伯爵様との朝食
剣を贈る→この世界での騎士任官です
中国ではどちらかと言うと、死を賜る事を意味しがちですが(例外あり)、西洋では割とある文化です(例外、多数あり)
元々はドイツの成人の儀式がベースのようです(ダメ親父調べ)
使者様がお帰りになられてから、というか追い出されてから一夜が明けた。
流石に夕べはバタついていたけど、今はもうとっくに落ち着いている。
身支度を整えて、朝食の呼び出しを待っていると、この何日か決まって同じ時間に来ていた、ディディが来なかった。
ちょっと腹減ったと思い始めた位に、ディディがやって来た。
それほど遅くなかったけど、どうしたんだろう。
「おはようございます、ジェス様。
朝食のご用意が整いましたので、お呼びに上がりました。」
「おはようディディ。
いつもより遅めだね。
何かあった?」
「伯爵様がご一緒されるとのことで、少し調整させて頂きました。」
「えっ。」
思わず素で聞き返した。
彼女は笑顔を返したのみで、スルーして来た。
隣部屋のアーネスと一緒にディディに付いて行くと、何時もの朝食とは違う食堂に連れて行かれた。
時間に関して気にしていなかったのか、アーネスは特にディディに聞かず朝の挨拶をしただけだったので、ちょっと怪訝な顔をしている。
ディディがノックし、
「アーネストリー様、ジェスター様をお連れしました。」
と中に告げた。
「お通しして下さい。」
ガスリーさんの声でそう告げられ、ディディが俺達を中に通す。
後から来るかと思っていた伯爵様は、既に席に着いていた。
アーネスの顔がちょっと引き攣る。
昨日のアレを見てしまっているから仕方ないけど、分かり易いな、お前。
バルが伯爵様の左。
左!?
アーネスはソルディーヌさんに案内されて、伯爵様の右に座った。
俺はその隣。
バルより上座っておかしくない?
ディディは一礼して下がって行った。
行かないで欲しかった。
かなり本気で。
席に着くと、伯爵様が含み笑いを噛み殺しながら、意味ありげにこちらを見てきた。
「おはよう二人とも、なかなかいい朝じゃな。」
そう言うと、息子のユージンさんに仕事を譲る気が無いのか、ガスリーさんが伯爵様の給仕を始めた。
てかユージンさんはいない。
到着した後、会ってないな、そう言えば。
ソルディーヌさんが俺達に給仕をしてくれた。
アーネス、俺、バルの順だ。
イヤ、だからおかしいって。
パンを千切り一口食べた後、伯爵様が話し出した。
「夕べは、大変だったな。ゆっくり寝られたかね。」
イヤ、他人事のように言わないで下さい、閣下。
俺達が答えられずにいると、バルが面白そうに口を開いた。
「使者に逆らって、王都行きを断ったんだってな。
度胸あんな、お前ら。」
「それはもう、キッパリと断りよった。
流石に儂もせなんだが吹き出すかと思ったわい。
中々おらんぞ、儂にそんな思いをさせる者なぞ。」
二人して、からかって来る。
言い返せないじゃないか、特にアーネスが。
「済んだ事は、まあ、いいじゃろう。
本題じゃ。
なんじゃ、二人とも食事の手が止まっておるぞ。
食べながら聞くといい。」
「はい。」
二人揃って返事をしたけど、味なんてわからないよ。
野菜が入ったオムレツと、よく冷えた牛乳。
白パンに厚切りのベーコン。
美味そうなのに、美味そうなのに。
「手筈は夕べのうちに整えた。
午前の内に出発してもらう。
バルガスがおるなら問題なかろうが、騎士を一班付ける。
御者と護衛としてな。
それとクラウディアも世話係として付ける故、使ってやってくれ給え。」
「ソルディーヌちゃんとはお別れかぁ、寂しくなるな。」
今じゃないよ、バル。
この場で粉を掛けられるとか、胆力半端ないな。
「王都では一日は王城の、恐らくは迎賓館に宿泊する事になるが、王都に到着した日と謁見の後は当家の王都別邸を使うと良い。
すでに子爵には話を通してある。」
うあぁ、もう既に嫌なんですが。
「何日でも滞在して構わん。
王都で観光するも、見聞を広めるも、そのまま仕官するも良しじゃ。
王都の学院に入るという手もあるかの。」
バルがずっとニヤニヤしてやがる。
クソ、俺達で楽しみやがって。
「王都で仕事を受けるのも悪くはないが、討伐系の仕事は無いじゃろうな。
陛下の直轄領は既に狩り尽くされておる。」
あれ、王都の協会には駆け出しは少ないって話じゃなかったっけ。
「顔に出ておるぞ。
どうやら頭が切り替わったようじゃな。
君が考えておる通り、あそこには駆け出しは少ない。
物も溢れておるから採取の仕事も殆ど無い。
あそこの協会には、仕官を望む中堅や、難易度が高い、他の地域からの依頼が目的の者ばかり集まっておるのじゃ。」
ああ、そう言う事か。
てかそこまではっきり顔に出てたのか、俺。
「おっかねえよな、伯爵様。
ビシビシ内面読んで来やがる。」
そう言う同意を求めるなよ。
はいとも、いいえとも答えられないだろうが。
「若手が答えに窮しているではないか、やめてやれ。
儂は逆に内面丸出しで、どうやって生き残って来たのか知りたいわい。
盗賊なぞの人間も相手にしてきたろうに。
よいか、こういった部分は見習ってはいかんぞ。
武術の腕だけを盗むのじゃ。」
何かこの二人、ちょっと親しげだな。
「お二人は元々お知り合いですか?」
「ああ、儂が王都に詰めておった頃、此奴の父と知己を得た。
