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42.わたしも知らないお父さんを紹介するよ?


 ──異端者は突如としてダンジョンに生まれ落ちる。

 能力はもちろんのこと、性別や年齢、知能などに統一性はなく、法則性なども存在しない。

 そのような理由など、国も、俺たちですら知る由もない。


 ヨナグニダンジョンで気付いた時は、人間でいう5歳ぐらいの頃だろうか。

 目の前に現れたガタイの良い、日焼けした上裸の男は、俺を見た途端に失礼な発言をした。


「そうかそうか! お前も異端者かぁ! いやー、前にも一回見たことあるけどよ、ガキンチョのもいるんだなぁー」


 次には一瞬で距離を詰めてきた。

 最初から言語能力を身に付けていたので、言葉は理解できたが、たまにノリと勢いに任せた造語を話すので、意味が理解できないこともあった。


「んで、ガキンチョ……って、面倒だな。名前あんのか?」


 俺は首を横に振った。


「言葉は分かるみたいだな。とりあえず俺の自己紹介するか! 吾妻大悟あづま だいごだ。お父ちゃんって呼んでくれていいぞ」

「なんでだよ」

「やっと喋ったか! てか喋れたのか! ま、それはいいとしてだな。頼むからお父ちゃんって呼んでくれよ〜。俺には娘が、ちょうどお前くらいのがいるんだけどよ。それが、まぁ〜かわいいのなんの!」


 大悟は自分の娘ばかり一人話をしていた。

 俺ではなく、彼には見えている娘の妄想に向かって延々とデヘデヘしていた。

 ……そこに忍び寄る魔物の影。

 ヨナグニダンジョンには異常な進化を遂げた動植物型の魔物がそこら中にウヨウヨしている。


「うんうん、娘はまさしく自慢の娘、金色こんじき愛娘まなむすめだ。ガッハッハ〜。いやー、ほんと恋しいからさ〜、代わりにお父ちゃんと呼んでくれよ〜ん。頼むよ〜」


 鬱蒼と生い茂るジャングルの木々を薙ぎ倒しながら真後ろまで接近した巨大なムカデの魔物に、大悟が気付いている素振りは未だない。

 俺には真正面から戦える力など当時はなかった。

 逃げて、隠れて、時には別の魔物を囮にして生き長らえてきた。

 申し訳ないが、今回はこの男を見捨てる。


「おいおい、娘の話をまだしている途中だぞ。いいから座っとけ。邪魔者はいないからよ」


 その言葉の前には、魔物は遥か彼方へと吹き飛んでいた。


「……っ、あんたは……」

「吾妻大悟だ! って、さっき自己紹介したよな。で、お前はなんて言うんだ?」

「さっき、ないと伝わってたよな。……ずっと一人だったから名乗るようなこともなかったし」

「おーそうか。じゃあ、これから一緒に冒険するからな、俺が付けてやるよ。そうだなー、じゃあ今日から俺の息子ってことで、吾妻良アヅマ リョウって名乗れ。男の子にはこの名前を付けるって決めてたんだよなー」

「アズマ、リョウ……。え、冒険?」

「良い子に育ってほしいって意味を込めて、ん? おう。そうだぞ。あ、俺ダンジョンで配信活動してるんだけどな? いつもソロだからカメラぶれぶれでよぉー。ちょっとカメラマンとか話し相手とか欲しいんだわ。あと、ついでに編集作業もしてくれると楽だな!」

「待て待て、一気に何か分からないものを押し付けるな」

「だいじょぶだいじょぶ。ちゃんと教えてやっからよ。それに、ダンジョンにいる間は俺がお父ちゃんとしてお前を守ってやる。だから安心してついてこい!」


 俺の意見を聞き入れることなく、勝手にこの先を決められてしまった。


 ──それから約2年間。

 ヨナグニダンジョン内のあちこちを回りながら、撮影機材の扱い方、編集作業、魔物との戦い方や一人でも生き抜くためのサバイバル術など、俺は数々のことを教えてもらった。

 SS級の異端者だからなのか、彼の雲を掴めないような話も理解して、俺も肩を並べて戦えるようにはなった。

 だが、今でもそれは、彼を追い越すことは叶わないだろう。

 そして、そんな彼であっても、どれだけの時が経とうがヨナグニダンジョンを攻略することはできなかった。


「いやー、困った困った。なかなかに広いなー。それに深いところに潜れば潜るほど魔物は強いわ、罠は多いわ、何より電波は届かないしよ。投稿すんのにいちいち上に戻るのは面倒だな」

