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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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手合わせ

「先に言ってよね、それ。」

アーネスが、ボヤキに近い口調で呟いた。

「聞かれない限り話しません。

伯爵様かガスリー様から説明されている、そう思っておりましたし。」

てか研鑽を積めば、この領域まで登れるのか、俺も。

全く自信は無いが。


「時差詠唱って何?」

アーネスが驚きつつも、質問をする。

それは俺も知りたいけど。

「二重詠唱の一種で相手に、どのような魔法を使用するのか誤認させたりする技術です。

今回私が使用したのは、濃霧と氷棺ですが、目眩ましに濃霧を使用すると見せて、範囲を広げた氷棺を狙ったのです。

同系統の魔法でよく使われますね。」

「よくは使わないって。」

バルの頭が垂れる。

「濃霧と雷撃でも効果はとても高いです。」

「それは流石に死ぬわ。

俺でも、普通に。」

怖い、怖いよ、クラウディアさん。

殺意の高さが。

「ご安心を、敵対者か魔物にしか使用しません。」

うん、敵に回しちゃ駄目なのはわかった。

というか分かってた。


「さて中に戻って、お茶でも入れましょう。

着替えますので、その後で。

談話室とお部屋、どちらにいたしますか。」

「クラウディア、コイツ等に稽古を付けるから、着替えたら談話室に呼んでくれ。」

「かしこまりました。

ただ明日には皆様、ご出立という事をお忘れなき様。」

ディディはそう言って、ポニーテールを揺らしながら一礼すると、杖を腰のホルダーに収めて館へと戻って行った。


「アイツ、美人だけどマジで怖えな。」

後ろ姿が見えなくなると、バルはそう呟いた。

あえて、あえて何も言うまい。

「バルの好みってどんな。」

アーネス、行くねぇ。

案外、恋愛話が好きなんか?

「俺か?

