表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/49

44.我が家に代々伝わる家宝をもらった!宝具が増えたよ!


「死ねぇ、おらぁ‼︎」


 ヘッドセットマイクを付けた中原は、液体を触手のようにして攻撃を仕掛けてくる。

 宝具:アイシーテル──そう彼女が名乗ったこの宝具の能力は、目に写る液体を自身の声で伝えて、自在に操るようだ。


「ふふふふ……ここは大きくて綺麗な池があって、いい場所ですね」


 彼女の力の源が常に供給される環境。

 池の水を吸い取り巨大な水塊を作った中原は頂上に座り、こちらを見下していた。

 水塊から生える触手のような流動的な水流を避けるのに、俺は精一杯だった。

 水をいくら叩こうとも形が変わるだけ。物を何投げようとも宙に浮く水中に沈むだけ。

 本体に近付いて叩きさえすればいいが、おそらくS級の異端者である彼女がそう易々と許すわけがない。


「ねぇ、マイマイはそこにいるのよね? あぁ、早く逢いたい会いたい相対わぁ! そうじゃないと、全部まとめて壊しちゃう♡」


 触手が練り合わされ、周囲の山の標高を超える巨大な水柱を作り上げると、中原は手を振り下ろす。


「〈アイノムチ〉」


 水柱が倒れてくる。

 避けられはするものの家にいる吾妻たちが危険だ。しかし、今の俺に止められる手段はなく溺れるだけだ。

 このままでは……!


