行動開始
村には北と東西にそれぞれ門がある。
南にも門はあるが、道と繋がってないので普段は閉鎖されているらしい。
一応、魔物に対する監視用の櫓があって警戒はしているそうだ。
南門を除いたそれぞれの門に、騎士団の二班をバラした上で、二人ずつ護衛が増員されていた。
二人あぶれる事になるが、バラした班の班長がそれぞれ見習い達を二手に分けて引き連れ、防壁の外の草を刈り、ムカデの村への接近を妨げるのと同時に、発見し易くする為に動いていた。
草刈りが終わった外周を、二班が周回して警戒を強めている。
村への侵入は意地でも防ぎたいのだろう。
丁度村を二分するように、北東から斜めに細くて緩い川が流れている。
その両端を村の警備隊が川辺に降りて警戒に当たっている。
ガッシュさんやアルダーさんはこちらに加わっていた。
ムカデは湿った場所を好む。
魔物も同じ習性を持っている事が多いので、村の中への侵入を防ぐ重要な役割だった。
それなら騎士団が警戒に当たるべきでは、とも思ったのだが、戦闘力、装備の両面から討伐に回る方が良いという判断になったらしい。
もう一つ判明した事があった。
昨日のうちに倒された個体は、多少の個体差はあるものの、その殆どが俺達が倒したのとほぼ同じ大きさだった事だ。
馬車での打ち合わせでミラさんが言っていた説が、どうやら、全く嬉しくはないが、正しかったようだ。
近くで産卵と育児をしたのなら、成体のメスは確実にいる。
そして成体のオスも近くにいる可能性が高まった。
他力本願もいいところだが、成体は騎士団や竜血の皆さんのところに行ってもらいたいものだ。
姐さんが打ち合わせで受けた指示の内容は、俺達のパーティで北門から川までのエリア、およそ百サナ四方を探索する事。
村の外周をざっくり八つに分けて、それぞれに戦闘可能なパーティが割り振られた。
川に面した区域には、騎士団の各班に魔術師団から二人ずつ付いた部隊が担当する事になった。
俺達が担当するこのエリアにも騎士団が入っている。
俺達はそのサブとも言える。
戦闘可能な冒険者パーティは、俺達を含め六。
ランクが高い順に、竜血、草原の風、水流の光、俺達と、四と三ランクの混成、且つ即席の五人組パーティが二つ。
川に沿った区域には、俺達を含め多くの人員が割かれている。
今回参加している人の内、戦闘もこなせる四ランクの人が四人いて二手に別れた。
姐さんのように、四でも個人で動く人はそれなりにいるようだ。
そこに三ランクの戦闘経験がある人を一人づつ加え、斥候役二人を付けて組んだらしい。
即席パーティ二つは、解毒を使える回復役を望んだそうだが、来ている治癒術師に現場経験がないらしく却下されたという。
腕が立つというアイザックさんとアイギスさんを含め、誰も冒険者登録はしていないらしい。
アイザックさんは教会から派遣されて従軍した事もあるらしいが、アイギスさんに至っては治療院での経験しかないそうだ。
「現場経験がある治癒術師はそれだけ、貴重で少ないんだよ。敢えて危険を冒さなくても、金になるからね。」
とは出発前にぶつくさ言ったアーネスに、ミラさんが返した言葉だ。
なるほど、納得だ。
ちなみにミラさん、ザラさんの兄弟もランクは四。
頼りにさせてもらいます。
クランの知の輪は五パーティが、斥候役として騎士団の方に回ったそうだ。
蒼の剣は、集まれなくて不参加らしい。
藪に入って二刻程が過ぎた頃。
ブッシュナイフで切り開きながら、少し前を歩く姐さんが足を止めた。
俺達にも止まるように手で合図を送って来る。
息を詰めて辺りを警戒していると、先行していたミラさんが戻って来た。
「いるのかい。」
ミラさんの姿が見えるなり、姐さんが小声で聞いた。
「ああ。
この先真っ直ぐ二サナの所に一匹。
湧き水が湧いていて、ほんの少し開けたところだ。
ただ湧き水の所為か、足元は少し泥濘んでいるところもあって注意が必要だ。」
「近くに他の個体は?」
「前方二サナ四方にはソイツだけだ。」
「よし合流次第やるよ。笛でザラを呼びな。」
ミラさんは頷くと、素早く上着の首元から細い金属の笛を取り出し吹く。
ピッピピーという、少し気が抜けるような音色が響く。
少し間を置いてから、背後がガサつくとザラさんが姿を見せた。
ミラさんとザラさんは視線が、小さく合うと頷きあった。
「行くよ。」
姐さんの声と同時にミラさんが藪の中を駆け出す。
一拍間を置いてザラさんが続き、その後ろ姿を見失わない程度の距離で俺達が続く。
「遅れるんじゃないよ。」
駆け出して直ぐ、姐さんが俺達に声を掛けた。
流石に速い。
だが着いて行けない程の速さじゃない。
多少は離されはするが、藪の中だとしても見失う程ではない。
