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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第二章 離別

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王都別邸にて

相変わらずの威容を見せる王都の防壁。

まるで争いを止めたいアーネスと、継戦派の貴族の思惑、そして市井の人々の気持ちとを隔てる象徴のように見えた。

俺とアーネスの差を見せ付けているようにも。


西門は何度か潜った時と変わらぬ賑わいで、長い行列を作っていた。

魔禽を用いた先触れのおかげか、俺たちがそれに加わることはなく、先に通されることになった。

馬車から降り立った俺たちの姿に気付いた列をなす人たちの、鼓膜を殺しに来てるのか、と皮肉りたくなるほどの歓声が沸いた。


感極まり泣き出す者。

ひたすら万歳と叫ぶ者。

大歓声に驚きを泣き出す子供。

暴れ出す馬。

その中には「今度は魔族どもを皆殺しにしてくれ」と叫ぶ者も。

それは決して少なくない。

一緒になって「そうだ!」と叫ぶ者も少しずつ増えていった。


振り返って手を振っていたアーネスが顔をこわばらせた時、護衛の騎士達がさり気なく俺達を包み、先へと促した。


「ちゃんとあの人たちの顔を見たか。」

危険だと判断した騎士達によって馬車に戻された俺達は、石畳がもたらす揺れに身を預けていた。

まだ顔を引きつらせているアーネスへの言葉が、まるで力を持って引くようにゆっくりとその顔をこちらに向けさせた。

「戦えと叫ぶ人の横にいた御婦人の顔。

暗かった。

最初は笑顔だったのに。」

「えっ。」

俺の言葉に小さな驚きの声を上げたアーネスの表情は、まるで怯えてる子供のようだった。

焦点が定まらず、瞳は俺たちの顔の間を泳いでいる。

こんなアーネスは初めて見た。


「戦地に送るのはなにも、貴族だけではないのじゃ。

家族もまた、送り出すということに変わりはない。

心持ちは全く違うのに、じゃ。」

ジード爺様が子供に諭すような声音で言った。

彷徨うアーネスの瞳を捉えるように、しっかりと見つめて。


「家族の帰りを心待ちにしている。

無事を心から願っている。

万の兵士がいたのなら、それより多くの人が帰りを待っておる。

それだけなのじゃあないかの?」

「俺、家族なんて、わからないよ………。」

続けられた爺様の言葉にアーネスは俯き、小さく呟くようにそう答えた。


俺には家族がいた事が、わずかとはいえあった。

そしてこれからディディと、家族になろうとしている。

アーネスにかけられる言葉が今の俺にはなく、ただうつむくことしか出来ない。


向いに座るジード爺様の手が、膝の上で握りしめられていたアーネスの拳に重ねられたが、それがわずかであろうとコイツの救いになっていればと、そう願わずにはいられなかった。


