これもまた修練
二重詠唱を成功させた後、氷の矢の魔法を使ってみたが、あっさりと成功する事が出来た。
一度イメージを固めてしまえば、回数を熟す事でどんどんスムーズに発動出来るようになった。
最後の方ではアーネスも無詠唱で撃てるようになっていた。
俺はアイツの知識の三点バーストを試したりしたが、タタタンとは中々ならなかった。
せいぜいタンタンタン。
アーネスも面白がって真似しようとしたが、ドーンドーンドーンだった。
それはそれで怖いよ、お前。
「ジェスター様は何故、小さく速い連続での発動を練習されているのでしょうか?」
クラウディアさんに、何故と言われてはたと止まる。
う〜ん、明確にこれといった理由はない。
強いて言うなら。
「小さくて速いと避け難いかなと思いました。」
「確かにそうですが、連射するのであれば動きながらか、射線を少しずらす等しないと意味がありません。
魔法の射線から半身ずれるだけで、全て避けられてしまいます。」
確かにそれはその通りだ。
「今はまだ、連続発動の練習ですね。
ところで多重発動って出来ないんでしょうか?
四方八方に飛ばす様な感じで。」
「出来ます。
同一の魔法で行う場合、無詠唱でやるのが一番やりやすいのですが。」
同一じゃないなら、詠唱でもいいのか。
「簡単に言うと、二重詠唱と同じなんですが、生成の際に魔力を複数回に分けて増やすのです。
まとめて魔力を込めると威力が、分けて込めると数が増えるのです。」
ああ、なるほど。
手順を生成で止めて複数作るのか。
やってみるとそれなりに難しい。
大きさが不揃いになる。
「最初はやや大きくして、二つからやられるといいでしょう。
それが出来たら増していくのがいいですね。
それと大きいものにもメリットはあります。
実体化した魔法は質量攻撃にもなりますので。」
あ、それは思い付かなかった。
いつの間にか手を止めて話を聞いていたアーネスが、首を傾げる。
「質量攻撃ってなんですか?」
「大きく重たい物は、受け止めてもダメージを受けてしまうので避けざるを得ないのです。
なのでアーネストリー様のように大きくするのは間違いではないのです。
その代わり魔力も多く使うので、その点は注意が必要です。
大きくすると遅くなります。
なので早くする、若しくは速度を維持するのにも魔力が必要になるからです。
アーネストリー様くらい魔力をお持ちでしたら、あまり気にならないかもしれませんが。」
大砲の弾を大きくすると飛ばす為の火薬が多くなる。弾を大きくする為の費用が嵩む。
そういう事だろう。
「俺がやろうとしてるのは、鋭い剣で素早く何度も突く。
お前がやろうとしているの重たいメイスやハンマーで殴る。
俺のは一つでも綺麗に入れば致命傷。
お前のは当たっただけで大怪我。
質は違うけど、どっちが良いとか無いだろ?」
アーネスは理解したのか何度も頷く。
「本当に教え方が上手い。
例えがとてもわかり易いですね。」
「コイツは俺達の先生なんで。」
やめろ、何だ、いきなり。
「俺達は院で育ったんですけど、興味を持った子たちに文字と、計算を教えてたんです、コイツ。」
「それは素晴らしい。」
「昨日も魔法の本を読み聞かせてもらったんです。
コイツに読んでもらうと頭に入り易いんですよ。」
何かクラウディアさんの目が、ギラって光ったような。
「それは、手抜きとズルをしたと言う事でしょうか?」
あっ、コレはヤバいヤツでは。
「違います、違いますよ、知らない言葉や言い回しとかがあったからです。
せっかく読んでも頭に入らないとダメでしょ?」
「安心して下さい。
読んで聞かせはしましたが、本人も一緒に読んでましたから。
頭の中だけでイイって言ったのに声にも出てましたし。」
「あれ、出てた?」
出てたよ。
とりあえずアーネスは流しておく。
「何故、一緒に読ませたのですか?」
「聞くだけより、覚え易いからです。
本当は後追いで音読させようかと思ったんですけど、結構な文章量だったので。」
「初めて聞く勉強法です。どこでそれを?」
アイツの知識とは言えない。
どう誤魔化そう。
「実体験からの独学のようなものです。
騎士団なんかでも、指示を復唱するでしょう?
