戦場への帰還 ー第二章 プロローグー
この第二章は序章からの直接的な続きになります
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2026-02-10 改訂
戦闘描写に明確な「書き漏れ」があったので、誤字の修正と合わせて改訂しました
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あれから七年。
随分、遠くまで来た気分だ。
パーティー離脱をみんなに告げた後、俺は記憶に耽り、歩き、耽り、また歩く。
ここまで数多の冒険を乗り越え、時に謀略に巻き込まれ、遂には魔王を倒すに至った。
そこで俺は折れてしまった。
それはもう、ポッキリと。
俺達の旅は楽しい事もあったけれど、それは屍山の小石か、血河に浮かぶ泡沫にも似た、儚い一幕でしかなかった。
この旅で得たものって結局なんだったのか。
血に染まった手と、その手にある一握りの充足感。
戦いへの嫌悪と、充足感と引き換えの喪失感と空虚さ。
一も二もなく「帰り」たかった。
でも何処へ帰るのか。
ディディの待つ、バーゼル伯領。
おそらくは歓呼をもって迎えるであろう王都。
どちらもピンとこない。
そこで俺はふと気付いた。
そうか。
俺はただ「何処かに行ってしまいたかった」だけなのだと。
「おっ、予定通り待ってやがるぜ、奴等。」
バルの声を耳にして、落としていた視線を上げた。
世の色を全て詰め込んだとでもいうような、煌びやかで極彩色の街並み。
しかし音が枯れでもしたようなその場所は、周囲に人気を感じず、ただ空虚だ。
そこにまるで染みか異物のように、馬車と馬を守る騎士の一団がいた。
紋章はバーレスト侯家。
アゼストリア王国までの帰路に付き従う、たった四人の護衛達だった。
ザーベック帝都。
魔王の強制力によって魔族は女子供まで全て決戦の地に送られ、異種族、行軍できない乳幼児、病人や老人は殺し尽くされた。
家畜やペットも、戦闘や荷役に使えぬものは例外ではない。
それはなにも帝都一都市に留まらずザーベック全土に及んだ。
死体は何処にもなかった。
骨片の一欠片すらも。
全て糧食となったから。
俺がそれを知ったのは、魔王の強制力から解いた少女の口からだ。
俺達に教えてくれたその少女は、自ら死を選んだ。
自分が殺めた、幼い弟を思い出してしまったから。
違うな。
殺めた罪悪感が強制力から解けたことで沸き起こってしまった、が正しいか。
虚ろな目で話す少女の顔を見ていた時と、その少女の亡骸を目にした時のアーネスの顔を、俺は思い出さずに避け続けた。
それまで潜ったどんな修羅場の時よりも凄惨な表情だった。
感情が抜けた全くの無表情。
アイツの知識を借りるなら、「能面」と言うのが最も近い。
喜怒哀楽がはっきりしたアーネスのそれは、冷たさと、虚無と、恐ろしさと、何か震えが来る様な、理解し得ない何か一色で塗り込められていた。
少女の死に何も感じない自分が悲しく、親友の心に寄り添えない事を淋しく思った。
それだけが理由ではない。
でも大きな要因の一つになって、俺は忌避していた戦いに思索の大半を振り向けた。
アーネスの思いから逃げたこと、それを恥じる気持ちが全て蘇ってしまうから。
「どうだ?」
短く問うバルに首を振った、班長の短いマントを付けたその相手は、直ぐに騎乗した。
他の班員も御者台やそれぞれの馬に乗る。
「やっぱりか、しょうがねえ。寄り道だ、戦場に向かえ。」
俺達が馬車に乗り込むと、最後のバルが全員に聞こえる声量で告げた。
ヘルムの面を下ろしたまま、一切顔を見せない彼らの動きを目で追う自分に、内心つばを吐きながら、深く座り直した。
無人とはいえ敵地のど真ん中。
ましてや最小編成の四人で警戒を解ける騎士なんているはずがない。
身に染み付いた疑心癖が抜ける日は、だいぶ遠そうだ。
決戦場。
人類側が勝手に言ってるだけで、魔王軍にその意識は無いだろう。
魔族だけでなく、魔物を含めれば百万を優に超える大軍勢。
事態を知った各人があの手この手で脅しすかし、各地の国や勢力で集まったのは五十万にも満たない騎士兵士。
幸いといえたのは、魔王軍がまるで押しつぶすかのように、一団となって進路を取った事だろう。
とはいえこちらの取れた戦術は相手方の進路上にある、狭い峡谷出口での遅滞戦闘以外になかったが。
俺達はそこに向かうべく馬車を進める。
寄り道から始まった帰路は、複数のいななきと、車輪から伝わる小さな振動で始まった。
車窓の景色が、ゆっくりと過ぎてゆく。
日が落ち始めた、色彩が乱舞する無人の帝都。
旅に出た頃なら間違いなく景色に瞳を輝かせただろうアーネスは、そっと目を閉じ腕を組んだ。
