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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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帰還指示

俺達は少し前のめりになって、姐さんの言葉を待った。

迷った様子を見せた姐さんだったけど、諦めた様に小さく溜息を吐くと、座り直して話を続けた。

「親のメスが見つからない。

痕跡はあったから、今も騎士団やミラ達が全力で追跡してるけどね。

恐らくは斑に焼け残った所に居るんだろうね。

それでも手負いのハズだし、見つけ次第、残った全員で囲んで、何が何でも殺すだろうさ。」

姐さんの言葉は最後の方、小さく聞こえていた。

思考に引っ張られ、聞こえ辛くなっていた。

そうか。

俺達がやったアレは、オスだったのか。


「お前達、何て顔をしてんだい。

少なくともあの場で、あのデカブツを一匹、お前達が仕留めたから今回参加した他の冒険者、騎士団のヤツラ、見習いの小僧共、この村の人達も、あれからは誰一人、死人が出てないんだよ。」

「でも。」

「アーネストリー。

いいかい、でもじゃない。

ジェスターもだ。

胸を張っていい。

それに明日以降の討伐作戦は、緊急依頼から指名依頼に変わった。

どっちにしたってアタシ達は撤退さ。

ミラとザラは斥候として残るけどね。」

「そんな、なんで。

俺も残ります!」

アーネスが叫ぶように言ったが、姐さんは真っ直ぐに見つめて肩に手を置いた。

「いいかい、何度でも言う。

アタシ達の出番は、終わりだ。

数は減ったけど騎士団の連中、魔術師団、竜血、草原の風。

知の輪の連中も含めて斥候組も数は揃ってる。

戦力は十分なんだ。」

それでもまだアーネスは食い下がる。

「でもまだ、肝心のメスが残ってるじゃないですか。

放っておくなんて………。」

アーネスを遮るように、姐さんが言葉を被せた。

「あんな化け物と、ろくに防具もない状態でやり合うってのかい?

どうやって?

死にたいなら一人で死ぬんだね。

それにアンタが残ればジェスターはどうなるんだい?可哀想に、道連れってかい?」

流石にそう言われては、アーネスもそれ以上は反論出来ないようだ。


でも。


それでも俺は、言わずにはいられなかった。

「姐さん、撤退するにしても、討ち漏らしが出たらヤバいでしょう?

