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グランデ・ヴァイオシス  作者: 赤綿棒
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2.骨の怪物

とある日、スヤクは財布の中を確認する。

中には、数枚の銅貨が入っているだけであり、とても心もとない状態だった。


「まいったな、散財しすぎた」


ここ最近のお金の使い方を思い出し、頭を抱える。

仲良くしている冒険者達との飲み会、様々な雑貨を買い、夜の店にも遊びに行くなど日銭を稼いで生きている身にとっては、きつい出費になった。


「やばい、装備に使う金がなくなっちまった」


討伐など危険を伴う依頼を受けないようにはなったが、常に装備の状態を保っておくのは、冒険者として義務である。

仕方ないと頭を切り替えて、仕事の斡旋をしてくれる冒険者ギルドに行くことにした。

△▼△▼


冒険者ギルド

登録している冒険者に依頼を斡旋している他、モンスターとの戦闘で得られたドロップ品の換金、報酬の支払い、冒険者の等級の審査など多岐にわたる仕事を請け負っている冒険者にとってなくてはならない存在である。


「すいません、依頼を確認したいんですけど」


依頼内容を確認するために、受付嬢に声をかける。


「はい、どのような依頼をお求めでしょうか」


丁寧な口調で、愛想がよい笑顔を浮かべ、可愛らしい雰囲気というのがピッタリな小柄の女性は、スヤクにどのような依頼を紹介して欲しいか聞いてくる。


「採取系の依頼を見せてもらえますか」


スヤクは普段からしている採取依頼がないか確認する。


「そうですね。採取系の依頼ですとこちらの二つがございます」


紹介された依頼は、往復だけでも一日を使ってしまう森での薬草採取、もう一つは、少し離れた洞窟で鉱石を採ってくる二つになっている。


洞窟は、薄暗く数体モンスターがいるので、注意を払いつつ奥へと進む必要がある。森での採取は単純に距離がありすぎて、受けるのに躊躇ってしまう。


「どちらにいたしますか?」


受付嬢の問いに、少し考え、これにすると一つの依頼選び答える。


△▼△▼


スヤクは、鉱石採取という依頼のため、洞窟に赴いていた。

「いつもの鉱石採取だし、最低限の装備でいいかな」

安物ではあるが手入れはしているショートソードに、投擲用ナイフを二本、鉄の軽鎧、回復薬一個、灯り用のランタン。

回復薬の数は心もとないが、手持ちのお金が少ないので我慢する必要がある。洞窟の中は弱いモンスターが数体いるだけではあるが、光を弱め、気づかれにくい様に奥に進む必要がある。三級用の簡単の依頼とはいえ、戦闘はなるべく避けたい。

普段からこなしている依頼ではあるが、モンスターとの戦闘には未だにトラウマがある。


「よし、行くか」


ランプの光を弱めに調整し、奥へと足を進めた。


「おかしい、モンスターが全然いない」


最初は、姿が見当たらないと警戒していたが、奥へと足を進めても、モンスターと遭遇することはなかった。あまり住み着いていない洞窟とはいえ、普段は、数回ほど戦闘が起こる。

しかし、現状、不気味なくらい静寂な洞窟に違和感を覚える。


「さっさと帰ろう」


洞窟の奥へと到着し、依頼の鉱石があるのを発見する。鉱石の方まで近づき、素早く回収する。来た道を戻ろうと踵を返した。


その瞬間、背中に強烈な痛みと熱が走った。


切られたと認識した瞬間、頭が真っ白になり、一瞬硬直してしまう。


(やばい!)


正気に戻った時、背中を切った正体不明な敵は、次の攻撃のため機械の腕を振りかぶる。それを認識するより早く前に転がる


立ちがった瞬間、距離を離し。手持ちの回復薬を飲む。

血を止めることができ、目も前の敵を確認する。


そこにいたのは、見たこともないモンスターだった。

スケルトンの姿に近いが、あまりにも禍々しい表情をした頭蓋骨、人間の腕がついた左腕、機械化し爪が鋭利な右腕、中でも最も注目したのは真っ赤に煌めく核のようなものが、心臓が位置する場所に存在していた。


(何だこいつは、スケルトンの変異種か⁉)


対峙している正体不明なモンスター前に、背中から感じる激痛と死ぬかもしれないという恐怖に、逃げるという選択肢しか浮かんでこない。

しかし、モンスターは時間を与えないとばかりに突っ込んでくる。


(くそ、逃げられない!)


相手の動きは、そこまで速くなく、目で追える程度だ。

すかさず、牽制のためナイフを一本投げる。相手は、機械の腕でガードし、突っ込んでくるが速度は少し遅くなった。


すぐさま横に転がり、攻撃をよけ、敵は横を通り過ぎる。そのまま、弱点と思われる核を狙いナイフを投げる。


(背を向けた状態なら!)


