走れ!!
別邸の生活も今日で六日目。
その昼下がり。
俺とアーネスは、湖の周りを走っていた。
修行一日目。
午前のディディの講義は復習と、初級魔法四種の内二種の習得だった。
休憩の軽食、クリームブリュレだった。
アイツの知識のお菓子、あるんだな。
卵、牛乳、砂糖が材料だから作れるんだけど、レシピってどうしたんだろう。
アイツの世界でも、古くは三百年以上前からあるお菓子らしいから、似た様な事を考える人が俺達の世界にもいたって事かな。
表面はパリっと、中はトロリとして甘々で、口に含むと自然に笑顔になれた。
アーネスもどうやら同じでスプーン片手に、頬に手を当て幸せそうな顔をしてた。
思わず女子化しても、そこは触れるまい。
そんな俺達を優しげな目をしてディディも見ていた。
終始、和やかでとても楽しかった。
午後。
「お前ら、走って来い。
グルッと一周、百サナちょっと。
遊歩道があるからよ。
今日だけ俺も走る。」
バルは開口一番にそう言うと、俺達と一緒に走り出した。
走り出して少ししてから、
「何か余裕そうだな。
よし、じゃあお前ら二周な。
歩いてもいいけど止まんなよ。」
そう言い残してペースを上げ、俺達を置き去りにして行った。
そりゃ百サナなら二時間もあれば楽に走り切れる。
でも二百て、オイ、待って。
何か向きになって、歩かず走り切った。
「今日は初日だから、鎧無しで走らせたけど、明日からは鎧着て、剣と盾も持って走れ。
いいか、手に持ってだぞ。」
ヘトヘトの俺達にバルはそう告げた。
二日目。
朝食の時、
「おはようございます。
今日も快晴ですね。
夕べ、使者様より使役魔禽が送られて参りまして、使者様の到着は五日後の予定との事です。
早くて十二日とお伝えしてましたが、まあ予測の範疇です。
天候が悪い日があって途中二日ほど、足止めされたらしいですし、準備もあったでしょうしね。
この後も天候次第では更に遅くなるかもしれませんしね。
来たら次の日に出発くらいに思っておけば大丈夫です。」
とマローダさんがにこやかに伝えてくれた。
その後。
この日は残りの初級二種と、動きながら魔法を使う練習だった。
後半は、走りながらだった。
「足の回転が落ちてますよ。
的に当てたら直ぐに、動く向きを変えて下さい。
単調にならず、動いて。
はい、動く動く、もっと。」
とディディの指導にも熱が入っていた。
午後。
「クラウディアにしごかれて来たか?
なるべく魔力と体力を使わせるように頼んだんだ。」
ニヤリとしながらそう言ったバルが鬼に見えた。
ギリギリ夕食に遅れる事はなく走り切った。
食欲はまるでなかったが。
「残すなよ、絶対。
あっ、すいません。
コイツ等に麦粥追加してやって下さい。
少し硬めで。
あと肉料理も一品。」
信じられない物を見る目をした、アーネスの顔が少し笑えた。
三日目。
この日の午前は座学半分、実技半分だった。
座学の最中、居眠りしかけたアーネスに、
「アーネス様、寝たら燃やしますよ?」
と言ったディディが鬼に見えた。
しかも後半は、発動ギリギリの魔力で覚えた全ての魔法を順に使い、失敗したら最初に戻る、とかいうめちゃめちゃ神経を使う内容でゲッソリさせられた。
特にアーネスが。
「遅刻したら水を一樽背負わせる、とバルガス様が仰っておられました。」
と言われ、更にげんなりさせられた。
特にアーネスが。
ギリッギリでアーネスも間にあったが、昼飯はかっ込む羽目になり、付き合った俺もげんなりさせられた。
そして二周、革鎧とはいえ鋼板で補強が入っている物を着て、剣と盾を持って走った。
吐き気がヤバかった。
途中。
湖の魚に、二人並んで餌を与える事になった。
四日目。
午前は問題なく終わった。
湖に向かってひたすら魔法を撃ちまくるって内容で、ちょっと気分的にスッキリした。
午後。
訓練に変化があった。
型の練習が加わった。
およそ一時間。
その後、走った。
「俺を晩飯に遅らせたら、明日は容赦なく樽な。」
とニヤリとしながら言ったバルが、鬼に見えた。
ギリギリ、本とギリッギリで間に合った。
夕食でまたおかわりさせられて、二人して涙目になった。
今日。
午前の座学中。
居眠りした俺の手の甲に、火種の魔法がポトリと落ちた。
飛び起きたが、
「ジェス様。
私は燃やす、と申し上げた筈ですが、よもや、ジェス様がお忘れになる等。
有り得ませんよね。」
と無表情で言ったクラウディアさんは、お姉さんではなく鬼だった。
チラッとアーネスを見ると、青褪めて小刻みに震えていた。
ちょっと涙が出た。
そして今。
今日は後ろから、バルが付いて来て、時折弓で石の丸い鏃に布を巻いた物を、正確に尻を狙って撃ってくる。
当然だけど当たれば、刺さらなくても痛い。
避ければ、足が縺れる。
何回目かで弦音に合わせて盾で防御出来るようになったが、正直ウザい。
とか思っていたら、足音が遠くなった。
弦音が聞こえなくなり、盾の防御の難易度が跳ね上がる。
クソ。
完全に遊ばれてる。
結局、尻は腫れ夕食の時、座っているのがきつかった。
ディディは治癒魔法が使えない。
仕方なくうつ伏せに寝て、枕を濡らした。
一夜明け。
朝になって、尻の痛みは引いていた。
動かすとまだ時々、イッてなるけど走れない事はなさそうで一安心だ。
朝食の最中、アーネスが何か嬉しそうだ。
何だ?
