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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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歓呼

馬車の前面の窓から、領都の南門がはっきりと見えて来た。

後もうちょっと。

ようやくって感じでもないけれど、街に帰って来られた。

その瞬間、ふと親ムカデとの戦いを思い出し、今更ながら死に掛けた実感が湧いて来て、体がブルリと震える。


「どうしたんだい、ジェス。

寒気がするのかい?」

便乗して隣に座る姐さんが、心配気に声を掛けてくれた。

隣に座りウトウトしていたアーネスも、驚いたように覗き込んで来た。

「イヤ、あの、親ムカデと殺り合ったのをちょっと思い出したら、死に掛けたんだって今更ながら実感しちゃって。

そしたらこう、ブルって。」

向かいに座るマローダさん、その隣のガスリーさんの二人が意外そうな顔をする。

アーネスと姐さんは呆れ顔だ。

「今更過ぎるだろ、お前。」

心底呆れたようなアーネスの声に、ガスリーさんこそ涼し気な表情のままだったけど、馬車の中は小さな笑いに包まれた。

そもそもアーネスの、

「男として負け」発言もそうだし、アイギスは飛び抜けてたけど、濃い人達のせいであの戦いを落ち着いて振り返る事もなかった。

むしろ、ツッコミ疲れの方がキツかった気がする。


俺達を優しく窘めた治癒術師のお姉さんの、

「キャッ。」

っていう小さな悲鳴に続いて姐さんが、

「どうした大丈夫か!」

と言って駆け込んで来たが、まだ手を地面に突き肩を落とすアーネスと、ちょっと泣きそうになってる俺を見て首を傾げた。

「ねぇさぁん。」

と言いながらゆっくりと振り返ったアーネスの手には、俺のと同じかそれ以上にボロボロになった革鎧の残骸があった。


半泣きのアーネスの顔を見てちょっと引いた顔をした姐さんはアーネスの手元に視線を移すと顔を顰め、一拍間を空けてポロポロと泣き出した。

「よっ、よか、良かったっ、お前達が無事でほ、本当に良かった~。」

大声で叫ぶとペタリと女の子座りになって、子供の様に泣いていた。

宥めようと近付くとフワリと酒の匂いが漂ってくる。

飲んでたんだ。

まだ日暮れには早い時間なのに、ほう。

あれか、暇か、暇なのか。

そして何だ、このカオスな状況。

まだ、自分の鎧を見て、

「うぅ〜。」

とか唸りながら落ち込むアーネス。

泣き続ける酔った姐さん。

だんだん、どうでもよくなってる俺。

そこに、

「何事〜。」

と言いながら怪訝な様子で、アイギスが入って来た。

状況を見ても、当然意味がわからないようで、

「なにこれ。」

と呟いた。


アーネスの手元を見て、そこだけは何が起きたか理解したようで、

「それ、アイザックさんがワザと残しておいたヤツだから。」

と面倒臭そうに言った。

「それってどういう。」

ちょっと困惑気味に聞くと、

「反省しろ、無茶すんな、次はアタシら以外の現場でヤレ、死にたきゃ死ね、それが嫌なら強くなれ、そんな感じ?」

と、アイギスはつまらなそうに淡々と口にした。

「まあ、アタシは完全に同意するけどねえ。」

そう言って手をヒラヒラ振りながら出て行った。

畜生、ぐうの音も出ない。

てかこの状況をどうにかして行ってくれ。


諦め気分で溜息を吐き、ベッドに腰掛けてどうしたものかと二人を眺めていた。

もう一度、溜息を吐くと少し頭が回り始めた。

考えてみれば、参加報酬、俺達で倒した分の討伐報酬に魔石や頭の買い取り。

それだけで最低でも、一人金貨一枚は入って来るんじゃないか?

親ムカデの分は流石に二人で貰うのは気が引けるから、戦闘に参加した全員で分けるようにしてもらうけど、草原で焼け死んだムカデの分も多少は入って来ると思うから、鎧を買い替えても全然余裕か。


王都からの使者が来るまで後七日として、王都に行って帰って来るのに一月近く。

その間の生活は保証されているなら、仕事を受けて無駄使いしなければ、今年はなんとかなるだろう。

うん、壊れたのは悔しいけどほぼほぼ問題ない。


「なんだ、よく考えたら問題ないわ。

落ちこんで損した。」

ポロっと口に出した俺を、悲し気な顔のまま見てくるアーネスと、涙を流しながら睨み付けてくる姐さん。

気付いた事を溜息混じりに話すと、ポカンからキョトン、パァの順に表情を変えるアーネス。

姐さんは話の最中に泣き止み少しづつ難しい顔になって行った。

俺が話し終えると、姐さんは難しい表情のまま一つ咳払いをして話し始めた。


「お前達が王都に行った後、戻って冒険者を続けるのか、そのまま召し抱えられるのかわからないけどな、危険な事に首を突っ込み続けるなら覚えておけ。

金で解決出来る問題は金で解決しろ。」

ちょっと意外な言葉に耳を疑う。

顔に出てたのか、姐さんは首を緩く振った。

「装備なんかの自分の身を守る事に、金を惜しむなって事さ。

靴の話を覚えているかい?