ナイフはまっすぐ核に向かう。だが、相手はすぐに動きを止め、上半身を半回転させ、人の腕がついた腕にナイフが刺さりガードされる。


スヤクは、ショートソードを構え、牽制を行い、次の攻撃に備える。目の前の敵はこちらの様子を窺うように睨んでくる。


(どうする⁉)


激しく鼓動する心臓、汗は滝のように止まらず、すぐさま逃げ出したい気持ちから吐き気がこみあげてくる。

何とかそれらを堪え、自身の状態を確認する。残りの装備は、ショートソード、ナイフが一本と、ランタンのみである。

背中の傷は、血は止まったが戦闘が長引けば、傷が開いてしまうような状態で、最悪に近い。


視線を出口への道に向け、どうやって目の前を防いでいるモンスターを避けるか考える。


おそらく、目の前の敵は、スケルトンの亜種と考え、弱点を思い出す。

洞窟の道は、普段から活動しているので、全部の通路は把握している。


敵は、じりじりと近づいて、壁へと追いつめてくる。


(腹をくくるしかない!)


思考は、生存することのみに集中する。

スヤクは、残ったナイフを核に向けて投げつける。攻撃は、機械の手によって防がれてしまう。次に、腰に下げていたランタンを投げつける。モンスターは、すぐにそれも叩き落し、突っ込もうとする動作をする。


ランタンの中の魔晶石が割れ、まばゆい閃光が周りを照らす。


敵は目に光が入らないように手で防いでいる。

スケルトンと同じ特性とあたりを付けたのが功を制し、怯んでいる隙に出口に向かって駆け抜ける。


(暗くなる前に奴から離れる!)


全力で目の前の脅威から離れるために勘を頼りに暗闇になった洞窟を走った。


△▼△▼


暗闇の中、勘を頼りに道を走り続ける。


「うわ!」


足がもつれ地面にこけてしまう。


どのくらい離れられたか分からないが、息を整えるため、ぼんやりと輪郭が見える岩の陰に隠れる。


(落ち着け、道は間違っていないはず‼)


頭に洞窟の道順を思い浮かべ、自分がどの位置にいるか大雑把に把握する。

あのモンスターの正体やどこから現れたか、気になることは多いが、生存のために頭を使うことを優先する。


息を整え、すぐに移動しようと岩陰から出ようと立ち上がろうとした。


奥の道の方から足音が聞こえてきた。


全身から汗が吹き出し緊張が走る。

体をすぐに隠し、足音を聞き取ることに集中する。


(落ち着け、姿が見えなければ、問題ない!)


破裂しそうなくらい心臓の鼓動が激しい。死ぬかもしれない恐怖に飲まれそうな心を抑え込み、通り過ぎるのを待つ。


足音が近づいてくる。

久方ぶりの激痛にトラウマを刺激され、今すぐ逃げたい衝動を抑え込み、バレないように物陰に身を隠す。


(死にたくない‼)


音が離れていくのが聞こえる。

完全に音が消えた後、蹲り身動きが取れずにいた。


このままだと、見つかるかもしれないと思い。とにかく行動しようとする。


(どうする⁉隠れる、引き返すか、それとも、前に進むべきか⁉)


混乱する頭で思考しようとするが、考えがまとまらない。


結論が出ないまま、時間だけが過ぎる。その場から動けずいた時、何かが壁にぶつかり、自分の近くの地面で割れる音が聞こえた。

その音と同時に、閃光によって視界が真っ白に塗りつぶされた。


閃光を防ぐことができず、光が目に入り、視界が真っ白に潰されてしまい、パニックなり、岩陰から声を荒げて転がり出てしまう。


目が開けられない状態で、何とか立ち上がろうとした瞬間、腹に何かが刺さる感触を感じた。

思考が空白になり、後から痛みがやってくる。


「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


腹から刺されたような感触、激痛に悲鳴を上げ、硬直してしまう。直後、前から衝撃あり、地面に押し倒される。


受け身も取れず、呼吸ができない。

そして、上に重さが加わり、喉に向かって何かが突きたてられた。


「アッ・・・ガ・・・‼」


体が痙攣し、口の中に血が溜まる。

意識が薄まっていき、死ぬことを頭の冷静な部分が認識する。


自身の最期を悟り、薄れゆく意識の中で見たのは、口を開けて、食らおうとする骸骨の姿だった。


△▼△▼


「・・・ッウ‼」


どのくらいの時間が経過したか分からないが、意識を取り戻した。


「ああああああああああああああああ!!!!!!」


薄れゆく意識の中で、食らおうととる骸骨の姿がフラッシュバックし、叫んでしまう。


とにかく逃げようと、立ち上がろうとし、自身の体が視界に入った。

まず、手が目に入る。そこには、先程まで追いかけてきていたモンスターの機械の腕がついている。そして、足も目に入り、骨だけになり、肉も肌もついていないことがわかる。


「何で見える⁉」


洞窟の中、暗闇で全く見えなかった視界が、はっきりと見えており、頭が混乱する。

今、起こっている出来事を頭で理解することができずに、呆然としてしまう。

自分が、モンスターとなったといい事実を受け止められるわけがなかった。


スヤク・キーシャのモンスターとしての物語は、ここから始まる。


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