なかなかやり手でな。
今は離れてはおるが、子爵を通じて何かと融通し合う仲じゃ。
今では王都でも十指には入る大店でな、バルドール商会と言えば少なくとも貴族で知らん者はおるまい。
此奴のまだおむつが取れぬ頃も知っておるよ。
此奴の父に請われて、此奴に名付けたのも儂じゃ。」
めちゃめちゃ知り合い、って言うか名付け親じゃねえか。
はえ〜。
「この話題、長くなるからやめておけ。」
「何を言う。
だがまあ実際、儂もあまり時間がない。
この後、領都に戻らねばならんのでな。
話を戻すが、順調に旅が運んで十二日。
天候次第では何日か遅れよう。
使役魔禽を何羽かとその世話をする為に、騎士見習いも付ける。
良い旅にするのじゃぞ。」
ありがたい話だ。
昨日は冷や冷やしたが。
「あの。」
「何かね、アーネストリー君。」
「昨日の使者様って、何か問題になったりは………。」
「せぬ。
と言うか、させん。
それに、もう手は打ってある。
あやつはもう役人ですらない。
小金で職を棒に振るなど、ふん、愚かな事よ。」
アーネスの言葉を遮って伯爵様が言う。
それに対して呆れ顔でバルが話した。
「何だよ、こいつ等の旅費でもせしめようとしてたのか。」
「そうじゃ。
セコいと言ってしまえばそれまでじゃが、陛下のお声掛かりで出た金じゃ。
それなりの額にはなろうな。
何故ばれぬと思ったのか、情けない。」
「なるほどなあ。
使者が泊まる宿ともなれば、村は別としても、何処かの街なら一番の宿を取るだろうしな。
道中の食い扶持もそれなりだろうしさ。
冒険者程度なら半年は働かない位の金にはなるか。
ヤツラにしてみれば、小遣い稼ぎ位の感覚かもしれんけど。」
「だとしても、国から出た金に手を付ける等、言語道断じゃ。
何らかの罪は免れまい。
何処かの貴族が手を引いていたとしても、切られるじゃろうな。」
そもそも、ここまで来る間に幾らかは手を付けてたんだろう。
振る舞いを報告するって言ってたもんな。
あのコーンズって騎士。
伯爵にコーンズ卿って呼ばれてたから、低位の貴族出身か、貴族そのものなのかもしれない。
それにしても、伯爵様の足をちょっとでも引っ張りたい貴族もいるんだろうな。
ヤダヤダ。
憶測の域を出ないけど、貴族が絡んでるなら下手したら消されるんじゃないの、あの人。
「ところでお主は家に戻るのか。
ヤンガス殿によろしく伝えてくれ。」
「ああ、わかった。
兄貴に二人目が生まれたらしくてさ、顔を見に行くんだ。」
「なんと。
儂は聞いておらんぞ。
あやつめ、気を使わせないように黙っておったな。
どっちじゃ、男の子か、女の子か?」
「いや、俺も見るのを楽しみにして、どっちか聞いてないんだよ。
悪いね、伯爵様。」
「それでは何を贈るか困るではないか。」
ただのおじいちゃんだよ。
これはいいものを見た。
「ジェスター君、君に何か良い案はないかね。」
うえっ、何で俺に聞くよ。
なんて答えよう。
うん。
「それでしたら、淡い緑や黄色のお包みを何枚か贈られてはいかがですか?
あって困らないですし、場所も取りません。
伯爵様からの贈り物となれば、大事に使うでしょうし、なんなら代々使ってくれるかもしれませんよ。」
「何故淡い色か。
派手な方が良いではないか。」
「淡い色の物なら男女どちらにでも使えますし、なるべくなら普段から使ってもらいたくありませんか?
でしたら尚更、淡い色の物の方が使い易いと思います。
端に金糸や銀糸で刺繍を入れるとかなら、まだ使い易いでしょうね。」
「うむ、そこまで考えての提案か。
その案、使わせてもらおう。ガスリー、手配を頼むぞ。」
「かしこまりました。」
「お前、スゲェな。よくそんなのポンと出るわ。」
やめて、マジで。
アイツの知識を拾っただけだから。
「なかなか、頭が回りよるじゃろう。
だがこれでまた貸しを作ってしまったわい。」
また面倒な事を言い出したよ、伯爵様が。
「そう迷惑そうな顔をするでない。
借りならまだしも、儂に貸しを付けられる者などそうはおらんのじゃぞ。
もっと胸を張らんか。」
「ならさ、こいつ等、ダガーを買おうとしてるんだよ。
伯爵、余ってるだろ。
良いのを一本ずつやれば?」
おい、それはちょっと恐れ多いよ。
「なんだよ、その顔。
剣を贈られるよりはマシだろう?
褒美としては手頃じゃねえか。」
「確かにそれは良い。
子爵宛の文と一緒に持たせて、王都まで届けようではないか。
儂の手から渡されるよりは気も楽じゃろうしの。」
まあ、うん。
それならいいか。
イヤ、いいのか?
銘が入ったヤツとか来ないよな。
そんなのビビるぞ、俺は。
「さて少し長くなった、三人はゆっくり食べてくれ。
儂は出立の準備があるので先に失礼させてもらおう。
見送りはせんので、達者でな。
また必ず会おうではないか。」
そう言うと席を立ち、ガスリーさんを伴って退出して行った。
見れば完食している。いつの間に。
「伯爵様はあんだけ話して、食うのも速いんだよな。
やっぱりまだまだ現役だなぁ。」
少し呆れを含んだ口調でバルが言ったけど、まあ、暫くは現場は無いとしても政務には励むんだろうな。
何となく、元気で頑張って欲しいとか、そう思った。
さて、食べたら王都だ。
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