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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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SS.4 ある日のクラウディア

今、この時。

クラウディアは悩んでいた。

大好きな父の誕生日に何を贈ろうかと。


彼女の父はつい先日、小隊長に昇進したばかり。

その日は母と用意した、ささやかなご馳走を食べた。

その時に帰宅した父の肩には、班長を示す青い飾り布がなかった。

代わりに、同じ色だが小隊長を示す短いマントを付けているのを見て、クラウディアはとても嬉しくなった。

まるで自分の事のように、とても誇らしく思った。

優しく母と自分を抱きしめてくれた父が、誰よりも大好きだった。


クラウディアは言ってしまえば、ファザコンである。

男性を見る「基準」が父なのだ。

背恰好、顔立ち、話し方、仕草、努力家で勤勉なところ、等々。

つい父と比べ、あれが駄目、これが駄目と、他の見習い達と男の子について話す時は、いつも口にしていた。


この日の昼食時もそうだった。


「あ〜、アンタのお父さんね。

確かに割とカッコいいし、愛妻家で子煩悩とか、努力家で働き者とか、男の理想詰まってるけどさ。

アタシはもっとこう、野性的な感じの「男!」って感じのがイイ。」

「あぁ、わかるかも。

でもアタシはこないだ見かけた協会支部長のグレンさんみたいな、超が付く美形がイイ〜!」

「割と」の部分に不満を感じて、少し憮然とした顔をしていた。

だがクラウディアも、同い年の少女二人の言う事が別にわからない訳じゃなかった。

会話の内容が年相応からはかけ離れているが、彼女を含め向かいに座る二人も、実際に異性と「お付き合い」をしたことはない。

思春期の少女がする、ただの妄想のようなモノだった。


向かいに座る二人は、十歳で魔術師団の見習いになったクラウディアとは二年遅れで、この年から魔術師団に見習いとして入って来た。

なので同期ではなかったが、同い年という事もあって割と食事などを共にしていた。

もっとも、元々少食な上に、母の厳し過ぎる訓練を受けていたクラウディアは、二人と同じだけは食べられなかったが。


「ディディは午後も訓練?」

そう聞かれたクラウディアは首を振る。

「今日は半休を貰えたの。

外出の許可も下りたから、街に出てお父さんの誕生日の贈り物を買いに行って来る。」

「アンタ、ほんと好きだね、お父さんのこと。

で、何を贈るか決めてるの?」

実は何も思い浮かんでいなかったクラウディアは、ちょっと俯いた。

「その顔は何にも思い付いてないって感じね。」

「クラウディア、休みの日とかオシャレなんだから、服とかどう?」

彼女の父は服など着られればいいという人。

脇が裂けたシャツをそのまま着ていて、母に呆れられたりしている。

「贈れば喜んでくれる」とは思うが、彼女にはピンと来なかった。


「じゃあさ、こういうのは?

冒険者が剣によく付けてる飾り紐みたいな?

あれって見た目だけじゃないって話だし、オシャレな実用品って感じで良くない?」

「いいじゃない、それ。

紐だけじゃ淋しいなら、それの端につける珠とか金属のアクセサリー?

みたいなのと一緒にさ。

騎士なら普段から身に付けられるし。」

確かに良さそうな提案に、クラウディアは頷くとそうする事に決めた。

「貰うわね、そのアイデア。」

そう言うと食器を下げる為、トレーを持って立ち上がった。


「ディディ、もう終わり?

