ミネア姐さんの魔法講座 その二
「よぅし、それじゃ、次はアーネスだ。」
姐さんの言葉をきくなり、ぱぁっと、笑顔になるアーネス。
ワクワクした様子で、掌を上に向けている。
「慌てなさんな、ちゃんと教えるよ。」
苦笑いを浮かべながら、姐さんは俺にやったように、掌を合わせるようにして近付けた。
「ジェスにした説明は覚えてるね。
何かを感じたら手を上げるんだ。」
姐さんが言い終わる前に、アーネスはスッと手を上げた。
「ちょっと意地悪したつもりだったけど、アンタも早いね。」
「姐さんが話し始めてすぐに、アレって思って。」
なるほどね。話しながら魔力を出してたのか。
「じゃあ、自分の中にある魔力を探しな。
それがわかったら手を降ろしな。
ジェスのように目を閉じてもいいよ。」
キョトンとしていたアーネスの顔が真顔になった。
スッと目を閉じる。
少ししてだんだんと右に頭が傾いでいく。
二人とも黙ったままだ。
何か、緊張してきた。
ゴクリと唾を飲んだ時、首を傾げたままアーネスがゆっくりと手を下げた。
「多分、これかな。」
「よし、じゃあそれを動かすんだ。」
「動かす、動かす、動かす。」
アーネスが目を閉じたままブツブツ言っている。
申し訳ないが、正直ちょっと気持ち悪い。
何かを察したのか、姐さんが俺をジロリと見た。
怖い。
怖いです
右に傾いていたアーネスの頭がゆっくりと真っ直ぐになり、今度は反対に傾いでいく。
「あっ。」
ピコンっと頭を真っ直ぐにするアーネス。
どうやら掴んだようだ。
「動く、動くぞ。
ハハッて、きっ、気持ち、気持ち悪いです、姐さん。」
「目を開けな。で、動いたのかい。」
姐さんがちょっと呆れたように、そう言うとアーネスはパチっと目を開けた。
「何か、こう全身チクチク、グラグラします。」
「感じ方は人それぞれだって言ったろ。アタシに言ってもしょうがないんだよ。」
確かに、俺にはチクチクって感覚はなかった。
「いいかい、じゃあ、手からそれを出してみな。」
アーネスは右に左に頭を傾けていたが、またピコンと真っ直ぐにすると、俺の時より姐さんの手がグッと上がった。
「出し過ぎ、出し過ぎだよ。
抑えて、もっと、もっと、ちょっとアンタ、アーネス、増やしてどうすんだい、抑えるんだよ。
そう、もっと、そうそう、もうちょっと、だから増やすなって、抑えるんだっての。」
二人に動きはないけど、何かわちゃわちゃしてる。
個人差があるとは言ってたけど、これか。
「おっ、いいね、そうそう、そんな感じ、いいよ、そう、どうやら安定したね。」
しばらくしてからそう言った姐さんが、手を退けた。
「今の感じだと、アーネスの体内魔力量、かなり多いのかもしれないね。
アタシも専門家じゃないからはっきり言えないけど、あんなに手が押されるのは初めてさ。」
そうなんだ。
流石、勇者。
「ジェス、干し草に火を着けな。今度は真ん中辺りに。」
「はい。」
言われたように真ん中を狙って火を着ける。
抑えて、抑えて、ギリギリで。
確かに増やすより抑える方が、難しい気がする。
「おや、早速練習かい?いいね。」
詠唱するとさっきより小さな火が、干し草の真ん中に着いた。
「魔力操作はジェスの方が優秀かね。どっちがいいとかはないよ。
魔力操作が上手いと複雑な魔法を使えたり、複数の魔法の同時発動とか出来たりする。
魔力量が多いと火力を上げやすくなるし、連発しやすくなるね。」
なるほどね。
器用さか、パワーか。
そんな感じか。
「それじゃ、放水の魔法を使って見せるよ。」
そう言って鍋の側に立つと、掌を向けた。
「水よ、集え、せせらぎささやかに、放水。」
掌の「前」からチョロチョロと水が湧き出し、火が回っていた干し草を濡らす。
ジュっと音がして、火が消えた。
アーネスの、ワクワクとキラキラが止まらない。
姐さんは鍋を下に降ろすと、もう一つの鍋を丸椅子に置いた。
「熱よ、着火」
おお、短縮詠唱。
