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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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SS.6 王都でのお買い物

お久しぶりです、ダメ親父です


今回のSSはSS.2を先に読むとニヤリとなるかもしれません

逆にこちらが先ならちょっとしたアハ体験があるかもです


それではどうぞ

_(._.)_

鼻歌を歌い、王都の通りを行くアーネスは後ろを行く二人から見ても、ちょっと浮かれて見えた。

バルは苦笑いを浮かべ、ジェスは呆れながらも心配していた。


緊張からの解放。


ここ数日の逃走劇と、それに続くパレードや式典が終わり浮かれるのはジェスにも理解出来た。

だが少しアーネスの感情の起伏が大きくなっているようにに思えて、そこが少しだけ気掛かりだった。


「そういえばさ、買い物ならバルの実家?でよかったんじゃないの?」

急に振り向いてそう言ったアーネスに、確かにとジェスも頷いた。


「あぁ、うちは小売はやってないんだよ。

あっちこっちの資材調達とか兵站支援が主になってるからな。」

頭を掻きながら答えたバルに、ジェスとアーネスは首を傾げた。


バルドール商会。

王都でも十指の内に数えられる大店で、大小の貴族家や各地の商会との取引、各技能系協会への資材調達、武器防具以外の兵站支援等で財を成した。

近隣諸国とも独自に交易を行っており、取り扱う商品も多岐に渡る。

木材、石材等の建築資材や各種金属鉱石とその副材。

獣脂や石炭、木炭等の燃料類。

タオルや包帯、毛布等の加工繊維。

テントや馬車覆い、馬具等の皮革製品。

塩、砂糖、香辛料、調合済みの調味料から穀類等の食品。

しかしこれらの商品を扱う様になったのは、ある程度の規模に発展してからの事だった。

それによってさらなる飛躍を遂げたのだが、最初期の発展のきっかけは若き日のバーゼル伯との初取引となった、小さな魔石にある事はあまり知られていない。

だがそれはまた別の話だ。


「てかお前ら、装備とは言っても具体的には何を買うんだ?」

バルが半ば強引に話を変えた。

「ああ、防具一式。

ナイフとかダガーとかサブの武器も考えてたけど、それはバーゼル伯に貰ったから。

それと冒険するのに使えそうな、小物類と靴の予備かな。」


バルが話題を変えた事に気付いたジェスは、ちょっと怪訝な顔をしながらも指折りながら答えた。

記憶に抜けが起こらないジェスにとってその仕草は、アーネスのためのものだ。

実際、アーネスは話を聞きながら、自分も指を折って確認する仕草を見せていた。


「そういや、前に言ってたな。

じゃあ防具から見に行くか、こっちだ。」

バルが顎をしゃくって促すと、三人並んで雑踏を横切って行った。


日差し眩しい王都の街並みは、何処に居ても喧騒からは逃れる事は出来ないようだ。

耳に届くご婦人方の井戸端会議の声色や、たむろする男たちの表情。

それらにほんの僅かだけ国王崩御の知らせによる湿り気を漂わせていはしたが、活気そのものが消え失せるなど、この巨大な街にはなさそうだった。


幾つかの路地を抜け辿り着いたその店の前で、アーネスは興奮を隠し切れていなかった。

というか隠す気もないようだ。

店先に飾られた、凝った造りのフルプレート。

関節以外にも可動部が設けられ、重厚な造りながら動きの阻害はなさそうだった。

磨き上げられた表面はさながら鏡のよう。

曲線が多用されたデザインの所為で、映り込んだアーネスの顔はひどく歪んでいたが。


「おい、カッコいいのはわかるけどフルプレートなんて買えないぞ。」

「わかってる、わかってるけどさ、こういうの憧れちゃうよね!」


ジェスとアーネスのやり取りを、苦笑いと生暖かさを混ぜたような表情で見ていたバルに、店の奥から現れた青年が声を掛けた。


「バル、久しぶりだね。装備の新調かい?」


細面でクセの強い赤髪のその青年は、顔に似合わずガッシリとした体躯の、おそらくはバルとジェス達の中間位の年齢で、人好きしそうな顔からは想像できないような低く野太い声の持ち主だった。


