会食
そうきたか。
いや、ありそうな話だし、チラリとも考えなかったとは言わんけど。
アーネスが困り顔で言う。
「お断りしたいです。」
「駄目じゃ。
三位の君達が辞退したら、参加した騎士達全員が受け取り辛かろうて。」
即答。
まあ、断われなくして来るよね。
「質問してもいいですか。」
バーゼル伯が目で促す。
「勲功第一と第二位はどなたで、何が褒美だったんですか。」
「言えん、と言いたいが、まあいいじゃろう。
第一は竜血のバーンズ。
メスはヤツが仕留めた。
報奨は普通に金子じゃな。
隣の領にある迷宮に挑む資金にすると言っておったわ。
次いでボルドー。
ヤツもまた金子じゃったが、それは全て、命を落とした部下達の家族へ、見舞金に上乗せするように言って来よった。
自分のだけでなくブルーノも含めたな。
君達の次がブルーノじゃ。
ブルーノも見舞金にと言っておった。」
あぁ、金か。
あって困らないもんな。
ボルドーさん、ブルーノさんの二人はいい使い方だし。
「では、クラウディアさんを。」
「はっ?ジェス、お前何言っちゃってんの。」
「北の舘での魔法の指導か。」
「はい。」
アーネスが俺とバーゼル伯との間で視線を、って言うか顔ごと行ったり来たりさせている。
忙しいな、お前は。
てか何を想像したのよ。
「構わんがよいのか、もっと上位の者に就けてやる事も可能じゃが。」
「今の俺達の実力から行けば、恐らくクラウディアさんにとっては役不足でしょう。
一週間かそこらで学べる事には限界があるので。
それに武術指導も了承頂いてますし。」
「直接、金を受け取るより良い買い物だな。
儂の腹は痛まず、君達は教師を無償で得られる。
しかも自分達の実力を測った上でか。
本当に楽しみな若者達だ。
そうは思わんかガスリーよ。」
「はい。仰る通りかと。」
顔を向ける先が三箇所に増えて、更に忙しそうだな、アーネス。
「よかろう。ガスリー、調整は任せた。」
「仰せのままに。」
「他に何かないのかね。
この際だ、腹を割って話そうではないか。」
そうだな。
もう多少は無茶を言っても怒られる事はない、かな?
「南の村を拡張するおつもりはないのですか。」
「なっ、お前。流石に失礼じゃ。」
アーネスが青褪めているが、とりあえず流す。
伯爵様は。
小揺るぎもしないか。
「今だからこそよな。
じゃが金はまだしも、人の問題がある。
そしてそれが解決しても、資材の調達が難題じゃ。
特に木材、次いで鉄。
北部の他領との境の、そう高くない山を裸にしても足りなくて、頭を悩ませておる。」
これは既に何らかの計画はしていそうだな。
山を裸にするって事は、ちょっとの拡張じゃないだろう。
「人手は、壁際から優先して募集を掛けたら、集まり易いのでは。」
「足りんな。
あそこは若い男手が少ない。
単純に人足を揃えるなら犯罪奴隷を使う手もあるにはあるが、村の住人が良い顔をすまい。」
「そちらは木を切り出したり運ぶのに回して、他の村の小作農に安く農地を与える、として数を絞って募集するのはいかがでしょうか。」
「どの程度が妥当かね?」
「他の八つの村から、多くて二家族ずつ。
南の村からも数家族。
さほど領内の人の広がりに詳しくない俺が考えうる人数ですが。
土地代は税金に上乗せする形で、十年単位で無償で貸付けるのが良いのではないでしょうか。
