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死による救済
「ありがとう、デノス」
「……」
「デノス?」
「……それはこちらのセリフだ」
デノスはトアから視線を外し、どこともない遠くを見つめながら自嘲気味に続ける。
「あの男……いや、あれは人ですらなかったのだろうか? あの悪魔を前にして、私は完全に諦めていた。ここで死ぬのだと思っていた。命を悪戯に奪う存在は存在するだけで人々に忌み嫌われ、命を狙われ、残酷な目に合うことが望まれる。それは自然の摂理で、どうすることもできない事実だ。だからこそ、邪悪な存在は安らかな死をもってしか救済できない……私はそう思いながら、神官を続けてきたというのに」
「……」
「君がいなければあれには勝てなかった。こちらこそありがとう、トア」
「……あなたはあんな悪魔にすら、情けをかけようとしたのですね」
「邪悪に対する憎悪は、憎悪の連鎖しか生まないからな」
「あなたらしいです。………………だからこそ、そんなあなたを……私は……」
トアが何かを言いかけた時だった。
「おーい! お二人とも、ご無事ですかー!?」
そこへ誰かが、大きな声で呼びかけながら駆け寄ってくる。