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初飲み

「ほら、呑みな。ランクアップと成人の祝い酒だ。」


片手にジョッキを三個、肩に小樽を担いで戻って来た姐さんは、ジョッキを俺達に投げ渡した後、自分の分を注ぎながらそう言った。

面食らいながらも、断るのはおかしい話だったので、小樽から自分のジョッキに注ぎ、ついでにアーネスにも注いでやった。


「よし、乾杯。」

軽く額の辺りまでジョッキを上げ低くそう言うと、姐さんはゴクリと一口飲んで、深く息を吐いた。


「いただきます。」

俺達もそう言って口を付けた。


見た目は透明でほんのり黄色味掛かっている。

甘さがあって、酸味と苦味がうっすら感じられる。

喉を通る時に感じた事がない感覚が、ほわっと広がった。


「美味いですね。」

初めての酒。

正直に言えば酒に良いイメージはない。

酔って喧嘩する冒険者や、路上で高笑いする酔っぱらいを、日常的に目にしていて、ああはなるまいと思っていた。


「ジェスターは行ける口みたいだね、アーネストリーは無理しなくてもいいぞ。」

アーネスも口に含んだところまでは笑顔だったが、喉越しはあまりお気に召さなかったようだ。


「味は好きだけど、喉を通る感じは慣れが必要かも。」

「ミードってお酒ですか?」

「ああ、普段から飲んでる訳じゃないけど、酒の中じゃ一番好きなヤツだ。」

姐さんはそう言うと、グッと呷り二杯目を注いだ。


「さて。さっきの話だけどアタシは構わんよ。

声は掛かってるけど、まだ誰と組むかは決めてなかったし、若手でアンタらみたいに、勉強目的ってはっきり口にするのも珍しいから、ちょっと興味が出た。」

「若手で姐さんと一緒に動きたがるヤツは珍しくないでしょ?」

アーネスも頷いている。

姐さんが、「誰か一緒に行くかい」って声を掛けたら、大抵の若手は手を挙げる。

何度も何度も、目にした光景だ。


「半分以上は楽したいヤツらさ。

採取のコツやら、そこら辺を勉強する気があるならまだしも、体のいい護衛位に思ってるヤツも多いよ。

そんなヤツらは二度目は無いけどな。」

面倒見はいいけど、一応は篩に掛けてもいるのか。


「そう言えば、お前達はアタシと出た事が無かったね。

割と話はしてたのにさ。」

確かにそうだけど近場の採取や、街中のお使いなんかの簡単な依頼がメインだったから機会がなかったし、何より人気が有り過ぎて、ちょっと気後れしてたのもある。


「地味な依頼をコツコツやってる感じだったから、アタシも強くは誘わなかったけどね。

若手連中の中には、腰抜け呼ばわりするバカもいるっちゃいるけど、職員やベテラン達の評価は悪くないよ。

背伸びしないで堅実ってのは、まあ大事な事さ。」

俺達の場合、院の門限もあったし背伸びのしようがなかったんだが。

「俺達、院育ちなんで夜まで掛かったり、泊まりの依頼は受けられなかったんですよ。」

「アーネストリーって、院育ちなのかい。

達って事はジェスターもかい。

イヤ、意外だねえ。

てっきり商売人の息子とかだと思ってたよ。」

「言ってませんでしたね。」

驚いた表情の姐さんは、二杯目を飲み干すと直ぐに次を注いだ。


てか、何でそんな風に思われたんだろう。

身なりが良い訳でも、装備が充実している訳でもないんだが?

「言葉使いとかもそうだし、読み書きに計算も出来るからてっきりね。

ジェスターが市場で値切ってるところとか見た事もあったしさ。

その割に装備に金を掛けてないから、不思議には思ってたんだけどね。

あんまり繁盛してない店の次男とかって、勝手に思ってたわ。」

そう言って笑う姐さんは、不意に涙声になった。


「アンタら、苦労してきたんだね。」

「してない、してないです。」

「ちゃんと三食食べてたし、賑やかで、院の母さんは怒らせたら怖いけど、普段は優しいし、そんな風に思った事無いですよ。」

「なんだい、そうなのかい。」

ちょっと鼻を啜ってから、気を取り直した様にそう言った姐さんは、豪快に笑うと三杯目を飲み干した。

ホッとして俺も少し飲む。

やっぱり美味いな。


「明日はどうするんだい?アタシは朝一で協会に顔を出すけど。」

「折れた剣を下取りに出したり、ナイフを修理に出したりで、昼過ぎに協会に行くつもりでした。

今回の報酬の受け取りもあるし。」

「そうかい、じゃあその時に打ち合わせをしようかね。

てことで、今は呑みな。

後一杯づつくらいは残ってるからね。」

そう言って姐さんは、ガハハと笑う。

何かこういうの良いな。


その後、姐さんのお兄さんがツマミと追加の酒を持って来てくれたり、それを食べたり飲んだりしながら、姐さんの駆け出しの頃の話を聞いたりして、楽しい時間を過ごした。

姐さんに見送られて外に出た頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

宿に着いて部屋に上がり、ランプを付けた時には少しフワフワしていて、俺もアーネスも鎧を脱ぐとベッドに転がった。

汗の匂いがちょっと気になったけど、なんだかどうでも良くなった。


朝、体を拭いてから出よう。

横を見れば、アーネスは早くも寝息を立ててる。

億劫だったがランプの火を消して、俺も目を閉じた。

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