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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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我らが姐さん

「宿に戻ったらどうする?

俺、飯の後で街の浴場に行きたいんだけど。」


アーネスに声を掛けたが返事がない。

協会からずっと思案顔だ。


「アーネス、どうした?」

「ああ、悪い、浴場?

いいね、それ。」

「いや、お前。

さっきから何か考えてるだろ。

どうした、言ってみろよ。」


アーネスは立ち止まってから、ちょっと迷った後で口を開いた。

「さっき臨時のパーティの話してたでしょ?

反対はないんだけどさ、やっぱり前衛ももう一人、入ってもらわないか?

てかミリア姐さんに声を掛けてみない?」


ミリア姐さんは四ランク。

基本はソロだが、討伐の依頼とかは都度、誰かと組んで参加している。

豪快な印象だけど、補助的に簡単な攻撃魔術を使い、治療魔術も骨折位なら治せる腕前らしい。

槍が主武器だが剣の腕も確かで、投げナイフや弓も使える、戦闘では割と万能タイプらしい。


「姐さんは人気だから、もう誰かと組んでるかもよ。」

「だよな〜、せっかくの機会だから強い人の戦い方を見て、勉強しておきたかったんだけどさ。」


アーネスは勇者だし、俺はアイツから戦闘センスとやらを譲られている上に、七大神の祝福って加護がある。

秘めたるモノは二人とも、それなり以上だろう。

だが現状は、戦闘に関してはド素人に過ぎない。


正直なところ、騎士見習いも悪くなさそうとかチラリとよぎったりしたが、それは技術の習得が出来るからで、ある程度の自由は確保しておきたかった。

そもそも国に忠誠とかよくわからない。

知らないヤツはどうでもイイ、とまでは言わないが、命を懸けて見知らぬ誰かを救いたいとか、この国の為にどうこうっていう気持ちは無い。


そもそも冒険者だって、日銭を稼ぐ為にやろうとしていただけだ。

いつか名を揚げてとか、ドラゴンを倒したいとか、欠片も思っていない。

何なら、新規の開墾事業とかに志願して、アイツの知識を活かしたノーフォーク農法を実現するとか、ベアリングの開発とかで、金を稼いで楽をしたいとか思っているぐらいだ。


そもそもだ。

冒険者が巨万の富を築いたなんて、聞いた事がない。


大成功した冒険者の末路は大概が「死」だ。

ドラゴンを倒した冒険者はいる。

そこで得た財宝を元手に迷宮に挑み、帰って来なかった。

後に残ったのは遺産を巡る、残されたパーティ内での争いだ。


未知の迷宮を踏破し、巨万の財宝を手に入れた冒険者もいた。

だがその金を使い切る事なく、国に指名され赴いた戦場で死んだ。


無茶を超えて成功し、名声や財を得ても、次の危険が待ち続ける。

英雄譚と同じくらい、悲惨な末路が溢れている。

何なら何も成さずに引退した冒険者の方が、幸せと言える余生を過ごしている。


正直なところ、今の俺には将来の夢とか希望なんてものは、どこにも無い。


「ジェス、おいジェス!」

思考に沈んでいた意識が、アーネスの声で引き戻された。


「ああ、悪い。

で、何?」

「見ろよ、姐さんだ。」

アーネスの視線の先にミリア姐さんがいた。


協会以外で見る姐さんは久しぶりだけど、やっぱり格好いい。

長身でゴツすぎない体型に、ユルっとしたシャツと、ピッチリした黒革のパンツスタイル。

左に剣を下げ、右にタガー。

買い物帰りなのか、食材が詰まった袋を左手で抱えている。

俺達もブサイクではないはずだが、同じ格好をしてもあそこまで決まらないだろう。


「姐さん、ミリア姐さ〜ん。」

アーネスが手を振りながら近付いて行く。

尻尾が生えて見えるのは、何故だろう。


「街中でデカい声で呼ぶんじゃないよ、恥ずかしいヤツだね。」

姐さんは苦笑いを浮かべながら、アーネスの頭をくしゃくしゃにした。

「聞いたよあんたら。

何か、やたらデカいムカデを仕留めたんだってね。」

「助けようとした農夫のおっちゃんに、手伝ってもらったんですけどね。」

「そうかい、まあそんな事もあるさね。

アンタらは帰りかい?」

アーネスの頭をくしゃくしゃにする手を止めずに、姐さんが聞いて来た。

「姐さんさ、まだ決まってないなら俺達と組んでくれないかな。」

アーネスの言葉にちょっと面食らったような顔する。

「なんだい、唐突だね。

まあいい。

話は聞いてやるから家に来な。

買い物帰りなんでね。」

顎をしゃくりながらニカッと笑い、バチコンとウインクした姐さんは、やっぱり格好よかった。


姐さんの家は壁際の近くの古びた、でもそれなりに客が入っている食堂の二階だった。

姐さん曰く、この店の娘なんだとか。

なんで冒険者になったんだろう。

「なんで冒険者になったんですか。」

素直に聞ける、アーネスは尊敬出来る。

俺には真似出来ないが。


「アタシの加護が「武芸巧者」だったからだよ。

元々体も大きかったしね。

守護騎士とか、警備隊とかも考えはしたんだ。

でも、歩哨とか門番とか、正直アタシ向きじゃなさそうだし、書類仕事もあるって聞いてやめたのさ。

店は兄貴が継ぐ事になってたしね。

まあ、あたしが店に出てたら看板娘になってただろうけどな。」

ガハハと豪快に笑う姐さんの後ろには、尻を触った客を眼光だけで失神させてる様が浮かんでいた。


姐さんの部屋は意外、と言っては失礼だが、かなり整頓されて綺麗だった。

壁に掛けてある槍や弓、剣、外套掛けに吊るしてある矢筒、ベッドの直ぐ横に立て掛けてある抜き身の剣とかで、女子っぽさは皆無だったが。

「椅子は一つしかないから床にでも座りな。」

荷物を机に置き、腰の剣を剣帯ごと外してベッドの角に吊るすと、その椅子に腰を降ろしながらそう言った。

俺達も背負子を降ろして、床に胡座をかいた。


「で、なんだい、組んでくれって。

ムカデ狩りの話かい?」

当然、姐さんにも声が掛かってるんだろう。

「はい。

俺達、今日で薄桃になって、精算の時に声を掛けられたんです。」

アーネスが真剣な表情で話した。

こういう時の第一声は、コイツに任せた方が上手く行き易い。

「へぇ、よかったじゃないか、それで。」

「臨時でパーティを組む事になって、斥候役を二人入れる事にして、それはもう伝えてあるんですけど、この機会に強い人の戦い方を学びたくて。」

「斥候二人ねえ。

変わった考えだね、ジェスターかい。」

「はい。

的散らしと、応援を呼ぶ場合に備えて。」

「なるほど。

冒険者ってより、騎士とか傭兵の考え方に近いのかね。

なかなか面白い。

クランとかなら有りなのか?

ああ、ちょっと待ってな。

下から飲み物を取って来る。」

姐さんは話を止めて立ち上がると、部屋から出ていった。

豪快だけど足音は小さいんだよな、姐さん。


「兄貴、これ一個持って行くよ。

あぁん、なんだいオヤジ共、ケツっぺた蹴られたくなかったら、アタシをからかうんじゃないよ。」

下から聞こえる姐さんの声は、少し笑いを含んでいる。

よくあるやり取りなんだろうか。

声がデカくて豪快なのは、何時も通りだ。


うん。

やっぱ、格好いいな。

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