もっと食べないと。

いつまで経っても体力付かないよ?」

クラウディアもそれはわかっているが、食べられないものは仕方ないと割り切っていた。

実際、この時も二人よりかなり少ない量しか食べていなかったが、既にちょっと胸焼け気味だった。


「良いよな、ディディは。

何でそれしか食べないのに、あたしより大きいのかな。」

と一人が平らな胸を擦りながら言った。

「それは私に言ったってしょうがないじゃない。

それにあなたの方がモテるでしょ。」

そう言って二人に手を振った。


母譲りなのか膨らみ始めた胸が、クラウディアにとっては逆にコンプレックスになりつつあった。

体力訓練で走り終える度に、「どこ」とは言わないが擦れてしまい、少し痛むようになったからだ。


モテたい訳ではない。

だが二人が同年代の男の子と親しげに話しているのは、見ていて少しだけ羨ましかった。

苦手ではないが、そもそも近付いて来ないのでは話す機会もない。


二人が、

「あれ、わかってないよね、絶対。

結構、狙われてるって。」

「本当に一番モテてるのは、ディディなのにね。

クールビューティーって感じだし、同年代なのにお姉さんぽくって声を掛け難いから、露骨にアピールするヤツがいないだけなのに。」

「しかもあの訓練を見せられちゃね。」

と言っているのは、食堂を出て行こうとしていたクラウディアの耳には入っていなかった。


訓練用の革鎧から、街歩き用の白いフワリとしたシルエットの半袖のシャツと、深い緑の裾を絞ってあるやはりフワリとしたラインのズボンに着替えたクラウディアは、蒼槍城から街に降りた。

