午前、面会ラッシュにて
「また、助けられちまったようだな。」
そう言いながら入って来たグーバさんの後ろには、彼と同年代の細身で小柄な女性と、その人のスカートの裾を掴み、その女性とそっくりな顔をした女の子がいた。
くりくりとした目と、ツインテールを三つ編みにした髪型の、なんとも可愛いらしい。
グーバさんの手には何か入った袋がある。
「主人を助けてくれて、本当にありがとうございます。
娘のクインと、妻のリファです。」
挨拶の後、頭を下げられて、慌てて頭を上げてもらった。
「気持ちは十分伝わりましたから、頭を上げて下さい。」
そう言うと笑顔を見せて顔を上げてくれた。
「お兄ちゃん達、ありがとう。」
少し恥ずかしそう言うと、クインちゃんはリファさんの足にしがみついた。
「はは、誰に似たんだか、照れ屋でね。
これ、よかったら食ってくれ。
ウチで取れたやつの干しマーメルだ。」
そう言うとクインちゃんに渡し、受け取ったクインちゃんは、怖ず怖ずといった感じでベッドに近付くと、俺達を交互に見てからアーネスに差し出した。
ちょっと俯いて小さな声で、
「食べて下さい。」
とか言われたから、恐縮する事も出来なかったのか、
「ありがとう。」
と言って受け取っていた。
「ありがとうございます。
後で食べますね。」
「どうやらすっかり良くなったみたいだが、怪我人のところに長居するわけにもいかんから、これで帰るよ。」
そう言って手を振りながら出て行った。
出際にクインちゃんが、振り返って小さな手を、小さく振ってくれた。
俺はけっしてそっちじゃないが、その子どもらしい仕草とはにかんだ表情は、めちゃめちゃ可愛かった。
俺達が手を振り返すと、笑顔で駆けて行った。
アーネスも優しい顔をしてる。
うん、癒やされた。
三人が出て行ってすぐ、
「あれさ、なんで下が、ビチャビチャだったんだろうな、リファ?」
というグーバさんの声が聞こえて来て、アーネスの顔はすぐに微妙な笑顔に変わったけど。
ほぼ入れ替わりで、私服姿のカインさんとガッシュさんがやって来た。
入って来るなり、二人して深々と頭を下げたので、やっぱり慌てて頭を上げてもらった。
「俺達は明け番でね。
他の皆も来たがってたんだけど、門番や川辺の警戒に出てるから、二人で代表して来たんだ。」
カインさんがそういうと、二人して濡れた地面を見てちょっと怪訝そうな顔をした。
「下が濡れてるじゃないか、ちょっと砂を持って来るよ。」
そう言ってガッシュさんが小走りで出て行った。
「君達の剣とナイフは研いでおいたよ、手入れされてたけど一応ね。
明日、帰る時に詰め所で受け取って。」
俺達がお礼を言うと、カインさんは首を振って、
「大した事じゃないさ。」
と言って頭を掻いた。
戻って来たガッシュさんが持って来た砂を撒くと、
「それじゃ。」
と言って二人揃って出て行った。
入れ違いでミネア姐さんが砂袋を持って入って来たけど、すでに撒かれた砂を見てバツの悪そうな顔をして、何も言わずに戻って行った。
なんとなく溜息を付いた後、水を飲んでいたら、
「は〜い、食事で〜す。
メニューは朝と一緒の麦粥で〜す。」
と棒読みで言いながら、アイギスさんが入って来た。
もう昼か。
「お姉さんがフウフウして食べさせてあげようか?」
と、めちゃめちゃ既視感がある、仕草と声色で言ってきた。
「じゃあ、あ〜ん。」
やっぱり既視感がある感じで照れるアーネスを横目に、からかい返すつもりでやったら本当にフウフウされたので、慌ててやめてもらった。
ニヤリと笑い、見下ろしながらフンと鼻を鳴らすと椅子にお盆を置いて、ズボンなのにカーテシーを決めて、スキップしなから出て行った。
マジで何なの、あの人。
てかカーテシーなんてするんだ、俺達の世界でも。
何か、疲れた。
食べ終えて水を飲んでいると、水袋が空になった。
アーネスも水を切らしたらしく、水袋を見詰めてしょんぼりしている。
そこに、大きなタライを転がしながら、アイギスさんが戻って来た。
「ん〜、どした?しょんぼりして。」
水が切れたと伝えると、
「はいはい、直ぐ持ってきま〜す。
あ、それとも、飲む?
アタシの。」
何、言ってんの?
「出るんだ、お乳。」
いや、お前も何言ってんの?
「え、そっち。
違う、違う、こっち。」
と言って下腹部を擦るアイギス。
もうさん付けなんかしないぞ。
いや本当に疲れるわ、マジで。
「そのタライは何ですかね。」
なんとか話の流れを変えたくて、気になってた事を聞いた。
「あっ?
