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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第二章 離別

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帰路に立って

「魔王討伐、完了しました。」

後方に張られた本陣のデカいテントに、先触れ無しで踏み入ったアーネスの第一声は、やけに平板なものだった。

表情もその内面を何も浮かばせてなく、何か無機質さがそこにはあった。


疲れが隠せない人類連合軍の首脳陣たちの顔は、一瞬の笑顔の後で、それはもう冷ややかなモノに変わった。

ただ一人、アゼストリア正騎士団副団長のクルガンだけは、眼を固く閉ざし腕組みしている。

冷たい視線の全ては俺に向けられていた。

まあ無理もない。

決戦場に残ってくれとの頼みを蹴ったのは、直接的には俺なんだから。


「魔王の唯一の望みは、全ての命の灯火を絶やし尽くすこと。

俺達がここに残っても、不毛な消耗戦を強いられるだけです。

皆様は遅滞戦闘に努めて頂き、我々は間隙を突いて魔王を討ちます。」


現実的に取れる作戦が、これしかなかったってのもある。

だが俺がそう告げた時の居並ぶ指揮官たちの顔は、渋面というものを正確に体現したものになっていた。

まあしょうがない。

逆の立場だったなら俺だって同じ様な表情を晒しただろう。


怪我を厭わず、死を恐れず。

魔王の強制力に囚われた魔族達は、ありきたりな言い方になるが屍兵となっていた。


護衛の騎士と立ち話をしていた時。

彼の後背から駆け寄って抱きついた魔族の子供は、笑顔で見上げるなり爆発四散した。


腰から下を失い、周囲の者全ての鼓膜を破らんとばかりに叫びを上げ続ける彼に、俺が出来たのはただ痛みを取ってやる事だけだった。

当時の俺は部位欠損を治癒できるほどの魔術の腕はなく、ジード爺様はたまたま別行動だった。


巻き添えでそれなりに負傷した俺だったが、大事に至らなかったのは彼が壁になってくれたからに過ぎない。

徐々に血色を失い、冷たくなっていく彼の手を握り、自分の無力さをただ感じるだけの時間を、あの後何度となく夢に見た。


記憶の蓋を固く閉ざし、普段はそれに苦しむことはない。

それでも時おり夢に見る。

俺が絶望って言葉を絵にするなら、彼のあの時の表情を描くだろう。


「それではこれにて。」


踵を返したアーネスを、彼らは誰も呼び止めなかった。

軽く顎を引き少し息を吐いて、俺も続いて退出する。

この場所に俺の、俺達パーティーの仕事は何もなかった。


本陣のテントを出ると、待ってるはずの三人がいない。

「あれ?いないね、三人とも。」

表情を柔らかく戻し、普段のややお気楽な口調に戻したアーネスが、キョロキョロしながら口にした。

いまだ集中が解けずにいた意識の端に、ジード爺様が負傷兵を治療しているのを拾う。

レミドは深いスリットが入ったローブを風にはためかせながら、宙に浮いて前線の方を見やっている。

バルは、あいつ、補給のテントでなんか食ってやがるな。

漏れたため息の後でアーネスに伝えると、小さく笑ってからジード爺様の方へと駆けて行った。


それに俺も続こうとしたがバルの手招きに気付きそちらに足を向けた。

「終わったか。

すぐに出るんだろ?

一応、奴らにも直ぐに出立だとは言ってあるぜ。」

近づくなりそう言ったバルに何か言おうとして引っ込めた。

目が俺を見ておらず、視線の先を辿ると護衛の騎士たちがこちらに背を向け何やら話していた。


「やっぱり駄目そうかな。」

「わからん。

ほんのり臭う程度だしな。

なんとなく嫌な感じがするのは、奴らより陣の雰囲気の方ってのもあるが。」

「魔王が倒されたのは嬉しいけど、俺には死んでて欲しかったくらいには思ってるんじゃない。」

「ここに残らない決断をお前が伝えたからってか、阿呆らしい。

指揮官ならお前の言ったことの正当性くらいは、理解できそうなもんだがな。

まあ兵士たちの顔色も良くなり始めてるから大丈夫だろ。

だがなんか気にかかるんだよな、理屈以外のところでよう。」

バルの言葉が、俺が集中を解けずにいる理由と重なるように思えて、思わず頷いた。


「で?どうすんだ?」

その言葉にジード爺様とアーネスを見やりながら答える。

「二人を手伝って、重症者の治療したら出発しよう。

彼らにも伝えておいて。」

「ジェス。」

歩き出した俺の背にバルが呼びかけた。

「ん、何?」

「そろそろ、笑ってもいいんだぜ。」

答えに詰まる。

と言うか困る。


「帰還するまでが冒険だろ?

