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45.質問来てた!ダンジョンの外で宝具を使用するのは犯罪ですか?


「お母さん、この宝具すごいね!」

「それはお父さんがシンジュクダンジョンで見つけて持ち帰ったものよ」

「シンジュクダンジョン! わたしも行ったよ〜って、えぇ⁉︎ お父さんも探索者だったの⁉︎」


 吾妻は父のことを何も知らない。

 それは母親が敢えて語らなかったから。彼女の性格もあってか、話題にすら上ってこなかった。

 ちょっとだけ大悟を気の毒に思った。


「へー、そっかー。じゃあ、もしかしてまだどこかで冒険してるのかもね! 会えたらちゃんとお礼言わないと〜」

「そうね。いつか会えるといいわね」


 那緒子さんは現状を把握しているから、これ以上は何も言わなかった。


「えっへへ〜、メガちゃんをこれからよろしくね〜。あ、フランちゃんももちろん忘れてないよ!」


 部屋からふわふわと飛んで出てきた宝具:ファイヤーフランタンが吾妻の周りを嫉妬するかのように回る。

 敵の宝具が水を操ると、相性が悪かったので、自身から避難してたみたいだ。


「とりあえず宝具はしまっておけ。本来、ダンジョンの外で使ったら駄目だからな」

「あっ、そっか! 証拠滅亡、滅亡……」

「隠滅な。跡形もなく消してどうする」


 近隣住民がいないのでバレないと思ったが、近くに人の気配は感じた。

 さっきまで訪れていた探究省の人間だ。


「おい、迷宮管理法第7章第2条の2、宝具の使用について、ダンジョン外での許可なき宝具の使用は禁止だと知らないのか。犯した者は十万円以下の罰金及び宝具の一時没収だ」


 はぁ、やっぱり見られていたか。

 スーツを着た()()がこちらを見上げながら、軽蔑の目で見下していた。

 俺は彼を知っている。

 今川駿介いまがわ しゅんすけ。異端者管理官の一人。

 俺たちの存在をかなり毛嫌いする人物で、常に部署の異動を願う排斥的な人物だ。


「えー、あの男の子スーツ着ててかわいい〜」

「男の子とか可愛いとか言うな! オレは38だぞっ‼︎ ほらっ!」


 探究省の人間もダンジョンに入ることがあるのでライセンスカードを義務として持っている。

 今川が顔写真部分を指差し、証拠を見せるも「お父さんの借りたの?」とプククと吾妻は笑った。

 彼女は信じていなさそうだが、彼は立派な成人男性だ。


 数年前にとあるダンジョンで子供にされ、さらにそこから不老という怨呪をかけられた。

 これならば羨ましがる人もいるが、プライドの高い彼は舐めた態度を取られるのが気に食わないらしい。

 と、現在は子供らしくムキーッと今川は怒っている。


「とにかく言い訳は後で聞いてやる。大人しく連行に従え。さもないと一時のみならず永久的に没収になるからな。逮捕もあり得るんだぞ!」

「まぁまぁ、怖がらなくてもいいじゃないっすか今川管理官」

「なっ⁉︎ 怖がってねぇし!」

「相手を知らないから恐怖で差別するんすよ。うちら人間ってのは」

「し、しかし異端者であれ、人間の法律には従ってもらわないとですね」

「これくらい広い心で許してやるっすよ。彼らはS級の異端者に襲われていたんすから。ねぇ?」

「全部見てましたか。溝口管理官」


 今川を止めた溝口真央は、異端者に好意的に接してくれる管理官。


「遠くからっすけどね。うちらは戦えないっすから。今川管理官、もし彼らが戦ってくれなかったら、うちらだけでなく地域住民に被害が出ていたっすから。それくらい分かるっすよね?」

「……はい」

「まぁ、一応認可のないS級異端者が外で暴れたことはさすがに報告しないとなんで、話ぐらい聞きたいっすけど」


 こうして俺たちは順番に、溝口とは面談、今川からは尋問に近い形式で事の経緯を話した。


 結果から言って、お咎めなしにはなった。

 異端者の存在を公にしていない以上、情報が漏れる可能性を少しでも減らしたいからだ。

 探究省が把握している異端者は全部で37人──内11人は既に死亡している。

 ハザマなど野放しにしているものや、初瀬川や今回の中原などとっくに社会に溶け込んでいるものも存在している彼らが暴露、暴走しないために、早急の捕縛と管理が探究省の一つの目的だ。

 都市伝説レベルには世間に広まりつつあるが、その程度で済んでいるのは、とある管理官の能力らしいが、今回は割愛する。



「──ん〜、今日は疲れたねー!」


 吾妻に駅まで送ってもらった。

 吾妻家の後片付けをしないといけないが、手の付けようもないので、翌日探究省の人間が来てくれるらしい。

 思ったより献身的なアフターケアだな。ありがたい。


「まさか外で悪い奴に襲われるなんて、わたしも人気になってきたってことだよねー。お陰でわたしの部屋がぐちゃぐちゃだよ」

「それは元からだろ」


 そろそろ日が沈む。

 夏の夕暮れ、人気と知名度の如くぐんぐん伸びる彼女の影法師。

 それを踏むまでに近くを通った男性が吾妻に気付く。


「おや? 吾妻さんじゃないですか」

「ん? おぉ! 藤岡先生!」

「先生?」

「うん! 藤岡辰也ふじおか たつや先生! 小学校でお世話になった先生なんだ〜」


 黒縁メガネを付けた真面目そうな男。

 ただ、笑顔には優しさがある。

 さらには吾妻が大きな声で紹介したことで、注目を集めることになったが、それは人気急上昇中のダンジョンストリーマーにではなく、教師の藤岡に対するものだった。

 老若男女問わずみんなが笑顔で気さくに話しかけるのを、一つ一つ彼は丁寧に答える。


「特に三階から飛んだ時に怒られたのは今も覚えてるよ〜」

「当然です。危ないことをしたのですから。ただ、その大胆さが今の活動に活きてるんでしょうね」

「おぉ! 見てくれてるの⁉︎」

「ええ。応援してます。これからも頑張ってくださいね」

「うん!」


 相手を気遣えるとても人望のある先生──吾妻と同じ小学校だったはずなのに、俺は彼のことを全く覚えていない。

 何より吾妻が飛んだ事件は印象的なはずなのに、あの現場に彼はいたのだろうか。それに見た目が若い気も……。

 疑問は残るが──まぁ、いいか。覚えてないこともあるだろう。

 吾妻に見送られて電車に乗った俺は、次はどんな企画を実行するか考えながら帰路についた。



   ◇ ◇ ◇



「はぁ……マイマイ♡ ワタクシを認知してくれたかしら」


 ある小さな池に仰向けで浮かぶ中原。

 一張羅の白いワンピースはボロボロになっているが、愛する推しに付けられたものなので、今後額縁に入れて飾るらしい。


「──ここにいましたか」

「あら、紫草しそう。珍しい、お仕事終わったの?」

「ええ。ですから、あなたを回収しに」

「小学校の先生よね。ガキ相手によくやれるわよね」

「子供の成長する姿は見ていて感動を覚えますよ。つい先程、教え子と再会しましてね。高校生となった彼女が夢に向かって邁進しているのを心から嬉しく思います」

「あなたが社会で働き出したのは()()からでしょ」


 紫草は水面を()()、中原に近寄る。


「教育に年齢など関係ありません。皆、平等に私の可愛い生徒ですよ」

「ははっ、きしょっ」






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