「こんな風に、慣れると短縮したり、詠唱無しで使えるようになるよ。
あたしは無詠唱は使えないけどね。
着火、放水、送風の基礎魔法三つと、初級の放炎、風切り、礫弾、水球は短縮出来るよ。偉そうに教えておいて、それしか使えないけどね。」
そう言ってガハハと笑う。
系統の得手不得手とかあるらしいけど、暇をみて練習しよう。
親ムカデとの戦闘では皆さん、無詠唱だったからな。聞けていたら後々使えたかもしれないのに。
「さぁ、アーネス、やってみな。火が消えたら止めるんだよ。」
アーネスも鍋に寄り、掌を向ける。
ふぅ、と一息ついてから呪文を唱え始めた。
「水よ、集え、せせらぎささやかに、放水。」
バシャっと水が出て、その後ドボドボと噴き出している。
「止めな、ちょ、止めなって、溢れる、ほらもう溢れてる、早く止めな、止めなっての、魔力を抑えるんだよ。」
「止める、うあ、どうしよう、止まらないです、姐さん、ジェス、ジェス!」
いや、ソレを俺に言われても。
まあ、やるんじゃないかとは思ったけど。
姐さんが、ボグっと鈍い音を立ててアーネスの頭を殴りようやく止まる。
下がむき出しの土でよかった。
びちゃびちゃだ。
「たくもう、アンタは魔力操作の練習からやりな。
動かす、止める、両方出来る様になるまで実際に使わない方がいい。
危なっかしい。」
姐さんはそう言いながら、並々になった鍋を傾けて下の鍋に水を移す。
半べそになりながら、シュンとするアーネス。
見てたら可笑しくなって笑ってしまった。
「笑いごっちゃないよ。
まあいい。アタシはこれを片付けてくるよ。」
そう言って鍋を持って出て行った。
すぐに戻って来て、
「晩飯の時にでもまた顔を出すからね。
何か必要な物はあるかい。」
そう聞かれたけど、特に思い付かなかったので首を振った。
「そうかい。
アイザックに聞いていいって言ったら、何か果物でも持ってくるよ。
じゃあな。」
そう言って、残った鍋を持って出て行った。
魔法か。
面白かったな。
「アーネス、練習しようぜ。てか俺はするけど。」
まだちょっとしょんぼりしているアーネスに声を掛けてベッドの上で胡座をかくと、目を閉じて体の中の魔力を動かし始めた。
まだ気持ち悪さはあるけど、我慢出来ないほどじゃない。
速く、遅く、逆回転は、あっ出来た。
右手に集め、左手に集め、散らして、集めて。
しばらくそうしてから目を開けると、掌を合わせるようにして魔力の出力調整も試す。
ああ、やっは抑える方が難しいな。
アイツの創作物の知識にあるような技とか、いつか出せるようになるだろうか。
横を見ると、いつの間にかアーネスも同じように魔力操作の練習をしているようだ。
「ジェス、これ抑える方がかなり難しいよね。
そう思わない?」
ちょっと困ったような顔でそう言ったアーネスは、抑えるのにかなり難儀しているようだ。
「魔法って頭の中で思い描くのが重要らしいから、何か丁度いい物を想像出来たらいいかもな。」
ちょっと首を傾げてから、
「どこで聞いた話だよ、それ。」
と聞かれたので、
「さっき、姐さんに教えてもらってる時に、試したら上手くいったんだよ。」
と誤魔化した。
流石に前世、前世なのか?の俺の知識とは言えないからな。
「ちなみにどんな事を想像したんだよ。」
「姐さん、人それぞれって言ってただろ。」
「そうだけど、ヒント、ヒントが欲しいんだよ。
何かこう、コツ的なヤツが。」
必死だな、オイ。
「俺は、掌とか指先から息を吹き出すイメージかな。パンパンに膨らました袋の空気を、少しづつ抜くイメージとかでも良さそう。」
う〜ん、と言って目を閉じたアーネスは、
「息、袋。息、袋。」
と呟きながら、試し始めた。
「あっ、何かわかったかも。ふぅ~、ふぅ~。」
口でふぅ~とか言わんでも。
しばらく続けていたら、次の面会者がやって来た。
街道で一緒に戦った、グーバさんだった。
次回閑話 SS.1 アーネストリーの相棒




