悪意
無数の白い剣が化け物を襲ってから、数秒間の沈黙が流れる。
「…………終わったか」
白騎士がそう呟いた瞬間だった。
土埃の先から、槍のように鋭く、蔦のように細長い闇がニ本、白騎士目掛けてとびかかってくる。
「――っ!?」
白騎士は自身の身に降りかかる危険を即座に察知し、その二本の闇をかわす。
だが――
『アッハハハハハ、やるわねぇ!? もっと楽しませなさい!』
一瞬の油断も許さないといわんばかりに、同じような闇が無数に飛んでくる。あるものは的確に白騎士の心臓を狙い、あるものは的外れな方向へと飛んでくる。軌道を予測できるものとできないものを狡猾に織り交ぜてくるそれは、平和な村で用心棒をしていた程度の神官がかわしきれるものではなかった。
目の前の化け物は心底楽しそうに大きな口を緩ませながら、白騎士の命を絶とうとする。
だが、彼が身に纏う鎧に触れた闇は、白い剣が敵の体を貫いた時と同じように霧散して消えていく。彼の鎧もまた、超法則『正義』でできていた。邪悪な敵の攻撃など、通すはずもなかった。一方で、白騎士の攻撃は通る。だからこそ、白騎士は果敢に攻撃を続けていた。
それでも――白騎士は、苦戦を強いられていた。