三年もしたら、またこの村か、何処か他所の村が襲われますよ。」

最大の懸念はそれだ。

親玉が何処から湧いたのかわからない。

けれどあれがこの先、繁殖してしまう可能性を残すのは、あまりにも危険だ。

出来る事が少ないにしても、放り出す事は考えられない。

何度目かの大きな溜息をついて、姐さんが、まるで突き放すように言った。

「その可能性はまずないよ。

アンタの無茶が切っ掛けで殆どが丸焼け。

残っていても潜んでいる場所はある程度割れてるし、問題になるのはアンタ達が仕留めた、あのデカブツの嫁だけだ。」

それはそうなんだろう。

確かにそうなんだけど。


「さっきも言ったけど、今回の元になったメスだけは、何が何でも残った連中が面子に掛けて殺すだろう。

追跡中に見つけたら生き残りの個体も漏れなく殺すだろうさ。

この村だってしばらくは警戒を解かないだろう。

それなりの数の個体があちこちに散り始めてたのを、かなりの可能性で阻止出来た。

ジェスターの無茶のおかげでね。」

それもわかる。

わかるけど。

「二人して不服そうだね。

なら次があったなら、蚊帳の外に置かれない位、強くなりな。

いいかい、お前達は強い。

心がね。

でも肝心の実力が伴ってない。

今の時点で心の強さなら、そうだね、今この現場の中でもトップクラスだろう。

ジェスターも、アーネストリーも、頭もいいし、感もいい。

もしあのデカブツとやった時に、アタシ程度の実力でもあったんだったら、多少は違う結果になってただろうさ。

いいかい。

少なくとも、アーネストリーみたいに間合いを計り損ねる事はなかったね。

ジェスターのように、自分に見合わない武器を使って、防御が出来ないなんていう、クソみたいなヘマもしなかっただろうさ。」

ぐうの音も出ない。


くそっ、でも。


「わかり、ました。」

あの頑固なアーネスが、折れた。

本当に俺達には出来る事が何も残ってないのか。

「でもせめて死骸の回収や、何か雑用みたいな事でもいいんです。

少しでも、何でもいいから役に立ちたいんです。」

我慢出来ずにそう言った時、

「それには見習い達が当たります。

あなた達がすべき事があるとするなら、体力の回復と気持ちの整理です。」

と何故か入り口に立っていたマローダさんが言った。


この人がここに居る事にまず驚いた。

今回の件に関わっているのは知っていたけど、まさか現場にまで来ているとは欠片も思ってなかった。

その表情は、何か苦笑いのような、困り顔のような微妙な感じになっている。


「君達はよくやった。

ほぼ初陣で戦果は上々。

それとも手柄を独占したいのですか?」

「そんな事、考えてない!」

アーネスが叫ぶ。

俺はマローダさんのあまりの言い方に、言葉を出せない。

「わかっていますよ。

君達がそんな事は思ってない事ぐらい。

でもね。

当事者として事の顛末を見届けたいという、その気持ちは理解出来ます。

第一発見者で、その後も命を懸けて戦い、傷付き倒れた。

気にならない人はいないでしょう。

ただ周りに居る人達を信じて、そして託す事も大事ですよ。

それに私も、ミネア殿も、君達の事を心配をしているのだと言う事は、頭の良い君達なら理解出来るハズでしょう?」

返す言葉が見つからない。

信じて託す。

言われてみれば、確かに向きになっていたのかもしれない。

心配を掛けたって事も頭から、完全に抜け落ちていた。

もうこれ以上は、足手まといなだけなのかもしれない。

特にメスとやるのなら。


俯く俺達に、姐さんが優しげな声を投げ掛けてくれる。

「言い忘れてたけど、戦刄のエイムズも歩ける位には回復した。

もう領都に戻って行ったよ。

今も若干は痺れが残ってるみたいだけど、しばらくしたら復帰も出来るって話さ。

エイムズが言ってたよ。

お前達に伝えて欲しいって頼まれた。

『追い抜かれないように、まだまだ頑張る。よかったら、一度組んでみないか』

ってさ。」

よかった、本当によかった。


それでも一つ気になる事があった。

「抜け駆けしたっていう、冒険者達はどうなったんですか。」

姐さんは一つ舌打ちをすると、吐き捨てる様に言った。

「アイツらね。

二人、死んでたよ。

草原の焼け跡から見つかったらしいけど、どっちも頭が無かったり、欠けたりしてたらしいから、喰われたんだろうさ。

他にも何人かいたらしいけど、領都に逃げ帰ったって話だ。」

そう言った後で更に、

「馬鹿野郎共が。」

と忌々しげに呟いた。

怒りと何かが混ざり合って、姐さんの顔を歪ませていた。


少し俯き、サッと目を閉じて、また深い溜息を吐くと、今度はゆっくりと目を開けた。

その時にはもういつもの姐さんの、美人で凛々しい感じに戻っていた。

けど直ぐに、また違う感じで顔を歪め、こめかみを指先で揉むようにしながら、

「そういえば、あの指揮を取ってた、あ〜、なんだっけか、アイツの名前。」

と言った。

何の話だ?

「小隊長のブルーノ殿でしょうか?」

助け舟を出すようにマローダさんが尋ねる。

「そうそれ、ソイツ。」

姐さんはパンッと手を打ち何度か頷くと、はっとした顔をして頬を赤らめた。

姐さん、殺しそうな目で睨むのはやめてください。


「そのブルーノってヤツからも伝えてくれって言われてたんだわ。

次は絶対に遅れは取らない、もう一人の犠牲も出さない。

ゆっくり休んでてくれってさ。」

溜息をつきながら姐さんはそう言った。


「もう一人の小隊長、ボルドー殿も同じ事を言ってました。

班長達を代表してと。

それに、王都に行く話を忘れてはないでしょうね。」

「あっ。」

俺は当然忘れてないけど、アーネスはすっかり頭から抜けていたようだ。

てか普通忘れるかよ、それ。

「そうでしょうね。

ええ、ええ。

そうでしょうとも。

わかっているんですか?

次に怪我でもしたら、王都行きは無理でしょう?

国王陛下との約束を忘れるとか、不敬にも程がありますよ。」

うん。

無理を通してメスの討伐に参加して、そこで仮に勝っても、無事だったとしても、謁見をすっぽかしたら殺されちゃうかもしれないよね、俺達。

そんな事を思っていると、アイザックさんが何人かと一緒に戻って来た。


グレンさんとマイラさん。

それともう一人。


白髮を綺麗に撫で付けた老紳士、バーゼル伯の執事。

ガスリーさんが最後に入って来ると、まるでお手本の様な背筋が伸びた一礼をみせた。

次回 面会

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