「おう、ナイジ、久しぶり。今日はコイツらのな。」

「へ〜。あれ?この子達って。」

「そう、今話題の勇者様と七神の祝福持ちだ。」


何時までも鎧の前から離れようとしないアーネスを放置してバルの話を聞いていたジェスは、ニヤリとしながら言い放ったバルにジト目を向けて非難した。


「ソレ、やめてよね。」


悪びれもせず、軽く肩を竦めてみせただけのバルに、ジェスが向けるその目は更に細まった。


「やっぱり。

バルの紹介抜きにしても今日は勉強させてもらうよ。

いいでしょ、父さん。」


振り返りつつそう言った青年の視線の先には、彼をそのまま一回り二回り拡大して歳を重ねさせたような壮年の男が、のそりと歩み寄り腕組みして立っていた。


「外がやかましいと思って出てみれば、お前か、バルガス。腕は上げたようだが中身はさして育っておらんようだな。

それでその子らはなんだ?

弟子でも取ったのか?」

「今の話、聞いてなかったのかよ、オヤッサン。

コイツらが勇者様と七神の祝福持ちだよ。」

「ほう、この二人が。

腕前はどんなもんなんだ?

死ぬとして、どんな死に様になりそうだ?」


驚いた表情で鎧から視線を移したアーネスと、軽く眉をひそめたジェスとは対照的に、バルはニヤリとした笑みを浮かべ小さく鼻を鳴らした。


「ベテラン相手に二人がかりでギリって感じだ。

今んとこは。

剣だけならそんなもんだが、魔法の腕もそれなりにあるから総合的に見りゃ、そうだな。

一人前にちょっとばかり毛が生えた程度にはやるぜ。

本格的な戦闘を始めて一月ぐらいでな。」

「ほぉう、で?」

「ああ、死ぬとしたらか、そうだな。

どうしようもないほど剣技や武術の差があるヤツとやり合って、魔術の搦め手も通じずにジリ貧ってとこだな。

それか危険度が噛み合わない魔物とウッカリ鉢合わせたとかか。」

「つまり、周りの支えがしっかりしてる今、滅多な事がない限り死なんという事か。」

「雑にまとめたな、オヤッサン。

てか、俺達のパーティーの事は知ってんだな。」

「そりゃあ、殿下の演説は嫌でも耳に入って来るってもんよ。

しかし剣と魔法、両方扱えてどちらも将来性があるのか。

なかなか悩ましいな、贅沢な悩みと言えるが。」


キラキラとした笑顔を浮かべっぱなしのアーネスと、話を聞きながら顔を曇らせため息を吐くジェス。

そんな対照的な二人をジロリと眺めやった店主は、剃り残しが目立つ顎をザラリと撫でやった。


「ふむ、体躯から見るに速さと手数で仕留める口か。

それか魔法を駆使して足を止めさせ、急接近してグサリというのも手に合うようだな。

可動域を殺さぬように胴は軽装備、手甲と脛当ては金属製か魔物素材で固めるのがいいか。

主武器はその腰から吊るした片手半なのか?」

「今の段階で色々触らせてもな。

器用貧乏になられてもだし、間合いの問題は魔法で補えるからよ。」

「よかろう。

本人達に、何か希望はないのか。」


話を振られたジェスが肩から下げた鞄から、親ムカデとやり合って壊れた手甲と脛当てを取り出した。

慌てた素振りでアーネスも続く。


「これって、再利用できませんか?」


受け取った店主はそれぞれの表面を、節くれだった手で一撫ですると軽く頷いた。


「使えはするが、表を見るに買いたてだろう。

どうやったらここまで壊せるのやら。

まあ詳しくは聞くまい。

裏張りに細工してやろう。

ロックリザードの背革だから、強度や衝撃に対する吸収性も、素材として悪くない。

となると手甲と脛当ては、薄くて軽いが通常の鋼板と同等以上の強度がある、魔石鋼製にこれを合わせるか。」

「聞いたことがない素材ですが、それってお高いんじゃ。」


やや顔を青褪めさせたジェスがこわごわと聞く。


「そうでもないぞ。

加工に技術が要るのと比較的新しい素材だから、誰でもおいそれと扱える物じゃねえ。

だが魔石を加工した際に出る屑をさらに粉にして、鋼材に混ぜてるだけだからな。

技術料が少し掛かるってだけだ。

そうだな、急所を魔石鋼板で補強した革鎧と合わせて、一人金貨四枚と大銀貨十枚でどうだ。

こやつの紹介はどうでもいいが、お国と教会に認められた勇者と七神の祝福持ちにはかなり勉強させてもらってるぞ?」

「オヤッサン、しょぼくていいから小さめの円盾も付けてやってくれ。」

「うちにはしょぼい物なんて置いとらんわ。

だがまあ、いいだろう。」

「前に聞いた予算的に、ちょうどいいだろ?

サブの武器を買い揃える分をまわしたって思えば、悪くない買い物だと思うぜ。」


顔を下ろしたジェスはアーネスと視線を合わせた。


「どうする?

