表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/49

11.素手で巨大なボスと戦っていくよ!


 植山と合流する5分前──

 俺は吾妻と共に、何の問題もなくダンジョンの奥へと進んでいた。


『はぁ……わたしのハイパーソード……』


 いや、問題はあったか。

 げんなりした演者をこのまま配信するわけにはいかないので、励ますことにした。


「今も撮影中なんだから元気を見せろ。あれもハプニングとして面白いだろう」

『あっ、たしかに。みんなに楽しんでもらえるなら、尊い犠牲だよね。じゃあ、いっか!』


 チョロいなこいつ。

 あんな安い武具ならば、無くてもさほど変わらない。

 何が来ても俺が守ればいいだけだし……てか、運動神経は良くても、こいつに武具持たせたらうっかり自分を傷付けそうで怖い。

 最初に持たせるならば、良質な防具や回復・支援系の宝具になってくるな。


『あ! みんな見てみてー! たっくさん湯気が出てますよー! ここは温泉地だからダンジョンの中も温泉なんです。ん? スンスン……うぇぇ、なんか腐った卵みたいな臭いが強れちゅんっ⁉︎』


 俺はすぐさま吾妻を背後から抱き寄せて、彼女の鼻と口を手で塞いだ。


「んぐごぐん⁉︎ んぐんーんぐんんん、んんんんんんぐんー!」

(東くん⁉︎ 撮影中なのに大胆すぎるよー!)


「待て、暴れるな」


 目の前から流れてくる大量の湯気。

 共に流れてくるこの臭いは──硫化水素か。

 温泉地特有のものだが、このハコネダンジョンではここまで大量に観測されたことがない。だからB級に下げられるという噂もあったというのに……。

 硫化水素は本来無色、臭うその時までは気付かない。

 空気よりは重いため、近くの岩の上に吾妻を連れて飛び乗った。


「ぷはー! あ、東くん、いきなり後ろから抱き付くのはちょっと反則だよっ……それに、東くんの手のひらにキ、キ──」

「硫化水素だ。いいからこれ付けろ」

「りゅうかすいそ? って、これってガスマスク? ガチもののガスマスクだね……」

「今からおそらくボスとの戦いになる。顔出しができなくなるが……名前、載せるんだろ」

「わぁ……! うん! もっちろん‼︎」



   **



『マイマイパンチー‼︎』と、その場で殴る素振りをするので、俺は適当な石を龍に向かって投げ付けた。

 倒れている植山たち。この硫化水素ガスから逃げ遅れてしまっていたか。

 しかし、彼らがいなければこの魔物は入口に向かって進行し、吾妻や他の探索者を危険に晒していたかもしれない。


『──それじゃあ、まいります!』

「ちょっと待て。まずは植山たちを避難させる。だから吾妻さんはカメラを持って、先に実況しといてほしい。ここから動かずにだぞ」

「素材集めだね、おっけー! 任せといて!」

「もう一回マイマイパンチ出しといて」

「マイマイパンチー‼︎」


 また、適当な石を複数投げつけて、散弾銃を打ち込んだごとく龍に攻撃する。

 けたたましい叫び声を上げ、宙に浮いていた魔物は地面へと落ちる。


「パ、パンチが遠くまで届いた……やっぱりわたしって最強!」


 龍が落ちている間に、吾妻が調子に乗って近付く前に。

 俺は四人にマスクを順に付けてあげて、少し離れた場所に素早く避難させる。


『あ、貴方、何者なの……。それに、貴方のガスマスク、は……』


 温泉地のダンジョンだしと思い、念の為ガスマスクを持って来ていた。吾妻用、俺用、吾妻の壊した時の予備用、吾妻が無くした時の予備用、吾妻が俺のを壊した時用と5つ。

 吾妻と植山たちに渡せば俺のは無くなるが、これくらいのものならば特に問題はない。


「……ただの裏方です。裏方は着飾る必要はありませんから。息を殺して、輝く彼女をただ撮影すればいいので」

「ふふっ……そう……素晴らしい、心掛けですわ……。ねぇ、これを……」


 植山は懐から扇子を取り出し、俺に手渡す。


「宝具:侘び寂び──貴方なら、きっと使いこなせますわ」

「ありがとうございます。ぜひ動画が更新するのをお待ちください。うちの演者が龍を倒すところを」

「ええ……」


 植山は目を閉じて、呼吸をすることに集中し始めた。他の三人も意識はあるものの、このまま放ってはおけない。

 早く片付けて、四人を連れ出さねば。

 さて、吾妻のところにすぐ戻ろう。



「マイマイ史上……一番の敵かもしれないよね。でも、だいじょぶ! わたしがバシッ! っと倒してあげます‼︎ あ、東くん! 葵ちゃんたちはだいじょぶだった⁉︎」

「あぁ。大丈夫だから、俺の名前を呼ぶなよ」

「ごめん!」

「撮影できたか?」

「もっちろん!」


 俺は吾妻からカメラを受け取る。


「……録画ボタン押し忘れてるぞ」

「えっ」

「まぁ、いい。今から取れ高を作れば」

「問題ない‼︎」


 しかし、温泉の湯気と魔物が出す硫化水素ガスのせいで画面が白いな。ホワイトバランスとかで調整できるものではないし。

 これだと、ただ魔物を倒しても決定的な証拠を見せつけられない。

 この湯気を消すにはどうしようもないから、何かメソトスコーラの時同様に、派手なことができればいいが……。


「ねぇねぇ、東くん。わたしさ、すっごいカッコいい倒し方思いついたんだけどさ」

「何?」

「爆発しちゃおうよ。そしたらヒーローみたいでカッコよくない⁉︎ 温泉もあるから火が広がる心配もないし!」


 吾妻も理由は違えど、同じようにどう倒すかを考えてくれたみたいだが、さすがにそれは却下だ。

 硫化水素には引火性がある。ダンジョンという密室空間においては大爆発を起こしてしまう。

 だからハコネダンジョンは火気厳禁──ではないな。

 入口に注意喚起の立て看板もなければ、腐卵臭もここに来るまで臭うことはなかった。


「こっちだ」

「おぉっ⁉︎」


 龍が火球をこちらに吐いてくる。

 この魔物が炎を扱える時点で実は爆発しない硫化水素に似た気体──もしくは気体の流れに仕組みがあるはず──


「なるほど……そうか。いいアイディアだな、採用だ」

「ふふーん! でっしょ〜?」

「よし、撮影を開始するぞ」

「うん!」


 再び浮かび上がる魔物を背景に、吾妻はカメラの前のファンに向けて語りかける。


『このモンスター、なかなか手強いよ! 名前……確か龍火水祖りゅうかすいそ? だっけ。これからわたしマイマイが倒してみせます! みんな、見ててね‼︎』


 吾妻はカメラに向かってウィンク。

 ファンサービスは十分だ。あとは魔物を、彼女の手柄にして倒すぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