伯爵別邸へ その二
冒険者が対人戦闘をすることは少ないけれど、ここならまだしも他領だと皆無ではない。
盗賊の討伐依頼があるからだ。
情報の伝播が遅い俺達の世界でも、前年にとか半年前に、とかの噂が流れて来る事がある。
普通は傭兵団に依頼が行くけど、場合によっては冒険者協会にも回って来る。
十人弱の小集団だったり、逆に大規模過ぎて傭兵団の手に余る場合の応援だったりだ。
騎士団が動く事も無いではないけど、そこまで行くと内乱の恐れがあるとかで、余り動かないらしい。
傭兵団は国を跨いで、各地を転々としている事が多い。
しかもこの国には王都と大公領の公都と呼ばれる街にしか、主だった拠点がないと聞く。
当然、冒険者への依頼も頻繁ではないにしろ、あるにはある。
ヤダな、対人戦闘。
人を殺す事への忌避感が凄い。
手順を踏んだ決闘や、盗賊に襲われた時の返り討ちは殺人にならないらしいけど、まず襲われたり決闘したりが、もう嫌だ。
当然だけど、私怨や物盗りの殺人は重罪だ。
即刻死刑もあり得るし、どんなに軽くても犯罪奴隷は免れない。
アイツの知識にある、科学捜査なんて無いしそもそも捜査もほぼしない。
捜査されるのは貴族の不正や、商人の脱税行為、盗賊の拠点探しくらいだ。
盗賊に関しては冒険者等の民間任せになる事が殆どだし。
一般人の犯罪はたとえ殺人でも滅多に捜査されない。自力で捕まえるか、証拠を押さえて役所に訴えるしか無い。
その際は目撃証言や物的証拠が重要視されるけど、いざ捕まると間違いは案外少ない。
最後は魔法で自白させるからだ。
故意の抵抗は即有罪。
拒否権無し。
その為、犯罪者への拷問は減っているらしい。
アイザックさんが言いかけた呪式包帯を使った拷問って、捕虜に対するって言ってたけど、なんの為なんだか。
「お〜い、帰って来〜い。」
鎧を当ててもらいながらのアーネスに声を掛けられた。
ちょっと思考にハマり込み過ぎたようだ。
「アイツ、時々あんな感じになるんで、バルも気を付けた方がいいよ。」
順応早いな、お前。
苦笑いするバルを見て、俺も苦笑いを返す。
「まぁ、殺しは嫌だよ、俺も。
でも殺らなきゃ殺られるって時には、戦わないわけにいかんしな。
その時は魔物に襲われたのと変わらない。
一回だけだけど、盗賊の討伐にも参加したよ。
後味最っ悪だったけど、放っておけば、被害が増えるからそこは割り切るしかなかった。
諦めて投降してくれりゃいいんだけど、殺しまでやってるヤツラは、捕まっても良くて追放、大抵死罪だから死にもの狂いよ。
下手な魔物よりよっぽど危ねえ。
その時、初めて戦闘でおっかないと思ったね。
全然、弱かったのにな。」
その話を聞いたら、ますます嫌なんですけど。
「バル、逆効果だよ、その話。」
アーネスが冷静に突っ込む。
なかなか珍しいな。
「あれ、そういやそうだな。
ただまあ、心構えってヤツさ。
ジェスだって、コイツや、例えば赤の他人でも子どもとか、それこそ自分の恋人とかさ、誰かに襲われてたら戦うだろ。」
それはそう。
恋人なんて出来た事ないけど。
「まだ何にもやってないヤツを、将来襲われるかもしれないから殺しますってのは馬鹿げた話だけどな。
でも明らかに犯罪に手を染めた連中が集まってるってなったら、殺られる前に殺るだろ。
好き好んでじゃ無くてもさ。」
心構えと考え方か。
なるほどね。
「さて、おお、なかなか様になってるな。
風格あるわ。
一回でも死線を乗り越えただけあるね。
じゃあ、次はジェス、来いよ。」
言われてアーネスを見ると、確かに様になってる。
急所を鋼で部分補強した革鎧。
イイね。
「お前達、見た目より体出来てるな。
鍛えたりしてるのか?」
「いや、全然。」
「そうは見えないな。
そういや祝祭は受けたんだよな?
加護は?」
「あ〜。」
「何だよ、歯切れ悪いな。
ちなみに俺は戦神ウィスラの恩寵だ。」
マジか。
武器戦闘系の最強格じゃないの。
「なるべく内緒で。
俺は七大神の祝福で、アイツは勇者。」
「マジでか!?