俺はいいと思うけど。」

「うん。ジェスがいいと思うなら間違いないね。」


ジェスはため息を吐いた後、呆れ顔でアーネスを指さしながら言った。


「お前、少しは自分で考えたのかよ。」


一瞬、きょとんとしてみせたアーネスは、直ぐに満面の笑みを浮かべて言葉を返した。


「もちろん。

バルが変な店を紹介しないだろうし、こんな凄いフルプレートを作れるオヤジさんの腕だもん。

チラッと見たお店の革鎧とかと比べてみても安くしてくれてるみたいだしね。

その上でジェスが納得してるなら、俺も文句を付けられないよ。」


それを聞いてほんの半瞬、面食らった顔をしたジェス。

しかし直ぐに薄い、だが柔らかな笑顔を見せて店主に向き直った。


「それではお願いします。

代金は先にお支払いしますので、バーゼル伯の別邸まで届けてもらえますか?」

「待て待て、若いやつは気が早い、採寸諸々済ませてからだ。

出来合いの物だが、体に合わせて調整するからな。

素手と剣を握った状態でも、腕の太さに違いが出るんだぞ。

足だって同じだ。

鎧も体の可動域に干渉したんじゃ嫌だろう。

取り敢えず中に入れ。」


店主に促され店の中に足を踏み入れたジェスとアーネスは、そこから小一時間ほど掛けてじっくりと採寸された。

アーネスは終始キラキラしながら、ジェスは無の表情に、そして付き添いのバルは呑気に出された茶をすすりながら、鼻毛を抜いて盛大なくしゃみをするのだった。


「空間拡張した鞄とかないの?」


ジェスの問いかけにバルは渋い顔で返した。


「あるけど高いぜ。

俺も予備の武器防具を入れるのに持っちゃいるが、遺跡での拾い物だしな。

買うなら武器防具一式入れられるやつで、金貨十枚ってところか。

重量無視ってのが、付いてると五割増だな。」


渋面からニヤリとした顔に変えて答えたバルに、今度はジェスが渋い顔を見せた。


ベルトポーチ等の小物類と靴の予備を買いに寄った店でのやり取りだった。


「しっかし駆け出しだってのによくそんな事知ってんな、ジェス。」

「山のような財宝を手に入れた冒険者の英雄譚で、どうやって持って帰ってきたのか気になってたんだよ。

魔法でどうにか出来たのかって思ってたんだけど、魔道具の事を知ってから、そういうのがありそうだなって。」

「前世の男の魂の一部から引き継いだ創作物の知識」とは言えないジェスはポーカーフェイスでそう答えた。

「ああ、なるほどな。

まあ実際は金で人を雇って運び出させるんだけどよ。

その手のカバンは高えし、数も出回ってないしな。

人手に頼ったほうが安上がりって事さ。」

二人の会話を聞いていたアーネスは、この日何度目かわからないキラキラ顔になり、ジェスはといえば何やら納得したような感じで深く頷いた。


「しかしお前ら、靴の品定め長えな。

お前らってまだまだ成長期だし、安物はあり得んけどあんまり良いものを買ってもしょうがねえよ。

まあ不安だってならそこそこのを三足買っとけ。

ここのはあり合わせの部品で大きさや形状を、注文品に近い仕上げにしてくれるしな。

それともなんだ、身だしなみにでも目覚めたか?」

顔を赤らめワタワタするアーネスとは対照的に、ジェスはぶ然とした顔で口を返す。

「財布と相談してるんだよ。

バルの言うことは理解したけどさ。」

「ああ、全部合わせての予算が金貨七枚だっけか。

多少の足は出るがなに、出発までには幾らかの支度金みたいなもんが王家かバーゼル伯から出るさ、お前は嫌がりそうだがな。

ここまでさせといて、ご苦労さんで済ませたりしねえよ。

それにお前の事だから幾らか残しておこうとか思ってんだろ。

払えなくねえよな?」

「払えるけども、だよ。

それに貸与とはいえ俺たちはこの剣を渡されてるし、これ以上の金品を受け取るのはやっぱり嫌だよ。」

ジェスの言葉に渋面を作ったバルは、頭をボリボリと掻きながら盛大なため息を吐き出した。

「冒険者をやるなら装備品に金を惜しむなって誰かから教わってねえのかよ。

それに貴族だ王族だってのは体面を気にするから、貰えるものはおとなしく受け取る方が丸いってもんよ。」

それを聞いたジェスは、がっくりと項垂れながら片手で顔を覆い、力なく「わかったよ」とつぶやいた。

横でニコニコと二人の会話を聞いていたアーネスが、ジェスのつぶやきをきいて口を開いた。

「決まりだね。

じゃあ早速採寸してもらってご飯行こう。

さっきからお腹がすいたって思ってたんだ!」

その言葉にバルは歯を見せてニヤリと笑い、ジェスはさらに頭を垂れた。

なお一応は納得してみせたジェスだが、締めて金貨三枚と銀貨五枚の支払いの際、その手はかすかに震えていたのだった。


その後バルの案内で訪れたその店は、賑やかな商業区画とも飲食店が建ち並ぶ歓楽街からも離れた貴族街にほど近い、路地の奥に建っていた。

馬車では入れないような小道だが、その辺りには様々な食材を扱う小店が集まっていて、大通りの喧騒とはまた違う賑わいをみせており、漂う空気も何やら好ましい匂いからして違っている。


キョロキョロと店先を覗くアーネスと、店名と看板の意匠から何の店かを読み解こうとするジェスは、バルが生暖かく見ている事に気付いてなかった。


小枝をくわえた鳩をモチーフにした精巧なレリーフに「野鳩亭」と彫られた看板の店の前で、

「ここだぜ。

貴族なんかもお忍びで来る、ってな噂が出る程度には人気の店だぜ。」

と少しだけ大仰な仕草をしながらバルが告げた。

「えっ!それ本当?

