SS.1 アーネストリーの相棒
今。
まさにアーネストリーは悩んでいた。
「余り」が出る割り算がイマイチ理解出来ず、頭の中に?を乱舞させていた。
十九個のお菓子を四個ずつ分けたら何人に分けられると言う問題を出され、五人と答えて不正解にされたからだ。
一人だけ一個少なくなるけど、それは自分が我慢すればイイだけ。
当たり前のように答えて、
「四人で分けて、三個余るが正解だ。」
と言われ、釈然としなかった。
食べ物を余らせるとか、アーネストリーには意味がわからなかった。
「考え方は合ってるんだよ。俺が問題の出し方が悪かった。」
そう言って目の前で頭を掻くのは、この数年、何故か一緒に行動し続けている、周りには相棒認定されているジェスターだ。
アーネストリーから見たジェスターは、一言で言えば「変わり者」だった。
アーネストリーが暮らすトルレイシア孤児院に、ジェスターは七歳でやって来た。
領都の北東の村からだ。
家族を失い、この孤児院に入って来るのはよくある事だ。
現に今も五十人以上が暮らしている。
だが、ジェスターはその中でも、最初から異質だった。
院に入って来た子供は、初めの内は泣いて夜を過ごす事も多いが、この変り者はそんな事なかった。
初日こそ、ソワソワと落ち着かない様子だったが、次の日には窓辺の椅子に座り、皆が院の母さんと呼ぶ院長から借りた本を、ゆったりとした雰囲気で読んでいた。
「おっさん臭い。」
というのが、アーネストリーが抱いた最初の印象だ。
直ぐに「学者の子」という渾名が周りには広がっていたが、実際に聞いてみた別の子の話では、母親は村のお針子で、父親は猟師だったらしい。
七歳で読み書きはもちろん計算も出来た。
それで何故と、アーネストリーには不思議でしかなかった。
今でこそ見慣れたものだが、院に来て一週間もしない内に、ジェスターが院の母さんの書類仕事を手伝い始めた時には、本気で意味がわからなかった。
ジェスターが初めて書類仕事を手伝って、院の母さんに褒められていたのを見た夜の事。
何故そんな事をしているのかと、大きなベッドの隣で、一緒に寝ていたジェスターに聞いてみた。
だが返ってきた答えは、
「暇だから。」
だった。
やはり意味がわからず混乱しつつもそれならと、
「明日は一緒に遊ぼう。」
と誘えば、素っ気なくたった一言、
「イヤ、いい。」
と返ってきた。
この時、アーネストリーは混乱しながらも、何故かこのよくわからない、愛想もクソもない相手に興味が湧いた。
「何で字が読めたり、計算とか出来るのさ。」
そう気になった事を直球で聞いてみたが、面倒臭そうに、
「ウザっ。」
と言われてショックを受けた。
当時、七歳。
そうでなければ逆におかしいだろう。
幼いアーネストリーからすれば当たり前だった。
だが何を思ったのか、一つ鼻を鳴らしたジェスターがポツリと、
「忘れられないんだよ。」
と、やはり面倒臭そうに呟いた。
「どういう事?」
素直な疑問をぶつけるアーネストリーに溜息で返したジェスターは、渋々と言った感じで自分が持つ特性について話し始めた。
見た物。
聞いた事。
感じたものや、思った事。
全てが忘れられなくて覚えていると言ったジェスターに、アーネストリーは素直に驚き感心した。
「何ならお母さんのお腹の中にいた時の事も覚えてるぜ。」
そう言われ、とても素敵な事だと思ったアーネストリーは、同時に酷く羨ましくもなった。
アーネストリーには両親の記憶がない。
それはただの、一欠片も。
生まれて直ぐに院の入口に置き去りにされていた。
特に手紙があった訳でもなく、年の暮の肌寒い日の夜に、肌着一枚でまるで物のように置かれていたらしい。
アーネストリー自身は当然だが覚えていないし、正直どうでもいいと思っていた。
院では、割と有りふれた話だったし、物心が付いてから何度となく目にしていたので、そういうものだと感じていたからだ。
街の外には魔物がいる。
両親のどちらかが死に、育てきれなくなった者が院に預けたり、捨てたりする事はそれなりに有る。
売られなかっただけまだマシだとも、七歳だったこの頃はまだしも、今ではそう思うようになっていた。
「スッゲー!なあなあ、お母さんのお腹の中ってどんな感じ?」
アーネストリーは好奇心と羨望が入り混じった、特徴的な笑顔を浮かべ、そう聞いた。
またも、
「ウザっ。」
と言われ、あからさまな表情でショックを受けていたが、少し申し訳なさそうな顔になったジェスターはぶっきらぼうに、
「暗くて狭くて、でも温かくて、そんな感じ」
と答えた。
答えてくれた。
教えてくれた。
その事が純粋に嬉しかったアーネストリーは、また満面の笑みを浮かべた。
すぐにまた、
「ウザっ。」
と言われてシュンとなったアーネストリーだったが、次の日以降、二人で徐々につるむようになって行った。
その時から五年。
