プロローグ
はじまりはじまり〜
剣戟。爆風。怒号。
今では慣れてしまって、恐れを抱く事はなくもない。
慣れたけども自分がやる分にはそれなりに怖い事もあるって事だ。
相手が五分以上の手合なら、まあ怖い。
ただビビり散らかすだけなら怪我か最悪、命を持っていかれるんだからビビりつつも冷静さを保たなきゃならない。
「最後まで生き残るのは勇敢な臆病者」って誰かが言ったらしいが、俺個人としては勇敢より「冷静」を推すな。
まあ今はそれを言っても仕方がない。
だって目の前で繰り広げられているのは、俺を含む勇者パーティと魔王とその幹部の戦いなんだから………。
「あまねく光、力を持ちて集い、爆ぜ、穿て、先の果て、産まれ来る闇をも払え」
詠唱中に別の魔法を無詠唱で構築し、氷の矢を牽制の為にバラ撒く。
不自然な軌道で仲間達を避け、標的に向かう氷の矢を相手も切り払い、叩き潰し、避ける。
「流石、魔王軍幹部」っていう感じだが、どうしたって生じる隙を見逃す程、甘い俺達ではない。
バカデカくて、赤黒い甲冑の「お前の方が魔族軍幹部っぽい」戦士の槍が裂帛の気合とともに、捻りを加えながら魔将の腹部を貫いた。
引き手の方が速いのは「基本」らしい。
ほぼ同時に、別の魔将が青い炎の柱に飲まれる。「白髪」って言われるとキレ散らかす銀髪の女魔術師の魔法が、ここぞのタイミングで決まった。
美人だが正直、嫁にしたくはない。
怖いから。
氷の矢を払う為、伸び切った腕の裏を取るように、懐に入った「やたら、無駄に、イケメンな」爺様の掌底が脇腹に吸い込まれ、その魔将の身体は鎧ごと、横にくの字に曲がって壁まですっ飛んで行く。
イヤな音と轟音を同時に響かせた後、崩れる様に倒れた。
魔王軍。
人類の生活圏に戦争を仕掛けて来た、魔族国家とその軍団。
近衛軍を残しての全面攻勢に出た隙を突く、少数精鋭による一点狙いの作戦。
今まさに、その最終局面。
後は魔王ただ一人。
俺は詠唱中の魔法をキャンセルしつつ剣を握り直すと、覇気だけで氷の矢を霧散させた魔王と対峙する、親友にして唯一無二の勇者の元に駆け寄った。
「なあ、俺パーティ抜けて引退したいんだけど」
前を歩いていた四人が「ピタリッ」という擬音を俺に幻視させながら立ち止まった。
「理由を聞いても?」
背中を向けたまま、勇者であるアーネスが聞いて来る。
まあ理由を問うのは当然だろう。
特別なにか不和かあるわけでもなく、むしろ家族以上とも言える関係の俺達だ。
「正直に言うともう戦いたくない。殺すのも殺されるのももう沢山だ。」
俺がそう言うと四人はゆっくり振り返り、なんとも微妙な笑顔を向けて来た。
「まあ、分かるけども。」
「そうね、あなたならそうなるわよね。」
「そうさのう、いつかはそうなるんじゃないかとは思っておったわ。」
「うーん、もったいねえなぁ。」
四人が四人とも、分かってたって感じの反応に今度は俺が微妙な顔をする番だった。
「ジェス、抜けてその後は何をするつもりだい?」
近くの岩に腰を下ろしながら、アーネスが聞いて来る。
戦士のバルはガチャガチャと鎧を鳴らして。
魔法使いのレミドはフワリと優雅に。
モンクのジード爺様は音も無く。
それぞれが腰を下ろした。
「村に帰って落ち着いたら、今度はのんびりと旅をしたいんだ。旅じゃなくても、のんびりって感じで何かしたい。」
そう言ってから俺も草の上に腰を下ろす。
「それもまあ分かるけども。てか、お前の村って家族とか残ってないだろ。故郷に帰りたいとか、気になるとか、そういう気持ちはわからないが。でもまあ察する事は出来るけれどもさ。」
アーネスは額に手を当て目を閉じて言った。
「お前さん分かっておるか?」
ジード爺様が若い頃にはさぞやモテたであろう、イヤ今もモテるけども、その顔をやや歪め、ジト目を向けて来る。
「何がさ、爺様」
四人が同時に大きな溜息を吐く。
「俺とお前が剣で戦えば、九対一で俺が勝つ。ただ一でも勝てる実力は世界でも五本指で余る実力だ。そして何でも有りになったら勝率は逆転するな。」
バルが自分の後頭部をワシワシしながらそう言った。
「私もそうね。魔法戦なら九割がた勝てるけれど、何でも有りならまあ無理ね。」
レミドもジト目を向けながらそう言って来る。
ローブの裾から太ももを放り出し、女の子座りをしているが付き合いが長いのもあって、「健康的だね」以上の事は出て来ない。
「ワシも似たようなもんじゃ、徒手なら九分九厘勝てるが何でも有りとなるとな。」
爺様が口髭をしごきなから、ジト目をやめない。
「剣も魔法もほぼ互角、勇者の加護と装備の差でちょっとだけ俺が有利だけど、お前は俺に勝てる可能性がある二人の内の一人だからなぁ。」
アーネスはアーネスで遠い目をしてそんな事を言う。
勇者パーティ。
愛着がない理由じゃない。離れ難さも感じている。
でも、でもだ。
魔王を倒し、この冒険の大目標を達成した今。
何かがプツリと切れてしまった。
戦いが日常のこの生活は、終わりにしたかった。
そして、唯一無二に近い親友の、幼馴染のコイツと少し距離を置きたかった。
望んでの事じゃないが。
「何だかよくわからない義務感と、何よりお前達がいたからここまでやってこれた。でも………。」
「分かってるよ、だから引き止めない。ダチまでやめようってんじゃないんだろ?ジェスター・トルレイシア。」
俺達四人だけの時にしか使わない砕けた口調と裏腹に、真剣な表情で俺を見つめ、勇者アーネストリー・トルレイシアは拳を突き出した。
歯を見せて笑う口元に「キランッ」とかいう擬音を俺に見せながら。
以後よろしくお願いいたします。
お読みくださって、誠にありがとうございます。
ダメなおっさんの、駄文ではございますが、今後のモチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします。
「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………。
次から、本編スタートです
では!!