俺の視線の先。

すっかり身に馴染んだ鎧は、ややくたびれていた。


気づけば止まっていた馬車は、もう何度目かの来訪で気後れすることもなくなったバーゼル伯の王都別邸の前だった。


「急ぎ登城を!」と急かすアーネスの声に、

「せめて身なりを整え給え。」

と言ったのは、ますます前バーゼル伯の面差しを強くしているジラルド・バーゼル現伯爵、その人だった。

「なぜここに?」

そう聞く前に、

「新たな街道敷設の許可をもらいに王都に来ていたが、いいタイミングだったようだ。」

と、実にいい顔で言ってきた。


胡散臭い。

この人は武勇もなかなか父譲りではあるが、演技力ではとうに超えている。

老練さを増すこの人には、言葉で勝てる気がしない。

負かされるのではなく上手いこと躱される感じではあるけども。


「しかし…。」

「わかっておる。

すでに場を整えてあるから慌てるな。」

唇を噛むアーネスに、笑いかけるその表情に裏は無さそうだ。


「ここまでの戦場、ご苦労だった。

王家に先立ち、ジラルド・バーゼルが礼を述べる。

よくぞ魔王を討ち取った。

アーネストリー君、ここからは政治が戦場だ。」

「………はい。」

何かを飲み込むように間を置いたアーネスの短い返答に、隠す気がない悔しさが溢れ出ていた。


「そのまま聞き給え。

勇者パーティーの凱旋祝いと、そのパレードは三日後に決まっている。

その間に全てを詰める。

公表されておらんが撤退指示は既に出された。

今頃、魔禽が現着してるだろう。

こちらに返事がないだけで、既に撤退が始まっているかもしれない。

陛下とて、これ以上の継戦は無意味だと分かっておられる。

そも、利がない派兵だからな。

公表のタイミングが難しいのを除けばだが。」

別邸内の一室に場を移して始まった話は、こんな出だしだった。

ジラルド様の言った内容は予想の範囲でしかない。


「問題は停戦につながるか、ですが。」

「父の見立てでは五分以上。

バーレスト侯は八割方、と見ている。」

ここで前バーゼル伯はまだしも、バーレスト侯の名前が上がる事にわずかな驚きがあった。

確かに武門貴族筆頭の地位は、多少の弱体はあっても完全に揺らぐほどではない。

最大派閥がグレゴリオ閣下に移ったとはいえ、未だに派閥の領袖として権勢を誇っている。


「コルミア公国を含む、ザーベック帝国近接国は躍起になっているだろうが、我が国の兵力を全て引き上げたのなら追従する国は多い。

特に形だけ参加した国々はこぞって尻馬に乗るだろう。

そうなれば連合軍は瓦解する。

仮に残留し、万の幸運の上で領土を得ても、飛び地では旨味も少ないからな。」

「他国は見殺しですか?」

暗い表情で口を開いたアーネスの言葉は、苛立ちを含んでいた。


「違うな。

理性を欠いて停戦の使者を斬るような輩を、相手にしてられないだけだ。

おそらくだが、恥知らずにも停戦の仲介にとアーネストリー君が呼ばれるだろう。

にっちもさっちも行かなくなってからな。

そしてあっさりザーベックはそれ飲むだろう、彼の国にもなんの益もない戦争だからだ。」

ただの噂じゃなかったのか、使者が斬られた話は。

なんて………。

なんて下策を。

継戦の意思を示すにも、やりようならいくらでも有っただろうに。


「そう上手くいくんですか?」

更に表情を険しくしたアーネスが言い募る。


「いくとも。

弱者が糧食にされた国だぞ?

幼子までもだ。

国の建て直しで頭が痛い上層部が飲まない訳がない。

使者を斬られた遺恨があろうと、魔王のくびきから放たれた今ならな。」

「ザーベックの王はおりませんよ?