俺は五年後くらいの、ソルディーヌちゃんに期待してる。」

ちょっとわかる、とか思う自分がもう嫌だ。


「バカ話はこのくらいだ。

この三日、型をやらせたが流石に筋が良い。

斬り下ろし、斬り上げ、払い、突き。

どれもギリギリ実戦で使えるレベルにはある。

刃筋もわかってるみてえだしな。

振り回すのと、突きの違いってわかるか?」

「静止力と攻撃力?」

アイツの知識の受け売りだが。

「ほう、その通りだ。」

「どういう事さ。」

「いいかアーネス。

相手の躱し方を考えてみれはわかるだろ。

振り回されたら攻撃範囲の分、大きく避ける事が多い。

あくまで多いってだけだが、前進を止める効果も高い。

対して突きは当たりゃデカいが攻撃範囲が狭くて、敵の躱し方も小さくなりがちだ。

だけど、どっちが優れているって話じゃないのもわかるよな。」

アーネスもピンと来たようで大きく頷く。

「正確さと速さのバランスを重視しろ。

それと型はあくまで型だ。

実戦では繋ぎと意外性が大事になる。

型に沿った攻撃は、ともすると単調にもなる。

型の流れを相手が知っていれば、読まれるし躱され易くなる。

一連の型も大事だけど、一個の型の方が大事だ。

自分がやりやすい事より、相手がやりにくい事をするんだ。

それを念頭置いて、打ち込んで来い。

安心しろ。

いくら俺でも、防具を着けてないヤツを打ち付けたりしねえから。」

俺達は頷き合うと、先ずはアーネスが前に出た。


「舐めんな。

二人で来いよ。

防御専念って言ってんのに、一対一でどうにか出来るとでも思ってるのか。」

そう言われ、俺も前に出た。

確かに、一対一じゃどうにもならないだろう。


「どっちかでも、一本取れたら王都で飯を奢ってやるぜ。」

そう言った時のニヤケ顔を、なんとかしてやるつもりで打ち込んだ。

だが俺も、アーネスも、まるで届かない。

同時に攻撃しても、避けられ、捌かれ、掠りもしない。

フェイントは読まれ、避ける素振りすらなかった。

「フェイント入れんなら、気合を載せなきゃ意味ねえぞ。

来ると思わせられなきゃ駄目だ、怖さがまるで無い。」


カン、カカン、カン、コン、カカカン。


木剣同士が打ち合う音が、小気味良く辺りに響く。

突きは半身になって避けられ、払いは流され、斬り上げは動き出しを弾かれ、斬り下しは速度が乗る前に跳ね上げられる。

ウソみたいに速い。

そして言うまでも無く上手い。

バルは俺達の木剣を、手が何本もあるかのようにいなし続けている。

遊ばれてるな、これ。


「どうしたどうした〜、雑になって来てるぞ。

正確に速くだ。

動け動け。

もっとだよ。」

クソ、絶対そのニヤケ顔、真顔にさせてやる。


袈裟懸けに振ったのに合わせて、咄嗟に無詠唱で礫弾を放つ。

ギリギリ顔を掠めた。

行けるか。

「あっぶな、ジェス、魔法はズルいだろ。」

今度はアーネスが突きに合わせて真上から氷の矢を落とす。

仰け反るようにして避けた所に、俺は横に回って連続で突きを打ち込む。

「おわっ!お前ら、魔法はズルいっての。」

クルクルと右に左に回転しながら避けるバルの足元に、土魔法の隆起を使い、僅かな段差を作る。

一瞬、段差に足を取られバランスを崩しかけた瞬間を狙って、アーネスが足払いを掛けた。

ほんの瞬きの間だったが、バルの足が完全に両足とも地面から離れた。

「ウオオォ〜。」

叫びながら脇腹目掛けて、木剣を疾走らせた。

「クッソが。」

バランスが完全に崩れ、倒れそうになりながら、体を捻り、木剣を合わせて受け流して来た。

ここまで体勢が崩れても、まだ防御出来るのかよ。

マジで化け物だな。

アーネスがバルの流した木剣を狙って跳ね上げた。

開いた脇腹に流された勢いも使って、回転しながら払った。

ドシッと鈍い音を立てて、俺の木剣が入った。

手に伝わる感覚は、まるで岩でも叩いたような硬質なモノだった。

なんだコレ。

体の硬さもおかしいだろ。

手が痺れ、逆にこっちが木剣を落とすかと思った。


「クソが。

これじゃ武術指南じゃなくて、実戦訓練だぜ、全く。」

「ヨシ、ッシ、ヨッシャア。」

アーネスが嬉しそうに拳を握る。

バルがボヤくすぐ横で、俺達のハイタッチがいい音を立てて響いた。

「まあでも、いい連携だったんじゃねえか。

崩しと決め。

どっちもいい精度だったし、速さも申し分ない。

魔法を絡めてからの動きは、そうだな二人合わせて一・五流ってところだな。」

もっと文句を言われるかと思ったけど、褒めてもらえた。

「それって一人だと二流以下って事?」

水を差されたように少しむくれてアーネスが言う。

「何悔しそうに言ってんだ、お前。

一人前でやっと三流。

それ以上って言ってんだから、少しは胸張っていいぜ。」

パァっと笑顔になるアーネス。

お前ね、チョロ過ぎるだろ。

「何にしても、一本取られちまったからな。

約束通り、王都で飯奢ってやるよ。

あっ、女の方がいいか?」

「それっ、イヤ、ご飯、ご飯で。」

アーネスがアワアワしてる。