アーネスは俺の右側を走っている。
何かいつも右にいるな。
そう思った直後。
前方から獣じみた、咆哮の様な怒声が響いた。
ミラさんだ。
直ぐにもう一つ、怒声が響いた。
初めて声を聞いたが、重なって聞こえているから恐らくザラさんだろう。
姐さんは即座に持っていたブッシュナイフを腰に収め、左手に持っていたハンマーを両手で持ち直した。
視線を前に向けたまま、俺も片方ずつ手汗をズボンで拭い、握り直した。
前が開けると、ムカデは向こうを向いた状態で、ミラザラ兄弟のどちらかに、低い位置から突進していた。
姐さんはうねるムカデを、左に大回りに避けながら横に回り、ムカデの頭を狙ってハンマーを振り下ろした。
当たる直前。
長い触覚にハンマーが掠り、その瞬間、ムカデが体を右に捻った。
姐さんのハンマーが、魔石がある節の一つ下の脚を潰したが、ムカデは勢いそのままにこちらを向くと、今度はアーネスに向かって突進した。
その間も長くうねる体で俺達に薙ぎ払いを放ってくる。
俺と姐さんは、避けつつ背中にハンマーを振ろうとしたが、回避で体勢が崩れていて当てられなかった。
正面になったアーネスは振り上げながらで足を止めると、間合いに入った瞬間、振り下ろした。
バグジャッとか、ドブチャとかいう感じの、鈍さと水気を感じさせる音を立てて、ハンマーがムカデの頭にめり込んだ。
暫くビタンドタンと体をうねらせ、波打たせていたムカデは徐々に動かなくなっていった。
完全に動きを止めた時、
「いやあ、聞いちゃいたけどこりゃデカい。間近で見たら、流石にちょっとビビるわ。」
そんな事を言ったミラさんを姐さんが睨む。
「終わってないんだよ!ミラ、今朝の話を忘れたのかい!」
語気強めの姐さんに俺もビビる。
アーネスもビビっている。
表情はわからないけどザラさんもビクンとしたので、多分ビビっている。
当のミラさんは青ざめている。
怖い。
「わかればいいさ、ミラ。ザラと一緒に周囲の警戒を頼む。」
優し気にも聞こえる声で姐さんが指示を出す。
ホッと息を吐いて、二人は辺りの気配を探り始めた。
「全部持って行くのは止めよう。
魔石を剥ぎ取って、潰れちまってるが顎は形を残しているから、頭は落として持って行くよ。」
「了承です。」
「前の時はどっちか解体をしたんだい?」
「あっ、俺です。」
自分を指差しながらアーネスが答える。
「じゃあ、ジェスター、アンタが解体しな。
教えてやる。
アーネストリーも一応は周りの警戒をしておいておくれ。」
「はい。」
俺達が同時に返事をする。
俺はナイフを抜くと、近くに寄れと手招きした姐さんに解体を教わった。
サイズ的にやっぱりこの前のヤツと変わらない。
前回の苦戦は何だったんだ。
いや、まあ武器の相性が全然違うけど。
「警戒!」
恐らくザラさんの方が声を上げた。
即座にナイフを手放し、裾で汚れた手を拭うとハンマーを持って立ち上がった。
「右手。直ぐ。一。」
ザラさんがそう言ってから体の向きを変えた。
全員が足元を確認しつつ、広がりながらそちらから扇状に下がった。
立ち位置が変わっているのでわかり辛かったが、ここに着いた時の向きから見て真正面だ。
藪から出ざまにムカデは、一番近くにいたザラさんに飛び掛かるように向かった。
ザラさんが藪の中に飛び込むように身を躱すと、位置的に隣にいた俺へ、横に回り込むような動きで這い寄って来た。
普通に目で追えている。
自分でもよくわからない程冷静だった。
素早くハンマーを振り上げ、間合いに入った瞬間振り下ろした。
飛び掛かろうとしたのか。
頭を上げたので浮いた状態で捉える形になったが、重さと勢いをそのままに、地面に叩き付けた。
さっきと同じような、鈍さと湿った感じを混ぜた音がして、ムカデの頭はグシャグシャに潰れた。
「ミラ、ザラ。
悪いが半径五サナで警戒。」
姐さんが短く指示を出すと、返事も無しに二人はそれぞれ反対方向に駆け出した。
さっきと同じように頭を失ってもしばらくは蠢いていた。
つくづく思うが虫系の魔物の生命力というか、しぶとさはとんでもないな。
正直、今でも逃げ出したい。
動きが弱まってきた時、姐さんが俺達に指示を出した。
「ようやく弱ってきたね。
それじゃ、アンタ達がバラしな。
ジェスターはさっき言った通りにやれば出来るから。
アタシは周りの警戒をする。」
「はい。」
俺達は今度も同時に返事をすると、ナイフを抜いて解体に取り掛かった。
投稿順を間違えないように、次回予告を入れるようにしました
お楽しみ要素としてではなくてゴメンナサイ
複数話投稿の時は、次回予告の意味って、ってなりますよね、そうですね
次回 一日目