聞くだけより、自分で声に出す事で確認と認識を深めているからです。
それと同じ事を勉強で試したら、皆の言葉や文字の覚えが早かったんですよ。」
どうだ、いけるか。
「なるほど。
それは確かに理にかなっているように思えます。」
「一人で勉強する時も音読させていたので、教える時の癖になっているのですよ。
今日、クラウディアさんが実演してくれて、俺達が後からやったのと似ていますね。」
「確かに。
説明、実演、実践という手順を文字の勉強に応用されていたのですね。」
よし、どうやらごまかせたな。
「計算の時も同じですね。
解き方を教えて、実際にやって見せる。
その後で問題を解かせる。
どんな簡単な問題でも正解したら褒める。
間違えたら何故そう思ったのか聞いてみました。」
「私が所属している魔術師団での教え方と、とてもよく似ています。」
「独学でしたので、そう聞いて今更ながら安心しますよ。」
横でニコニコしながら聞いているアーネスは、何故か自慢気に見える。
コイツは本当に。
背中に氷を入れたのは、後で謝ろう。
「そろそろ休憩にしましょう。
お茶と軽食を用意しています。」
そう言われ、併設されている四方の壁が無い小屋のベンチに移動した。
アイツの知識の東屋のような感じで、ここ蒼槍城では質素な感じがする。
固定されたテーブルにはお茶と、アイツの知識のマドレーヌの様な焼き菓子と、キャンディーと言うかマリモ羊羹というか、金色の玉状の何か六個が用意されていた。
てかこの玉、アリだ。
「本日の軽食はコーヌと、メルティハニーアントでございます。」
そう言うとクラウディアさんもテーブルに着いた。
「お客様と同席するのはマナーに反しますが、今日は指導係という事でご容赦ください。」
と笑う。
笑うと本当に美人さんだ。
アーネスはすでにテーブルに釘付けだ。
珍しい物、初めての物にワクワクしている。
アイツの知識にも、ある地域では、腹部が蜜でパンパンになるアリを食べるらしいけど、俺達の世界にもいるのな。
「へえ、聞いた事ある、ハニーアント。
見るのは初めてだ。」
早速、頭を摘んで食べてみるアーネス。
忌避感とかないんだな。
「アマっ、ウマっ、これ凄いですね。
ちょっと酸っぱみもあって、目隠しで食べたら果物って思うかも。
しかも食べた事があるどんな果物より甘い。」
「お口に合って何よりです。」
アーネスの様子を見て、腰が引けていた俺も手を伸ばした。
が、すぐに引っ込める。
まだ生きてるし。
「前に刺されたから、ビビってるんだろ。
ん〜、ジェス。」
ニヤニヤしながらアーネスが言ってくる。
コイツ。
「ビビるって言うか、生きてるのに食べちゃうって可哀想だなって思っただけだよ。」
二人の表情が柔らかくなる。
ゴメン、やめて。
普通に恥ずかしい。
「死んでるなら、普通に食べるけどね。」
そう言ってから一匹食べてみた。
あ、本当に美味い。
確かにほんのり酸っぱさがあって、ちょっと果物っぽい。
「地域によっては、フルーツアントと呼ぶところもあるといいます。
周りの土ごと巣を掘り出し確保しております。
来客の際にお出ししていますが、味の評判はとても良いですね。」
見た目からくる忌避感はともかく、味は本当に素晴らしい。
脳を使っているからか、甘味は本当にありがたい。
「質問してもいいですか?」
アーネスがクラウディアさんに問い掛ける。
「どうぞ。」
「何故、氷魔法を教えてくれたんですか?
さっき話してた質量攻撃でしたっけ?