そのままの顔でこっちを見て来る。
何だよ?
ちょっと眉を顰めた後、顔を寄せ小声で話して来た。
「今日でこの特訓も終わりって事だろ?」
それはどうかな?
バルは王都に行くから同行するって言ってた。
道中、何らかの訓練はさせられるとは思うんだけどな。
「何だ、アーネスはもっとやりたかったのか。
じゃあ、道中はお前達は徒歩だなぁ。」
おい。
「お前の所為でとばっちりじゃねえか。
どうしてくれんだ、アホゥ!」
「うぇっ、そんな、ジェス〜。」
「俺は同行の話を聞いてたから、道中もなんらかの訓練があるって思ってたんだ、クソが。」
「うえぇっ、ゴメン、ゴメンて、ジェス〜。」
馬車に対して馬が常歩なら、走れば付いて行けなくもない。
でも高くはないとはいえ、山越えがあるし半日で済めばいいけど。
「安心しろよ。
馬の休憩で拾ってやるから。
宿に着いたら、型をやってもらうけどな。」
ディディの目は、生暖かい感じだった。
クソ。
カラン。
カラン。
カラン。
カラン。
今は午前の座学中。
内容は土魔法での攻撃と威力についてだ。
カラン。
カラン。
カラン。
カラン。
「土魔法は、地面からの攻撃の方が威力が上げやすく、礫弾のような中空から射出する魔法は同程度の威力を出すのに、より多くの魔力を要します。」
カラン。
カラン。
カラン。
カラン。
「何故でしょうか?アーネス様。」
カシャ、カラカラ。
カシャ、カラカラ。
カシャ、カラカラ。
「魔力で生み出すより、魔力を与えて増やす方が簡単だからです。」
カシャ、カラカラ。
カシャ、カラカラ。
カシャ、カラカラ。
「その通りです。
つまり礫弾は中空から飛ばすよりは、地面に転がった礫、つまり石ころを飛ばす方がより簡単で速度が出せるのです。
では何故そのような使い方をする魔術師が少ないのでしょうか、ジェス様。」
カシャ、カラカラ。
ガシャ、ガラゴト。
カシャ、カラカラ。
「はい。
中空に作り出す方が、弾丸の形状を設定し易いからです。
ディディ先生。」
カシャ、カラカラ。
カシャ、カラカラ。
ガシャ、ガララゴ。
「アーネス様、制御が時々乱れてますよ。
サイズを一定に。
ジェス様、その通り。
このような理解は本当にお早いですね。
あと照れてしまうので、先生はやめて下さい。」
褒められて嬉しいし、ディディのちょっと照れた顔が見られてやはり嬉しいが、さっきからカラカラ、カラカラうるさい。
だがこれも講義の一環だ。
速度ゼロに設定した礫弾を、鉄鍋に作っては落とし、作っては落とししているからだ。
魔力操作の訓練。
午前は講義の傍ら、鍋から溢れる程、石ころを作り続けた。
午後。
「今日は一周半でいいぜ。」
型の練習の最中でバルが、そう言った。
「イヤ、半周って残りは歩けって事?」
剣を振り下ろしながら俺が聞いたら、バルの顔がニヤケ顔になった。
嫌な予感しかしないが。
「半周くらいの所にベンチがあるだろ。
あそこまで行って、泳いで帰ってこい。
で、取りに行って装着して帰って来るんだ。」
嘘だろ。
一周百サナって事は、単純計算で十六サナくらいあるんだけど!?
「手が止まってんぞ。
あそこは湖の狭くなってるとこだから、目測十サナちょっとってとこだよ。
そんなキツくないだろ。」
待て待て。
「泳いだ事ないんだよ、俺達。」
「おっ、初体験?
いいねぇ、泳ぎも覚えられるじゃないの。」
クソ。
ニヤケ顔が憎い。
アーネス。
キラキラしないで、頼むから。
「泳ぎ方はどうでもいいよ。
でも水面から顔を出して泳ぐと飯に間に合わないかもな。」
チクショウめ。
マジで鬼だ。
アーネス、後悔するなよ。
水泳は全身運動。
初めてだから、多分だけどアイツの知識的には、楽に三十分は掛かるぞ。
俺が金槌でないことを祈る。
その後、実際にやる事になった。
ウキウキしているアーネスを尻目、に俺は溜息が止まらなかった。
対岸まで走って行き、急いで鎧を脱いで下着一枚になる。
水は温かったが、気持ちいい。
どうやら俺もアーネスも、金槌ではなかったようだ。
アイツの知識のクロールで泳ぐ。
息継ぎで何度か水を飲む羽目になったが、すぐに慣れた。
「お〜い、言ってなかったけど、この湖、小型だけど魚の魔物がいるから気を付けろよ~。
ち◯こ、食われないようにな〜。」
そういう事は、先に言ってくれ!
後、デカい声でち◯ことか言うな!
必死に泳いで、なんとか事亡きを得たが、魚影が見える度に心臓が止まりそうになった。
その後、二人揃ってビチャビチャの下着に裸足で走り、お散歩中の老夫婦をギョッとさせたりしたが、なんとか夕食には間に合った。
チクショウ………。
いやぁ~
ディディがドンドン、ドSになって行きますね
ダメ親父はドMと勘違いされがちですが、ドSの方を、はっ、ゲフンゲフン
これ以上はいけない(汗)
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………
次回 二人の師匠




