化け物
「――ッ!?」
白騎士は戦慄し、白い剣を握ったまま力強く地面を蹴って男から距離をとる。圧倒的に優位にあるこの状況にもかかわらず、白騎士は退くことを選択した。
(バカな……何故この状況で、笑っている……!?)
普通の人というものは全身を貫かれたりすれば、苦痛にもがき苦しむというものだ。笑うどころか平常心を装うことすらできなくなるのだ。
だというのに、目の前のそれは笑っていた。精神を破壊する刹那の快楽にハマったかのような目と、人としてありえないくらいに横に伸びた口で、笑っていたのがはっきりと見えた。
(いや、おかしい……!)
その異質な姿を前にして、白騎士は何かがおかしいことに気付く。
よくよく見てみれば、男の体から血が一滴すらも出ていない。体中を貫かれているというのに、その体から漏れ出るは例外なく、血の色とは程遠い真っ黒な闇だけだった。
「ハハハ……ハハハハハ…………」
白騎士が闇に気を取られているうちに、目の前の男は声を出して笑い始める。その笑い声は少しずつ大きくなっていく。それに比例するように、黒い闇は上へ、上へと昇っていく。
「アッハハハハハ!!」
感極まり、背を反らしながら笑う男の体から――化け物の姿が生まれていく。