1.スヤク・キーシャ
赤綿棒と申します。
初投稿です。温かい目で読んで下さると幸いです。
この世界は、精霊から得られる魔力によって、生活を豊かにしている。
精霊の魔力が結晶化した石を魔晶石と呼び、石に宿る様々な性質を生活に利用する。光ならランプとして、火なら物を燃やす火種として活用できる。
そして、人は精霊と契約をすることにより、魔術を使用することができる。契約内容は、人によって違い、簡単な内容から難しい要求をしてくる精霊までいるという。
数やどのような性質の精霊と契約できるかは、生まれた時の素質によって決まっており、一体も契約できない者も少なくはない。
精霊と契約できる若者は、様々なモンスターを倒し、名を馳せ、大金を稼ぐことを夢みて、冒険者となる。
冒険者には、三級、二級、一級という位があり、半数ほどの者が三級として活動を終える。一方で、ごく一部の才能を持った者のみが、一級冒険者として、成功を収めることができる。
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大陸の西に位置する国、クロークニア、その首都に位置する街に、一人の青年がいた。
彼は、冒険者としての仕事をこなすため、森の中にいる。
彼は、頭の中で、ある言葉を思い出していた。
「冒険者で成功する奴は、生まれた時から決まっている」
(誰が言っていたか、本当にその通りだな)
茶色の短髪、顔はそこそこ整っているが、頼りなさそうな雰囲気のせいで、ぱっとしない印象の冒険者、スヤク・キーシャは森の中で薬草を探しながら、ふとそんな言葉を思い出していた。
子供のころ様々な冒険譚を聞いた彼は、冒険者になりたいという夢を抱いていた。
しかし、彼には精霊と契約できる素質はなかった。魔術も使えない彼は夢を両親から反対され、家業を継ぐはずだった。
十六歳になった時、冒険者になりたいという夢を捨てきらずにいた彼は、両親に冒険者になると啖呵を切り、勢いのまま家を出た。
最初は勢いだけで首都に赴き、冒険者として活動を始めたはいいが、実力も人脈もないただの若者に一級冒険者がこなす任務が任されるわけもなく、三級として、薬草や鉱石採取といった初心者用の地味な依頼を数か月行っていた。
自分が思い描いていたドラゴンなどの強いモンスターを倒し、すぐに一級冒険者として活躍し豪華で華やかな生活をするとはかけ離れていた。日銭のために毎日地味な肉体労働を我慢して行っていた。
派手な啖呵を切って家出したため、出戻りするわけにもいかず、やめたくなる気持ちを堪え、ひたすら機会が訪れるのを待つ日々を過ごした。
モンスターの討伐依頼を受けられるようになった時、飛び上がりたくなる気持ちを抑えるので大変だったのを覚えている。
初の討伐依頼は、墓地に現れたスケルトン、十体程を三人パーティーで退治することだった。
初心者は、モンスターの生息が少ない土地に派遣される。そのため、採取系の依頼の際も、何度か遭遇したことはあるが、一体、多くても二体くらいしか戦うことはなかった。
初めての討伐依頼、絶対に成功させると意気込み、図書館にある資料から特徴を調べ、先輩冒険者に少ない財布から謝礼を払って、必要な道具から戦闘で気を付けることを教えてもらった。
万全の状態で挑んだ初討伐任務、現地で合流した2人の冒険者と軽く打合せし、出没時間の夜まで、待機した。
スケルトンは、物理では死なず、魔術師の光の魔術によって、退治することができる。匂いや音は聞き取れないが目視によって敵を識別する。
作戦は、光の精霊の魔力が込められている魔晶石を投げ込み、割れたことによって生じた閃光で視界を奪う。自分を含めた前衛2人が相手に奇襲をかけ混乱を生んでいる隙に、光の精霊と契約している後衛の魔術師が対アンデット用魔術で一掃するというものだった。
昼間のうちに出現ポイントの範囲に解除の魔法陣を書き、武器や装備の準備も怠らなかった。
時間になり、スケルトンが出現する。数も情報通りで、魔法陣のポイントに出現した。
投げ込まれた魔晶石によって閃光が発生し、相手の視界が奪われ、後衛の魔術師が呪文を詠唱している間、混乱している敵に二人が剣を持って襲い掛かる。
混乱により、奇襲は成功し、だいたい一分ほどで、魔術が発動し、スケルトンを一掃する。すべての敵が片付いたと思ってしまう。
気を緩めた直後、死角から飛びつかれ上に覆い被られる。そして、どこから拾ったか分からない錆びついたナイフを肩に刺された。
肩から感じる初めての激痛、頭はパニックに陥り、上に被さっている敵を必死に払いのけ、逃げることしか頭になかった彼は、全力でその場から逃亡した。
逃亡した後、時間が経ち冷静になった際、抱いた感情は、死への恐怖と逃亡した自信に対する失望だった。
後に、合流した二人とどのような話をしたかは、覚えていないが、依頼自体は達成し、報酬も貰うことはできた。逃亡のことに関しても追及はなく、すぐに解散となった。
だが、これ以来、モンスター討伐を受けることはなくなり、日銭を稼ぐだけの惰性な日々を送るようになってしまった。
一年が経過し、成り上がりたいと思っていた情熱もなくなり、痛い思いをせずに、楽にお金を稼げればいいと思うようになった。
上に行こうという気概もないが、長く続けると楽な仕事の仕方を身に着けられるものである。
冒険者を辞めようとも思ったが、実家にも帰ることできず、生きていくために、停滞した気持ちを抱えたまま冒険者を続けていた。
「よし、集まったな」
パンパンになった自分の袋を見て、満足げな顔をする。
「まだ、早い時間だし、どうしようかな」
楽な依頼をこなし、早々に町に向かって足を進める。
今日も、楽に日銭を稼いでダラダラと一日を終えるスヤクであった。