恩義を感じて鍬を持つ手にも力が入るでしょう。」
「だが、小作農を失った地主は面白くない。」
「税の減免で不満はある程度は抑えられるでしょう。地主達が人手を確保するまでの間で構わないと考えます。」
「何を作付けする。」
「サガナッシュ(サトウキビ)が良いと考えます。
二つの高級品を得られるからです。」
「砂糖はまだしも、もう一つは何じゃ。」
「紙です。」
「紙じゃと。どういう事だ。」
「絞り滓を使うのです。
砂糖を作る時の燃料でもいいかもしれませんが、いっそ砕いて紙にしたほうが、収入は上がるでしょう。
技術が無ければ材料として売ればいいですし。」
「ふむ、それはなかなか良い考えじゃ。
資材の調達も幾分楽に出来そうじゃな。
なかなか面白い事を考えよる。
君は博識じゃな。
どこでそのような知識を得た。」
あ。
やられた。
ていうかやっちまった感がある。
さて、どう答えた物か。
今回もクラウディアさんの時と同じで、アイツの知識だとは言えない。
「俺は、院に入るまで、北東の村で暮らしていました。
父に続いて母も亡くなり、祖父母も俺が生まれる前に亡くなっていたので、院に送られたのです。
小作農の子にも友達がいましたし、その暮らし向きも知っています。
その子の父親がよく言っていたのです。
『いつか自分の畑を持って腹一杯食わせてやる。こ〜んなでっかい家でな』って。
砂糖の原料は母が亡くなる前に話していました。
甘い草を絞って砂糖を作っていると。
紙は木や布のボロが材料なのは、割と誰でも知っていますが、筋が多い草でも作れると父が言っておりました。
父は猟師でしたが本を読むのが好きな人だったので。
すでに聞き及んでおられると思いますが、俺は忘れることが出来ないので、これらの事も覚えておりました。」
父の話はほぼ嘘だが、全体に無さそうな話ではないだろう。
行けるか?
「それを組み合わせたという事か。
思っていた以上に頭が回るようじゃな。
知っている事を活用するのは、存外難しいもの。
それをこのように自らの考えに落とし込んで、活用出来る者はそう多くない。
どうやら政務の才もあるようじゃな、君は。」
よし、乗り切った。
乗り切ったよな?
「参考にさせて貰おう。ガスリー、実現出来そうか。」
「サガナッシュの苗さえ手に入れば、おそらくは。
国でも砂糖の増産を進めております故、そう難事ではないでしょう。
農地を増やすのが目的となれば、防壁用の木材の目処さえ立てば、早い時期から進められるかと。」
「うむ。
木材は他領にも当てがある。
後は調整だな。
検討に入ろうではないか。」
「かしこまりました。」
伯爵様が検討に入っちゃったよ。
ほぼ決定って事だよな、これ。
「褒美はどうしたら良いかのう。」
ん。
「発案者の一人として、報奨金を出すのがよろしいかと。
官職に就けるのは本人が嫌がりそうですし、周りの反発も大きいでしょう。
実際に計画が動き出してからで、構わないかと。」
んん?
「相分かった。
しかしこの領内でじっとしておるかのう。
此度の件でも、王城に登る事をそっち退けで無茶をしよった。
計画が動いた時に居らなんだ、なんて事になりそうじゃ。」
「冒険者を続けておられたら、そこはどうとでも。
指名依頼で村の護衛等の名目で呼び戻せばよいかと。」
んんん!?
