惨劇の村
−注意−
今回は流血シーン、多めです
「バル、突入したら、ちょっと停めて。
後ろの援護するから。」
ちょっと寄り道してくらいの軽い感じで言った、アーネスの言葉に、全速に近い速度で馬車を駆るバルは、
「おうよ。」
と、短い返事を返した。
まだ少し頭が痛むけど、徐々に弱まっている。
動けない事はなさそうだ。
さっきまでの必死さや、悲壮感は今のアーネスからは感じない。
まさか魔力を大量に放出して、スッキリしたとかじゃないだろうな。
村の門がはっきりと見えるまで近付くと、少し緩み掛けてたアーネスの顔が再び引き締まった。
風切り音に混ざって悲鳴が聞こえている。
風そのものに乗って、肉を含めた様々な物が焦げた嫌な匂いが鼻に付く。
微かに血の匂いも混ざっている。
鼓動が嫌な感じで跳ねた。
「門に四人だ!」
ドルドーニュさんが怒鳴るように言った。
正面の小窓からアーネスが、右にディディ、左に俺が窓から乗り出して礫弾を放つ。
アーネスのはまるで砲弾。
着弾と同時に吹き飛ばされて防壁に叩き付けられた。
俺のは機関銃。
数撃ちゃ当たるイメージだ。
喰らった相手は踊るような動きを見せてから、崩れ落ちた。
ディディのは正確無比な狙撃。
残り二人の頭が同時に弾けた。
グロっ。
でも思った程、嫌悪感が無い。
直接、手に伝わる感触が無い分、それが薄いのか。
アイツの知識にもそんなのがあったな。
ナイフで殺すのと、銃で殺すのでは感覚がまるで違うとか。
そうか、俺は。
初めて人を殺したのか。
「突っ込むぞ、窓を閉めろ!」
バルの声にドルドーニュさんが脇にずれ、俺達が乗る馬車に道を譲る。
窓を閉める直前、御者台に立ち上がり剣を抜き払うバルの姿が見えた。
連続するキンとかチンっていう金属音と、ダダダと車体を打つ音が続き、何本かの矢が少しだけ壁から頭を出した。
続けて何人かの男の悲鳴が響く。
馬車が急停車した瞬間、窓を開け顔は出さずに後方へ腕だけ伸ばした。
「そのまま盲撃ちでいい、三つ数えて三発放て!
三、二、一、今!」
バルの合図で再び礫弾を放つ。
また何人かの悲鳴と、倒れる音が続く。
「よし、皆、詰め所に入った。
顔を出していいぞ。
ジェス、後ろの馬車の車輪を壊してくれ。」
窓から顔を出すと辺りは、至る所で火の手が上がっていた。
ドルドーニュさんに言われた通り、大きめの礫弾を放ち荷馬車の車輪二つを破壊した。
大きく傾いたので乗り越えなきゃ門からは出られないだろう。
警備隊か守護騎士か。
鎧姿の一人が、複数を相手に剣を振るっているのが視界の端に見えた。
すかさずディディが礫弾で援護する。
「アーネス、ジェス、来るぞ。
アーネス三人、右から順だ!」
バルの声に従いアーネスが礫弾を放つ。
一発が相変わらずデカい。
「ジェス、二人!同時に行け!」
ドルドーニュさんの指示で俺も散弾状の礫弾を放つ。
後続のカレンさん、オルトスさんが、倒れた相手の頭部を馬で踏みつけ、息が残った者に止めを刺す。
「加勢に入る!
我らは向こうの門を押さえる、こちらの手の者と協力して門を頼んだぞ!」
ドルドーニュさんが掛けた声と同時に、馬車がまた走り出す。
バルは片手で手綱を操り、時折飛んでくる矢を御者台の上で手にした剣を振るい、払い落とす。
「アーネス正面だ、二人行けるか!」
アーネスからの魔法が飛ばない。
ギョッとしてアーネスを見れば、歯を食いしばり涙で顔をグシャグシャにしていた。
「泣くぐらいなら、すっ込んでろ!