もう少しだけ気を抜かずにいるよ。」

それだけなんとか絞り出して、治療を続ける二人のもとに駆け寄った。


二人は「対個」の回復に優れている。

ジード爺様は死にたてなら数人を蘇生させることが出来るし、アーネスも複数の部位欠損をたちどころに治してしまう。

俺は技量でジード爺様に、速さでアーネスに及ばない。

ただ俺にも一つだけ二人には出来ないことを持っている。

非接触による同時治療だ。


「集中状態」で周囲の者たちの魔力波長を読み取り、多少の時間差は出るもののほぼ同時、かつ触れずにある程度の治癒魔法をかける事が出来るようになっていた。

病源探索を使って怪我の程度を調べ、振り分ける。

アイツの知識でいうところのトリアージだ。


命に関わらない怪我人は放置して止血と体力回復を連続して行う。

その後は個別に治療していく。

出血を止めただけでは命を繋ぎ止められない者から順に。

間に合わなかった者も、魔力タンクのアーネスから俺を経由してジード爺様に魔力を渡す事で即座に蘇生した。

死後半日近く経過した者は諦めたけれど。


蓋をしていた記憶から、自ら命を絶った少女の死に顔が零れ落ちる。

首を振り、そっと記憶の底に戻して、汗を拭うアーネスとジード爺様に視線を向けた。

ちょうど日が落ちる頃。

夕日を浴びる二人がやけに眩しくて目を逸らす。

俺たちは歓呼の声を振り切って、戦場を後にした。


王都への道はいまだ遠い。

最短でも二つの小国を経由し、アゼストリア王国内の貴族領をいくつか抜けなければならない。

今はっきり、帰路についたはずなのに。

これっぽちも心が晴れる事がない自分に、ツバを吐きたい気分になった。


ザーベックの帝都から決戦場まで駆け抜けた時とはまるで違う、ゆったりとした速度で馬車は進む。

魔物と出くわした時でも俺達に出る幕はなく、護衛達が粛々と対処した。

俺たちが出なければならないほどの強い魔物とは遭わなかっただけ、とも言えるが。


俺の疑心とは裏腹に、大きなトラブルもなくたどり着いたその村は、激戦地に最も近い場所にあるにも関わらず賑わいを見せていた。


仮設と思われる倉庫が入村してすぐのところに立ち並び、兵站物質の一時集積地となっていた。

夜の闇を篝火が吹き払い、その周りには様々な鎧に身を包んだ軍属が忙しなく行き交う。

荷馬車を引く馬達や軍馬のいななきが喧騒に輪をかけ、その周りで人足として雇われたであろう大柄な男達が、夜にも関わらず汗を流していた。

騎士兵士の顔に見える疲労の色が濃かったが、その顔色はけして悪くない。


「俺たちを追い抜いて早馬が着いたのかもな。」

バルの一言にアーネスと俺は頷き返した。

それらを相手に商売をする村人たちの様子にも活気が見て取れる。

戦時特需。

言葉にしてしまえば一言だが、複雑な思いでそれらを見ながら馬車を騎士に預けた俺たちは宿に上がったのだった。


「やっとこさ終わるって話じゃねえか、魔族との戦争。」

「ああ、勇者様々だぜ。

魔王をぶっ殺してくれたらしいからな。」

「勇者万歳!」

「全くだ。

勇者一行が戦場を見放したって噂を聞いた時にはどうなることかと思ったけどよ〜。」

「なんだ知らねえのか。

戦場を見捨てる決断をしたのは、七神の祝福持ちの方らしいぜ。」

「知ってるよ。

魔王をやっつけに行くからじゃあな、って感じだったんだろ。」

「そうなのか?

俺はひたすら守勢に回って耐えてくれって言ったって聞いたぜ。

ここで全力でぶつかっても勝ち目がねえからって。」

「幼馴染だか、親友だかの勇者に手柄を独占させたかったらしいぜ。」

「なんだそりゃ、ひでえ話だな、おい。」

「とはいえ勇者だからこそ魔王の首が取れたんだろ。

それで戦争が終わったてんなら良いじゃねえか。」

「ちげえねえ、まさに勇者万歳ってもんだな。」


宿に併設された酒場では、仕事を終えた男達が噂話に花を咲かせていた。

噂の事実だけを切り取ればなにも間違いじゃない。

戦場を離れた俺達が魔王を討ち取った、それだけ。

なんともいえない失情感を味わいながら宿の手続きをする横で、アーネスが音を立て奥歯を噛んだ。

鍵を受け取り、握りしめた拳を震わすアーネスの肩に触れ促す。

戦勝気分で沸き返る、酒場という名の地獄からそっと離れた。


翌朝。

階下に降り朝食をとる俺達は信じがたいことを耳にする事になった。

「連合軍逆侵攻」

という、途方もなく馬鹿げた話だった。

いかがだったでしょうか、今回のエピソードは?


いやあ、重いっすね、へへ

こういう「重さ」は大好物なんですが、浮上するイメージがダメ親父にも湧きません(ダメじゃん)


以前、何処かの後書きでも書きましたが、ダメ親父のスタイルが、

「脳内アニメの書き起こし」

なもんで、しょうがないっちゃしょうがないんですが(ダメじゃん、二回目)


それでは次回でお会いしましょう

ダメ親父でした

m(_ _)m


次回 くすぶり

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