次の標的
結局あの後、クシアによる破壊を止められるものはその場におらず、町は文字通り何もかもがなくなった。唯一、命を懸けてなお町を守ることすらできなかった哀れな死にぞこないはクシアの趣向で放置されたものの、何もできなくなった手前、放っておけば勝手に死ぬだろう。
一仕事終えたカースは今、近くにある森の中に潜み、小さな火を焚いて夜営していた。
『……それで、次はどうするの?』
俺は微かな明かりが照らす暗闇の中、カースと脳内で雑談をしていた。
「明日狙うのは、ここから近いところにある都市国家ミライだ」
都市国家ミライ。ここ周辺の大地における首都のような国であり、かなり大きな国だ。
『あら、都市国家? 港町の八倍くらいの広さはある大きな町じゃない』
「そうだな」
『平気? 都市国家を狙うには早すぎると思うんだけど』
「…近いからここにするってわけじゃねぇ。ちゃんと理由がある」
俺は相変わらずおいしくないコーヒーをすすり、一呼吸つく。
「都市国家ミライは芸術の国だ。その性質から、他の大地からも多くの観光客が押し寄せ、国民以外にも大勢の人たちで賑わう。だが、その周辺にある町や村が何者かによって壊滅していると知れたらどうなる? 観光どころじゃなくなるだろうよ。だから、今狙うのさ…人が多いうちに、な」
『なるほどね』
「それに、遅かれ早かれ周囲も段々気付いてくるだろうしなぁ……早めに一つ、でかいところを潰しておきてぇんだよ」
『でも、村の時も町の時も逃げられていたじゃない。狙うのは良いけど、また逃げられるだけなんじゃないかしら?』
「心配するなよ。素晴らしい策がある」
俺はボロボロの布を胸の中にある闇から取り出して、身を包む。
「明日は暗い内にここをたつ。カース、周辺を見張っていろ」
『はいはーい』
その声と同時に、俺の体から黒い化け物が顕現していく。俺はその姿を見届けながら、ひと時の休息についた。