お前が助けるって言い出したんだろうが、馬鹿野郎が!」
アーネスを怒鳴りながら、逃げようとした相手をバルは馬車で轢く。
車体が跳ね、馬車越しにも何かを踏む感覚が伝わり、同時に悲鳴が耳を打った。
「ゴメン、もう、もう大丈夫。」
アーネスが言った瞬間、バルが手綱を目一杯引いた。
フラフラと子供が、小さな女の子が右手の路地から出て来た。
ギリギリ、かろうじて撥ねる事はなかった。
ホッとするのも束の間、その背後からニヤけた男が飛び出し剣を振り上げ、バルに襲い掛かった。
次の瞬間、ゴロリとその男の首が落ち、半瞬遅れで断面から血が吹き出して辺りを真っ赤に染めた。
いつ切ったのかの認識すら出来なかった。
せいぜい手元がブレたように見えただけ。
ゾクリと背中に冷たい物が走った。
相手に背中を向けたバルの胸には、いつの間にかその少女が収まってキョトンとしていた。
返り血は全て、バルが背中で浴びた。
「後ろに乗せてやってくれ。」
ドアを開けたバルからディディが優しい笑顔を浮かべながら受け取り、
「窓の外は見ちゃダメよ。ちょっとだけ下で真ん丸になっててね。」
と言って床に下ろした。
その子は驚いた表情のままコクリと頷くと、頭を抱えて素直に床に蹲った。
「出すぞ。」
バルが手綱を打った瞬間、デカい音を立て激しく馬車が揺れた。
少女にディディが覆い被さり、俺は衝撃で壁に頭を打ち付けた。
「マズい、車輪をヤラれた!」
クソ、何処だ?
何処から魔法を打ち込まれた!?
起き上がったディディから魔力が溢れ、地を這うようにして拡がって行く。
「バルガス様!右手、建物の影です!
私は目視して撃つ事が出来ません!
撃つと民間人への誤射を招きかねません!」
槍を手に駆け出したバルは、
「カレン!子供を連れて先に行け!
詰め所に放り込んで、保護しろ!
ドルドーニュとオルトスも同行して、ついでに門を確保してくれ、行け!
直ぐに追う!中央は避けろよ!」
「ジェス様は、バル様の支援を!私とアーネス様は先に向かいます!」
「わかった。アーネス、ディディにケガさせんなよ!」
「任せて!」
顔を見ずに言った俺に、アーネスは力強く返す。
本当にもう大丈夫そうだな。
俺から女の子を受け取ったカレンさんは、紐で体にその子を括ると、守るように体を馬に擦るかのように前傾させて、馬腹を蹴った。
「気をつけるんだぞ、気を抜くな!」
ドルドーニュさん、オルトスさんも続く。
俺はアーネス達を見送る事なく、バルを追った。
角を曲がると、既にバルは三人を相手に戦っていた。
地面には二人、腹を貫かれ倒れ伏している。
「右!」
バルが叫んだのに合わせて礫弾を放ち、同時に剣を抜いた。
俺が放った礫弾は相手の顔を掠めただけで外れた。
いや、躱されたのか!?
バルはその動きを見て取ったのか、相手を右のヤツにシフトした。
俺は直ぐ様、バルの左に入る。
バルを相手していたヤツに、剣を振ると見せかけて、前蹴りを腹に喰らわせる。
よろめいた瞬間を見逃さない。
すぐに送風を組み合わせ、酸素を過供給した青い炎の放炎を顔面に浴びせた。
火達磨になった相手が悲鳴を上げたが、無視してもう一人を相手にしようとそちらを向いた。
丁度そのタイミングで、一人を槍で貫いたバルの引き手が流れのまま、もう一人の腹に石突をめり込ませていた。
前のめりになった背後の男の顎を、バルは容赦なく真上に踵で蹴り上げる。
跳ね飛ぶ勢いで歯を撒き散らしながら、男の首が真後ろに背中に付くまで曲がった。
やけに首が長く見えたのは、頸椎が砕けたからだろう。
「他のヤツらは?」
「先に行ったよ。
俺達も行こう。」
返事もせずに走り出したバルの後を追い、俺も走り出す。
路上には幾つもの遺体が転がっていた。
殆どが男性で、時々年配の女性の姿もあった。
俺達が倒した人数は、まだ想定の半分弱だ。
実際、あちこちから悲鳴が聞こえている。
クソ、なんでこんな事が出来る。
どうしてここまで残酷になれるんだ。
「ジェス、その怒りは大事にしろよ。」
いつの間にか隣を走っていたバルは、こちらを見ずに前だけ見て走りながらそう言った。
その顔は感情が抜け落ちたように、酷く無表情だった。
