伯爵との夕食は、未だ始まらず
休憩の後は日暮れ近くまで、色々と系統を絞らずに実演して見せてくれた。
一つ一つ詠唱し、一つ一つ解説してくれた。
とてもありがたかった。
折を見て練習しよう。
その中で、
「風魔法は上位になると即死系の魔法が増えるので、注意が必要です。」
と言われた。
真空の空間に包み窒息させる。
毒性の強い気体に変化させて包む等々。
しかも目での認識は困難。
ヤバい。
怖すぎる。
「また火魔法に対する防御としても有効です。
例えば初級の放炎に対し、放水で消火する人が多いのですが、送風で対抗したほうが、反撃にもなりやすいので楽です。」
そう言いながら、手元で両手を使って別々の魔法発動しながら実演して見せてくれた。
一通りの説明の後、気になっていた事を質問してみた。
「治癒魔法の質問してもいいですか。」
「どうぞ。
専門ではありませんし、私は使えませんが、知識はあります。」
「水魔法で作った水を飲むと魔力酔いを起こすのに、治癒魔法を掛けられて魔力酔いを起こさないのは何故ですか。」
俺の質問に驚いた表情を浮かべるクラウディアさん。
何だ。
そんなにおかしい質問じゃないと思うけど。
「そこに疑問を持つのはとても珍しいですね。
大半の人はそういうものだと認識しているのですが。」
「そういやそうだな。考えた事なかったわ。」
アーネスも首をひねる。
「理論的な話になると複雑なのですが、簡単に説明すると、被対象者の魔力に同調して、同質の魔力を術者が送る事で回復力を高めているのです。
怪我や病気等は魔力を発生させている、または蓄えている体の一部が欠損や破損している状態と言えます。
これを同質の魔力で補うのが、治癒の基本なので魔力酔いが起きないのです。」
そんな理由だったんだ。
「死者の蘇生が時間の経過とともに難しくなるのは、死の瞬間に魔力の生成が途絶えるので、同調の難易度が跳ね上がるのと、残留魔力がどんどん拡散してしまい、魔力を感じ取るのが難しくなるからです。
同じ理由で部位欠損を治す難易度が高いとされています。
なくなった部位の魔力を感じ取るのがやはり難しいので。」
なるほどね。
しかしそう聞くと、俺達よく生き残れたな。
今の話を聞いてあの二人がどれだけ凄腕だったか、本の少しだけ理解出来た気がする。
「より高度な治癒魔法を操る者は、肉体内外に記録された情報を読み取り、それを元に復元していると言われています。
その領域まで行くと私はついていけませんね。」
アイツの知識のDNAってやつかもしれないな。
その肉体の情報ってやつ。
「氷の矢以外の練習は明日以降に、行うようになさって下さい。
一日に覚えるのに適しているのは、せいぜい三。
それ以上は詰め込みになってしまい、理解が不十分なままになってしまいがちですので。
それではそろそろお終いにいたしましょう。
お二方に有意義な時間になっていましたら、私と致しましても幸いです。」
こうして丸一日の、クラウディアさんによる魔法講義が終わった。
「夕食まで今しばらく時間がありますが、湯浴みされてはいかがですか。
よろしければ浴場に案内いたしますが。」
それは嬉しい。
風呂だ、風呂。
アーネス君は何で顔を赤らめてるのかな。
浴場まで案内してくれるだけだと思うぞ。
「おや、背中を流して欲しいのですか。
アーネストリー様は。」
ほらみろ。
顔色で読まれてるじゃないのよ。
「ち、違いますよ。
そんな事は考えてない、です。」
尻すぼみで小さくなるアーネスの声に、クラウディアさんが小さく笑い出した。
「失礼しました。
少し冗談が過ぎたようです。
ところで部屋着はお気に召さなかったようですね。
代わりに新しい下着を用意させて頂いております。
ゆったりした物をご用意致しましたので、そちらをお使い下さい。」
それもありがたいな。
むしろ気を使ってもらって申し訳ない位だ。
「お気になさらずに。
これくらいの事はおもてなしの一部ですから。
入浴中に用意した服と合わせて、脱衣場にお持ちしておきます。」
その後部屋に移動してから、クラウディアさんに呼びに来てもらって浴場に向った。
呼びに来たクラウディアさんは、革鎧から昨日と色違いの服に着替えていた。
美人さんは何を着ても似合うね。
邸内の浴場は街の公衆浴場よりは全然小さかったけど、何人かで入れる程度には広かった。
肩まで浸かれて、足が伸ばせる湯船は嬉しい。
ただ豪華さは、公衆浴場の遥かに上だったけど。
女神像が掲げた瓶から、絶え間なくお湯が流れてたし。
薪なのか、魔法なのか、魔道具なのか。
何にしてもお湯を切らさないってのは、お金が掛かっている。
流石貴族。
贅沢だな。
いい匂いがする石鹸も用意されていて、二人してちょっとテンションが上がった。
さっぱりして浴場を出ると真新しいタオルと下着が用意されていて、またちょっとテンションが上がる。
タオルで濡れた髪を拭いていた時、アイツの知識のドライヤーを魔法で再現出来ないかと思い付いたので、加熱と送風を組み合わせて自分で試してみた。
うん、使えるな。
今日はもう、他の魔法は使わない方がいいと言われていたけど、好奇心に負けた。
そんな俺を見て、キラキラしながらアーネスも試そうとしていたけど、温風というよりは熱風だったので、諦めたようだ。
いきなり頭に使わないだけ、学習しているな。
羨ましそうにしていたので、仕方なくアーネスの髪も乾かしてやった。
「ジェスは、昔っから器用だよな。羨ましいよ。」
シュンとしながらそんな事を言った。
何言ってんだ。
「俺は忘れられないから、覚えるのは確かに早いよ。
でも最終的にはお前の方が上手いなんてザラじゃねぇか。
採取だって、見つけるのも摘むのも、お前のが速い。
あれやこれやの遊びとかもそうだろ。
俺、お前に勝ち越してるモノの方が少ないよ。
得手不得手があるんだから、一つの事でそんな風に言うな。」
ちょっとイラっとしながら言ってやったら、何だか少し嬉しそうな顔になった。
アーネス。
俺もお前に負けたくないんだよ。
勝ちたいわけでもないけどな。
部屋に戻り、水を飲み一息付く。
さて、そろそろかな。
なんて思っていたが結構な時間、待たされる事になった。
窓の外は完全に日が落ちている。
「腹、減った。」
アーネスがポツリと零したのと同時にノックがなった。
「お待たせ致しました。
お食事のご用意が整いましたので、お呼びに上がりました。」
ドアを開けるとクラウディアさんが、丁寧にお辞儀した。
案内に付いて行くと、やたらでかい両開きのドアの前で立ち止まった。
ココですか?
