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放棄
「は……?」
トアには、クシアの言葉の意味がすぐには理解できなかった。
「お前、俺が闇の津波を放った時……守りに徹しただろ? 自身の身を守るように周囲の空間を歪めさせたよな?」
「…まさか!」
それを聞いたトアが、額に脂汗を浮かべる。
「あぁ、そのまさかだ。闇の津波でテメェの視界を奪った隙に、自分で胸元掻っ捌いて突っ込んだのさ」
「な……!?」
つまりクシアは、闇の津波を浴びせている間に自身の胸を自ら切り裂き、黒源をむき出しにした状態でトア目掛けて体当たりした後、さらに自身の分身を背後に立たせトアを油断させたということになる。
(いくら戦うためとはいえ、こんな立ち回りをしてくるなんて……やっぱりあの男、イカレてる。ますます生かしておけなくなった)
トアの表情がより一層引き締められる。
「……私の超法則を取り込めたから、何だというのですか。どのみちあなたに勝ち目は――」
「――勝ち目? 何いってんだお前」
だが、トアの緊張感が引き締められていくのとは対照的に、クシアはへらへらとした様子に戻っていく。
「俺はテメェと戦うつもりはねぇよ」