だとしたらメッチャクチャ格式高い店じゃないの?」

ビックリ顔のアーネスに涼しい顔でバルは首を振る。

「眉唾だよ、そんなん。

少なくとも俺は、ガキの頃にオヤジとバーゼル伯が食ってたところしか見てねえ。」

「そうなんだ、ホッとしたよ〜。」

と言うアーネスの横で、

「それって少なくとも噂は事実って事じゃん。」

と呆れ顔のジェスはこぼしていた。


店内に入ったジェスとアーネスは二つの意味で驚いた。

一つは決して広くはない店内に、人一人通れるかといった間隔で席が設けられ、一つのテーブルを除き全ての席が埋まっている。

少し息苦しさを感じたほどで、外観の小綺麗で瀟洒な雰囲気との差があった事。

もう一つはそのほとんどが会話もなく黙々と食べていることで、会話をしているのは食後の雰囲気の席と、料理を待っていそうな席だけだった。


バルがためらいなく空いた席に向かうのを見て、二人もすぐにあとに続く。

遠目にも気付いてはいたが、小皿にナイフやフォーク等の銀器が既に用意してあることに、ジェスは少し驚いた。

もう一つの料理を待つ席にはそれらが並んでいなかったからだ。

席に座るとアーネスはジェスにはささやいた。

「みんなおんなじのを食べてるね。」

頷き返したジェスだったが、答えを返したのはバルだった。

「ここの名物なんだ。

他にもメニューはあるんだが、あれしか頼む奴がいなくなって、頼んでも品切れって言われるようになったらしいぜ。」

珍しくも抑えた声で話すバルの様子に二人の緊張感は増したが、

「はい、お待たせ、ゆっくり食べてね。

バル坊、後はあなた達だけだから、もうちょっとお待ちなさいな。」

と離れたカウンター席から聞こえた、優しくも大きな女性の声で少し和んだ。

二人が目を向けると、柔和な笑顔を浮かべた華奢だが背筋の伸びた老婦人だった。

「ちょっ、ばあちゃん!こんなでけえの捕まえて坊呼びはやめてくれっての。」

バルの抗議にその女性は、目を細め口元に手を当ててクスクスと笑いながら、奥へと下がって行った。

このやり取りの後、数人は食事の手を止めバルに向けて軽く手を挙げていた。

二人にはここがバルには馴染みの店だということがよくわかる一幕だった。

「てか注文っていつしたのさ。」

ジェスの呆れたような言い方に、ニヤリとした顔でバルは返した。

「夕べのうちに顔を出して昼の鐘の前に来るって伝えといたんだよ。」

「へえ、さっき小さい頃の話をしてたもんね。」

「ああ、それはまあ、うん。ここは母さんの実家だしな。」

「ええ!」

「ああ、そういう。」

対照的な二人の声が重なったタイミングで、二人の女性が香ばしげな匂いを漂わせ、料理を運んできた。

「はい、お待たせ。

ゆっくりどうぞ。」

その二人に顔を向けたバルは、大きく目を見開き勢いよく立ち上がった。

「か、母ちゃん!なんでいんだよ。」

そのまま口が開きっぱなしのバルの目が素早く彼女たちの後ろへと向けられた。

「お待たせ致しました。

さあ召し上がれ。」

バルの視線を追った二人の目に恐ろしく妖艶な雰囲気の、黒髪赤目の女性がいて釘付けになった。

もっともそこに立つ三人の女性はもれなく、街のどこにでもいそうな質素な給仕姿だったが。

「ええっ、ソリアまで?!」

変な汗を流し始めたバルは放置され、三人は手早く皿やグラス、ミードの小樽を並べていく。

その間も女性たちはバルには視線を向けず、ジェスとアーネスに代わる代わる声をかけていた。

「この子ったら、せっかく王都に戻ってきてるっていうのに、あっちバタバタこっちバタバタと駆け回って、これっぽっちも顔を見せないんですよ。

もうね、昔っからなのよ。」

「変に兄貴風、吹かせてないかしら?

