大雑把
「あ? 何いってんだお前。頭おかしくなっちゃったのか?」
ここでそう返してくると思っていなかったクシアは、冷ややかに言い放つ。
だが、トアの様子がどうにも異様だ。トアにとって非常に不利な状況下にあるはずなのに、どこか不気味なまでに落ち着いている。
「あなたはここがどういう国なのか知ってます?」
クシアはその様子を怪訝に思いつつも……
「知らねぇな」
敢えて知らないふりをしながら、乗っかってみることにした。
「この国ミライは芸術の国。あらゆる場所から様々な芸術が集まるこの国は、多くの人を惹きつけた。芸術を愛する人たちが次々と集い、大きな発展を遂げ、広く、大きな国となったのです。……そんな国を守る神官が、たった一人しかいないわけがないでしょう?」
「……」
クシアはこの時点で、トアが何を言いたいのかは理解していた。だが、一体それがどうしたというのだろうか。そこが分からなかったクシアはもう少し黙っておくことを選択する。
「あなたが推測した移動方法については概ね正解でした。でもそれは、そうするしかできないからじゃありません。そうせざるを得なかったからです」
「は?」
クシアとトアの周囲に広がっていた光景が、大きく歪み始める。
「あなたが言った通りです。私は空間を、大雑把にしか歪められない。今のあなたを、私では止められない」
段々と、建物の配置が変化していく。クシアのちょうど真後ろには、教会が建っていた。
「だから、誘導しました――仲間の元まで」
その言葉と同時に――体格の良い中年の男が、クシアの背後へとびかかる。