「コイツ、好きな娘がいるから、そういうの無しで。

俺も最初は普通に彼女が出来てからがイイ。」

「イッ、いねえって、そんなの。」

顔真っ赤で言われてもな。

「そう?まあわかった。

いい店に連れてくから期待しとけよ。」

「ああ、そうするよ、バル。」

そう言って俺達は、三人揃って笑顔になった。


「お待たせいたしました。

お茶の用意が整いましたのでどうぞ。」

着替えて髪を結ったディディが、穏やかな笑顔を浮かべて俺とアーネスの背後から声を掛けて来た。

ちょっとビクッとしたけど、どうやら女うんぬんの話は聞かれずに済んだようで安心だ。

てかディディ、警戒してないとはいえ、気配薄く背後に立たれるとか流石だな。

怖い。


談話室に着くと、ちょうどマローダさんがお茶を終え、席を立つところだった。

「おや、いい汗を流されたようで。

先ほど先行した騎士がニ騎、先触れとして到着されました。

特に問題無く、後一時間もすれば伯爵様がご到着なさるようです。」

それは何より。

「それではお茶を終えましたら、お部屋に温めたタオルをお持ちいたしましょう。

汗をお拭き下さい。」

ディディの気遣いがありがたい。


今日の軽食はアイツの知識で言う、ラスクとカナッペだ。

ラスクはこちらではパルバ。

店でも売ってるので珍しくはない。

サクサク。

ふんわり甘く、ちょっと塩味も感じる。

最初の雨季が終わると塩味を加えるようになり、二度目の雨季になると塩味無しに変わる。

アイツの知識の塩飴のようなものだと思っているけど、どうだろう。


お茶を美味しく頂いて部屋に戻ると、アーネスが付いて来た。

「なんだよ、何か話か?」

「ああ、王都に行ってから揃える物についての相談。」

なるほど。

「それは俺もどうするか、気にしてた。まぁ座れよ。」

アーネスはちょっと迷って文机の方に座った。

俺はソファに座る。


「鎧は絶対買うだろ?

でさ、革鎧の上に着けられる、今日バルが使ってた感じのってどうかな。」

「少し大きめって事だよな?」

「そうそう。」

「ありとは思うけど………。」

「けど何?」

「あ〜、もういっそ後でバルに聞いてみないか?」

「それがいいか。」


なんて言ってたところに、ディディがタオルと桶を持って来てくれた。

タオルからはほんのり湯気が立っている。

「こちらにいらしたのですか、アーネス様。

このままこちらで済ませますか?」

二人で背中を拭けばいいか。

「そうするよディディ。」

「左様で。

ではお二人とも上を脱いで下さい。

背中をお拭きしますから。」

「いいよ、二人でやるから。

本当、いやあの、大丈夫です。」

アーネスが慌てたように言う。

「そうですか。

ではお任せいたします。

それとユージン様からの指示で、昼食はお部屋に運ばせていただきます。

いつ伯爵様からお召があってもいいように、準備だけはしておいて下さいませ。」

「面倒だから、こっちにアーネスの分も運んで。

呼ばれるまでは二人でいるよ。

それか食後はバルに話があるからどちらかに来てくれる?」

「かしこまりました。それとこちらを。」

そう言って掌くらいの大きさの小箱をそれぞれ渡してくれた。


中にはカイトシールドを模した飾りが付いた銀のネクタイリングと、白地に黒で角に細やかな刺繍が施された、幅広のタイが入っていた。

「先日のお召し物では、首元が少し寂しいかと思い用意させて頂きました。使者様とのお食事でお使い下さい。」


アスコットタイ。


アイツの知識では略装らしいけど、俺達の世界では失礼にならないようだ。

「少し早いですし、烏滸がましいかとも思いましたが、講義の修了祝いとお思い下さい。」

そう言って微笑むディディは、何だか久しぶりに見た気がする、お姉さんの顔をしていた。

ムカデ戦でも思ったんですけど、一つ前とこのエピソードを書いていて、今後のインフレと、それに筆力が追い付くか不安になりました

ただでさえ拙筆なのに(汗)


アスコットタイとリングは、二十世紀に登場するので時代的におかしいとは思うのですが、まあいいかと思って出しました

しかも「昼」の略装なので、フォーマルではありますが、使い方としても我々の世界とは違います

クロスタイとどちらにしようか迷ったのですが、ぱっと見華やかなアスコットタイにしちゃいました

こちらなら、リングを使い易いですからね

元々、ドレスコードやマナーも全然違うので、気にしないで頂けたらと思います


最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます

モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネで表して頂けたら幸いです


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………


次回 白パンはちょっと塩味で………

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