「〈こらー! ダメでしょー!〉」


 怒りの声が白い巨大な文字となって水柱に突撃し……爆散した。

 局地的豪雨となって降り注ぐ中、振り返ったら、二階の窓から飛び出て屋根に乗る吾妻の姿があった。

 スピーカーの中心部分がハート型の白いメガホンを、右手に持っている。


「東くん! だいじょぶ⁉︎」

「あ、あぁ……それは?」

「宝具:テロップメガホンだよ! メガちゃんって言うんだ!」

「そ、そうか……」


 そして、屋根からヒョイと飛び降りた吾妻は俺の隣に立つ。


「風邪引くなよ」

「全然だいじょぶ! 夏だからすぐ乾くよ」


「……あぁ、マイマイ! マイマイワタクシよ! 天下星灯よ! ずっと逢いたかった、かわいいわぁ!」

「てん……?」

「あれ、ワタクシ認知されてない? そんな、ひどい……いつもいつもコメントしてたのに」


 俺には全てのコメントをチェックする仕事もある。

 吾妻が喜びそうなコメントがあれば見せてあげるが、中原が書き込むようなアンチコメントはモチベーション維持のため伝えないようにしている。

 だから、吾妻はたとえ古参勢であっても彼女のことを知るわけがない。

 それに、いちいちユーザー名までこいつが覚えてるわけがないだろ。


「そう……なら、認知が貰えるように、殺すしかないか」


 再び、水塊から大量の触手が現れる。

 溺殺、絞殺と俺たちの息を奪いに襲い狂う。


「ムダだよ! また吹き飛ばしてあげ──あれ、文字が出ない。充電切れたー?」

「こっちだ」

「おぉっ⁉︎」


 その宝具を使うには、ある程度のインターバルが必要なようだ。

 俺は吾妻を抱えて、攻撃の隙間を抜けていく。

 この宝具があれば液体であっても攻撃が通っていた。力が回復するまで俺は吾妻を守り抜く。


「おぉ! 東くん、()()()()いい! その調子ー!」


 反射神経な。




「……ほんと、舞ちゃんはいつも楽しそうね」


 二階の窓から那緒子は娘たちが戦う姿を見ていた。

 一階は半壊しているが、崩れなさそうなので、そのまま観察する。

 彼女の無邪気な笑顔にあの日を思い出す──


「──なんて、可愛い子なんだぁ! 天使だぁ、女神だ……! 創造主が舞い降りた!」

「うるさい。起きちゃうでしょ」


 二人の間に授かり産まれた女の子に、大悟は吠える。


「名前どうしようか! といっても俺はもう考えているぞ〜」

「また相談なしに……で、何?」

「常に最高の笑顔でいてほしい願いを込めて、吾妻ウルトラスマイリーだ!」

「ダサいし長っ。ほんとあなたはネーミングセンスないわよね……。私には怒ってばっかりだったからオコって最初名付けたし」


 そんな名前を付けたせいで、由来通りに大悟は怒られた。

 結局、最初に付けた名に、大悟の出身地である那覇市の那を前に付けて、那緒子となった。


「おぉふ、そうか。どんな困難が待ち受けていても、最後には笑って終わってほしいなと思って付けた、いい名前なんだがなー」

「意味はいいと思うけど……あ。じゃあ、最後だけ取って……」



「──舞莉。あなたのその笑顔がいつか世界中を照らすことになるわ。ね? そうでしょ、大悟さん」


「──おっ! 電波が繋がった! やっと舞莉の新作動画見られるぜ〜。結構溜まってんな〜」


 ヨナグニダンジョン内に棲息する巨大な魔物の肉を焼きながら、大悟はスマホを開いた。

 ハンドル式の充電器を持っているから、なんとか使用し続けているがスマホの機種自体が10年以上も前の古いもの。常に低速だし、充電もすぐなくなる。

 大悟は視聴用アカウント、〝ゴールデンチャイルド〟でいくつか娘の未視聴動画を閲覧した。


「かーっ! やっぱ舞莉はかわいいなぁ! 那緒子によく似たべっぴんさんになってるぜ、うんうん。けど、ケガしないか心配だなぁ……あぁ、またそんな無茶してぇ……」


 大悟はコメントを打ち込んで、動画にスパチャも贈る。

 いつも家の貯金から勝手に振り込むので、たまに那緒子と連絡が繋がった時には、甘やかしすぎとめちゃくちゃに怒られる。


「ま、りょうの奴もちゃんとお兄ちゃんしてるようじゃないか。頼もしいやつだ。これからも舞莉のこと頼んだぞ。お前たちはもう──」


「舞莉、ちゃんとお兄ちゃんを支えてあげるのよ。たとえ血は繋がってない兄妹でもあなたたちは──」


「「最強の()()()だから」」





「充電たまったぁ!」


 吾妻が嬉しそうに教えてくれたので、中原と水塊から一気に距離を取る。


「マイマイ、離れないでっ! ワタクシは、あなたのことこんなにも愛してるの! だから死んでぇ‼︎」

「やだ! わたし長生きするもん! おばあちゃんになってもずっと冒険するし! そんなこと言う悪い奴は……〈どっかいけー‼︎〉」


 言葉は凶器の実現。

 テロップメガホンを通した言葉は実体となって発射される。

 中原が水の触手で受け止めようとするが、水中に入るとむしろ加速する。

 目に見える白文字の正体は音の塊だ。

 音が1秒で進む距離は空気中だと340mだが、水中であれば1500m。


「マイマイひどい……でも、マイマイの声が、ちゃんと身体中に沁み渡るわぁ……♡ やっぱりだいすきっ‼︎ 愛してるっ‼︎」


 不可避の音文字は中原の元まで辿り着いたタイミングで、爆音と共に大爆発を起こした。

 水塊は破裂し、波となって周囲を襲い、自然に帰った。


 俺はすぐに吾妻をまた抱きかかえて、那緒子さんのいる屋根まで飛び上がった。

 家まで流されることはなかったが、一階は完全に浸水してしまった。部屋の片付けが最悪な形で振り出しを過ぎて戻ってしまったな。


「家が……那緒子さん、すみません」

「気にしないで。水やりの手間が省けたから。あなた達が無事なだけで私は嬉しいよ。二人ともお疲れ様。怪我とかしてない?」

「だいじょぶ!」


 吾妻の元気な返事に合わせて、俺も軽く頷いた。

 中原はいなくなっていた。彼女の行方は分からないが、周囲に気配は感じない。危機は去ったようだ。



「ふっふっふっ……やっぱりわたしは最強だね! もう、カメラが回ってないことだけが心残りだよ〜」


 天性のタフさに加えて、攻撃手段を手に入れた吾妻舞莉。

 本当に彼女が最強の称号にふさわしい探索者へと着実に近付いている気がした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