昔から面倒見はいいから周りに慕われてはいるけど、おかしなことを言ったら蹴るなり殴るなりやり返してやりなさいな。」

「バル様は旦那様にも兄たる主人にも挨拶をされずに駆け回られて。

わたくしは主人からそれとなく事情を聞かされておりますが、奥様のお気持ちを慮ると居た堪れなく、こうして協力差し上げているのです。

今日とてお二方が商会に見えられたら、挨拶をさせて頂けるようにと伝えてあったはずなのです。」

なんと返していいのかわからないジェスとアーネスがたじろいでいると、三人が三人、声をそろえて、

「「ねえ、バル。」」

「バル様。」

とバルに向き直りながら言った。

それぞれの優しげな声音に反して、周囲の者たちも思わず首をすくめるほどの圧があった。

「あっ、いや。」

「いや?何かしら?言ってご覧なさいな。」

バルの母親が言い淀んだバルの言葉尻を捉えて笑顔で聞き返したが、同時にジェスの耳には聞こえるはずのない「ぐももっ」という効果音が聞こえていた。

ひょっとするとアーネスもそれに近いものを感じていたかもしれないが。

「ごめん、今晩、ていうか二人をバーゼル伯の別邸に送ったら一度帰るよ、母さん。」

それを聞いたバルの母の笑顔から圧が消え、ソリアと呼ばれた女性とバルの祖母は嬉しそうに頷き合った。

「あらあら、お二人にはお見苦しいところを見せてしまってすいませんね。

コレが紹介してくれないから失礼してわたくしから。

わたくし、コレの母でアナスタシアと申します。

こちらはコレの祖母で私の母のアイーシャです。」

「コレの祖母のアイーシャです。

よろしくごひいきに。

亭主のガストンは立て込んでますからいずれまた。」

「こちらはコレの兄、長兄ユグノーの妻でソリアです。」

「ご紹介にあずかりました、ソリアと申します。

これも何かのご縁、義弟共々よろしくお願い申し上げます。」

度重なる「コレ」呼ばわりにしおれていくバルを横目に、ジェスは丁寧に挨拶を返し、それを真似るようにアーネスもまた挨拶を返していく。

「食前に長々と失礼を。

まだまだ熱々なのでどうぞお召し上がりを。

では。」

アイーシャがそう告げて下がっていく三人から視線を離したジェスとアーネスが目の前の料理に見ると、そこには小ぶりだがふっくりとした丸焼きの鳥が何かの穀類を炒めた物の上に置かれた豪快な一品だった。

頭も足もついている。

何ともいえない見た目だが、飴色に輝く表面は薄く昇る湯気と共に、何と言い換えをするかわからない香気を放ち、嗅覚からは確かにジェスとアーネスの胃袋を刺激している。

「えっ、なにこれ?!凄っ!」

少しは立ち直ったのかニヤリと笑顔を見せて、

「ここの名物、野鳩の丸焼きだ。

オーブンでじっくり焼いてあるから美味いぞ。

とにかく食おう。」

と二人を促した。

「えっ、鳩?えっ、これ、鳩なの!?えっ食べちゃうの、鳩?!」

