芸術国家の最期
クシアがそう呟いた瞬間――クシアの腕から、赤が混じった闇が濁流のような勢いで周囲へとなだれ込んでいく。
「なっ……!?」
トアは咄嗟に自身の超法則でデノスと自身の身を守ろうとした。
だが――
「――――――え?」
クシアの闇は、空間の歪みを無視してトアとデノスの目前へとなだれ込んでくる。
世界法典は超法則を"拡張"した上で絶対化させる。
世界法典の支配下において、クシアの闇は超法則では防げない。
国中に赤い闇が流れ込んでいく。
その赤い闇はお洒落な建物を容赦なく粉々に破壊し。
自然な彩りを与える木々を容赦なく木っ端みじんにし。
国中にある芸術作品も、アトリエも、楽器も、舞台も、全てが理不尽に壊されていき。
当然のように、国内に残されていた人々の想いさえも命ごと奪っていった。
赤い闇は、ひたすら、ただひたすら、人々が長い歴史の中で積み上げてきたものをいとも容易く壊しつくした。
しばらくして。
「……ふぅーっ……」
クシアは満足そうに両腕、両足を伸ばしながらまるで昼寝でもするかのように地面に寝っ転がる。
「広ぇなぁ」
そして、何もかもが消滅し土だけが広がる大地の上で気持ちよさそうにそう呟いた。
空は雲一つ、闇のかけら一つない、晴天だった。