見た目から、既に祝祭を終えた成人と見られてもおかしくない感じだったが、お気に入りを着て出かけるのは彼女の数少ない楽しみだった。

そんな彼女が徒歩で目指すのは、冒険者協会の側にある武具屋だ。

比較的上位の冒険者が利用していると噂の店で、そこなら目当ての品が手に入ると、彼女は考えた。


季節の変化に乏しいここバーゼル伯領だが、比較的暑い時期になっていた。

割と賑やかな区画を歩いていると、幾つもの店の軒先に飾られた花の鉢が色とりどりの花を咲かせ、時折駆けて行く子供達の笑い声に心が浮き立った。

街に出るとよく見かける小遣い稼ぎのドブ攫いを、この日はクラウディアと歳が近そうな二人組がしていた。


片方が少しうんざり顔、片方は何やら楽しげだが、彼女に気付く事も無く汗を流していた。

「なぁ、終わったらなんか甘い物、甘い物を買って食べようよ。」

「あぁ?いいけど半分しか使わないぞ。」

よくある光景だったが、その二人の会話も含めて少し微笑ましく、クラウディアの顔に笑みが浮かんだ。


冒険者協会の前を通ると、依頼から戻った雰囲気の若手を率いる女性のリーダーが、

「今からウチで飯を食わせてやる、アタシに付いてきな!」

と宣言し豪快に笑っていた。

「なんかカッコいいな、ああいうの。」

と彼女の口から呟きが漏れた。

冒険者として活躍する自分を想像すると、少しワクワクした。


その女性冒険者の姿に一瞬だけ憧れ掛けたが、クラウディアが本当になりたい者は父の様な騎士だった。

加護が無くても努力で小隊長になった。

そんな父をクラウディアは心から尊敬していた。

でもそれは自身の体力の無さから、半ば諦めていた夢だった。

訓練では下手な魔物より恐ろしい存在だが、家では女性的で父と並んでもお似合いの母の事も、とても尊敬していた。

なので魔術師団の見習いである事に不満は無かった。


実はクラウディアは勘違いをしているが、十二歳の平均よりは少しだけ体力がある。

周りの魔術師見習いや騎士見習いと比べてやや劣っているだけなのだが、その劣っている部分だけが目に付き焦りに繋がっていた。

大好きな父の為とはいえ、半休を取った事を少しばかり後悔し始めていた。

いつの間にか足元に向いていた視線を上げると、そこは目当ての店の前だった。


開け放たれたドアの奥には様々な武器、防具が所狭しと並んでいる。

初めての店に少し気後れしてソロリと入った。

視線だけ店内を見回す。

片隅では冒険者と覚しき数人が真剣な表情で剣の品定めをした。

カウンターでは壮年の男が厳つい顔を緩め、細身だがしっかりと筋肉が付いた、綺麗な白髪を坊主頭にした店主と談笑していた。


「いらっしゃい。

見ない顔だね。

その雰囲気じゃ、冒険者でもなさそうだ。

彼氏に新しいナイフでもプレゼントするのかい?」

クラウディアに気付いた坊主の男が、ニヤリとしながら声を掛けてきたが、なんとなく嫌な感じを受けなかったので、笑顔で首を振った。

「父に剣の柄に付ける飾り紐?みたいなのを贈りたいんです。」

「ふ〜ん。

無くはないけどなぁ、ウチのは飾り気が無くてな。

多分アンタが思ってるのとは違うだろうね。

足元の棚を見てみな。」

言われた通り見てみると確かにそこにあった。


ただ薄く赤に染めてあるが、その色は防腐や防水の為にそうしているだけで、あまり綺麗とは言えない色だった。

しかも飾り紐というよりは、赤くて細い縄と言う感じで、確かにこれじゃないとクラウディアは思った。

「フェルマー商会、わかるかい?

あそこと右隣の間は、狭くてわかり難いけど路地になっててね。

そこから入って三軒目が服飾関係の店になってる。

糸と針の看板が出てるからわかり易い。

そこに行ってみな。

こいつの剣に付いてる飾り紐と留め金は、そこで売ってる物だよ。」

言われて側に立つ冒険者の腰元を見てみると、鮮やかな赤紫の布と朱で塗った革を編んだ美しい物だった。

父へ贈る予定のイメージの色とは違ったが、柄頭側と端には細かな模様が入った銀細工で留められていて、素直に綺麗だと思った。


「布と革紐を選んで、その場で編んでもらったりも出来るぜ。

小一時間もありゃやってくれる。

見栄えに気を遣う冒険者の間では評判の店だ。」

そう言った男は確かに顔は厳ついが、こざっぱりとした服装でそこには爽やかさがある。

「わかりました、親切にありがとうございます。」

二人に丁寧にお辞儀をし、店を後にしたクラウディアは、少し上機嫌で教えられた店に向かった。


歩きながら色の組み合わせを考えていたクラウディアの脳裏に、ふと父の顔が浮かんだ。

努力家の父。

優しい父。

そうだ、温かみのある赤を使おう。

もう一色、お仕えしているバーゼル伯の居城の名前に入っている蒼を入れよう。

あまり華美な物は好まないから、蒼を多めにしよう。彼女は考えをまとめると、自然と笑顔と鼻歌が漏れた。


「うわ、カエルの死骸だ。デッケェ〜、ほら!」

「わかったから、いちいち見せんなよ!

お前は獲物を見せに来る猫か!」

武具屋に向かう時に見かけた二人組の男の子が、同じ場所でそんなやりとりしていたが、そのよくわからないやり取りが可笑しくて、彼女は思わず吹き出した。

もちろんそのせいだけではなかったが、クラウディアの足取りは行きの時より軽やかだった。


その夜、彼女は夢を見た。

思慮深そうな、だけど苦笑いがやけに似合う青年。

少年のようなキラキラした顔で、食いつくように話しを聞く青年。

彼ら二人に魔法を教える、そんな夢だった。

寝起きで、

「変な夢。」

と思わず独り言が零れてしまったクラウディアだったが、妙にウキウキとした気分で目覚めた。

目覚めた途端、二人の顔は忘れてしまったが、内容だけは長く覚えていた。


彼女が父に贈った飾り紐は、擦り切れて落ちてしまうまで使われ、その後は彼女の瞳と同じ色の布に包まれ、大切に机の引き出しにしまわれるのだった。


それは一本、また一本と増えていき、途中からは彼女の手によって編まれた物に代わって行く。

その事をこの時は、まだ誰も知らない。

いかがでしたか?

ロリディディの日常回って感じにしてみました

見た目は既に完成されつつありますが、クラウディア12歳のお話です


今回は色々ニアミスと言うか、カメオ出演のようにしてみました

本編で冒険者になる事をチラッと考えたと言っていましたが、それがあの人由来っていうね(汗)

本当はアイギス、アイザックの二人も出したかったのですが、ダメ親父の筆力ではねじ込めませんでした(泣)


10000PV記念って感じではありませんが、個人的にはオチのない日常回って、アニメ等でも結構好きなので、お気に入りのお話です


最後に

お読みくださった方々、ありがとうございます

これからも、楽しみながら脳内妄想を垂れ流していきますので、よろしくお願いいたします

m(_ _)m


次回 終わらぬ戦い

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