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逃げられない
目の前の男は、レディを殺してゲラゲラと笑っている。
「……」
大事な仲間が目の前で死んで、どうしようもないくらい悲しいはずなのに……今の俺は自分でも驚いてしまうくらい、悲しく思えなかった。
代わりに湧き上がってくるのは、どうしようもないくらいの怒りと、生き延びるには逃げる以外にないはずなのにその選択肢を全力で否定する感情だった。
目の前にいるのはもはや人間じゃない。人間の姿をした悪魔だ。
きっと目の前の悪魔は、これからも人を苦しめて回って、殺し続けるだろう。
今、俺がここで逃げたら?
「悪いな、レディ……」
俺が今まで、悪だと知りながらもこの仕事をやってきた理由は――
「コイツからだけは、逃げられねぇわ」
――大切な人たちの明日を守るためだ。