イタズラも、遊ぶ時も、時には喧嘩をする事もあったが、大体二人は一緒だった。
ジェスターが院の母さんの書類仕事を手伝っている時も隣に座って、特に何をするわけでもなく、時々鼻歌を歌ったりして待っていた。
たまに院の母さんが、一緒に歌ってくれるのも嬉しかったけれど、別にそれが理由とかではなく、ただなんとなくだった。
ジェスターが年上の子を相手に喧嘩していれば、理由も、人数も、体格差も関係なく加勢に入った。
二人でなら大体は勝てた。
勝てそうに無い時は、二人で手を引きあって逃げた。
逆の時もそれは変わらない。
年二回の街の祭りも、他の子が一緒にいたりしたけれど、別行動する事はなかった。
ジェスターが興味を持つ事は、アーネストリーも興味が湧いた。
吟遊詩人の語りを聞いた時も、大体同じタイミングで、
「かっけぇ。」
と思ったし、悲しくなったり、怖くなったりした。
それは院の母さんが、時折話してくれるお伽話でも一緒だった。
お使いに一緒に行って、市場で当たり前のように値切り始めた時は、アーネストリーを心底驚かせたものだが、更に驚かせたのは浮いた金をこっそり自分の懐にしまった事だった。
「怒られるよ。」
と言ったアーネストリーにシレっと、
「全部取ったらバレるし怒られるかもだけど、ちゃんとお釣りを渡せばバレないよ。」
そうジェスターは返して、またも驚かせた。
祭りの小遣いも使い切らずに、こっそり残してあるのを知っていたが、何故そんな事をするのかアーネストリーには理解出来なかった。
何度かそんな出来事があった後、アーネストリーは理由を聞いてみた。
「あっ?
俺達が院を出た後、金で困りたくないからだよ。
当たり前だろ?」
そう言われて金を貯める理由は理解したが、その発想に至る理由はまるで理解出来なくて混乱した。
更にその数日後、院の母さんの手伝いの最中にジェスターは自らバラして、アーネストリーを驚きと混乱の渦に叩き込んだ。
絶対、怒られると思ったアーネストリーだったが、最初こそ怒っていた院の母さんが、次第に感心した様子になって行くのを見て増々訳がわからなくなった。
終いには革の端切れで財布を作ってくれる事になり、嬉しそうなジェスターの顔が何かの魔物の様に見えて、少し怖くなった。
ジェスターはたまに、聞いた事が無い変わったメロディーの鼻歌を歌っていることがある。
この時、お釣りの着服を打ち明けた後、もそうだった。
不思議に思ったアーネストリーが、
「それ、どこで聞いた歌?」
と尋ねると、珍しく困ったような顔をして、
「どこだろう。」
と考え込んでしまった。
忘れられないジェスターが、そんな事を言うとは思わなくて驚いた。
しかし、ちょっと安心したのもまた、事実だった。
昼夜なく、唐突に泣き出したり、苦しみ出したり、痛がる事があって心配していたが、ジェスターでも思い出せない事があるという事に、何故か安心したアーネストリーだった。
「おい、手が止まってる。
まだ問題が残ってるぞ。」
ツラツラと思い出に沈んでいたアーネストリーをジェスターが咎める。
三日掛けて院の母さんを説得して、明日はいよいよ冒険者協会に登録しに行く日。
必要無いと思っていたアーネストリーに、
「それじゃ、一緒に依頼を選べないだろ。」
と冒険者登録する計画を話した後で言ったジェスターの言葉に納得して、この半年は他の子に混ざって文字と計算を習っていた。
書類仕事を隣で見ていたアーネストリーは、その甲斐もあってかるみる身に付けていった。
「だから手が止まってるっての。」
溜息を吐きながらそう言ったジェスターだったが、ワクワクとキラキラを混ぜ合わせた表情のまま、明日の登録の事を殴られるまで考えていた、アーネストリーだった。
SSは、「サイドストーリー」「ショートストーリー」のどちらでも大丈夫です
基本SSでは過去や、作中とは関係ない別の場所でのお話を書きます
また本編がジェスの一人称で進行するのに対し、他のキャラの三人称で書いて行きます
ジェスの過去回は、どこか本編でやる予定
まあ予定は未定と言いますが
時々、脳内CVの事を書いてますが、この二人は何故か声無しです
ところがこのSSの時は
アーネス→幼チケゾー
ジェス→コ◯ン君とゴブタのミックス
で声が付いていました
不思議に思っていたのですが、
主人公はCV無しってゲームの感覚に近い事に気付いて、1人納得してしまいました
え、どうでもイイ?ハイ、わかってはいるんですけどね
お読みくださって頂いている方、ありがとうございます。
モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします。
「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………。
次回 午前、面会ラッシュにて




