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ミネア姐さんの魔法講座 その一

馬車の窓から見える草原の風景は、途中まで一変していた。

街道からかなり奥まで焼け焦げ、所々に焦げて朽ちた低木が、歪な杭のように突き出ていた。

これだけ広く燃やしたという話は聞いた事がない。

俺ならこれ幸いと、村の拡張とかしちゃうんだけどな。

伯爵様に進言でもしてみようかな。

案外もう考えてるかもしれないけど。


あの後、一刻と間を空けずに誰かが来た。

最初にミネア姐さんが戻って来た。

ベッドに転がって、自分達でもよくわからないけど笑っていたところに入って来て、何だか薄気味悪そうに顔を顰めていた。

「大丈夫かい?テントの外から笑い声がずっと聞こえてたけど、何かあったのかい。」

「特に何も無いんですけど、何だか可笑しくなっちゃて。」

「そうそう、理由は無いんですけどね。」

そう言ってから、急に真顔になったアーネスは首を傾げた。

「いや、何で笑ってたんですかね、俺達。」

姐さんも聞かれたって困るだろうよ。

「おかしななヤツラだね、全く。

まぁ、いいさ。

笑えるようになったって事は、体が良くなったって事だろうし、気持ちも少しは吹っ切れたんだろ、多分。」

そう言うと、お盆を手に取り、置いて来ると言って出て行った。


直ぐに戻って来ると丸椅子に腰掛け、

「アタシも暇になったんでね、少し話し相手になっておくれよ。」

と笑いながら言った。

せっかくだから、少し聞いてみたい事を話してみよう。

「姐さんは武術ってどうやって覚えたんですか?

誰か師匠に付いたとか?」

俺が聞くと、姐さんは首を振った。

「アタシは協会の講習だけだね。

後は先輩冒険者に付いて回って覚えた。

アタシの加護が武芸巧者って教えたろ。

見るだけで大体は出来るようになるんだ。

それで二回か三回、見た事を練習すれば形にはなるのさ。」

スゲェな、姐さん。

「剣で斬撃を飛ばしたり、体術の裏当てなんかはかなり練習したけどな。

一見、何をやってるかわからないってのは、出来る人に教わるとかして、その後に試行錯誤しながら練習しないと流石にね。」

出来るの?

マジか。

「斬撃を飛ばすって言うけど、アタシのは間合いが本のちょっと伸びる程度さ。

ギリギリで真後ろに退る相手には、多少有効だろうね。」

よくわからん。

鎌鼬系の技か。

何にせよ、姐さんは凄い。


「魔法も使えるんでしょ。」

アーネスがキラキラの目で聞く。

うん、何かまた尻尾が見えた気がする。

「ああ、初歩も初歩の簡単なヤツだけどね。

アンタ達は、放水とか、着火とか使えるかい。」

使えない。

院の子の水飲み事件の時も、詠唱を聞いてないし、聞いた事のある魔法の詠唱も、口にしただけでは使えなかった。

「おや、珍しいね。

アンタ達の歳でどっちも使えないなんて。

教えてくれる人が周りの人にいなかったのかね。

どっちも簡単だから、今教えようか?」

姐さんの言葉に更に、キラッキラになるアーネス。

いや、俺もワクワクしてるけど。

姐さんはちょっと苦笑いになって軽く手を上げると、

「ちょっと待ってな。」

と言って小走りで出て行った。


俺達が首を傾げて待っていると、姐さんはまた直ぐに、小さな寸胴みたいな鍋を二つ持って来た。

中には干し草が一束づつ。

「鍋の中の干し草に着火の魔法で火を付けるんだ。」

そう言うと丸椅子を二つ並べて、その上に鍋を置いた。

その足元に持っていたもう一つの鍋を置く。

「先に簡単に説明するよ。

ジェスは魔法を掛けられた感覚を覚えているかい。」

「さっき感じたアレですか。

ええ、はい、覚えてます。」

「外から内にこう、何か入って来る感じがしたんだろう?

アレの逆をやるのさ。

アタシはそこまで敏感には感じられないけどね。

ただその前に、体の中の魔力を感じる必要があるんだ。

ちょっと手の平を上に向けて出しな。」

言われた通りにすると、重ねるように手を触れるか触れないかの近さまで寄せてきた。

「今から魔力をアタシが出すから、感じ取ったら反対の手を上げるんだ。

感じ方は人それぞれで違うから説明しないし、この後アーネスにも教えるから、どんな風に感じたのかは口に出すんじゃないよ。

先入観は魔法を覚える時の妨げになるんだ。

ちなみにこの教え方は複数に同時に教える時の基本だから覚えておくといい。

じゃあ始めるよ、放出し始めのタイミングは教えないよ。

魔力を感じ取るのが大事だからね。」

そう言うと姐さんは、バチコンっていう幻聴が聞こえる様な、厳ついウインクをした。

漢前です、姐さん。


瞬き程の時間の後。

ん?

