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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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修行開始

昼下がり、到着してすぐ。

出迎えてくれたのは、この別邸の執事を務めるユージンさん。

なんとガスリーさんの息子さんらしい。

「長兄を早くに亡くされ、次男のユージン様がガスリーさんの後継者と言われています。

今、伯爵様の御長男、ドナート子爵様は王都に詰めておられるので、こちらの管理を一任されております。」

とは後で聞いたディディの情報だ。


通常、執事は城や邸宅の管理と主人の世話が仕事だが、代理に立つ事もあれば、残って管理を続ける事もどちらもある。

対貴族ならば面子を重んじる事が多いので主人が出向き、たとえ相手が富豪とかでも執事が赴く事もある。

例外はもちろんあるが。


本邸にも子爵様が居たようだがあちらは、バーゼル伯の次男でウォルコット子爵。

どちらも優秀って聞くけど、兄のドナート卿は父譲りの武人肌。

弟のウォルコット卿は武芸の才も無くはないけど、むしろ政務や数字に明るいらしく、母方に似たそうだ。


公表されている加護は、兄ドナート卿が戦神ウィスラの恩恵。

弟ウォルコット卿が智慧神ネートの恩恵。

加護も父母から受け継ぐように授かったようだ。


珍しいけど全くない話ではなくて、技工神ワイヤードの加護なんかは、代々受け継がれる事が多いらしい。

ちなみにワイヤードは七大神ではなく、ウィスラとネートの子で従属神だとか。

神話では二人の間の子、ワイヤードは人の姿で巨大な岩山から生まれたらしいけど。

どうしてそうなったのやら。


「おう、お疲れ。

昼飯食ったら、装備はそのままで剣を持って、裏手の湖の畔に来いよ。

明日からどう指導するか決めるからよ。

三十分もあれば終わるから、多分。」

ユージンさんに挨拶された後、部屋に向かう前にバルに呼び止められて、そう言われた。

一昨日のディディみたいな感じだろうか。


とりあえず三時間座りっぱなしで、何か関節が軋む。

ちょっとお腹も空いてきた。

食事が楽しみだ。


通された部屋は一人部屋。

三人横並びで用意された。

十五年で初めての一人部屋。

最初は何かワクワクしたけど、一人荷物を片付けていると、少し落ち着かない。

何でだ?


改めて部屋を見ると、本邸の蒼槍城にも劣らない程広い。

ソファが二人掛けだったり、その代わりオットマンが置いてあったり、湖が見渡せる窓辺ではなく、テーブルに花が活けてあったり、文机があったり、内装が銀ではなく、嫌味には感じない程度に金であしらわれていて少し華やかだったりと違いはあるけど、広さは余り変わらない。

ベッドルームも別だし。

一息付いて、ソファに座りオットマンに足を投げ出した。

何だこれ、最高か。

柔過ぎず、硬過ぎずゆったり座れる。

でも何か落ち着かない。

何だろう、この違和感。


そんな事をぼんやり考えていたらノックが鳴った。

返事をする間もなく、ドアが開いてアーネスが入って来た。

「返事くらい待てよ。

着替え中とかだったらどうすんだ。」

「今更、まして男の裸なんてどうでもいいし。」

「いや、廊下を通り掛かったディディとか、女の使用人さんとかに見られるのはヤダよ。」

「そお?

てかさ、何か落ち着かないんだよね。

何でだと思う。」

知るか、と言いかけて気付いた。

一人に慣れてなくて、落ち着かないのか。

「それさ、俺もそうだったんだよ。

何でかと思ったけどお前が来て落ち着いたから、わかったわ。」

首を捻るアーネス。

「俺達全くの一人って、トイレ以外はほぼ初めてだからじゃないかな。」

ポンと手を打つアーネスは、やけにスッキリした顔をして見せた。

「じゃあさ、こっちに来ていい?」

小首を傾げた感じで言われてもな。

その仕草はかわいい女の子にされたいわ。

「イヤだよ。」

「何で!?」

心底驚いた表情のアーネス。

お前。

コリャいかんな。


「慣れようぜ。

お前も彼女とか出来たら、二人っきりの方がいいだろ?

