『正義』
「ッ……!?」
白騎士は、目の前で繰り広げられる光景に絶句する。
まるで真っ黒に腐ったチーズが伸ばされていくかのように男から生まれていくそれは、まさしく化け物と呼ぶにふさわしい姿だった。全身を真っ黒な闇で覆い――否、その姿はもはや闇そのものといってもいい。人のような人じゃないような輪郭を持ち、頭部と思しき箇所には鋭く大きな牙が目立つデカい口があった。
『アンタ、なにあっさりやられてんのよ』
化け物が喋った。甲高くも異様に歪んで聞こえる声だった。
「……ネタばらしは後だ。ちょっとの間だけ暴れてこい」
『しょうがないわね』
目の前の化け物に白騎士は動揺しつつも、すぐに冷静になり思考を巡らせる。
(あのような超法則は見たことも聞いたこともない。あの黒いアレはなんだ? まさか、あれが本体で、あの男は器のような何かなのか? それとも、あの男が使役しているというのか? ……いずれにしても)
白騎士は、先程まで握っていた大剣を捨て、ゆっくりと右腕を天に伸ばし。
「あの黒い化け物を消してしまえばよさそうだ」
虚空に白い剣を無数に発現させ、黒い化け物に向けて放つ。
白い剣が敵とその周辺に突き刺さり、激しい土埃が周囲を覆い隠していく。
「私の『正義』は――どんな敵を前にしても、必ず貫く」