「一度、ヨナグニダンジョンを出ないのか? 娘にも長らくあってないんだろうし」

「そうしたいのは山々なんだが……ガッハッハー! このダンジョンは()()()()なんだわー! ここを出るには、中と外で同時に出入りするしかないんだよなー! 中の俺が死なねぇ限り、新しい奴は入って来れないみたいだしよ!」


 ヨナグニダンジョンがSS級たる所以、それが一人しか入れないという縛りがあることだ。交代以外、途中で出ることもできない。

 このルールを破るには当然攻略するしか方法がない。

 そんな高難易度のダンジョンに長らく囚われている大悟だが、呑気に笑っていた。

 事前に知っていたかどうかは関係ない、ただダンジョンを独り占めできる現在の状況に彼は満足している。

 途中で寂しくなって、俺を連れ回しているのだろうが。


「異端者のお前はこのソロ縛りの影響は受けないみたいだな?」

「……分からない。出た途端に適用されるかもしれない」

「そうかそうか。まぁ、俺はお前と冒険できて楽しいよ。このまま攻略──っ⁉︎ 走れ‼︎」


 俺よりも早く異変に察知した大悟に言われるがまま走り出すと、溶岩の波がどこからともなく現れた。


「おいおい、急に本気出しやがって。攻略されるのにビビってんのか? ダンジョンさんよ!」

「入口は近いはず! 異端者の俺が先に出るから、それから交代してダンジョンを出ろ!」

「……なるほどな」


 この時は逃げるのに必死で、彼が何を企んでいたのか気付かなかった。

 溶岩が迫る中、なんとか入口まで辿り着いた。


「大悟、すぐに出られるよ──」

「だからお父ちゃんって呼べ、よっと」

「ぐっ⁉︎」


 彼は俺を足蹴りして、ダンジョン入口となる木の幹に開かれた穴へと突き飛ばす。


「なっ⁉︎」

「俺、もうちょっと冒険するわ。だからよ、家族によろしく伝えてくんないか?」


 ヨナグニダンジョンの外に叩き出された俺はすぐに戻ろうとするも入れない。

 予想通り、一度出てしまえばルールが適用されてしまったようだ。


「おい! ふざけるな‼︎ 誰が暴力を振るう父親の言うことを聞くかっ‼︎」

「舞莉を見守ってくれ」


 入口越しに、姿は見えずとも声だけが聞こえてきた。


「あいつは俺の娘だ。いずれダンジョンに行きたがる。だが、止めて欲しい。可愛い娘に危険なことはさせたくないからな。……まぁ、でも、きっと俺に似て諦め悪いだろうからよ、どーしてもの時はそばにいて支えてやってほしい。頼むぞ、()()()()()


 それから、彼の言葉は聞こえなくなった。

 勝手に任せるな、と罵詈雑言を浴びせたが届かない。

 年相応に号泣したけれども、不思議と彼が死んだとは思わなかった。

 それならば今すぐにダンジョンに入れるわけだし。どこかでしぶとく生きていると、目の前のルールと過去の記憶から信じてはいた。



 しばらくして、探究省の人間がやってきた。

 大悟から存在だけは聞いていたので、抵抗などはせず、東京へと秘密裏に連れていかれた。

 軽い拘束をされてから軍用ヘリに乗せられた俺は、月明かりに照らされた与那国島を空から見下ろしていた。


 ……突然として、ヨナグニダンジョンがさらに難易度を上げてきた理由。

 それは攻略されてはもう一緒に冒険できなくなるという俺の恐れが、溶岩となって牙を向けて来たのだろう。

 なんとも感情的で子供らしいものだと、振り返ってはそう思った。


 

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