掌が温かいような。

これ、手が近いからじゃないよな。

とりあえず反対の手を上げる。

「おっ、いいね。

もうわかったのかい。

そのまま手は上げてな。

今感じてるのが、自分の体にもあるハズさ。

これも一概には言えないんだけど、大半のヤツは目を閉じると感じ易くなるらしいね。

わかったら上げてる手を降ろしな。」

なるほど、よくわからん。

けど、やってみよう。


目を閉じると直ぐに体の内側、薄皮一枚分くらいのところを覆うように、似たような感じがする。

とりあえず手をおろした。

「本当に感覚を掴むのが速いね。

アタシは結構苦労したんだけどねぇ。

じゃあそれを動かしてみな。

これも感覚的なもんだから口では説明しないし、出来ないね。

出来たら手を上げな。」

動かす。

動かす。

おっ、何か流れる。

速くしたり遅くしたり。

あっ、何か目眩に似た感覚で気持ち悪い。

とりあえず手を上げた。

「かぁ、もうかい。

あんた、気持ち悪かったりしないかい。

人によっては倒れる事もあるんだよ。」

それは先に言って下さい、姐さん。

「ちょっとだけ。」

「目を開けな、少し楽になる。

そのまま、手の平から外に出してご覧よ。」

目を開けて、掌に集めて押し出す。

姐さんの手が少し浮くような動きをした。

「出し過ぎだ。抑えな。」

苦笑いしながら姐さんが言う。


アイツの知識では魔法はイメージだったか。

頬に当たるそよ風のイメージで、優しく、弱く。


「おっ、いいよ。じゃあ、実際に魔法を使ってみようか。」

そう言うと手を退けて、鍋を指さした。

「今からやって見せるから、詠唱を覚えるんだよ。

アーネスも詠唱だけは覚えな。

アンタには放水の方を教えるから、そしたら二つ覚えられるだろ。

じゃあジェス、アタシの後でやってみな。」

そう言うと、鍋に掌を向けた。

「あ〜、その前にちょっと説明するのを忘れてた。

今から使う魔法は、どこに火を着けるのか目で見て、距離を測るのが大事なんだ。

距離を測り損ねると、明後日の所に火が着いたり、火傷したりするからね。

それとこの魔法は元々燃やせる物限定だ。

生木とかでも魔力を増やせば燃えるけど、金属みたいに元々火が着かない物に火を着けるのは、この魔法とは違う魔法だからね。

じゃあ、やって見せるよ。」

そう言うと、姐さんは少し半眼の様に瞼を狭めた。

ムカデに雷撃を落とした人はそんな事なかったから、姐さんの癖かもしれない。

ああ、いや、距離を測ってるのか。

「熱よ、集まれ、灯火結べ、着火。」

鍋の中の干し草が少しだけ揺れると、端の方にチロチロとした火が着いた。

姐さんは直ぐに顔を近付け、吹き消した。

こちらを見てニヤリとすると、やれって感じで顎をしゃくった。


「詠唱のコツは声と一緒に魔力を出す事だ。

対象物に手の平でも、指先でもいいから向けて、そこからも魔力を出すんだ。」

声に魔力を乗せて、更に体の一部から魔力を照射するのね。

やってみようじゃないの。

イメージし易かったので、人差し指で干し草を指す。

「熱よ、集まれ、灯火結べ、着火。」

俺の詠唱の後、サワリと姐さんの時よりも干し草が揺れ、端にボッと音を立てて火が着いた。

「おおぉ。火だ。

ちゃんと着いたよ、着いちゃたよ。

やったな、ジェス。」

アーネスがやけに嬉しそうだ。

姐さんがまた火を吹き消す。

「よし、出来たね。

もうちょっと魔力を抑えた方がいいけど、初めてでは上出来さ。

こういう簡単な魔法で魔力量の調整の練習をするといいよ。

ギリギリ着かない線を見極めるようにね。

それが出来たら、後は増やす方が簡単だから。」

「はい。ありがとうございます、姐さん。」

俺の背中をパンっと叩いて、ニカっと笑った姐さんは、ちょっと耳が赤かった。

注目度ランキング、入っている、だと!?


ビビって、感謝して、緊急の本日2話目の更新です


本日から3日連続投稿です!!

最後、25日は1か月記念のSSも投稿いたします

それではまた明日


次回 ミネア姐さんの魔法講座 その二

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