているだけでも辛いその声を聞いて、ようやく俺も涙が溢れた。
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
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次回 立ち昇る煙に祈りを




