十年前に埋めたものを掘り返す。
「うふっふふふっ・・・」
私は敷地の一角にあるこの家の廟所の脇に、十年前に埋めたモノを取り出すために土にまみれながら、掘り返していた。
普段はフォークやナイフ以上に重いものを持ったりしないけれど、そんな私がスコップを持って土を掘っている。
十年。毎日毎日この場所を掘り返す日を楽しみにしてた。
そう、十年前にもこうやって土を掘った。
水を撒き土を柔らかくして少しずつ、少しずつ穴をほった。
二m程の掘るのが理想だったけれど、私の体力では一mとちょっとくらいしか掘れなかったことを思い出す。
浅く埋めてしまったことで野生動物が掘り返さないかそれだけが心配だった。
丁寧に丁寧に掘り進め、やっと十年間待った人と出会えた。
土にまみれた白い骸骨。
何一つ残してはならないから、丁寧に丁寧に掘り進めた。
驚いたことに髪は土に還らなくて残っていた。
丁寧にその髪も拾い集め、これも綺麗にしなければならない。
「ああ、大変な作業になるわ」
それが凄く嬉しかった。
一つ集めるごとに彼が帰ってくる。
全てを掘り返して、丁寧に水で洗っていく。
この日のために用意した台座の上に、本に書かれているとおりに骨を並べていく。
骨の順番を間違えないように気をつけながら、元気だった頃の彼を思い浮かべながら並べていく。
指先の骨が足りなくて、土の中を丁寧に探す。
三時間掛けて見つけた時は、歓喜に震えた。
大切な人の一欠片すら手放せない。
彼は土の中に埋められた時、どんな思いだったのだろう?
わたしのことを考える時間はあったかしら?
どれくらい苦しんだのだろう?
まさか私以外の人に触れる日が来るなんて思いもしなかった。
ついカッとしてしまって、何日も何日も掛けて穴を掘って彼を閉じ込めてしまった。
彼に触れられた彼女は森に連れて行って、一緒にお茶を飲んで意識を失ったのを確認して死なないように出血させて、獣に襲わせた。
大丈夫。死んだことは確認したから。
落ちていた足が発見されて、山狩りが行われて半分かじられた頭部が見つかって彼女だと判明した。
彼女の家の人が必死に体の部位を探して棺に入れるのを見て、私は嬉しくて涙を流して葬儀に参列した。
私の涙を見て彼女のご両親や兄弟は私を抱きしめて、私を慰めてくれた。
私も慰め返した。
背中を擦られて私はおかしくて体が震えた。
棺の中は遺体を見つけられなかった為、片足しか入っていなくてとても軽そうだった。
私は今日まで、彼女の命日となっている日に墓石の前に行って花を添え、私が彼を失うきっかけになった恨み言を言い続けていた。
でも来年からはもう来ないわ。
彼が私の下に帰ってきたから。
いつも日に焼けて褐色の肌だった彼のことを思い出すけれど、今の彼は真っ白。
普通では口づけられない場所にまで口づけられる。
彼を眺めてうっとりとしてしまう。
時折彼が私を呼ぶの。
口づけて欲しいと。
私は彼の横たわる台座に寝転び、彼に口づける。
「愛しているわ・・・私だけのあなた」