目的地には馬車で一日。
だが魔王軍の後背に向かうのは、俺達はまだしも護衛の騎士には死を意味する。
迂回して友軍の陣に向かうしかなかった。
三日は余計に掛かることになる。
普通なら。
「普通じゃない」俺達は、馬に回復魔法を使い、強制的にそれこそ限界以上に走らせた。
空腹と渇きはどうにもならないので、自分たちの休息も兼ねて与えたが。
むしろ騎士たちの方が過酷だっただろう。
馬を駆る騎士たちへの回復量は、わざと絞ったからだ。
バーレスト侯とは遺恨はあれど、何度も協力もした。
それと同じ位の刺客が送られてきた。
証拠は、無い。
だが協力した案件の先に何度も来たなら、少なくとも関連があると疑わざるを得ない。
勿論それと同等位には、他の勢力の刺客も来たのだけれど。
表立って敵対表明されたわけではない。
堂々と紋章を付けた護衛の騎士たちが刺客になることはないとは思う。
だが警戒をしないわけにはいかない。
内外両面に気が抜けぬまま。
俺達は計四日の距離を二日で駆け抜けた。
そこで目にした「モノ」。
それは戦場という名を借りた、ただの地獄だった。
血と鉄と肉、あらゆるものが焼ける匂い。
切り裂かれた臓物から溢れた汚物の悪臭。
そこかしこから漂い昇る煙。
人と魔物、それぞれが上げる咆哮と、それに混ざって聞こえる嗚咽と絶叫。
遠くの閃光が遅れて炸裂音を響かせ、地鳴りは両軍の軍靴のものか、魔法なのかの区別がつかない。
そのどれもが、絶え間無い。
とはいえ目にしたところで、今更それには何も感じなかった。
交戦が目視の距離になった所で俺達は、馬車から飛び出し最前線へと駆けた。
護衛の騎士たちは本陣へと向かわせた。
戦場を駆ける俺達の後を、歓声が追いかけてくる。
遅れて友軍の退き銅鑼が打ち鳴らされる。
それに合わせてレミドが上空へ、戦場全体から見えるように魔術で特大の閃光弾を打ち上げた。
友軍に告げる討伐完了と勇者到着の合図。
直後、最前に躍り出た俺、バル、ジード爺様が敵の初撃を止めた背後で、アーネスは人の頭部ほどある魔石を、抜き放った剣でためらいなく叩き割った。
魔王の魔石。
それが今、崩れ去った。
集中しきった意識の端で、ジード爺様の視線が背後へとかすかに揺らいだ。
刹那。
敵軍の動きが極度に鈍る。
特に魔族の大半は棒立ちと化した。
俺達は止まることなく敵軍に飛び込み、敵味方見境なく暴れ始めた魔物を狩り獲っていく。
無数のアンデッドはジード爺様が触れもせずに土に還す。
バルの槍は妖しげな煌めきを纏いながら、ほぼ一撃の元に大型の魔獣を屠る。
敵陣各所で上がる無数の蒼い火柱は、レミドによるものだ。
俺はピンポイントで人型や、小型でも致死の毒持ちを、魔術で地面から生やした石槍と、手にした剣で十を超える個体を同時に処理した。
アーネスは無表情のまま、俺たちの背中のフォローに回って手にした剣を振るい続けた。
やがて。
奥の魔物が、魔族たちの手によって狩られ始めた頃。
相手方の後退の鐘が鳴らされた。
後退していく魔族たちの顔に、喜色はおろか安堵すら浮かんでない。
いつぞやの少女同様、様々多様な罪悪感が襲ってきてるのだろう。
魔石になって尚も生き、縛り続けていた魔王の支配から、魔族たちが解き放たれた証のその音色は、交戦が止んでも暫く戦場に響き続けた。
勇者の帰還と停戦の喜びが、爆発的に広がる声と共に。
悲哀を感じる鐘の音と、歓呼の叫びを耳にしつつ、俺達は本陣に帰還の報告のため踵を返す。
直後に送られて来た魔族からの停戦の使者の顔を、俺達が見ることはなかった。
長らくお待たせいたしました
m(_ _)m
遂に二章の開幕です
前書きでも触れましたが、プロローグでパーティー離脱を申し出たジェスの続きになります
一章ラストから七年の月日が過ぎ、キャラ達にも幾らかの変化や成長が見られます
根っこの性格はそれほど変わってないですが果たして………
いよいよサブタイ詐欺からも脱却できそう(今更感)
「魔王討伐をやらんのかよ!」
って幻聴が聞こえるのですが、それは随分前に言った三章でやるのでお待ちを
m(_ _)m
初見さんも、今までの読者様にも楽しんで頂けたら幸いです
あっ、初見さんは是非最初から、ゲフンゲフン
おっと誰か来たようだ………
なお、一章は現在、修正作業中
誤字脱字、助詞抜け、表記ぶれの修正、細かな文章の見直し、改行の追加による読みやすさ向上です
筋や設定の変更はないので、既読の方は読まなくて大丈夫
あっ気になるなら読んでいただいても、ゲフンゲフン
おっと誰か来たようだ………
今回はこの辺で
ダメ親父でした
m(_ _)m
あっ、次回は明日更新します
次回 帰路に立って