あれと同じだよ。

武器、防具、情報料、人への報酬、宿代なんかもそうだね。

背伸びはよくないけどな。」

武器や、防具に掛ける金をケチるなって事か。

情報や人に払う報酬なんかは、相場を知らないと痛い目を見る羽目になるだろう。


宿については、一般人が泊まる宿は最安値の宿ではない。

俺達のような貧乏冒険者でも最安値は避ける。

市街門に行って話せば、街の住人なら詰め所に泊めてくれたりする事もある。

じゃあ何故、最安値の宿を避けるのか?

在り勝ちだけど犯罪に遭いやすいからだ。

ちなみに俺達が泊まる予定だった下級冒険者向けの宿は大部屋だけど、冒険者「専用」だから安心して利用出来る。

協会にオススメされただけあって、問題はあまりない。

せいぜい冒険者同士の喧嘩があるくらいだそうだ。


そんな話をしていたら、何か外が騒がしくなっていた。

何だ。

まだ帰還の合図が鳴る時間には早いし、何か問題でも起きたのか?

まさか親か?

動悸が高まって行く。

嫌な汗が吹き出して来た。

居ても立ってもいられずにベッドから立ち上がり、外に向かおうとした時、姐さんとアーネスも同時に動き出した。

顔を見合わせ頷きあったその時、ミラさんとザラさんが駆け込んで来た。

「お前達、目覚めたんだな。

よかった。

本当に良かったよ。」

そういうミラさんとザラさんの顔は、糸目はそのままでも本当に喜んでくれているのは、見ただけでわかった。

わかったけれど、外の騒ぎは大きくなる一方だ。

「アンタら、随分早い帰還じゃないか。

それに外の騒ぎはなんだい?

何か問題でも起きたのかい。」

姐さんが言い終わるのが早いかどうかで、物凄い歓声が湧いた。

「まさか。」

アーネス呟きに、同じ顔の狼人が同時に頷いた。

「倒したぜ、アイツの嫁さん。

こっちも無傷ってな訳にはいかなかったけど、全員無事だ。」

驚きで目を見開いたアーネスと、多分俺も似たような表情になっていただろう。

姐さんが拳を握り締め、小さく、

「よしっ。」

と呟く。

「行こうぜ。お前達も見てくれよ。」

駆け出して行く、アーネスと姐さんの背中を見ていたが、ザラさんに手を引かれ、俺もまた駆け出した。


門の前は既にお祭り騒ぎだった。

警戒に当たっていた見習い達。

集まって来た村人。

警備隊員。

帰還した騎士団と冒険者。

誰も彼も皆、歓声を揚げていた。

涙を流し抱き合う人もいる。

数少ない、声を出していない人は、何か祈っているように見えた。

仲間を失った人なのか、命を落とした人達への鎮魂か。

帰還した冒険者や騎士には頭に包帯を巻いたり、腕を吊っている人もいる。

今、治療を受けている人もいる。

でもその人達の表情は晴れやかだ。


その中心にソレはあった。


幾つかに分断されてはいるが、俺達が戦った個体と殆ど変わらない大きさの、現実離れしたムカデの死骸が。

荷馬車三台に分けられて積まれているが、一緒に積まれている別の個体と比べても、断片の一つの方がデカい位だ。

改めて、とんでもない化け物だったんだと実感した。


「お前達、目覚めたのか。良かったな、無事で。」

そう声を掛けて来たのはあの時、指揮を取っていた騎士隊長のブルーノさんだった。

「君達に心から感謝を。

あの時の君の咄嗟の策が無ければ、こうして親を仕留めるのは、もっと遅くなっていただろう。」

俺達に深く頭を下げた後、俺真っ直ぐに見てそう言った。

「あの時は正直無茶だと思ったが、飛び出した君の事を思うと、私達も負けていられないと心が奮い立った。」

アーネスを見てそう言った後、もう一度深く頭を下げた。

俺達も二人揃って頭を下げた。


何処かに残っていた重りのようなモノがが、ゆっくりと消えて行った。

最後まで参加出来なかった。

正直悔しい思いもした。

でも。

やっと終わった気がして、素直に嬉しさが込み上げていた。

本編40話(現在は短いエピソードの統合などもあってズレてます)にしてやっとムカデ編終了です

この先も、どこかで一話分くらいは、振り返りが入るハズです

ほらあれの件で


今更ですが、1ヶ月ちょっとでこの本数を更新したなら毎日更新でよかったんじゃね?

とか思ってたり、なかったり

そんな訳で、昨日からの週6投稿です


新キャラの登場もある王都旅行編(仮)、次回からスタートです

お楽しみに


しかし、最初の敵がムカデって………


次回 蒼槍城 その一

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