少し困った顔でワタワタするアーネスに、

「いいから食え。」

とだけ言ってバルは自分の鳩の腹にナイフを入れ、柔らかな部位から食べ始めた。

一口頬張ると十分以上に咀嚼し、口に肉が残っているであろうにフォークで炒めた穀類すくい頬張る。

またもしっかりと咀嚼すると飲み込み、すぐさまグラスにミードを注いで一息に喉を鳴らして飲み干した。

その後に続くのは満足げな表情とため息だった。

その様子を見てこわごわながら、ジェスもナイフを手にしてバルの手元を見ながら腹の肉を切り分け口にする。

口に入れるなり彼にしては珍しく驚き目を見開いたジェスが、咀嚼しながらも切り分けられそうな柔らかな部位にナイフを向ける。

そしてためらいながらジェスも穀類を炒めたものとまとめて口に放り込んだ。

飲み込んだ後、ため息が漏れるジェスのその様子に惹かれたのかアーネスも続いた。

ジェスの様子を丸写しにしたようなアーネスは、ため息の長さまで彼と同じだった。

「これ、麦かと思ったけど違うね。

香ばしさがまるで違うよ。」

アーネスの誰に向けられたでもないこぼれ落ちるように出た言葉を、拾う者はいなかった。

一通り柔らかな胸肉を食べた後、バルは手づかみで片脚をもぎ取りかぶりつく。

またも驚いてバルから視線を振り向けたジェスの目に、ナイフなど使う人の姿はみつけられなかった。

皆一様に手でかぶりつき、小骨をしゃぶっていて、店に入った時の人の数に見合わぬ静けさの理由に思い至った。

そしてジェスもまた、もぎ取った脚にかぶりつくのであった。


小骨をせせりながら機嫌良さげにやや調子外れの鼻歌を歌っていた。

「珍しい感じの曲だけど、なんかイイね、それ。」

「ん?お、おう。」

なんとも歯切れ悪く答えたバルは、耳どころか首まで赤くなっていた。

その様子にアーネスは首を傾げ、ジェスは少しだけニヤリとしてみせるのだった。

赤面したままのバルは首肉をひとしきりせせった後、頭を咥えて「何かを」吸うと、一口残ったミードを一息にあおった。

「ええっ。」とつぶやくアーネスと、そっと目をそらしたジェス。

だがその視線の先には同じように頭から何かを吸う妙齢の御婦人が目に入り、顔を青ざめさせた。

結局は二人もそれぞれの形で食したのだが。

改めまして、お久しぶりです

ダメ親父です

_(._.)_


え〜、本編と過去のSSと比べてもえらく長くなりました(汗)

これでも一部、蛇足感があって削りました(帰宅シーン)

とはいえ色々仕込めたのでダメ親父比で満足した出来になりました


もう一本、SSを用意していますので、そちらを投稿してからいよいよ第二章開幕です


では次のSSでまた

ダメ親父でした


m(_ _)m

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