俺はそうじゃなきゃヤダよ。

この先も一緒に行動するだろうし、そこは疑ってないけど、依頼とかで別々に動く事があるかもしれないし、いつまでも二人じゃなきゃ何も出来ないってんじゃ駄目だろ?」

俺の伏せられた加護の事もあるしな。

「一日くらいいいだろう。」

「お前はそのままズルズル居座りそうだから駄目。」

「わかったよ。」

ちょっとふてくされたように言うアーネスは、何か小さかった頃と被って見えるな。

「そんなだと、好きな娘に逃げられるぞ。」

「い、いねえし、そんなの。」


俺は知ってる。

挙動不審になってるコイツの初恋が、院の向かいに住んでたラフィアちゃんだと。

確か一個下だった。

祝祭の日に彼女のお母さんが、

「あなたも来年ね。」

って言ってたのを聞いている。

確かにかわいいもんな、彼女。

青味掛かった黒髪とパッチリした二重が印象的。

はしゃぐ感じじゃなくて、微笑むタイプ。

院の子たちや、先に出て行ったヤツも何人か狙ってた。


だが俺は知っている。

彼女は隣のお兄さんのロバートさんが好きなのを。

彼女とは五歳くらい離れてて、ちょっとぽっちゃりした人だけど、何時も優しそうに笑ってた人だ。


そういえば俺、ちゃんと恋してないな、まだ。

かわいい彼女欲しいな、とかは普通に思うけど。

人のは、まあ割とわかるんだけどな。

ただの勘違いじゃなければ。


「そう言うお前はどうなのさ。

全然、素振りも見せないけど誰かいないのかよ。」

「あ〜、今んとこいないかなぁ。

かわいいとか、美人だなとか普通に思うよ。

ディディとか、ソルディーヌさんとか、全くタイプではないけどアイギスとかさ、あ〜、一応姐さんも。

でもそれと好きって別物だろ?」

「俺にはよくわかんね。

てか美人とか、かわいいのタイプ、バラバラ過ぎんか、お前。」

「そうか?」

「クール、妖艶、エロ、豪快って。」

「お前、豪快って。

それにそれは雰囲気の話だろ。

俺は完全に見た目だけで話してるよ。

姐さんだって見た目はかなり美人だろ、見た目は。」

「あぁ、そういう事ね。

言わんとする事はなんとなく理解した。」

てか、コイツと女の話とかって初めてだな。

「院の前に住んでた、ラフィアちゃんも結構かわいいよな。」

「かっ、彼女はかっ、かわいいよ。」

シレっと言ってみたら、ドモリやがった。

本当にわかり易い。

「話してたら、腹減ったな。

飯まだかな?」

「ん、あっ、ああ、そうだな。

ちょっと腹空いたな、うん。」

まだちょっと赤い。

悪かった。

俺が悪かったよ。


とか思ってたら、ノックが鳴った。

「クラウディアです。

お待たせしました。

食堂へご案内致します。」

とドア越しに声を掛けられた。

立ったままだったアーネスがドアを開ける。

「アーネス様。

こちらにいらしたのですね。

ではご一緒に。」

俺もソファから腰を上げて剣帯を佩びると、後ろから付いて行った。

「ジェス様、鎧姿のままソファに掛けるのは、お控え下さい。

背中にも鋼板で補強が入っているのですから。」

おっと、叱られた。

「ごめん、そうだよね、うっかりしてた。」

「ジェスがその辺に気を使わないなんて珍しいな。

全然気付いてなかったから、部屋にいたら俺もやってたかもだけど。」

「次に同じ事をしなければ、いい事ですよ。

お気になさらずに。」

やっぱりお姉さんだな、ディディは。


食堂に着くと、バルだけまだ来てなかった。

「おや、バル様は。」

とマローダさんが首を傾げたタイミングで、ソルディーヌさんに案内された、バルが入って来た。

「イヤ、悪い。

この二人の事をアレコレ考えてたら、ソファで寝ちまって、そんでソルディーヌちゃんに起こされたんだよ、ハハ。」

ちゃん付け出来るんだ。

強いな。

俺は多分無理だ。

バルが席に付き、直ぐに給仕が始まった。

ここの使用人の人達なのだろう。

詳しくはない俺でも、手際がいい事くらいはわかる。

来客に慣れているのか、訓練されているのか、その両方か。

いずれにしても、キビキビ動く人達を見るのは気持ちいい。


料理はかなり美味かった。

昨日食べた川魚より、少し赤みが強い身はしっとりしていて、味が濃い。

一度開いた身を、みじん切りにして炒めた野菜を詰めて閉じたあと、網脂で包んで焼いてあった。

味付けはバターと香草と塩。

