表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/49

19.えりにゃんの変身を間近でみれたー!【オタクマイリ】


『みんにゃ、おっまたせ〜。第一スポットはウラカブキを見下ろせるこの高台でAメロを振り落としするよ! マイマイ? 準備はいい?』

『うん‼︎』


 待機画面明け。

 さっそく野田は流行りの音楽をかけて、踊りを披露する。

 ……それはとても素人だとは思えないレベルだった。

 身体の魅せ方、寸分の狂いもないリズム感、プロダンサー並の技術に、コメント欄は称賛の嵐。

『すごい‼︎ カッコいい‼︎』と吾妻も手を叩いて喜んでいた。

 本人も満足そうに、息一つ切らさず吾妻に向き直る。


『どう? 覚えた?』

『うーん、な、なんとなく……?』

『じゃあ、またアタシが前で踊るからマネしてみにゃよ!』


 曲調からして、全体を通して難しい振付なのが分かる。

 本当は圧倒的実力差を見せつけて、自分は優越感に浸り吾妻には恥をかかせる、そう考えていたに違いないと今までの野田からそう思っていた。


 だが、相手はアホで単純で……運動神経が人並みには終わらない吾妻だ。

 真似するだけなら吾妻にもできる。

 加えて、憧れのえりにゃんと踊れることに喜びが全身から溢れて出て、観ているこっちも楽しい気持ちになる。

 さらにはファイヤーフランタン──通称フランちゃんも荷物から飛び出して行き、吾妻を正面から綺麗に照らしてくれた。


【マイマイ可愛い!】【ダンスできるんだ!】【すっごい楽しそうに踊ってるのがいいよね】


 吾妻の見せたことない特技により、コメント欄は盛り上がりを見せて同接は8000人を超えた。

 マイマイチャンネルの登録者も9.3万人まで増えている。



【えりにゃんより上手いんじゃね?】



『……っ。──おっけー! マイマイ踊れるじゃーん、いいね〜』

『ほんと⁉︎ いっぱいえりにゃんの動画をみて練習してたんだ〜。でも、えりにゃんには敵わないよ〜』

『……そんなことにゃいと思うよ。じゃあ、Aメロは完璧ということで、Bメロを振り落とすスポットまで移動しよー! こっからはダンジョン配信だよ!』

『おぉ!』


 次の目的地はシンジュクダンジョンの中層にあるらしいので、移動を始める。

 下池が首からかけたPCテーブルにパソコンを置いて操作しながら、カメラを三脚から取り外そうとする。


「カメラは私が回しますよ」

「わ……ありがとう……ございます」


 吾妻たちの会話よりも小さい、マイクに拾われないほどの小声で話せるくらいに近付き、下池からカメラを譲り受ける。

 よし、これで、構図の決定権は俺が持つこととなった。


『踊ったからいっぱいお水取らにゃいとね? 飲んだら行こっか!』

『うん!』


 グビグビとペットボトルの水を飲んで、中層へと向かう。

 ウラカブキは今回通らない。常に人が多く混雑してるし、生配信中だから居場所も容易く割れてしまっている。

 それに、あそこはまだ女子高生が行ってはいけない店があったりするので、危ないから近寄らせることはしたくない。

 一番探索者が多いダンジョンというが……正直ほとんどは上層で事を終えている。


 人通りの少ない道を選んでも、攻略済みされたダンジョンであるので、魔物とは出会わずに中層には簡単に辿り着いた。

 この間はずっと女子会トーク。

 最近の音楽、化粧品、これから来ること間違いなしの食べ物まで、主に野田が話を永遠と広げてくれるので、途切れることなく二人の会話は盛り上がっていたが……正直、俺は興味なかった。

 きっと、ファン層も同じ感覚なはずだが、二人が仲良さそうに話してたらそれでいいのだ。


【かわいい〜】


 この類のコメントが絶えず流れていた。


 二つ目のスポットである、シンジュクダンジョン中層名物〝カゲギョエン〟──漆黒の植物が辺りを覆う、影に呑まれた公園だ。

 視覚感覚がバグるだけであって、危険度もさほどない。

 フランちゃんのお陰で吾妻はこけずに済み、Bメロの踊りも無事にマスターした。


『次はさらに潜って下層行くからね。水分補給も忘れにゃいように!』


 さらにダンジョンを下りて行くと、さすがに魔物が出てきた。

 だが、ここは一旦野田の実力が見たいので任せる。


『ここは先輩として、見せてあげますかにゃ。宝具:吾輩は猫なのだ。──猫獣人ウルタール

『きたー‼︎』


 猫耳カチューシャが同化したように耳が生え、黒く長い尻尾と黒猫の手。もちろん肉球付きだ。

 一見コスプレにしか見えないが、鋭い爪ならぬ刃物が両手に三本ずつ指の間から出ている。


『にゃにゃにゃー‼︎』


 現れた狼型の魔物を次々と裂いていく。

 動きが素早過ぎて、カメラに一瞬収められないところもあった。撮影者の無能さをコメントで叩かれるほどだ。

 彼女はもっともA級に近いB級探索者である。

 おそらく、一ヶ月せずとも昇級するだろう。


『ふん。どうよ』

『すごーい!』


 吾妻は大きく手を叩いて、野田のことを称賛した。

 ……そういえば伝え忘れていたが、吾妻もハコネダンジョンを初攻略したことで一気にB級に昇級した。

 B級探索者となった時「東くんと並んじゃったね〜」と言って、しつこかった。

 A級になれる日もまぁ、近いだろう。


 ……ん?


「どうか……されましたか?」


 何か見られている気配を感じたが、気のせいか。

 正直この辺りは探索者も多いし、えりにゃんに気付いたミーハーが時折盗撮してたりするから、分かりづらい。

 隣にいた下池は俺の反応に反応したわけだが、「何でもない」と言って流した。


 そして、シンジュクダンジョン下層──〝ヤミトチョウ〟へと辿り着く。

 広く深い真っ暗な穴の中に、下層の天井から逆さまに建てられた新宿都庁そっくりな建物。

 第三スポットはここらしいが、正直薄暗いこの空間のどこが映えるのか理解できなかった。トリックアートみたいなところか?


『じゃあ、ここでサビを振り落としたら、テストといってみますか!』

『うん‼︎』


 ……そういえば、さっきから吾妻の語彙力ないな。

 もうちょっと勉強の方も努力してほしいものだ。来月期末テストだぞ。そっちを頑張れよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