風呂だよ、風呂。」
急に口調を変えて雑に言ったアイギスは、転がして来たタライを寝かせると腕捲くりをして手を翳した。
「魔術でお湯を張るから、ちゃっちゃと脱いじゃって。」
そう言うと翳した掌からお湯を注ぎ始めた。
「ストップ、ストップ。」
「な〜に〜。」
面倒そうに言うと、魔術を止めてこちらを見るアイギス。
「詠唱して見せて下さい。」
話さなければ可愛い系の顔を、人に見せちゃいけない感じに歪め、
「もう感覚でやってるし、初歩の魔術の組み合わせとはいえ、二重詠唱だから面倒なんですけど。」
と、心底嫌そうに言った。
「そこをなんとか。」
「入浴中、ずっと見てていい?」
可愛いい感じで小首を傾げながら言ってくる。
アーネスは照れるどころか、顔を引きつらせてる。
だが俺は予想していたので、そこまでダメージはなかった。
折角のチャンスだ。
むしろその程度では退かない。
「じゃあ、それで。」
と俺が答えると、ニタァっと笑って、
「取引成立ね。」
と言い、タライに手を伸ばした。
「水よ、熱よ、集え、集まれ、せせらぎ、温もりあたえ、ささやかに、炎を以て、放水、加熱」
ほんのり湯気が立つお湯が出て来る。
「アーネストリー君の入浴も見せてくれるなら、解説してあげてもいいわよ?」
ニタニタしながらそう言ったアイギスは、鼻歌を歌い出した。
困り顔でアーネスが俺を見てきたが、ゆっくりと頷いてやると、「うえっ!?」と言って見た事がない顔になり、カクンと頭を垂れた。
「お、お願い、します。」
震える声でアーネスが答えると、アイギスのニヤニヤ顔はニンマリとした笑顔に変わった。
「宜しい。
この二重詠唱のコツは、放水から入る事よ。
想像するとわかるけど、火に水を掛けると消えちゃうでしょ?
だから水の入った鍋を火に掛けるイメージなのよ。
初歩の魔術とはいえ、相克関係にある魔法の二重詠唱だから、結構難しいの。
瞬時に沸騰させる事も出来るけど、それは土の魔術を加えた三重詠唱の方が簡単かもね。
まあ、慣れたら無詠唱の方がよっぽど簡単よ。」
急に真面目な顔をしてスラスラと説明してくれた。
凄いわかり易い。
ただの変態じゃないんだ。
「土魔術を加えるのは、焼石を水に入れるイメージですか?」
「あら、理解が速いじゃない。
そういう事ね。
さて、アンタ今、ちょっと失礼な事を考えたみたいだから、ちょっと注文付けるわよ。」
何をさせる気だ、コイツ。
「脱ぐ時は後ろ向きでね、脱いだらそのまま待ってて。
タオルを持ってくるわ。
あとサンダルも。
わたしが戻って来たら、前をタオルで隠しながら爪先からゆっくり湯に入るの。
で、前をどけてゆっくり浸かりなさい。
ちょっと狭いけど二人で入ってね。
片方が洗ってる時は片方は縁に腰掛けて。
その時は隠しちゃダメよ。
あっ、あと、向かい合ってね。」
コイツ、ちょっと本気で殴りたい。
「アイギス。」
入口からアイザックさんが覗いていた。
いつの間に。
「うえ〜、イイところだったのに、イイところだったのに〜。」
「タオルとサンダル、隠したのあなたでしょう?
ミネアさんに魔法を教えてもらっていたのを聞いて、企んだって事で合ってますかね?
処女の耳年増は見苦しいですよ。」
飛び付くようにアイザックさんの口を押さえようとするが、微妙に届いてない。
てかアイザックさんも凄い事を言うな。
アイザックさんがゴツい手で、アイギスの襟首をまるで汚い物に触れるように摘むと、そのまま引きずっていった。
「見るの〜、若い男子のチ◯コ、見るの〜、恥じらい顔、見るの〜。」
遠ざかる叫び声の内容は、聞くに耐えない。
殴りたい。
マジで、殴りたい。
しばらくポカンと口を開けてたアーネスは、我に帰ったのかポリポリと頭を掻いた。
疲れた。
早く湯に浸かりたい。
サンダルとタオル、まだですか?
私のお気に入りその2、アイギス。
脳内再生はちょっと幼くした千束です。
どうでもイイ?ハイその通りです。
その1?
話を伸ばしまくる困ったお人、その2。
我らが姐さんです。
それもどうでもイイ?
ハイ、すいません。
次回 田舎の香水、嗅ぎながら




