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40.【閲覧注意】マイマイマイルームを大公開っ‼︎


「──ハハッ! おぉい、ケーシィ〜。相手を軽視しとったからやられるんやでー。情けないなー」

「喧しい、だよね」


 都内。とある雑居ビル。

 包帯を自身で胸元に巻いた後、汚いソファで仰向けに寝ている初瀬川と、それを見下しながら嘲笑うハザマ。


「やっぱ、SS級となると強いなぁ〜。真正面からぶつかっても勝たれへん。まーしょうがないわな」

「私が危惧しているのは、もう一人の女、だよね」

「あー、あの子ね。名前なんやったけ。いやー、老いには参ったわ〜、記憶があやふや……あー、そうそう。マイマイや」

「マイマイ⁉︎」


 ハザマがマイマイの名を出すと、部屋の隅でずっと複数のモニターと見つめ合っていた女が会話に参加してきた。


「おーおー、どうしたどうした。知り合いか? 確か設定した戸籍名は〜」

中原灯里なかはら あかり、だよね」

「おぉー、せやった。で、どしたんや」


 か細い身体とボサボサに伸び切った髪。

 よれた肌着と片方のレンズが割れたブルーライトメガネを付けた中原は、普段は見た目を気にしないタイプだった。

 しかし、マイマイが話題に上がると少しでも良く見せようと手で髪を梳かし、服のシワを伸ばす。


「ワタクシ、マイマイのファンなの……♡ 動画を色々見てはこの世界を分析し続けてきたけれども、画面越しで出逢ったマイマイの可愛さは世界、いえ地球史一番と言ってもいいくらい」

「規模、でかいなぁ」

「そんなワタクシはマイマイのことをただ見てるだけ。彼女の一挙一動一言一句を分析しかできなかった……マイマイに会うなんて、そんな烏滸がましいとばかり……。なのに! あんたたちはそんなマイマイに会ったですって⁉︎」

「こいつなんてマイマイの腹に穴空けたらしいで」

「おい!」

「なんですって⁉︎ あぁっ‼︎」


 中原が右手を振り下ろすと、細い水柱が初瀬川の腹を貫いた。


「だよねっ⁉︎」

「本当は殺したいけども、今回はこれくらいで我慢してあげる。あぁ、可哀想なマイマイ……! ワタクシがこの筋肉ダルマを成敗してあげるからね。あぁ、ワタクシに他に何かできることはないかしら……!」

「お前もうたらええやん。ほんならマイマイのために色々してやれるんちゃう?」

「……いいのかしら。こんなワタクシが会いに行って」

「ええよ」

「だよね……」


 中原は考えているフリをしているだけで、心の中では既に答えは決まっていた。

 ただ、他者から勧められることで、推しに会いに行くことへの口実が欲しかっただけだ。

 中原は机上のヘッドセットマイクを手に取った。


「ふふ、ふふふ……マイマイ、とうとうワタクシと逢えるのね……‼︎ ずっと、ずーっと応援してたワタクシと! え、待って。ワタクシ今可愛くないわ。おめかしして行かなきゃ……‼︎」

「いってら〜」


 ルンルンとスキップしながら出ていく中原を見送るハザマと初瀬川。


「中原は大丈夫、だよね?」

「んー? 返り討ちにされるかってこと? 心配せんでもウチに帰るて。なんせS級のセンダイダンジョンの異端者やねんから。ただでは死なんよ〜」

「いや、死ぬのは向こう、だよね。彼女の執着心は相手が動かなくなるまで続く、だよね」

「そん時はそこまでの奴らやったってことや。ほれ、貴重な白湯華譲ったろ。ワシは薄情じゃないからなぁ〜。優しいなぁ〜」

「踏むな、だよね‼︎」


 ハザマは初瀬川を踏み台にして、白湯華を食わせてやった。

 異端者であっても効果は覿面てきめん。初瀬川の傷はすぐに塞がり完治した。


「ふぅぅ、そういえば紫草はどうした」

「あー、あいつは顔バレせんと、社会に上手く溶け込んでるからなぁ。今日も仕事やで。あいつは真面目やからそう()()()やろ?」

「ふん。そうだな」


 初瀬川は表向きで活動していたケーシィのアカウントが削除されていたので少し拗ねていた。

 人気歌い手突然の失踪として、その時はツッタカターのトレンド一位を獲得するなど、話題になっていた。


「口癖忘れとったで。キャラは裏でも保っとかなあかんで!」

「むっ。だよね‼︎」



   ◇ ◇ ◇



 都内から外れた郊外。

 吾妻に迎えに来てもらった駅からもう、ここが東京だと忘れてしまうほどに長閑な景色が広がっていた。

 バスがほとんど走ってないので、そこから徒歩20分ほど。

 周囲に他の家がない、綺麗な池のほとりに一軒家はあった。

 この環境ならばのびのびと吾妻は育つだろう。

 そりゃ、ああなるか。


「ここがわたしの家! お母さんに許可取るの大変だったんだから〜。男の子を家に入れるなんて初めてだし……」

「……いきなり言ってすまなかった」

「全然っ! いいよいいよ! わたしは楽しみにしてたからね! まぁ、とりあえず今日は夏休みの宿題をしないとだけど。そうじゃないと、先生に怒られちゃうもんねぇ。だからちゃんと勉強するんだよ」

「俺はもう終わってる」

「あの、ぜひとも教えてくれるとぉ……」


 昔の携帯電話のように直角に頭を下げる吾妻。

 もちろん、宿題忘れからの補習とかになったら困るから、第一の目標はこれになる。

 ……だが、もし俺の推測が正しければ、カルイザワダンジョンで見せた、いやそれだけじゃない。あれだけの生命力と運動神経を誇る理由は──


「おかあさーん! ただいまー!」

「おかえり舞ちゃん。……あら、あなたが」

「初めまして。吾妻舞莉さんのマネージャーの──」

「話はずっと聞いてるよ! 東亮くん、でしょ? 初めまして。舞莉の母の吾妻那緒子あづま なおこです」


 ──やはり、そうか。

 吾妻の母親と対面して、確信した。


 彼女は異端者だ。


 それも出身はおそらく()()級のダンジョン。


「どうぞ、ゆっくりしてって! 舞ちゃん、部屋まで案内してあげて」

「えっ⁉︎ リビングでいいんじゃ〜」

「今から私もお客様をお出迎えするから、部屋はちゃんと片付けたんでしょうね?」

「……うっ」


 吾妻は渋々、二階の自室まで案内する。

 年頃の女の子が自分のプライベートルームに男を入れるのは拒絶感はあるだろう。

 まぁ、吾妻についての疑問がもう解消されそうだし、宿題くらい図書館でもいいのだが、うっ⁉︎


「あはは〜……ここがわたしの部屋です……」


 ぐしゃぐしゃの衣服、いつから飲みかけか分からないペットボトル、散らかった本に雑貨、何かが溢れ出しているクローゼット、噴火しているゴミ箱──数えればキリがない。

 床の踏み場もなければ、神域のベッドには寝返りが難しいほどに大量のぬいぐるみが転がっているので、物がないところがない。


「いやぁ〜ちょっと散らかっててごめんね〜」

「ゴミ屋敷じゃねぇか‼︎‼︎」

「ふぇぇー! ごめーん!」


 あまりの惨劇に声を荒げてしまうほどだった。

 宿題の前に、まずは部屋の大掃除からか……これは勉強できないやつだな……。

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