俺達が討ちましたから。

魔王の側で側近のようにしていたし、攻撃を受けたので。」

「なら、尚の事よ。

国内が乱れるのが目に見えているのに、外部からの侵略なんぞさっさと終わらせたいだろう。

自力で跳ね返せるとしてもな。」

二人のやり取りを聞いていても、「でしょうね」以外の言葉が浮かばない。

政治面までは読んでいなかった。

だが聞けばすんなり納得できた。

嫌悪を催す内容の有無は別としてだ。


メイドさんたちに囲まれ、全身くまなく香油やなんだで整えられながら、アーネスとジラルド様の話を眺めていた。

こんな状況でする話じゃないのは間違いないが、体中弄くり回されて整えられるのは俺ももう慣れた。

しかし心底どうでもいいが、成長したな、アーネスも。

初めての王都ではあれほど騒いでいたのに。


更にどうでもいい、愛すべき仲間三人のニヤついた視線は、完全に無視させてもらったが。


食堂に席を移し、食事をしながら続きを聞く事になった。

レミドは帰還の報告をしにイヤイヤながら王城に向かい、バルは帰って寝ると言って出て行った。

ジード爺様は「儂も諸用が出来た」とか言ってたが、大方トゥーレかジャスミン大聖堂神官長の所だろう。

腹立たしい。


「取り敢えず食べ給え。

宿も使わずの強行軍だったのだ。

その上で聞いていてくれ。」

目の前に並ぶ豪華で熱々の料理も、これから聞かされる内容を想像するとどこか空虚だ。


「褒賞だが、アーネストリー君には一代限りの公爵位が与えられる、封地無しのな。

だが俸禄は出る。

国内の通行権、通商権も与えられるし、王国所属の冒険者という地位は今後も保証される。」

砂でも噛んでいる様な顔で料理を詰め込んでいたアーネスは、なんの遠慮もなしに吹き出し咽た。

アーネスが盛大に巻き散らかした口の中の物を、メイドさんたちが淡々と片付けている。


なかなか嫌な線を突いてくれる。

どこで何をしてもいいが、お抱えの事実は忘れるなって事だろう。

いざとなったら国外にいても呼び戻す。

莫大な固定給をくれてやる代わりになと。

アーネスはどこに居ても、居心地が悪くなっただけだ。

国外ではこの国の公爵として遇されるのだから。


「ジェスター君にも一代限りの侯爵位だな。」

要らない。

「そう言うな。

アーネストリー君との釣り合いが取れる褒美など他にない。」

………口に出てたのか。

「バーゼル伯領の何処かに開拓地を下さい。

人一人が暮らせるだけでいいんで。」

眉根を寄せたジラルド様にあっさりと拒否される。


「それは流石に難色を示されるだろう。

功績ある者を開拓民に落としたとの誹りは必ず、それも多方から出る。

下級貴族からは、何をどうしたら栄達が得られるのかという、不安も湧く事だろう。

君にも侯爵位で封地無しの意味ぐらいわかるだろうしな。」

わかるんだけどね。

ああ嫌だ。

アーネスと俺。

どちらも意訳すれば「お前の生活は豪勢なものを用意して面倒見てやるから、好きにしてもいいけど余所に流れるな」って事だ。

逃げ場がない。

めちゃくちゃ嫌だ。


「ジェスター君が早すぎる隠居を望んでいるのは聞き及んでいる。

それが王都にて、では駄目なのかね。」

「俺にも故郷への愛着ぐらいはあるんですよ。」

「なるほどな。

本音かどうかは別だとして、理解は出来る。

何か折衷案を出せないか、陛下とウォルダート公に具申してみよう。」

陛下はまだしもウォルダート公が出して来る折衷案はむしろ怖いな。

とはいえ現時点では保留に出来たか。


「あの俺も断りたい………。」

アーネスが口を開くも、被されて否定された。

「無理だ。

重ねて正騎士団統括副団長という話もあったのだぞ。

冒険者を辞めさせて。」

流石にこれは嘘が混ざってる。

事実だったとしても、全軍撤退を具申した事で消えたのだろう。

アーネスが停戦の仲介人として指名される事を見越して。

王国が仲立ちに入った場合とを、秤にかけた上で。


「他の三人はどうなってるんですか。」

取り敢えず気になる事は聞いておこう。

情報は欲しい。


「バルガス殿は幾らかの金子と勲章、それと名誉称号として豪槍候が送られる。

幾らかといっても相当な額だろうがな。」

妥当だな。

バルドール商会って後ろ盾があっても、金は無駄にならないし。

俺もこのくらいならすんなり受け入れただろう。


「レミド殿はありきたりに昇進だ。

今は正騎士団軽騎士団副団長補佐だが、補佐が外れる。

軽騎士団は今後、研究と実務の副団長二人体制になる。」

ああ、元々の地位から行けばこれも妥当か。

俺が最初から騎士団入りを受け入れていれば、こんな着地もあったのかもしれない。

受け入れる余地がなかったけれど。


いや、本当になかったのか?

孤児の立場なら間違い無く、栄達のチャンスだったはずだ。

俺たちは、自由にってやつに夢を見過ぎてたのかも知れない。


「陛下もウォルダート公も頭を悩ませているのがジード老だ。

あの方は教会に属しているが、国に籍が無い。

グルード姓を認めて金子をという案も出はしたが、嫌がって国を出てしまう可能性が高い。

現に過去一度、辞退されておられる。

一応、冒険者資格を持たれているから国内での滞在に正当性がある。

だが逆にどこにでも行けてしまうというな。」

ある意味無敵か、爺様よ。

もういっそ俺も国を出るか。

刺客が今まで以上にぞろぞろ来そうで、それはそれで嫌だけど。

何処かに行きたかった理由は、この褒賞問題にあるのかもしれない。

まあ色々と見失ってたのと、嫌気が差してたは間違いないんだが。


「こんなところか、何かあるなら聞くが。」

「王都での俺たちの予定を聞いてません。」

「そうだったな。

明日は夜明け前に王城に登ってもらう。

陛下とウォルダート公と面談後、当館にて待機だ。」

なぜ待機とも思ったが、変に出歩かれても面倒事しか起きないと思われたのだろう。


「翌日午後、正式な拝謁と報告をしてもらう。」

段取りが大事とはいえ、行ったり来たり。

面倒なことだ。


「そこで此度の報奨が沙汰される。

その後、夜会が催される。

迎賓館にて一夜を過ごしてもらい、翌日のパレードに備える事となっている。」

既に今から憂鬱でしかない。


「明々後日だな、パレードの最後に大聖堂へ報告。

この後解散となるが二人はこちらに戻ってもらい、撤退開始の報があるまで待機だ。」

一連の流れはえらく既視感がある。

命がけの追いかけっこをさせられないだけ、今回はまだましだが。


ただただ滅入っていく気持ちをどうにも抑えきれず、ジラルド現バーゼル伯その人の前で盛大にため息を吐いた。

咎めはなくただ鼻で笑われ、さらに気持ちが滅入っていった。

最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます

モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネで表して頂けたら幸いです


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………


次回 王城の二人 (次回 2/22 19:00予定)

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