口に入れた時、少しピリッと辛味を感じたから、香辛料も使ってるのかも。

香辛料、高いのに。


単純に辛味を味わうなら、割とそこらに自生しているプホルという草の豆を使う事が多い。

アイツの知識だと青唐辛子に似た味だ。

鞘の部分は柔らかくて、別に炒め物にしたり湯がいて食べる。

味は何故かアイツの知識のほうれん草。

プホルは何故か乾燥させると辛味が全く無くなるので、香辛料としては使えない事が多い。

生で潰して料理に使ったり、一緒に炒めたりも出来るには出来るけど。

屋台では串に刺してそれだけで焼いて売ってたりもする。

香辛料は国内でも作っているらしいけど、殆どが他国から買っているらしい。

しかしハーブとスパイスの違いって何だ。

アイツの知識にはその違いって無いんだよな。


ちなみに俺達の世界って言うか、この国だけかもしれないけど、女の子が初めて「女の子」になった時に、焼いたプホルを一粒食べさせるらしい。

院でもやってたけど、鞘の中に十粒以上入っているのを多産に掛けているそうだ。

アイツの世界の赤飯だな。


話しを戻す。


俺達はバルに言われた通り、食後に裏の湖の畔に出てみた。

バルは剣を佩いているけど、服装は普段着のままだった。

「よし、じゃあ早速やるか。」

と言ってパンと手を打った。

「いいか、二人とも剣を構えろ。

どんな構えでもイイが、楽で自然だと自分で思う構えを取れ。

目の前に魔物がいて、今にも飛び掛かって来そうな雰囲気で、向かい合ってるイメージだ。」

声音が真剣だった。


俺達はそれぞれに構える。

俺は少し腰を落として左足を少し引き、剣は中段、真っ直ぐ振り上げたら、切り付ける時に刃筋が立つように。

左手はバランスを取るように少し浮かせて、重心より少し後。

立ち位置はアーネスのほんの少し後ろ。

視界の端にアーネスが映るくらいの位置。


アーネスは同じような構えだけど、左手は少し前め。

やや前荷重で剣を持つ手も少し高い。

切る事も突く事も出来そうだ。

「俺がよしと言うまで、構えを解くな。

可能な限り静止しろ。

いいな。」

言われた通り、イメージと構えを崩さない。


そのまま。

五分。

十分。

十五分。

そのあたりから、時間の流れが嫌になるほど遅く感じた。

二十分。

二十五分。

滝のように汗が吹き出していた。

俺も、アーネスも。


バルは腕を組んだまま、時折足の重心を変えている。


腕も震え出した。

それ以上にふくらはぎや腿が攣りそうになっていた。

三十分。

無意識に足を入れ替えた。

「ジェス、そこまで。

アーネスは集中を切らすな。」

バルに言われ、座り込んだ。

息が荒い。

動いてないのに、全力で走った後のようだった。

アーネスもそれから五分も経たずに、剣のさきが大きくブレた。

「アーネス、終わりだ。」

ガックリと頭を垂れると、剣を収めて膝を付いた。


「お疲れ、マジで疲れたろ。

実戦では、更に消耗が早くなる。

とは言っても動いてるのと静止してるのとでは筋肉の使い方が違うし、重心を入れ替えられるから、疲労の感じ方は違うけどな。」

やっと息が整い首を振ったけど、まだ足に力が入らなかった。

「この後、クラウディアと、ちょっと打ち合わせしてくるわ。

一日交代か、午前と午後で分けるか。

そんな感じでな。」

そう言うと、俺達を残して裏口に向かって歩き出した。

「休んでていいぜ。

また、晩飯でな。」

デカい声でそう言うと、後ろ手にヒラヒラと手を振る。


クソ、膝がまだ笑ってる。

なんとなく目が合ったアーネスと、二人揃って大きな溜息を吐いた。

ハーブ→花、葉、茎が「メイン」

もんだりちぎったりして香りを出す(例外あり)

スパイス→花、葉、茎以外が「メイン」

主に加熱で香りを出す(例外あり)


一応こんな感じ


ローリエやレモングラスもそうだけど、ハーブって言うのはどちらかと言うと、「ハーブとしてスパイスに使う」って言うくらいだから使用法による分類で、スパイスってのは香辛料全般をさす言葉なんじゃないかな(個人の考え)


アイツの知識にないものでした


どうでもイイ?ハイ、でも雑学くらいにはなるでしょ?


次回閑話 SS.3 慟哭

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