撤退
(いくら攻撃を当てても死なない! 『正義』は確かに奴の体を切り裂いているのに、すぐに再生してくる!)
白騎士は今もなお攻撃を続けている。白い剣を発現させては化け物に向かって放つ、これを繰り返していた。
確かにその白い剣は、化け物の体を簡単に切り裂いた。だが、化け物の動きが止まらない。白騎士の『正義』を受け続けボロボロに裂かれた繊維のような姿になっても、止まる気配すらない。口しかないその化け物は笑いながら、今もなお攻撃を続けている。
白騎士はやがて攻撃をやめ、立ち尽くす。
(……無念だが、認めざるを得ないようだ。――奴は、私では倒せない)
敵は白騎士を殺せないが、白騎士も敵を倒せない。互いに有効打が存在しない。
(だが、今目の前にいる邪悪は放っておくわけにはいかない。ここは一時撤退して国に戻り、応援を呼ぶしかない。これほどの脅威だ、報告すれば国も動くだろう。奴は少しでも早く止めなければ……!)
普通の攻撃が通じないことを悟ったのか、化け物が漆黒の津波を放つ。白騎士はそれに全身を飲み込まれる。だが、彼には効かなかった。
(村を見捨てるのは心苦しいが……今は一刻も早く王国へ……)
白騎士が撤退しようと後ろを振り返り、その場を後にしようとした時。
その胸に白い剣が数本突き刺さり、赤い花がパッと咲くように赤い飛沫が飛び散った。