あれの話から行くと、土とかでも良さそうじゃないですか。」
アーネスは頭が悪いわけじゃない。
素直で頑固。
悩むより行動。
ちょっと脳筋気質なだけでちゃんと見ているし、考えてもいる。
俺も同じような疑問が内にあったから、アーネスの質問には納得する。
「昨日、魔力放出をして頂いて決めました。
仰る通り土魔法でも、魔法攻撃の殆どが物理攻撃の一種だとお伝えするには十分だったでしょう。
ですがお二方にお教えするに当たり、複数の要素を内包した氷魔法の方が、後々役立つと判断いたしました。
温度変化、魔力を用いた物質生成、発動までの手順やそれらに対する理解等、難易度は上がるものの、土魔法より多くのものを得て頂けると考えた次第です。
土魔法にも火魔法を組み合わせた、炸裂岩弾というものもありますが、より応用力を問われる上に、温度変化の学びは得られません。
氷の矢をお教えすると決めた理由はそういった理由からです。」
クラウディアさんが、かなり色々考えてくれていたのがわかった。
指導内容を考えるの結構難しい。
相手に合わせようと考えなければ、簡単な物を羅列すればいい。
初歩の攻撃魔法四種とかでも、俺達は大喜びしたハズだ。
ちゃんと考えてくれていたのが、とても嬉しかった。
「最終課題もあっさりと乗り越えられてしまい、この後はどうしようか、ちょっと悩んでおりますが。」
最終に笑顔でそう付け加えて、クラウディアさんも紅茶に口を付けた。
せっかくだからちょっと聞いておこう。
「炸裂岩弾って、魔法名からすると着弾と同時に破裂する感じですか。」
「はい。
火魔法を組み込んで爆発させます。
魔力を使用し続ける事で、避けられた瞬間や当たる直前、もしくは敵集団の中心を狙って放ち、範囲攻撃にするなど、応用すれば様々な場面で活用出来るでしょう。」
ああ、アイツの知識の榴弾だ。
「土魔法に重きを置くか、火魔法に重きを置くかで効果を変える事も出来なくはないですが、その場合はむしろ爆発魔法を使用した方が火力を上げやすいので、あまりやりませんね。」
なるほどね。
爆弾か榴弾かって事か。
理解、理解。
「俺からも聞いていいですか。」
今度はアーネス君の質問だ。
目がキラキラしてる。
「どうぞ。」
「今日の水魔法って、例えば周りを水でビチャビチャにして冷却でまとめて凍らせるとかって出来ますか。」
飛ばすんじゃなくて、範囲凍結か。
確かに出来そうだ。
「可能です。
濡らしてから凍らせる、打ち出した水弾に触れると凍る等方法は幾つかあります。
対象そのものを凍らせる魔法もございますが、それは単純に冷却の強化でも代用は出来ますね。」
過冷却水や液体窒素の水弾とかか。
それはそれで凶悪だな。
「氷結系統の利点は、対象をあまり傷つけずに殺せる事も挙げられます。
皮を剥いだり、肉を得るのには向いておりますね。
他の魔法では倒した魔物の商品価値が下がってしまう事が多いので。
冒険者を続けられるのでしたら、重宝するでしょうね。
そういった価値がない相手には、火力を上げやすい火魔法の方が使い易いでしょう。
初めて遭遇する魔物は氷結系で倒すのがオススメです。
高い耐性を持っている場合や非生物系の魔物相手では危険ですが。」
そこも考えてくれていたんだな。
ありがとうございます。
今回のエピソードのアリのくだりは、その昔美味◯んぼを読んで、そこから着想を得ています。
それと、ここ数話でプロローグの戦闘に繋がる話を書けました。
主人公は一応チート持ちではありますが、この段階ではまだまだ未熟。
個人的に成長するキャラ(ポッ◯とか、ジャンルだとスポ根とか)が好きなので、少しづつ育って行く彼らを見守ってあげて下さい。
最後に、お読みくださって頂いている方々、ありがとうございます。
モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします。
「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………。
次回 伯爵との夕食は、未だ始まらず