俺のもレアだけど、その上が二人もいたよ、目の前に。
うへぇ、まぁじでか〜。」
痛い、痛いよ。
頭ワシワシするのやめて。
背が縮む勢いだから。
「よし、ジェスもこんなもんだな。
イイね、二人とも。
コリャ、明日から楽しみだわ。
ビシビシ行くわ。
もうこう、ビッシビシな。」
「イヤ、はい、お願いします。」
「お願いしますっ。」
二人でテンションこそ違うけど頭を下げた。
三人で馬車寄せに戻ると、別邸に向かう全員が旅装で集まっていた。
ソルディーヌさんだけ、黒の上着と暗い赤のスカートというかっちりした格好だけど。
その他には、キミーやガスリーさんもいる。
「お待たせしました。」
俺が声を掛けると、ガスリーさんが歩み寄って来た。
「待ってはいませんよ。
少し早い位です。
護衛の騎士が、まだ揃ってないので、軽く何か食べて頂いて、そちらを待ちましょう。」
そう言うとキミーに指示を出し、それを受けた彼女に連れられ、談話室に通された。
そこではコリンナさんが待っていた。
テーブルには既にお茶と幾つかの軽食が、ちょっと華やかな感じで置いてあった。
白パンをスライスして薄切りのチーズや生ハム、マリネにした多分、昨日食べた川魚を乗せた物。
それと焼き菓子が数種類。
とりあえず、俺はチーズとハムの組み合わせとチーズとマリネの組み合わせでサンドイッチを作って食べた。
ちょっと行儀悪いかと思ったけど、アイツの知識万歳だ。
美味い。
特にマリネした川魚とチーズの組み合わせが、もう最高だった。
「何それ。
行儀悪いけど、美味そう過ぎるわ。
俺もやろう。」
とか言ってバルも真似する。
「美味いな、これ。
女性陣もやってみろよ。
そんな引いたような顔してないで。」
まあ、摘んで食べるのは、料理によってはアリだけど、かぶり付くのは俺達の世界じゃ、まあ、はしたなく見えるかもね。
庶民でも女性はあんまりやらないし。
姐さんは別。
この前は乙女をチラ見せしてたけど、基本はそんな垣根を笑いながらバク宙で飛び越えてる人だし。
じゃなきゃ、首を極めながら爆笑して酒なんか飲まない。
とか思っていたら、一番可憐そうなソルディーヌさんが真似し始めた。
小さな口で、小さくかぶり付く。
それを見て、ディディも参戦した。
「ちょっとディディ、はしたないわよ。口元からマリネ液が垂れてる。」
コリンナさんがたしなめるけど、ディディの顔は驚いた表情をしていた。
「これは、確かに美味しいですね。
この大きさだから女性にお出しするには無理でしょうが、最初からこの形で半分に切ってお出しするのは、とても良い考えだと思います。
何か葉野菜を一枚加えるのもいいですね。」
味の勉強か。
なるほどね。
「ジェスター様。
こちらのアイデアをシェフにお伝えしても宜しいでしょうか。」
人前だからかジェスター呼びになってるけど、もちろん拒否はしない。
そもそも俺のアイデアじゃないしな。
サムズアップで答えると、イイ笑顔で喜んでくれた。
「ソルディーヌさん。
こちらに戻ったらあなたからシェフにお伝えして下さい。」
「わかりました、クラウディアさん。
確かに。
恐らく旦那様もお好きな味だと思います。」
ああ、上着を着ているのは女性陣ではソルディーヌさんだけだ。
直接、伯爵に接する機会が多いのだろう。
もちろん、シェフにも。
見た目、少女だけど女性陣の中ではソルディーヌさんが一番の上位者なのかもしれない。
いつの間にかワクワク顔で、真似して食べていたアーネスも、
「ウマっ、これウマ。
やっばこういうの思い付くのはジェスだな。」
とか言っている。
イヤ、ごめんて。
俺じゃないんだわ。
「これさ、葉野菜の他にカンの実のスライスも足して、ハムとチーズとか美味そうじゃない。」
カンの実は、アイツの知識のトマトと同じ味。
外見は真っ黒で結構高い木に生るけど。
「それは、想像しただけで素晴らしいですね。
そちらも合わせて伝えさせていただきます。」
うん。
ドンドン、サンドイッチらしくなって行く。
「じゃあ、表面をカリッと焼いて何かのジャムを厚めに塗って挟むのは。」
キミーの言葉に、女性陣の目が光る。
「今度、一人の時に試そう。」
「キンバリーさん。」
ソルディーヌさんと、ディディの目が怖い。
二人に同時に名前を呼ばれ、目を泳がせるキミー。
雉も鳴かずば打たれまい。
これをここまで体現してるの珍しいよね。
「女、怖ぇ。なっ?」
同意を求めるのやめて下さい、バルガス・バルドールさん。
なっ、じゃないよ、なっ、じゃ。
「おや、盛り上がってますね。何の話題ですか。」
ナイス、ガスリーさん。
いつの間にか入口に立ってて驚いたけど、本当にいいタイミングで来てくれました。
その後、ちょうど良いとソルディーヌさんから、サンドイッチの事が伝えられ、ガスリーさんからは用意が出来たと伝えられた。
「それでは。」
ガスリーさんに笑顔で見送られ、俺達は出発した。
天気は上々。
でも良い旅の予感は何故かしないけど。
長くなり過ぎたので分割にしました
25キロ先の、伯爵の別邸がやたら遠い(泣)
バルのせいです
あとキミー
クラウディアは言う事を聞いてくれる良い子なんですけど、彼女の話は長いんですよ
お前の腕が悪い?エエ、その通りです、スイマセン
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次回閑話 SS.2 恋とも言えない、小さな恋の唄