「まあ、なるようになるじゃろうな。
さて、アーネストリー君が困った顔で腹を空かせておる。
運ばせろ。」
「はい。」
俺の困惑とアーネスの混乱を華麗に無視して、ガスリーさんがパンパンと手を打った。
美味しそうな料理がテーブルに並んだが、ちょっとそれどころじゃ。
「さて食事にしよう。今日のメニューは何じゃ。」
「本日は、タロウオックスの干しハイダ煮込み、それと大振りの良い川魚が入りましたので、香草と共に蒸し焼きにしたものをご用意いたしました。」
「ふむ、味付けは庶民風にしておろうな。」
「はい、お二方には貴族風は可哀想でしたので。」
「ならば良い。儂も楽しみじゃ。」
伯爵様が料理を口に運ぶ。
一切れがデカい。
歳の割に健啖家のようだ。
「うむ、これは良い。
さあ、君達も食べたまえ。
冷めてはもったいない。」
まだ困惑が抜けていなかったが、俺達も料理を頂いた。
タロウオックスの煮込み、ウマっ。
干した果物を一緒に煮込んであるけど、始めての味だ。
ハイダって果物を知らないけど、美味いなこれ。
酸味、塩味、甘味が口の中に広がって、果物の香りが鼻に抜ける。
肉もトロトロで、直ぐに口の中で崩れていく。
アーネスを見たら、頬張ったまま驚いてる。
モグモグしながら、こっちを見んな。
わかったから。
魚もヤバい。
バターと香草の香りが、匂いの時点でもう美味い。
ほんのりピンクの身は柔らかくてしっとりしている。
アイツの知識のニジマスに近い、そして美味い。
バターと塩と香草のシンプルな味付けが、むしろいい。
濃い煮込みの後なのに、物足りない感じが全然しない。
凄いな、コレ。
「お二方は酒はもう飲まれますか?
良ければ当家自慢のミードをご用意しますが。」
ガスリーさんに勧められては断われない。
いただきます。
「儂も貰おう。
そうじゃな、とろりとするまで冷やした物を。
君達も試してみるか?」
「えっ、あ、はい。」
アーネスが答えると、ガスリーさんがマイヨールさんに目配せをした。
下がったマイヨールさんは直ぐに、カートを押して戻ってくる。
銀色に輝く、複雑な装飾で飾られたアイスペールに、碧く色付けされたガラス瓶が二本刺さっている。
「氷はいらんよ。」
バーゼル伯の言葉に、
「心得ております。」
とガスリーさんが短く答えた。
ガスリーさんが小さな銀のカップで、匂いを嗅いだ後に一口含んで確認する。
頷いてからソルディーヌさんを促すと、俺達に脚の付いた、細くて薄いグラスで出してくれた。
「先代様が王家に献上した際、「草海の雫」と銘を賜りました当家自慢の一品でございます。
お楽しみ下さい。」
注がれた酒の冷たさで薄くグラスに水滴が浮く。
ちょっと手が震えたけど、グラスを手にして飲んでみた。
ウマっ。
何コレ。
ウマっ。
バーゼル伯も俺達の表情を見て自慢気だ。
この前、姐さんと飲んだのも美味かったけど、これはちょっと別物だ。
完全に表現する言葉が思い付かない。
自然に溜息が出るほど美味いって、こんな経験初めてだ。
「さて、今後の予定はクラウディアを魔法の指導に付ける事と、武術指南を付ける事はさっきの話で出ておった。
北の館に滞在する事も聞いておろう。
君達はそこで王城からの使者を待つ事となる。
既に使者が出立したと、使役魔禽で連絡が来ておる。そう長い期間にはならんじゃろう。
どうやら酒も気に入ったようじゃな。
君達はゆっくり食べてくれ。
儂はまだ執務が残っておるでな。
先に失礼する。
マイヨール、ソルディーヌ後は任せたぞ。」
俺達が感動しているうちに、いつの間にか食べ終わっていたバーゼル伯がそう言って立ち上がった。
「楽しかったです伯爵様。ごちそうさまでした。」
「ありがとうございました。」
「よいよい。
儂もよい息抜きになった。
ジェスターからは良い知恵をもらったしの。
ではな。」
そう言ってガスリーさんを伴い退出する伯爵を見送って、俺達は食事を続けた。
「余ったこちらは後程、クラウディアに部屋まで持たせます。
他のミードに比べ酒精がやや強いので、口当たりが良くとも飲み過ぎにはご注意を。」
マイヨールさんが最後にそう言ってくれた。
気疲れもありはしたが、楽しい夕食で大満足だった。
しかし発案者の報奨金だと。
嬉しいは嬉しいけど、それはそれでちょっと気が重い。
やっぱり、やっちゃったかも。
犯罪奴隷は重労働を課せられた、懲役囚をイメージしていただければ幸いです
m(_ _)m
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………
次回 伯爵別邸へ その一