緊張感を誘う魔法のドア。
なんて事は当然ないだろうけど、ちょっと緊張してきた。
見ればアーネスも表情が強張っている。
ノックに続けて、
「失礼します。アーネストリー様、ジェスター様をお連れいたしました。」
とクラウディアさんが告げる。
「お通し下さい。クラウディア、ご苦労。下がっていいですよ。」
あれ、ガスリーさん?
てかクラウディアさん、戻しちゃうの?
いや、あの、心細いんですけど?
クラウディアさんがドアを引き、俺達を中に通してすぐに、
「それでは。ごゆっくりお食事をお楽しみ下さい。」
と言って一礼して音も立てずに閉めた。
うああ。
食堂。
まさに貴族の食堂。
こんなのビビるに決まってますけど!?
二人揃って挙動不審になっていると、知らない男性に案内されて、一番奥の席の右手にアーネスが座った。俺はその隣。
落ち着け。
一旦、落ち着こう。
アイツの知識では、ホストの右が上座。
うん、俺は二番手の扱いだな、よし。
少し気が楽だ。
「お二方、クラウディアの教え方は如何でしたか。お力になれたでしょうか?」
ガスリーさんがにこやかに声を掛けてくれた。
「はい。とても勉強になりました。」
右側から、キッチリ髪をまとめた、偉く顔の小さい、ほっそりとして、不健康に見えてしまいそうな程色白な、黒髪に赤い瞳の、ヤバい、語彙力が足りなくなって来た、それ位美人と言うか妖艶な少女が、グラスに水を注いでくれた。
「間もなく、伯爵様が見えられます。
立たなくて結構です。
席に座られ、声を掛けられてから返事をなさって下さい。
食事は伯爵様が手を付けられてから。
その後は、最低限失礼が無いようにして頂ければ大丈夫ですので。
よろしいですか?」
ガスリーさんの言葉に俺達は頷く。
そういうマナーなんだろう。
「こちらはマイヨール。
当蒼槍城の執事でございます。
彼女はお二方の給仕を努めさせて頂くソルディーヌです。」
「ご紹介に預かりました、ソルディーヌと申します。本日はよろしくお願いいたします。」
薄く笑みを浮かべ、両手をお腹に添えて綺麗なお辞儀をしてくれた。
「こちらこそ。
無作法なので出来るだけ、迷惑を掛けないようにしますね。」
俺がそう答えた時、俺達が入って来たのとは別の、奥のドアが開き、
「何、そう硬くならずともよい。
食事は楽しくなければな。
それでは味もわかるまい。なぁ、ガスリー。」
手で制しながらそう言い、この城の主、バーゼル伯が入って来た。
ガスリーさんが椅子を引き、バーゼル伯が座る。
「さっそく手柄を立てて、当家の騎士団の間で話題になっておる。
見習いを免除してでも入れろと、ブルーノとボルドーが騒いでいるそうじゃ。
やりよるのう。」
そう言って少し堪えるようにクククッと笑った。
バーゼル伯がチラリとマイヨールさんに視線を送る。
するとマイヨールさん、ソルディーヌさんが下がっていった。
「お褒めいただき光栄です。
でも俺達は、二人して吹っ飛ばされて、三日も寝込んでただけなんです。」
アーネスが言った言葉に嬉しそうな笑顔を見せて、
「最初はそんなもんじゃよ。
むしろ助かった幸運を喜ぶといい。
酷い有り様だったと報告を受けておる。
儂の肝を冷やす者など、そうそうおらん。」
と言った。
「すいません。」
イヤ、本当に。
二人同時に謝ると、今度は豪快に笑ってくれた。
「責めてはおらん。
給仕に下がらせてよかったわい。
あまり笑っているところを見せてもいかんでな。
ところで、何を望む。」
はい?
また二人同時に、今度はキョトンとしていると、ニヤリとしてバーゼル伯は言った。
「褒美じゃよ。
勲功第三位。
番の片割れを仕留めた、若き英雄達は何を望むのかね。」
最後に、お読みくださって頂いている方々、ありがとうございます。
モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします。
「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………。
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