次の瞬間。
猛烈に嫌な感じが襲い、咄嗟に前に転がった。
後頭部ギリギリを火球が通り過ぎる。
勢いを殺さずに立ち上がると同時に、魔法が飛んで来た方に礫弾をまとめて放とうとしたが、ギリギリ思い留まり、発動を止めた。
窓から上半身を出した相手は、ニヤついた顔をして男の子を盾にする様に胸に抱いていた。
舌打ちをしたバルが無造作に槍を投げる。
男の顔の中央に槍が突き刺さり、子供を抱いたまま真後ろに倒れた。
返り血をまともに浴びたその子は、小さく悲鳴を上げ気絶した。
股間に染みが拡がって行く。
またも舌打ちをした後、その腕からバルは子供を毟り取ると左肩に担ぎ上げ、無言で走り出した。
その時、視界の右端に窓からこちらを覗く男性が見えた。
酷く怯えた表情だ。
「バル、待って。
ちょっと止まって!」
「何だ、どうした!」
「右手の建物に人がいる。
多分村の人。
その子を預かってもらおう。」
素早く駆け寄ったバルは、閉じかけた窓を強引に開けると、窓から男の子を中に降ろした。
「見てやってくれ。
それともう窓は開けるな。
賊共に気付かれると危ない。」
返事を待たずに窓を閉めたバルは、ニヤリとして顎をしゃくった。
「よく見てたな。いい判断だ。」
走り出したバルが褒めてくれた。
ちょっとだけ、嬉しくなった。
走り出してからふと気付いたけど、さっき中央は避けろと言っていたバルの向かう先は、明らかに村の中心を目指している。
「中央は避けるんじゃないの?」
「いや、アイツ等には門を押さえてもらわんといかんからな。
多分、クラウディアも理解して中央に向かってるハズだ、攫った女子供を纏めてそこにいるハズだからな。」
「えっ、俺達だけで行くの?流石にキツいんじゃ?」
「周りの音をよく聞け。
まだやってる最中だ。
お前の予想が正しきゃ、半分に減らした上に見張りが何人かいる程度だろ?」
「人質に取られたら………。」
「取られねえよ。
取られても、俺達が見捨てりゃいいだけの話だ。」
ああ、手を掛ければその時点でソイツ等は敗北確定って事か。
「今は余計な事は考えんな。
一人づつ、確実に倒す事だけ集中しろ。
おっ、見えたぞ。
おいおい、何やってんだアイツ等は、馬鹿か!」
視線の先に、村の中央の広場が映る。
その中央辺りに案の定、若い女性と子供が一纏めにされて地面に座らされていた。
物陰から広場を伺う、アーネスとディディも見えた。
周りには俺達と同じような、補強入りの革鎧を着けた男がぱっと見で五人いる。
武器は剣の他に、ダガーのヤツや割とゴツい槍を持つヤツもいる。
バルは舌打ちしながら二人を無視して、広場に踏み込んだ。
「お疲れさん、収穫はどうよ?」
わざわざ声を掛けたバルに、その場にいた全員が武器を向けた。
「何だテメェ、その返り血、守護騎士か何かか?」
品定めするように、しゃがんで少女の顎を上げていた男が、仲間の声に立ち上がってこちらを見た。
「おいおい、標的がわざわざ来てくれたぜ、まっ、予定通りだがな。
そっちのが例の小僧か、もう一人はどこだ?」
「何、余裕かましてんだ、雑魚が!
何が闇夜の牙だ、朝駆けしてんじゃねえか。
ダセェんだよ!」
「いいね、いい読みだ。
啖呵も悪くない。
でもよ、こっちにゃ人質がいるんだぜ、殺しちまうぞ?
いいのかよ?
恩寵持ちのバルガスさんよ。」
その言葉に周りのヤツ等が、槍持ちを除いて下卑た笑い声を上げる。
「知るか。
殺れよ、勝手に、何人でもよ。
赤の他人を庇って死んでやる程、俺はお人好しじゃねェ。
好きなだけ殺したら、その後はお前らが死ねや。」
動く素振りをみせた、首から笛を下げたヤツに礫弾を放つ。
正確に眉間の中央を打ち貫き、脳漿を撒き散らしながら後頭部に抜けた。
真っ直ぐ後ろに倒れる賊の姿と、飛び散った物を見てしまった人達が、鋭い悲鳴上げた。
そしてそれが、開戦の合図になった。
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
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次回 SS.4 ある日のクラウディア




