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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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不穏な空気

「なんだよ、これ。」

協会に着いての、アーネスの第一声がこれだった。

普段は昼前に大体閑散としている協会が、今日は偉い混み合っていた。


朝一で向かった役所では、マローダさんが外出していたので会えず、伝言を残して来た。

たっぷり一刻以上待たされてから応対してくれた、あまりやる気がなさそうな中年の役人が、近隣の村のすぐ近くに出た魔物の事で外出していると言ってたので、マローダさんもムカデ絡みで動いているらしい。


待たされた挙句、マローダさんに会えなくてげんなりしながら寄った鍛冶屋で、折れた剣を買取ってもらい、ナイフの修理を頼んだ。


俺は買い取りと相殺しても大銀貨一枚と銀貨三枚が手に入ったけど、アーネスは小さく溜息を付きながら、代金を払っていた。

夜までには仕上げておくと言ってもらったので、帰りにまた寄る事にした。

昼にはまだ早かったけど協会に行く事にして、着いてみたら謎の大混雑だったって訳だ。


「おっ、聞いたぜアーネス。

お前ら何か、デケェムカデとやったんだってな。

案外やるじゃねえか。」

協会に入るなり、俺達に気付いてニヤリとしながらそう言って来たのは、院でちょっと素行の悪かった、四つ年上のベッツ。

下の子の面倒見は悪くなかったが頭が悪く、スケベで喧嘩っぱやい、調子乗りだ。


院での最後の挨拶で、

「冒険者になってビッグになったら、俺が皆を食わせていってやるぜ。」

と、鼻声で言っていたのが懐かしい。


「おい、ジェス。今度俺等と組んで討伐系の依頼受けてみねえか?」

俺の首に腕を回しながらそう言ったのは、ベッツと同い年で相棒のアクバ。

何を扱う店かは知らないけど、それなりの商店のドラ息子で、ベッツに喧嘩を売ってボロ負けした後、腰巾着みたいになったヤツだ。

二人の装備は、大半がコイツの懐から出てるらしい。


「なあベッツ。

この時間にしちゃ随分混んでるけど、何で?」

アーネスが聞くと、「何言ってんだ、コイツ」って顔で答えた。

「お前らがやったムカデの依頼を受けるのに集まってるんだよ。

魔物と初戦闘のお前らが無傷で倒せる程度の強さ。

その割に魔石がデカくてボロいって、皆目の色変えてるぜ。

何なら何人か、ろくに話も聞かないで抜け駆けで行ってるらしいぞ。」

そういう事か。

なるほど、金になりそうな話が降って湧いたって訳ね。


「ほらどきな、アンタ達。アーネス、ジェス着いて来な。」

奥から人を割って出てきた、姐さんが顎で促した。

「姐さん、かっけぇ。」

とか二人が小声で言ってるが、とりあえず無視して着いて行った。


「随分早かったね、アンタ達。まだ一刻以上、時間があるじゃないか。」

「買い物をこの後に回したので、予定より時間が掛からなかったんです。」

「へぇ。」

そんな話をしながら向かった先は受け付けじゃなく、二階にある職員との面談用の個室だった。


会話中、ずっと真顔だった姐さんに促されたので、俺たちは揃って席に座った。

丁度のそのタイミングで、昨日対応してくれた職員のお姉さんが、木製の四角い盆に小さな革袋を二つと、会員証に使う魔道具を乗せて入って来た。


六人掛けのテーブルに俺とアーネスが一つ空けて並び、職員さんと姐さんが向かいに座った。

「こちら、昨日の報酬です。

討伐報酬が大銀貨八枚。

魔石が金貨一枚と大銀貨五枚。

頭部は結局強制買い取りになったので、その代金が大銀貨九枚。

合計で金貨二枚と大銀貨二枚。

お節介かと思ったけど、半分ずつに分けてあるわ。」

驚いた。

思っていたより、かなり多い。

「えっ、こんなに?」

アーネスも声に出して驚いている。


「魔石の魔力含有量が多かったのよ。

それとまだはっきりしていないけど、毒がかなり強力だったみたいね。

致死性で即効性の高い神経毒を持つ、ヒュージーフェイタルポイズンセンティピードと構造自体が酷似しているのが根拠らしいけど、過去にここまで大型のものはこの辺りでは出現例が無くて、背板の色も違うから別種の可能性が否定出来ないみたい。

魔物の種が確定したら追加報酬の可能性もあるわ。

使役魔禽を使って王都の学術協会に運ばれているから、近日中にわかるとは思う。」

致死毒持ちの可能性が高かったのか。

改めてゾッとするな。


「問題なのは、種の特定が出来ていない状態で対応しなきゃいけない事だ。

考えたくはないが、それほどの大物で尚、幼体だった可能性が捨てきれない。

その上だ。

想定される個体数が虫系の魔物という事で多い。

正直、アタシも腰が引けているよ。

まあ、受けないという選択はアタシの中には無いけどね。」

「今ミネアさんが言ったように、考えられる危険が大きいので、昨日は承諾をもらいましたが、現段階での取り消しは不問にします。」

「受けます。」

アーネスが食い気味に答える。

俺が拒否する事を考えて無いな。

複数だったり、個体差でデカかったり速かったりすると、対処しきれないとか思わないのだろうか。

「ジェスター君もそれでいいのね?」

「リーダーがこう言ってますので。」

苦笑いしながらそう答えた。


決断はいつもコイツ。

俺は、サブだ。


「はあっ、リーダーはお前だろ?」

「あ?」

「何を意外そうな顔してんだよ。

お前がいい感じに方針決めてくれてるし、そういうのは任せておけば安心だから、俺はケツをついて行ってるだけだ。」

「今だって食い気味に参加決めてたじゃねえか、俺が何か言う前に。

俺はどうするとか聞かれた試しねえよ。」

「はあっ?」

「あ?」

「おい、仲間割れは別の時にやんな。

しょうがねえヤツラだな。」

苦笑いを浮かべながらそう言った姐さんと、クスクス笑う職員さんの声で、熱くなりかけた頭がスッと冷めた。

逆に顔と耳が熱い。


「アンタ達の参加はまあいいけど、問題は小金に目が眩んでる下の連中と、情報もろくに聞かないで先走った馬鹿共だ。」

姐さんの言葉に、ヤレヤレと言った表情の職員さん。

とはいえ、初戦闘の俺達が倒したってのが悪い方向に作用している。

見た事がない程デカいムカデって情報だけでも、警戒するには十分だと思うけど、それを俺達が弱めてしまった感じなのだろう。


「大丈夫です。そろそろ支部長が始める頃です。」

ん、何を?

俺とアーネスが同時に首を傾げた時、ドアの向こうからバカデカい声で、

「注目。」

と聞こえて来た。

何か始まったな。

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